──出版業やデザイン業などいろいろと手がけていらっしゃるかと思いますが、改めて博報堂を退職してからの取り組みについてお聞きしていきたいです。
博報堂を辞めて、文鳥社という出版社兼デザイン会社を立ち上げました。そこでは文鳥文庫という書籍をつくりながら、旬八青果店という八百屋などのブランディングを手がけていました。けど独立して1年経ったころに一人でやっていくことに限界を感じ始めました。ちょうどそのタイミングで出会ったのがエードットの代表をしている伊達です。エードットはプロモーションがメインの会社で「営業はできるけど、クリエイティブはできない」という状況で、対して「クリエイティブはできるけど営業はできない」と僕は感じていて、一緒にやることになりました。その後、エードットグループ傘下にカラスという会社をつくり、文鳥社で担っていたデザイン機能をカラスへ移しました。今はエードットの役員として全体を見つつ、カラスでクリエイティブも見ています。
文鳥文庫
文鳥文庫
旬八青果店
旬八青果店
──エードットの伊達さんという盟友と出会ったんですね。一人に限界を感じて「個人から組織へ」転じたとのことですが、リソースの補完が一番の目的だったのでしょうか? 
いえ、電通・博報堂だけじゃない時代をつくっていきたいと二人して本気で考えていたことが一番の目的です。そのためには個人では戦えないので、強い組織を組成していく必要があると思っています。電通・博報堂も広告領域だけでなく、その他の事業開発などに触手を伸ばしていますが、まだ事業レベルに至ってはいない状況です。そこに当社の勝てる道筋があると見込んでいて、エードットはクリエイターのやりたいことを実現できるプラットフォームとして、事業が量産できる会社にしたいと考えています。

──たしかにエードットグループには、学校支援サービス「Spark」やプロアスリートのキャスティングサービス「アスラボ」などさまざまな事業がありますね。
こうした自社内の事業展開だけでなく、クライアントの事業開発も進めていきたいと思っています。たとえば4年前からスタートしているのが黒染め一筋120年の京都紋付の「KUROFINE」です。これは色落ちして着られなくなった服などを黒染めしてリサイクルするサービスです。元々はWWFジャパンとのコラボレーションで「PANDA BLACK」と銘打って実施したものです。今、改めてリブランディングを進めていて「K」というオリジナルのブランドを立ち上げたいと考えています。この“K”は、CMYKのK、KUROのK、KARASUのKを意味しています。

──単発のキャンペーンではなく、しっかり継続できる事業にしているんですね。
そうです。広告業界は、ビジネス×クリエイティブを実現できるポテンシャルがあるはずなのに、広告だけに閉じこもっているのがすごくもったいないなと常々思っていて。企画やデザイン・コピーだけでなく事業レベルで関与できたら、もっともっと面白いものが生まれるだろうなという期待があります。そういう意味で、最初のチャレンジが文鳥文庫でした。
──クリエイティブの活かし方がもっといろいろとあるのでは?という話ですね。
クリエイターの活かし方って絶対にいろいろあると思っていて。広告クリエイターも、事業レベル・社会レベルで、その発想を活かしていこうとするマインドを持ってほしいです。それは今の電通・博報堂の中ではなかなか持ちづらいのもわかるので、外から働きかけて業界が変わっていくことを願っています。僕が会社を立ち上げたきっかけの一つに、「経営者というクリエイターにチャレンジしたい」がありました。経営者って、最初に事業の計画をするわけでアイデアの根源からつくるわけで、一番クリエイティブなんじゃないかなと。さらに雇用も生み出し、組織も生み出す。だから経営者はクリエイターなんです。 ──「経営者はクリエイター」、面白い定義ですね。そういう意味で、エードットもしくはカラスで独自の経営判断はありますか? 
ストックされるようなクリエイティブを制作したいです。どれだけ良い企画でも、広告は掲出期間が終わったら忘れ去られてしまいます。それって刹那的で時代的な面白さもあるけど、個人的には「もったいないな」と感じることが多くあります。ブランディングもたしかに残るのですが、広告会社がブランドづくりに寄与しても、クライアントへすべて提供するものだから、自分たちの元にはなにも残らない。

だから、自分たちの育てたものをクライアントと一緒にさらに育てるとか、そういった取り組みをしていきたいです。例えば、恵比寿のカフェでカレーを開発して、そのカレーを弁当にして流通で販売するといった取り組みを進めています。このカレーブランド自体は僕らの所有物で、ロイヤリティが発生するビジネスです。そのほかにキャラクタービジネスも同じ資産だと思っていて、ちょうど今、とあるキャラクターをつくっています。キャラクターを伸ばしたあとに、クライアントに提案にいこうと考えております。 ──今までの受発注のスタイルとは随分違いますね。オリエンがあったり、自主提案があったりではなく。自社で実験的にプロトタイプを始めるようなことですね。
つくったものを持ち込むとか、全然ありだと思います。むしろ、この業界は「自発的」に動く人が増えたら、もっと面白くなるだろうと思っています。

──一方で組織を大きくしていきたいという目標を目指すなら、そのようなやり方は難しいのではないかなと感じました。これまでの受発注スタイルの方が、出入金やスケジュールの計画が立てやすい気がします。
おっしゃる通りです。だから、当社でもバランスを見ながらです。従来のスタイルに沿った堅実な稼ぎ方と、投資と考えてチャレンジする新しいやり方、今はまだまだ前者が大半ですが、長期的には後者を増やしていきたいです。投資の話で言うと、当社は投資チームを組み、投資先企業のブランディングをして企業価値を高めるという挑戦をスタートしています。企業に投資させてもらい、一緒にブランドを育てていくことで、通常の広告媒体費やクリエイティブフィーとまったく違うリターンを得ることができます。僕たちの世代の広告クリエイターは、そういったことにもチャレンジしていくべきです。

──そんなクリエイター像が! ビジネス×クリエイティブという視点がますます必要になってくるのでしょうか? 今後クリエイターにはどのような資質やマインドセットが求められるのか教えてください。
ひとつの世界に閉じこもっているのは、もったいないことだと思います。だから僕は博報堂を辞めて、事業会社や投資会社などさまざまな人と接することができるポジションに身をおきました。スティーブ・ジョブズの言葉に「文系と理系の交差点に立てる人こそ大きな価値がある」というものがありますが、広告業界のクリエイターで事業を理解している人はまだまだ少ないし、コンサルや事業の人もブランド価値やデザインのことわかっている人は少ないのが現状で、その間には大きな壁があります。

僕自身も越境していきたいし、業界全体でもそう考える人が増えていくといいですね。同じ話で、僕はグラフィックデザイナーの価値をもっと上げていくことが自分の使命だと思っていて。でも、そのためにはグラフィックデザイナー自身が変わらないといけないわけですが。
──noteやTwitterでも言及されていましたね。デザイナーも身を正して歩み寄るといった趣旨の。
歩み寄るというより、もっと向上心と好奇心を持って、ビジネス全体のことを知ろうとするデザイナーが増えていくとよいと思っています。もちろん、そうではなく、ひたすらクラフトにこだわるデザイナーがいることも大事だとは思います。

──noteの話でもうひとつ。「人生が物語だとしたら、僕はその物語をアドベンチャーにしたい」というdropboxの創業者のスピーチに牧野さんが感銘を受けたという話がありました。「advanced by massmedian」の目指す世界に近くて私も共感しました。
その言葉に出会ったのは、たしか会社を辞めて、半年から1年ぐらい経ち、停滞を感じ始めたころでした。この先どうなるんだっていう不安に押しつぶされそうになりながら、この動画を見て、「人生がアドベンチャーだとしたら、谷もあってしかるべきだ。そういう時期があるからこそ、より人生が楽しくなる」ということをリアルに感じました。「こっちの道のほうがアドベンチャーっぽいよな」と冒険できるのがすごく大事だなと。エードットの新スローガンが「アドベンチャーカンパニー」なんです。会社もそうだし、社員もそうだし、クライアントに対しても、アドベンチャーを提供していくというスタンスなんです。ロゴもタグラインも、advanced by massmedianとちょっと被りますね(笑)。
エードット社コーポレートロゴ
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──ですね(笑)。一緒に、広告業界を外からアップデートしていきましょう! 本日はありがとうございました。
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