──これまでも手がけた多くのイベントが話題を呼んでいますが、先日開催された120万枚の花びらに埋もれる「SAKURA CHILL BAR by 佐賀」も大盛況だったそうですね。体験型のインドア花見ということですが、どのような考えのもと実施されたのですか?
「SAKURA CHILL BAR by 佐賀」は、佐賀の日本酒「佐賀ん酒」をPRするために昨年はじめて開催したもので、「桜の花びらが舞い散る中で、チルアウトする」というコンセプトのバーです。店内には桜の木を設置したり、120万枚の花びらに埋もれる体験ができたりと、一見、今流行りのインスタ映えイベントと思われるかもしれません。
フォトジェニックであることは意識しているのですが、それだけではダメだと思っています。もちろんインスタ映えを完全に否定しているわけではありませんよ。見た目は美しい方がいいし、写真や動画はキレイに撮れた方がいい。しかし「見た目は美しいけど、中身がない」ことが問題なんです。最近では、SNSで切り取られる絵を逆算して、イベントを考えることも一般的になってきました。その結果、匂いや空気感、話す熱量など、写真に映らないものをあまり気にしなくなり、非常に薄っぺらいものになってしまっているんです。

大事なのは、体験を写真に撮ったときに、伝えきれない熱量の部分が、シェアを通じて滲み出ているということです。SNSを通じて熱を感じることはできるけど、その熱の正体はわからない。そこで、実際に足を運んで体験して、初めて納得するわけです。「SNSで広がるイベントを考えてください」と言われたら、フォトスポットをつくればいいのかもしれない。でも、僕は、そこに行った人たちが本当に楽しめるか、その空間で感動できるかということに向き合っていきたいし、そうやって人をハッピーにしたいと考えています。 

パーティークリエイターになるまでの道のり

──「世の中に、もっとワクワクを。」というAfro&Co.のスローガンにはそういった思いが込められているのですね。そんなアフロマンスさんのルーツを探っていきたいのですが、学生時代からワクワクするようなイベントをプロデュースしていたのですか?
京都の大学に通っていたのですが、その頃からさまざまなイベントに携わってきました。もともと、なにかをつくることやアウトプットをすることが好きだったんです。それまでなかったミスコンの立ち上げに参画したり、フリーペーパーを創刊して編集長をやったりしました。また、地元の音楽フェスを手伝う機会があり、そこでDJと出会って以降、クラブで自らDJをするようにもなりました。その後、就職先に広告会社を選び、そのタイミングで上京しました。広告会社なら、それまでやってきたイベントを含め、自分の得意領域のつくること、アウトプットすることが実現できると思ったからです。総合職で入社し、プランナーとして、マスからデジタル、イベントなど一通り経験しました。

──イベントだけでなく、幅広く手がけていたんですね。
そうですね。映像の企画やTwitterのキャンペーンなどいろいろとやってきました。僕は大学生の頃からずっとアフロヘアーだったので、広告会社に勤務していたときも堅実なクライアント案件にはまったく呼ばれず、僕の見た目に即したオモシロ系の案件ばかり任されていました。上司から「金色のジャージのセットアップ持ってない?」と言われて、本当に金色ジャージを着てプレゼンに行ったこともあります(笑)。
──社内でキャラクターが確立していたんですね(笑)。すごく反発もありそうですが、どうやってご自身の個性を社内に浸透させていったのですか? 
遠慮しないことが大事だったのかなと思いますね。1年目の頃から大きな会議でクリエイティブディレクターに意見して、よく怒られていました。でも、純粋な意見をしていただけで、数年後には、逆に仲良くなってました。僕はクリエイターとして、良いものをつくりたいという気持ちが強くて。例えばイベント案件があったとすると、広告会社の手がけるイベントって、クライアントからお金をもらっているから、クライアントファーストになりすぎるんです。けれども、実際にイベントに参加するのは一般の来場者であって、そこへ目を向けるべきで。クライアントの言うことだけを聞いていると、誰のためのイベントなのかよくわからないし、来た人の印象にも残らない。でも、目標来場者数は達成しているからOK!みたいになってしまっているんです。

僕は、広告会社で予算規模の大きなイベントを運営しながらも、プライベートで自腹を切ってイベントを主催してきたので、両方を行ったり来たりできたことが非常によかったですね。自腹で開催したイベントで、来場者に満足してもらえないと次は来てくれないので、当然必死になります。広告業界にいると、後者の感覚ってなかなか味わえない。人のお金だから、いかに予算を処理するかという考え方になってしまうんです。でも、来場者に満足してもらうことが、ゆくゆくはクライアントの利益にもつながると思うので、僕はそういった部分を追求していました。 

儲けは度外視

──広告会社で働きながら、プライベートでイベントも手がけていたとのことですが、当時からゆくゆくはそれを仕事にしよう、という考えがあったのですか?
それはまったく考えていませんでした。ただ楽しいからやっていたことが、結果的に事業となり、お金を稼げるようになったというだけです。よく相談を受けるのですが、最初から儲けようと思わないことです。例えば、イベントで小銭を稼ごうと思えば簡単にできます。飲み会を開催して、会費をみんなから少しずつ多く集めて、30人から一人あたり1000円多く徴収すれば30000円の収益となりますよね。一般的にイベントで儲けるってそういうこと。そういう状況の中で、いいものをつくろうと思うと余計に経費がかかるし、新しいことはリスクに見える。だから冒険ができなくなる。そうやって何年続けてもなにも変わらないというループに陥ってしまう人が実は多いんじゃないでしょうか。最初から「これ一本で儲ける!」と思わず、こだわりを捨てることでチャレンジングな取り組みができるのだと思います。

──いきなり本業や副業にするのではなく、遊びで始めていくということですね。
あとは、所属企業を利用して実現しようと考えている人もいると思うのですが、自分がやりたいことを必ずしも会社でする必要はないと思うんですよね。本気でやりたいことって、会社からお金をもらわないとできないものとは限らない。3000人集めるフェスをやりたいから会社に1000万円くださいと言っても社内承認を簡単には取れないですよね。だから、まずはプライベートで小規模にイベントを実施して、実績をつくってしまう。そこで良い感触が得られれば、それをもとに会社に掛け合ってみると予算が取れるかもしれない。ダメでも別の会社に持ちこめばいいんです。こういった順序をすっ飛ばして、いきなり所属企業で大きな予算をとりにいくから壁にぶつかって諦めてしまう。 

作り手と受け手の違い

──これまで数々のユニークなパーティーを開催してきましたが、どうやって周りを巻き込んで実現してきたのでしょうか?
先日、ちょうど学生から相談を受けたのですが、彼は、自分がやりたいことを友人に話したけど反応が良くない、協力してもらえないと嘆いていました。でも、身近な友人同士でスタッフを組む必要なんてないんですよ。たまたま同じクラスの友人や家の近い友人が、やりたいことに共感してくれるとは限らないですよね。もちろん最初に声をかけてもいいけど、ダメだったら切り替えて他を探せばいいじゃないですか。今の時代、探す手段なんていくらでもあります。共感できる仲間を集めて、一緒にブラッシュアップしていけばいいんです。

──クラウドファンディングなんて方法もありますし、自分が高い熱量を持っていれば、世の中のどこかにシンパシーを感じてくれる人がいるはずですよね。
身近な人だけが世の中のすべてだと思わないほうがいいですよ。僕も大学時代に、同じような経験をしました。イギリスのアーティストであるファットボーイ・スリムがビーチで開催したフェスの映像に感銘を受けて、ビーチパーティーを企画したんです。もちろん同じような規模ではできないけど、京都の大学生を100~200人ぐらい集めて、福井県・若狭湾のビーチを貸し切って実際に開催しました。そのときに身近なDJの友人を誘ってみたのですが、「ビーチパーティーが楽しいのはわかる。けど、なんでわざわざ自分たちで汗水垂らしてつくるのかわからない。お金を払って参加するほうがいい」と言われたんです。それを聞いて、自分にその発想はなかったなと思うと同時に、「つくりたいという衝動がある人種と、ない人種がいる」と気づきました。漫画が好きでも、読んで満足する人と、書きたくて仕方のない人がいます。読むのが好きな人に一緒に漫画を描こうと誘っても乗ってくれないですよね。人によって関心事はそれぞれで、つくりあげる過程を楽しみたい人もいれば、できあがったものを楽しみたい人もいる。だから、考えが違う人の説得に時間を掛けるのではなく、一緒にやりたいと思う人を探せばいいんです。僕がこれまで開催した「泡パ®」や「スライドザシティ」も、共感してくれる人たちがチームを組んで実現できました。 

理想のイベントはバーニングマン

──アフロマンスさんの手がけるイベントも、そういう共感が集まって実現しているんですね。ちなみにさまざまな規模のイベントを開催してきたかと思いますが、今後どのようなイベントが主流になると予想していますか?
今後は小規模だけど熱狂的なイベントがどんどん増えてくると予想しています。SNSの普及で簡単にプロモーションができるし、スマホ決裁の前売りチケットで容易に来場者の管理もできる。つまり個人で完結できる環境が整っています。だから、いまやサラリーマンしながらフェスを主催できるんです。

──アフロマンスさんが今後実現したいイベントはありますか?
米国のネバダ州で開催される「バーニングマン」の世界観が大好きで。理屈っぽくないんですよ。例えば、タコの形状の車があって、「車とはこういう形です」という概念にまったくとらわれていないんです。例えば、フンドシを腰に巻くのではなく頭に巻いてもいいかもしれない。新たな価値を生む社会実験の場になっているんです。参加者は全員が表現者で、享受者が一切いないんです。
さらに面白いのが、現地ではお金のやりとりがないため、貨幣経済からの脱却の実験場でもあるんです。数字が絶対的に支配している世の中からの開放を目指している。数字が求められるビジネスの世界だと、PVが集まるものやお金が儲かるものを考えてしまいますが、会社から数字を稼がなくていいから好きにやりたいことをしていいよと言われたら、多くの人は困りますよね。けれども、仮にそういったシチュエーションに直面したら、最後に残るのは自分しかないです。どんな表現でも、数字的には不正解かもしれませんが、自分という人間にとってはそれが正解なんです。バーニングマンの来場者の7万人それぞれの表現が集まったとき、カオスだけどすごく面白いんですよ。

──7万人全員が表現者でもイベントとして成立するんですね。
そうなんです。もちろん、プロに限らないので、レベルはすごいものから手作り感のあるものまでさまざまです。むしろ、下手くそ上等みたいな世界です。しかし、なかにはハッとするようなクリエイションがあるんです。それこそAIでは思いつけないような。

数字を追いかける作業は、AIに代替されることが予想されます。そうなったときに、最終的には理屈ではない創作や表現活動が残っていくでしょう。その中でも、よりリアルに体感できるものが残っていくと思います。なぜなら、これらはコピーしにくいから。僕が体験を大事にしているのは、コピーできないことこそが面白いと思っているからです。

音楽もそうですよね。簡単にコピーされる音源ではなく、コピーされづらいライブが求められています。改めて考えてみると、テクノロジーと相性が悪い“人間性”や“体感”がライブの重要なファクターだからではないでしょうか。

──確かにライブ会場で生まれる熱量の高いグルーヴ感はコピーができないものですね。
VR体験やプロジェクションマッピングが流行っていますが、それは再現性が高くて効率がいいからです。映像を一度つくってしまえば期間中に何度も同じことができます。しかし最近、映像で見るよりも実際にライブで見たときの感動は違うなということにみんな徐々に気づきはじめているんです。僕が開催した「泡パ®」も正直に言うとすごく手間がかかるんです。でも、だからこその価値がある。
50年後には、AIが進化して作業効率を極めていくと、人間がやらなきゃいけないことはなくなります。そうなったときに、いかに手間をかけたかが重要な指標になります。手間をかけるなら、自分が面白いと思うことをしたいですよね。つまり行き着く先は、「バーニングマン」の世界観なんです。早めにこういったマインドをインストールして、行動していくことが大事なのではないでしょうか。 

ギブの時代が来る

──「つくりたいという衝動がある人種と、ない人種がいる」という話がありましたが、AIが当たり前の世界では、前者となる必要があるわけですね。
そうです。ただ「つくる」といっても身構える必要はなくて、フェス主催やアート活動など特別なことではなく、SNS投稿の延長と考えればいいんです。日々の徒然をTwitterで発信するように、イラストをpixivで発信するように、料理レシピをクックバッドで発信するように、その地続きにイベントがあるんです。昔はTwitterもpixivもクックパッドもなかったので、こうした発信も難易度が高かったわけですが、イベントも同じで、まだテクノロジーが追いついていないから難しく感じているだけです。けれども、しばらくしたら誰もが簡単にイベントを開催できるような世界になるでしょう。

──テクノロジーの進化で、表現活動の幅が広がるわけですね。
あと、「人は享受するよりも、提供することに幸福を感じる」と僕は思っていて。幸せに感じる瞬間って、誰かのためになにかをするとか、自分がなにかしら相手に影響を与えるとか、「ギブ」の瞬間しかないと思うんです。「ギブ&テイク」ではなく、「ギブ&ギブ」。そういう世界になったときに、見返りを求めるだけの人はもう生き残れないし、さらには「ギブ&テイク」という発想が前時代的な考えになると思います。

──「ギブ」だけの時代がくるわけですね。
ただ、その「ギブ」は相手の御用聞きではいけません。相手の誕生日に欲しいものをヒアリングして、それをあげるだけだったら、両者ともに120%の満足度ではないですよね。対して、相手の好みを密かにリサーチしてプレゼントすれば、予想以上に喜んでもらえるかもしれません。こうしたサプライズはエゴでもありますが、「喜んでくれるかな?」と考えた思考自体に、人は幸せを感じます。

全員表現者の「バーニングマンの世界観」と聞くと、物凄い世界のように感じるかもしれませんが、ミニマムに言うと「誕生日にサプライズを仕掛ける世界観」に近いんです。期待を超えていくことで相手が喜んで、その姿を見て自分も嬉しい。そこにお金での見返りがあったら成立しないですよね。自分があげたくてプレゼントしたのに、それに対してお金を受け取るのは違いますよね。
──確かにサプライズパーティーに損得勘定が入るのはおかしいですね(笑)。
でも、それが今の世の中なんです。これまでの人間社会、特にビジネス社会では、ギブ&テイクが常態化しています。

また今後、人口減少が進み、マスに対するマーケティングが通用しなくなる未来が訪れます。そのときに、皆が自分の好きなものをつくるようになると、受け手は増えないのに作り手の割合が増えていくわけです。つまり、1つあたりのPV数は減っていく未来が待っています。その数字とにらめっこしていたら苦しくなるばかりで、数字から開放されないと幸せになれません。だからこそ、自分を信じて自分がやりたいことをやらないといけないんです。その価値に共感してくれる人たちが集まってその好きを共有していく。そうなっていくだろうし、それがこれからの幸せな社会だと思います。僕は自分がやりたいことを突き通していくなかで、この考えを普及させて、数字に苦しむ皆さんを救っていきたいです。

──「数字」からの脱却ですね。社会全体の価値観が変化していく中で、考え方を改めなくてはいけない日が迫っているのですね。示唆に富むお話をありがとうございました。 
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