芸人×PRパーソンでエンタメを駆ける、お笑いコンビ「ラランド」サーヤが魅せる芸人の新ルート お笑いコンビ「ラランド」 サーヤさん
漫才師日本一決定戦「M-1グランプリ2019」(ABCテレビ・テレビ朝日系)にて、唯一の「アマチュア」として敗者復活戦に挑み注目を集めたお笑いコンビ、ラランド。2月に行われたコンビ初の単独ライブのチケットは即日完売。現在はネットラジオやYouTubeなど、活動の場を広げています。
そんなラランドのボケ担当であるサーヤさんは、大学卒業後にPR会社に就職。平日は「会社員」、週末は「芸人」という独自のスタイルを確立しています。今回は、エンターテインメントの表舞台と裏方、その両面を知るサーヤさんの「二足のわらじ」に必要な意識についてリモート取材にてお話を伺いました。
そんなラランドのボケ担当であるサーヤさんは、大学卒業後にPR会社に就職。平日は「会社員」、週末は「芸人」という独自のスタイルを確立しています。今回は、エンターテインメントの表舞台と裏方、その両面を知るサーヤさんの「二足のわらじ」に必要な意識についてリモート取材にてお話を伺いました。
芸人×会社員の相乗効果
──サーヤさんは、なぜ会社員と芸人を両立する道を選んだのですか?学生のころからずっと、将来は芸人になりたいと思っていたんです。きっかけは中学3年生のときに、クラスの友人と漫才を披露したこと。もともとお笑いは大好きだったんですけど、実際に漫才を披露してみて、あらためてプロの芸人になりたいと決心しました。
学生だったころの私は、「お笑い芸人になるにはNSCに行くしかない」と思っていて、高校卒業後はすぐにでもNSCに入ろうと意気込んでいました。でも、よくよく調べてみると芸人になる方法は、それ以外にもあることを知りまして…。そんなこと当たり前なんですけどね(笑)。それで家族とも話し合って、大学はちゃんと卒業する約束をして、NSCではなく、上智大学に進学しました。相方のニシダとは同じ学部の同期で、在学中にラランドを結成しました。
そして、大学の卒業が近づき自分の進路を改めて考えたとき、芸人としての活動をこのまま続けたいとは思っていました。けれども、決して裕福ではない家庭で、自分を大学まで入れてくれた両親への恩義を考えると、「プロの芸人一本だけでやっていく」と再度言えなかったんですよね。だから、就職して会社員として働きながら、芸人も続けていこうと決めたんです。
──相方のニシダさんは、会社員と芸人を両立することに関して、意見などありましたか?
私が大学を卒業するタイミングでは、ニシダはまだ大学を卒業できなくて…。「サーヤさんがプロに行くなら、一緒に連れて行って」みたいなスタンスでしたから(笑)。学生なので時間の都合はつきやすいですし、それに実は2020年3月にニシダは大学を退学したんですよ(笑)。だからいまは社会人とニートで活動しているので、問題がないどころか、むしろ都合よく収まった感じです。逆に相方もバリバリ活動するタイプだったら、コンビを続けるのは難しかったかもしれません。 ――ある意味、相性が良かったわけですね(笑)。現在PR会社で勤務されているそうですが、なぜ就職先に広告・PR業界を選んだのでしょうか?
芸人としての活動を続けることが前提だったので、会社員としてもエンターテインメントに関わる仕事がしたいと考えていました。あとは芸人との両立での働き方を許してくれる会社であること。この2つがフィットしたのが、いまの会社でした。
会社では現在、イベント案件をメインに担当しており、キャスティングや企画提案、イベント当日の運営まで総合的に携わっています。具体的な事例としては、大手スポーツメーカーのアパレルプロモーションや格闘技イベントの運営など。今年で入社して3年目になりますが、さまざまな案件を担当させていただいています。いまは、平日は会社員として仕事をして、平日の夜や週末は芸人として活動しています。
──会社員と芸人、それぞれ活動をするなかで、相乗効果を感じる部分はありますか?
会社で行うコミュニケーション戦略は、ネタをつくるときや漫才を披露する際に活かせることが多いです。例えば、「今日参加するお笑いコンテストはどんな客層になっているのかを分析して、どのネタならウケそうか決める…」みたいな。そういうロジカルな視点を持てていることは、お笑いの現場でもとても役に立っています。
反対に、実際に舞台に立っているからこそ、現場の視点からクライアントへ提案をすることができています。いま旬な芸人やバラエティのリアルなトレンドを踏まえた上で、効果的なPRを行うにはどうすればいいのか。そこに根拠を示せるのは、お笑い芸人として活動しているからこそだと思いますね。
でもPRパーソンとお笑い芸人を並行しているからこその困ることもあって…。以前、PRイベントのMCを先輩芸人の方にお願いしたことがあるのですが、そのあと芸人として参加したイベントの楽屋で再会したんです。そのときに先輩からは、「会社員」の私として挨拶をしていただいたんですよね。「芸人」としては先輩だけど、「会社員」としてはこちらがお客さまになってしまって、とても気まずかったですね(笑)。
──確かにそれは会社員と芸人の二足のわらじを履く、サーヤさんならではの出来事だと思います(笑)。
私たちが事務所に所属しておらず、フリーで活動しているということも、ややこしくなっている原因の一つです。事務所に入っている芸人なら、事務所に所属したときから芸歴をカウントするのですが、私たちはフリーだからそれがないんです。コンビを結成してからは6年、フリーとして活動してからは2年で、なんとも言いにくいキャリアなんです。
お笑い芸人のキャリアって、芸一本もしくはアルバイトと掛け持ちしながら、築いていくことが多いと思います。また、厳しい下積み時代に賞を受賞して、一気にスターダムを駆け上がるというイメージも強いですよね。これらはたくさんの先輩芸人の皆さんがその前例を示してきたためだと思います。しかし私たちが目指したいのは、そこに新しい芸人のキャリアの前例を示していくこと。副業が推奨される時代で、お笑い芸人もその例外ではないぞと、令和時代は会社で働きながらも芸人として活動できることを示したいんです。
「芸人なのに芸一筋ではないの?」という声をかけられることもあります。そう言われるのは仕方ないと思うのですが、でもこの声に引け目は感じていません。引け目なんて不要で、それを感じてしまうと自分の姿勢が低くなってしまう。そういう姿勢って、自分たちの芸やネタにも表れてしまうし、それを見たお客さんたちも伝染してしまう。そうなると誰も幸せにはならないんです。だからどんなスタイルであれ、両立すると決めた以上は仕事も芸も、結果を追求して突き進んでいきたいと思っています。
お笑い芸人のキャリアも変化の兆し
──ラランドは昨年の「M-1グランプリ2019(以下、M-1)」で、唯一のアマチュアコンビで準決勝進出ということで、注目を集めたと思います。アマチュアとプロの芸人では、どのような違いあるのでしょうか? 先ほども話に出た事務所に所属しているか否かに関係しているのでしょうか?正直、私たちもずっと疑問に感じていることなんですよね(笑)。M-1の場合は、エントリーするときに「アマチュア」「プロ」「フリー」の3つのなかから肩書を選ぶんです。ラランドはほかの芸人と違い、「会社員」と「大学生」という、それぞれに別のステータスがあるコンビだったので、「プロ」ではないのかなと。また、私たちは自ら事務所に入らない道を選んでいるので、「フリー」だと「事務所に“入れていない”芸人」みたいに思われてしまうのも嫌だった。それで選んだのが「アマチュア」でした。
ただし、ラランドの活動は他の芸人の皆さんとなにも変わらないと思っているし、「二足のわらじ」のどちらも「プロ」として本気で取り組んでいます。メディア的には「アマチュア」の方がインパクトもあるし、使いやすい言葉なのもわかるのですが、少し腑に落ちていない部分もあります。
──やはり、ラランドとして今後も目指していくのは、M-1の優勝なのでしょうか?
もちろん、そうですね。昨年は準決勝まで進めましたけど、芸人である以上、やはりその先のファイナリスト、そして優勝というのはかなえたい夢の一つです。もっと多くの人に私たちラランドの存在を知っていただきたいですし、二足のわらじを履いていてもお笑い芸人をやれるということをもっと多くの人に示したいです。
それこそいまでは、「お笑い第七世代」という2010年以降にデビューした20~30代前半の年齢の芸人たちをくくる新しい総称も生まれていますし、この先もどんどん新しいお笑いの形が生まれていくと思います。そのなかで生まれた新しい形で、賞レースなど目に見える功績を提示できれば、お笑い芸人のキャリアや生活もきっと変化していきます。そういう未来を私はこの先見てみたいですね。
──現在はYouTubeで個人チャンネルを持つ芸人も増えてきていますし、従来の形以外での露出の仕方というのは芸人に限らずとも、より増えていきそうですよね。それこそ、ラランドでもYouTubeチャンネル「ララチューン」をお持ちですしね。
以前からもポツポツとYouTubeにチャンネルを持つ芸人はいましたが、新型コロナウイルスの影響もあり、それがより加速しているように感じます。現在の社会情勢ではお客さんの前で直接漫才をすることも難しい状況です。その状況下でも発信ができるようにするためには、個人でメディアを持つことは必然的です。個人がメディアを持って発信する動きは、これからさらに加速していくのでしょうね。
YouTubeの強みは、やはりマニアックな領域を自由に発信できることですよね。テレビのバラエティ番組では扱われないようなテーマも好き勝手に取り上げられるし、そこで発信した新たな一面が思わぬバズを引き起こすケースもあります。マスメディアに出ていないフリーの芸人がYouTubeに台頭していくことで、お笑い芸人はいままで以上に熾烈に戦っていかなければいけなくなる。このことは私たちも覚悟していかなければいけないことです。
──ラランドでの目標以外に、サーヤさん個人でのこの先の目標はなにかありますか?
私はずっと藤井隆さんに憧れていて、「女版の藤井隆さん」のような存在になることを目指しています。芸人が音楽活動をするときって、「芸人テイスト」を盛り込んで、笑いを交えるようなことが多いと思います。でも、藤井さんはお笑いタレントでありながら、歌うときは完全に「アーティスト」だし、ドラマや映画では「俳優」として本気で活動されています。そういうカメレオンのように変化する姿に強く憧れています。私自身もいつかは藤井さんのように、幅広い分野で活動できるようになりたいし、やるからには結果を示していきたい。個人で力をつけていくことで、ラランドとしても大きく飛躍できるし、「二足のわらじ」の魅力を証明することにもつながるのではないかと思っています。
そのためにも、まずは芸人としてはM-1で優勝することを一番の目標に、そして会社員としてはより大きな案件で成果を出せるように、それぞれの肩書を伸ばしながら、広いフィールドでこの先活躍できるように、努力していきたいと思います。
──「二足のわらじ」という新しいお笑い芸人の形。時代や環境が変化する以上、お笑い芸人という生き方にもアップデートが必要なのかもしれません。次回のM-1でのラランドの活躍も期待しています。本日はありがとうござました!
・ラランドの公式YouTubeチャンネル『ララチューン』
・ネットラジオアプリサービス「GERA」にて『ラランドの声溜めラジオ』レギュラー配信中