──ずばり、インハウスクリエイティブ組織が求められる理由はなんだと思いますか?
商品開発は育児と一緒だと思います。自分の子どものことはよく知っているはずだし、一番愛しているのは親たちです。社内のクリエイティブ組織が求められる理由も同じだと思います。商品をまるで我が子のように考えているメンバーがスキルをつけてクリエイティブをつくれたら、最強の集団になると思っています。
 

ロッテインハウスクリエイティブの考え方

【ミッション】
マーケティング、コミュニケーション、R&D、経営戦略、人事戦略など、デザインシンキングをベースに社内全体にイノベーションを誘発させていく。

【ビジョン】
すべての活動の中にクリエイティブ思考を浸透させる。

【バリュー】
そのためにインハウスデザイナーを最大活用する。


 

インハウスデザイナーの役割

【ロール1:メイン商品、ロングセラー商品の内製化】
優秀なインハウスデデザイナーは、
・企業の顔を担当している自負がある。
・ブランド課題を正確に把握している。
・開発担当者の一員である。
・売り上げ責任を負っている(感じている)。
・商品を自分の子供のように語れる。
→ソリューション力×モチベーションの質、自社が目指すデザインの最適解を提供する。

【ロール2:デザインシンキングのエバンジェリスト】
優秀なインハウスデデザイナーは、
・観察により、主観重視の課題発見ができる。
・さまざまな課題を俯瞰して、整理整頓ができる。
・右脳モードの思考でアイデアを拡散、メンバーの発想を触発させる。
・全員がイメージを共有するためのサポートを行い、解像度を上げる。
→さまざまなワーキンググループに参画、共創環境をつくりあげ、柔軟なアイデアを提供する。


 
──インハウスクリエイターは何人くらい所属しているのでしょうか。
ロッテノベーション本部という約300人規模の部署があり、そのなかに「マーケティング戦略に沿って商品企画を担当する部門」「R&Dとマーケティングを一気通貫で取り組む開発部門」「広告やオウンドメディア、パッケージデザインなどコミュニケーションを担当する部門」「ECサイトを運営している部門」などがあります。ちなみにインハウスデザイナーに関しては約20人が所属しています。

ロッテでは、1年間で数百SKU※の商品を発売しています。それにデザインやコミュニケーション施策が付随していますが、ほとんどを内製化(インハウス化)しています。100%の内製化は難しいので広告会社やデザイン事務所にサポートいただいていますが、その比率をどんどん上げようとしています。

※SKU(ストック・キーピング・ユニット):同じ商品でもデザインやサイズ、色などで細分化した単位のこと
ロッテ 後藤宏行さん
ロッテ 後藤宏行さん

インハウスクリエイティブ組織で大切にしている5つのこと

がんばる < 好き < 楽しむ(人材)

平等→不平等(育成)

圧倒的結果づくり(期待値)

自分のこと・自分ごと(理由/意義)

ロッテノベーション本部(マインド)

──「宣伝会議 AdverTimes Days 2019(秋)」のパネルディスカッションでは、インハウスクリエイティブ組織を運営する上で大事にしている点を5つ挙げていただきました。改めて解説してほしいです。最後に書いてあります「ロッテノベーション本部(マインド)」について、部門の説明をいただいたので併せて教えてください。
「ロッテノベーション」は、「ロッテ」と「イノベーション」を組み合わせた造語です。常にイノベーションを起こす企業でありたいと思うからこそ生まれた部門です。創業70年のロッテの歴史はイノベーションの歴史でもあります。例えば、70年前からガムは存在しましたが、エチケットという口臭ケアの概念を持ち込んだことがひとつのイノベーションです。「ブラックブラックガム」は眠気覚ましという新しい価値をガムに与えました。そして、虫歯予防でオーラルケアに貢献する「キシリトールガム」も開発しました。このように現状に満足せず、次の新価値を見つけるというイノベーションの気質が当社にはあると思います。そのイノベーションの中核に、ロッテノベーション本部があります。

また、ロッテノベーションは言霊でもあります。名刺を渡すたびに、「これ何ですか」と毎回聞かれる。ロッテノベーションにこめられた思いを説明するごとに、自分たちの意識も醸成されていく。イノベーションを起こしていこうという指標を部署名にしている意味はそこもあります。

──次に、「がんばる<好き<楽しむ(人材)」について教えてください。
一緒に働く仲間を探す上でのポリシーです。私たちは、プロジェクトを熱量高く一緒に取り組んでくれる仲間やイノベーティブなDNAを受け継いでくれる仲間を社内外から探しています。その仲間は、やっぱり仕事を楽しめる人がいい。頑張るのは仕事なので当たり前。当社の商品やお菓子を好きな人が当社を求めてくれているのでそれも当たり前。楽しんでいる人が周りにいると一緒に頑張ろうとポジティブなスパイラルが生まれてきます。そんな組織であるためにどんな状況であろうと楽しめる人を求めています。

──「平等→不平等(育成)」。これはどういうことでしょうか? 
チャンスは誰にでもある。平等に与えられるべきだと考えています。でもそのチャンスを掴めるかどうかは本人次第です。すこし背伸びをすれば解決できる課題をみんなに同じように与えたときどうなるか。経験上、楽しみながらポジティブに挑んでいる人には結果がついてくるような気がします。でも実際は全員がすぐに答えを出せるわけではない。途中で諦めてしまう人もいる。結果を出した人に再度チャンスを与えていくと、だんだん絞られて、段階を踏むほど不平等になっていきます。

また組織にはスター選手が必要だと思っています。あえてチャレンジが必要なチャンスに取り組む、それに応えて徹底的に手柄を立てるといやがうえにもその人が目立ってくる。すると、「その人が羨ましい」「負けたくない」「あの人は特別だから自分とは違う」というさまざまな意見が出てきます。そのなかでポジティブに捉えられる仲間を集め、楽しみながらイノベーションを起こしていく精鋭チームができあがるのが理想です。
 
──それが、「圧倒的な結果づくり(期待値)」につながっていくのでしょうか?
失敗から学ぶことも当然あると思います。でも失敗から学ぶことは「次は気をつけよう」くらいのことで、成功から学ぶことのほうが圧倒的に多い。「失敗したから次気をつける」では5%ぐらいの改善です。「イノベーション」を掲げているからには100を105にするのでは失敗です。100を200や300にするためには、圧倒的な結果を求められる。その結果を重ねることで、自信や意欲につながり、スター選手ができあがっていくと思っています。

それは、簡単なことではありません。みんなに負荷をかけていると思います私はベテランですけど、メンバーに近いマインドをもち、仲間として一緒にプロジェクトに取り組むことが重要だと思っています。私は責任を取る側として「一緒に暴れよう。楽しくやろうよ」と言っています。周りもだんだんそのような雰囲気になってきて、若手人材の活躍がめざましくなりました。今後はそれを加速させていきたいと思います。

──ここから「自分のこと・自分ごと(理由/意義)」に続くのでしょうか?
これは、まさに自分のことなのですが、キャリアをお話すると、私は大手広告会社と外資系広告会社を経て、ロッテへ入社しました。広告会社時代、一日中商品のことばかり考えていましたし、本当に自分はクライアントに貢献できると信じていました。クライアントよりもよっぽど自分の方が高次元の仕事をしていると思っていましたが、事業会社に入って現実を知りました。事業会社の人たちの売り上げに対する責任や商品に対する執着が異次元であることに、大変なカルチャーショックを受けました。広告会社で働いているときは、「うまくいけば自分たちのおかげ、うまくいかなかったら商品が悪い」というスタンスが少なからずあり、いまでは猛省しています。

一番大事なことは、自分ごとであること。いま思えば、広告会社にいたときはこれが本当の意味でできていなかったのだと思います。インハウスクリエイティブが求められる理由にもつながりますが、商品に責任を持っている人自身が発信することに意義があると確信しています。

──最後に、今後の展望を教えてください。
ロッテノベーション本部のキャッチフレーズは、「競争力を、共創力に。」です。やっぱり1人でできることは限られているから、みんなで力を合わせたらすごいパワーになる。ロッテノベーション本部には、マーケターもいればクリエイターもいる、研究者もいる。いろいろな役割のメンバーがいるからそれを掛け合わせることによって、世の中にインパクトを与えたい。「ロッテノベーションここにあり」という存在になりたいですね。

前例のないことをやろうとすると、反発されることもあります。私は戦うことをいといません。でも、そればかりではなにも生み出せません。柔軟に周りを取り込んで、仲間や理解者を増やしていく。その中核をなすことができるのがインハウスクリエイティブの力です。それをどんどん拡大していきます。

──ロッテノベーション発で大ヒット商品がどんどん生まれそうですね。楽しみにしています!
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