──高木さんは、今後広告・クリエイティブ業界にどのような変化が訪れると思いますか? 
新しい流派が生まれると思います。いわゆる大企業やマスプロダクトのためにTVCMなど伝統的な広告をつくる組織に対して、イノベーションを産業にすることに特化して手法を問わずに仕掛けをつくっていく組織。この業界におけるスタートアップのような存在ですね。NEWPEACEはそちらを志向しています。

業界が成熟してしまったので忘れがちですが、本来広告産業ってのは「イノベーションを産業にするための産業」です。テレビや車、冷蔵庫、洗濯機という当時、まったく新しいプロダクトがもつ体験価値を、想像力を総動員して伝えるのが仕事だった。例えば、ウォシュレットが登場したコピーは「おしりだって、洗ってほしい」。これが名コピーと呼ばれるのは、アナロジーを駆使した表現の力でウォシュレットという斜め上のイノベーションを世の中に定着させることに成功したからだと思うんです。

──なるほど、確かにこの広告でウォシュレットは定着しましたよね。
でも最近の広告って、車でも家電でもアプリでも「いま売れてます! いまお買い得です!」みたいな販促が多いですよね。営業的というか。もちろんそれもマーケティングとして大事なのは理解しつつも、クリエイティブの可能性ってそれだけじゃないと思うんですよ。 

先日テレビ番組で、アーティストの落合陽一さんが面白いことを言っていて。介護現場でおむつを替えるロボットアームの導入是非を議論する中で、反対する人に対して「自分のお尻を人間に洗ってもらうのと、ウォッシュレットで洗うの、どちらがいいですか」と返していたんです。まさにこれこそ、想像力の補完だなと。人間だれもが抵抗を持ちがちな技術を感情で翻訳しているというか。

そう考えると、僕らがやるべきなのは、既に浸透したウォッシュレットの広告じゃなくて、これから普及するかどうかにある介護ロボットのほうなんじゃないかなと。だけど、そのためには社会課題に対してアンテナを張っていなきゃいけない。やっぱりイノベーションが社会に普及するためには必然性がいるんですよ。

──普及するための必然性とはどういうことでしょうか? 
それを実感したのは2015年にDeNAさんと一緒に、自動運転のコミュニケーションを開発したときです。当時はまだ法改正するかどうかもわからず、むしろドローンが首相官邸に落ちたりUberが各地で揉めたりなど、そういったテクノロジーに対して規制が掛けられそうな状況でした。そのとき自動運転タクシーのコンセプトムービーをつくってほしいと依頼を受けたのですが、技術的な部分はすでにGoogleが公開しているし、ただ利便性や安全性を訴求してもなぜ自動運転が必要なのかの答えにはならないなと思いました。

そこで僕らは「人のいないタクシーで、人のいるまちをつくる。」をコンセプトに、移動弱者が溢れる高齢化した過疎地域を自動運転が救うシナリオを描いて、実際にムービーとして撮って、全国の自治体に呼びかけたんです。そうしたら急にメディアや政治家が動き出して、一気に法改正に流れが傾きました。あぁスイッチを押せたなと
──なぜそのイノベーションが世の中に必要なのかをわかりやすく示して、議論を湧き起こすということですね。
社会に変化を訴えかけるという意味では、政治に近いものがありますよね。実は僕がなぜこういう仕事をしているのか。それは2007年にアメリカで盛り上がっていた、オバマ氏の大統領選挙の影響なんです。なんか社会が変わる感じにワクワクしませんでした? あの大統領選の「Yes, We Can」や「CHANGE」というスピーチを書いていたのも、SNSを使った新しいキャンペーンを仕掛けていたのも、当時26歳の若者だったと知って、嫉妬しましたね。実際あのとき生まれたムーブメントはその後、アメリカ中に広がって、NPOや自治体などの公共分野のあり方も大きく変えたと思います。

──昨年末リリースがありましたが、イノベーションと社会を接続する一般社団法人Public Meets Innovation(PMI)もそういった想いで立ち上げたのでしょうか? 
そうです。近年日本にイノベーションが起きづらくなっていることの一因として、イノベーターとパブリックセクターの人材の距離が遠くなってしまっていることがあるなと。そこでまずは同世代のスタートアップ経営者や技術者、官僚、政治家、弁護士、政策関係者をフラットにつなげるコミュニティをつくることにしました。それで縦割りを溶かしながら社会課題を議論することで、「イノベーションの社会実装」をテーマに一つの提案をつくっていけたらと思っています。僕はビジョンを描いて社会をアップデートしていくことが目的なので、手段はなんだっていいんです。

これからのクリエイターは、二極化する

──そんな活躍の幅を広げる高木さんから見て、今後のクリエイターはどのような役割になっていくのでしょうか?
コミュニケーション領域におけるクリエイターは、「政治か、クラフトか」に二極化すると思います。間にいる中途半端な人たちは、インフルエンサーか、AIか、より安い労働力に代替されてしまうと思っていて。

──政治か、クラフトか、ですか…。
政治というのは比喩表現で、つまり「どういう社会が理想か」「何がいま課題なのか」といった抽象度の高い論点を、時代感覚をもって社会に仕掛ける仕事。むしろそういうことができるクリエイターは、経営者や政治家の意思決定を支えるようになる。戦国時代でいう千利休みたいな存在ですね。

一方で、ディレクターでも制作者でも、アウトプットを真の職人クオリティまで出せるクリエイターも強い。なぜならそれ自体がコンテンツになるから。映像をやっている人であれば映画になり、グラフィックをやっている人であれば個展が開催されたり商品化されたり、素晴らしいイベントはそれ自体が商業として成立する。

両者の共通項は、広告など既存のメディアフォーマットに依存しないということ。特に前者はまだまだプレイヤーが足りないと思っていて、公共分野や社会課題に身を置くことで、クリエイターにとっては未開拓なチャンスがあると思っているんです。そして、僕自身イノベーションの流れに呼応するように世の中の価値観や行動の変化を促していくことで、より良い社会をつくっていきたいと思っています。

──クリエイターが広告という領域を超えて、幅広く活躍する景色が見えますね。お話、ありがとうございました。
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