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名コピーを生み出す2つの手法

もともと、「異常な“観察癖”と“シニカルさ”を持ち合わせている」という野澤さんがコピーやフレーズなどを手掛ける際、「大きく2種類のやり方がある」と言います。

1つは、例えば電車に乗ったり、街を歩いたりしているなかでふと見かけたちょっと変わった人や変なやり取りなど「世の中の日常から“あるある”を切り取っていくパターン」。そしてもう1つは、「SNSやニュースサイトなどを見て、いまの世の中のトレンドを見ながら探していくパターン」。

野澤さんのように、人や世の中を観察するという視点について、「なにかモノをつくる、クリエイティブすることに対して必要なことだと思う」とハヤカワさん。というのも、自身もコンプレックスや価値観、生きづらさなどをキーワードに仕事をしていることもあり、「人のコンプレックスを言い当てるのが得意。観察して、“多分この人はこれが気になっているんだろうな”という部分を見つけたり、それをルール化していくことを普段からしていて、自分がつくるモノに関わらせたりしている」と話します。

そうした感覚は「近いかもしれない」と共感する野澤さん。打ち合わせや普段の実務のなかで接する人のふとした言動から着想を得ることも多いそうで、「『ちょっと一瞬いいかな?』と言われて、2時間くらい拘束されて“なんなんだろうな”って(笑)。職場って、“この人、この言葉をよく使うな”というような人たちが集まっている場所だと思うので、(ちょっとしたアイデアなど)いくらでも材料は集められる」と話します。

これにハヤカワさんは、「普段の日常がネタの宝庫なんですね。見方を変えたり、ちょっと気にしてみたり、斜に構えて(物事を)見たりすると、わりと発見できる部分って多いんでしょうね」と納得の様子でした。

コピーライターとして大切なこと

野澤さんにインプット術を尋ねると、「人間観察以外に意識してやっていることは特にない」とキッパリ。広告業界は案件ごとによって自動車業界や化粧品業界、飲食業界など、クライアントの業種はさまざまなため、「その業界によって言っていることも文化もビジョンも全然違う。それが自分に集まってぐちゃぐちゃになっている状態が、なにかを創り出すときのいい起爆剤になっている」と実感を語ります。

前回、コピーライターという仕事について「表現の域というよりも、事業領域や経営領域まで入っていくこともある。ビジネス戦略をつくっていくための言葉を考えるような仕事のほうが多い」と語っていた野澤さん。

自身がクライアントと向き合ううえで「個人的にやっているのは、無責任な仮説を持つこと」。例えば、社長と初めて会った際に「会社のことを、外から(俯瞰で)見たとき、社内の人たちは社長に言いづらい部分があると思う。でも、一般生活者としての自分は、外から無責任に『あなたの会社ってこうですよね。だからこうしたほうがいいんじゃないですか』と、ビジネスとして言えるのは特権だと思うので、それは意識的にやっている」と打ち明けます。

アウトプットをするうえで、仕上げとなる枝葉の部分は「すごく大事な技術。太い根がないといい花が咲かないのと同じように、一番根っこの部分を自分が理解して、相手にも信頼されている状態で仕上げていく工程が当然必要になってくる」と言い、「“いかに上流に迫るか”がコピーライターとしては大切であり、求められるところ」と声を大にします。

「“広告主がいる”ことをわかっていなかった」

ハガキ職人としてラジオ番組にネタを投稿していた経験がある野澤さん。その頃は「自分の頭のなかで考えていることって、みんな“面白い!”と思うんだろうな」と根拠のない自信を持っていたそう。それが一転、コピーライターとなってからは「誰にも届かなくて……存在を否定されてばかりの日々だった」と挫折や苦労があったことを明かします。

そんな野澤さんに転機が訪れたのは、ほ乳瓶を扱っている、とある会社と仕事をしたときのこと。「赤ちゃんの研究を30年ぐらいやっているおじいちゃんがいて、その人に取材をしたんです。そのときに話していた言葉すべてが、“コピーのような人”だった」と振り返ります。

そんなひょんな出会いをきっかけに、「1つのことをずっと考えている人の思考のほうが、僕が頭のなかで勝手に妄想していることよりも遥かに意義のあることだった。それに気づいて『このおじいちゃんが言っていることを、(世の中に)発信しなければ! 僕が言葉にして世の中に伝えなくては、僕がいる意味はない』と完全にスイッチが変わった」と野澤さんは語ります。

このとき初めて、「これがコピーなんだ!」と気づいたそうで「“コピーには広告主がいるんだ”ということを、わかっているようでわかっていなかった。それを体で学ばせてもらってからは、めちゃめちゃ褒められて一気にうまくいくようになった」と自身の転機を語りました。

そんな野澤さんの話に、ハヤカワさんは「(コピーライターの仕事は)メイクアップアーティストやアイドルを発掘する人などに近い気がする。“この人のこの部分が魅力的だ”というのを本人が気づいていないこともある。その魅力を引き出して(世の中に)伝えるというのも、ある意味コピーライターの仕事。ひいてはクリエイティブの重要な仕事なのかもしれないですね」と話していました。

次回11月14日(土)の放送は、発酵デザイナーの小倉ヒラクさんをゲストに迎えてお届けします。どうぞお楽しみに!

advanced by massmedian読者へ
野澤幸司さんから特別メッセージ

僕自身は、世の中を皮肉に見たりとか、斜に構えていたことが、いま実は、広告の商売や、書籍を書くときに役に立っていて…。昔、短所だと思っていたことが、強さに変わっていたり、自分の武器になって
いたりします。だから、これから社会に出る若い方も、自分の弱点も意外と大事にしといた方がいいのではないかなって個人的には思ってます。

番組概要

番組名:マスメディアン 妄想の泉
放送日時:毎週土曜 24:30~25:00
パーソナリティ:ハヤカワ五味
番組Webサイト:https://www.tfm.co.jp/mousou/
番組Twitter:@mosonoizumi_TFM

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【パーソナリティ】
ハヤカワ五味
課題解決型アパレルブランドを運営するウツワ代表取締役。1995年生まれ。大学入学後にランジェリーブランド《feast》、2017年にはワンピースの《ダブルチャカ》を立ち上げ、D2Cで販売する。「ファッションデザイナー」と「事業家」の2つの顔を持つ。
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