人を見つめる視線がクリエイティブに現れる

──(サントリーウエルネスの顧客向け会報誌「美感遊創(びかんゆうそう)」を見ながら)幅広い年齢層の方にとって充実している内容に思え、親しみをとても感じます。今まで刊行物をつくった経験はおありでしたか。
刊行物については、サントリーウエルネスで担当するのが初めてです。前職が日清食品なのですが、その時はWebを中心に SNSでお客さまとのコミュニケーションを図っていたので、全く経験したことがありませんでした。 

──SNSでのコミュニケーションと、「美感遊創」ではターゲット層が異なります。大きく変わりましたか。
ええ、まさにそうです。当社のお客さまには長くご愛好いただいているロイヤルユーザーが非常に多く、バズのような瞬間風速ではなく、中長期的にお客さまと信頼関係を構築することを意識しています。また、「美感遊創」という言葉は「生活の中で出会うさまざまな美しさに感動し、遊び心を失わず、豊かな毎日を自ら創り出していく生き方」という意味ですので、その名のとおりお客さまにワクワクしていただける内容になっているかも大切です。 例えば、お客様に読みやすいフォントの大きさになっているか、「自分もやってみたい!」と思っていただける内容になっているか…。食のレシピのページをつくるときには、今は2人前のレシピを載せていますが、分量が多くないか、配偶者を早くに亡くされた方もいるのでそもそも2人前でいいのか…など、多くのシニアのお客さまともお付き合いさせていただいている弊社だからこそ、新たな観点で考えなければいけないことがたくさんあります。なかなか難しいところで、今、勉強中です。

──顧客向け会報誌というクリエイティブな世界を職務にして楽しさを感じていらっしゃいますか。
すごく楽しいですね。企画やクリエイティブに携わりたいと社内で希望を出していたこともあり、なおさらです。転職1年目は、当社の主力商品「セサミンEX」担当チームにいました。2年目はサントリー生命科学研究所との向き合いになり、商品開発のチームに配属され、今度は「ものづくり」に携わることに。3年目で念願の企画職に配属になりました。

振り返ってみると、1年目、2年目の経験が肥やしになって、今の企画業務の中で力になっています。商品開発の現場の近くにいると、ものづくりに対する情熱を強く感じられます。それをいかに刊行物でお客さまにお伝えするか、を常に真剣に考えています。貴重な経験をさせてもらったことに感謝しています。

──2021年に中途入社されたんですね。一大決心という感じでしたか。
前の会社も食品メーカーだったのですが、非常にクリエイティブな風土の会社でしたので、決心は必要でした。転職を希望したきっかけには、ちょうどコロナの時期だったのが影響しています。医療に携わる方々の奮闘についての報道を見て、人の健康や、命を守る行為に強いリスペクトの気持ちが湧いてきました。とはいえ、今から医学部に入るのは現実的ではない。

どうしようかと思った時に、ヘルスケアの領域であれば、これまでの自分のビジネスの知見を活かしながら、お客さまに向き合っていけるのではないか、と考えました。なおかつ、サントリーグループの宣伝広告活動からわかるように、クリエイティブの力を信じている部分も魅力でした。2つの軸からサントリーウエルネスは、転職先として自分に合っているんじゃないかなと思い、転職しようと決心しました。

──どちらも強力な創業者がいて、チャレンジングな企業姿勢で、広告宣伝で輝くべき実績を上げています。内野さんの気持ちと共振するところがあったのでしょうか。
それはもう、まさしくその通りです。創業のチャレンジ精神に対して心に響くものが本当にありました。さらに、人を見つめる視線、人に寄り添う姿勢がすごく好きなんですが、それがクリエイティビティとして外側に出てきていると思うんです。だから、広告賞などの賞に絡む、人の琴線に触れるクリエイティブが生まれてくるのじゃないかなと感じます。

──そんな環境で、コピーを書きたいみたいな気持ちは、前職からあったのでしょうか。
実はありました。前職でマーケティング部に配属されたとき、最初に担当したのが、イメージキャラクターのSNSの「中の人」でした。当初、投稿する内容やキャンペーンは広告会社に考えてもらっていたのですが、当時からアイデアを発想するのがすごく好きでしたので、次第に私も一緒に考えるように。最終的には、自主プレゼンという形でコンテにキャッチコピーをつけて、広告会社に逆提案をしていました。その頃から、手を動かして、自分の中でお客さまのリアクションを考えながら企画することが好きだったんです。

たくさん案を考えても、投稿前の社内決裁はなかなか通らなかったですね。でも、性に合っていたんだと思います。かなり大変な日々でもやめたいとは思いませんでした。うまくいくと喜びは格別でしたし。

──毎日、ノック状態だったんですね。
まさに、そうなんです(笑)。だからこそ、今回の宣伝会議賞で、マスメディアンさんから、「学生さんに企画の楽しさを伝えてほしい」という課題が発表された時に、私の中で、ビビっとくるものがありました。楽しさはもちろん、いい意味での「生みの苦しみ」みたいなところまで伝えられたらいいなと思ったんです。ぜひ、学生の方々の気持ちを動かせるコピーを書きたいなという強い意欲が湧いて、いろいろ考えた末に、ラッキーなことに受賞した言葉に巡り合えた、というところです。

「わかる!」を生み出すのは、思考や感性の積み重ね

──宣伝会議賞を通して、コピーの面白さをどう感じてらっしゃいますか。
言葉は不思議なもので、一見ちぐはぐな組み合わせで、新しい面白さが生まれてくるものなんだなと思いました。今回、特に感じたのはそのことです。使い古された言葉でも、組み合わせによっては、すごく斬新な切り口で、新しい発見を生み出すことができる。もちろん、単に異質にすることだけを狙って組み合わせても意味が通じない。そういった微妙なさじ加減から、絶妙な「あー、わかる!」を生み出す感性は人間にしかないんじゃないかなと思います。ここのところ生成AIが話題を集めていますが、AIでコピーを書いても、その部分だけは人間ならではのものだと信じています。

──今、話題の対話型AIを発想のアシスタントとして使うのか、文章や画像の生成を全て任せてしまうのか。使い方次第ではあると思いますが、いずれにしても新しい時代が来ようとしています。
私も補足的な使い方、アシスタントとしての使い方はとても優れていると思っています。この間、友人と販促コンペの企画を考えていた時に、ChatGPTの話題になって。「使ったことあるか、内野」と言われて、初めて、そのやりとりを見せてもらいました。「中小企業経営者のお困り事ってなんだろう?」という問いに、びっくりするぐらい瞬時にそのAIが答えた時、うわー、すごいなと感じたんです。

しかし、そこから、企画に発展させるにはどうしたらいいんだろう、と考えてしまいました。的を射た知識や情報があっても、やはり人が考えたり、感じたり、思いついたりすることで、人の心を動かす答えが見つかるのではないか。情報からさらにジャンプする能力、それは人間側にある気がしました。コピーを生成してみても、意味はちゃんと合っているのですが、見てもやっぱり琴線に触れない。一見、整っているのですが、そこに気付きがあったり、心を揺さぶられるものがあったりするかというと、今のところは難しいな、とは感じました。今後は、琴線に触れるコピーを書ける、本当のプロの方たちの希少性がより際立ってくるんじゃないかなとも思いました。

──本当のプロとそうでない人との差が明らかになってくる。能力差がますますはっきりしてくるという予測もあります。
今、この「美感遊創」で一緒に仕事をしているチームに、過去に写真家やデザイナーの仕事をしていた仲間がいます。昼食を一緒に食べていた時に、やはりChatGPTの話になりました。写真家は、独特の経験則から導き出したアングル、瞬間の切り取り、露出・絞りのチョイスなど、そのプロならではの撮り方がある。デザイナーにしか見えない経験則に基づいた制作の仕方もある。コピーライターにもきっと自分の経験から導き出した人間へのアプローチがある。そんな話になりました。人間としての思考や感性の積み重ねというところは、今後、希少性が出てくるから、そこをやっぱり深めていかないといけない。そこを意識して勉強していかないと、AIと結局、変わらなくなっちゃうよね、という話をしていました。

──経験則の積み重ね、はとても人間らしい行為である気がします。
まさにそうなんです。年齢を経るごとに、老いていくのではなくて、どんどん経験が蓄積されていって、それがどんどん肥やしになってさらに厚みを増していって、そこから豊かなクリエイティブが導き出される。それこそが、人の心に触れていくものなんじゃないかなと思っているんです。

今回、協賛企業賞を受賞したパナソニックの課題は、同社の子ども向け電動歯ブラシを通じてオーラルケアへの意識を高めるアイデアでした。私はこれを「親御さんが子どもを思う気持ちを、キッズドルツを通して伝えてください」と読み替えたのですが、実際に私が毎晩、子どもを虫歯から守りたいと悩んでいるからこそ、切り口を出して、クリエイティブに落とし込むことができた。実際に苦労しながら、クリエイティブや企画に携わっているからこそ、生まれるコピーがある。そう信じています。私のこのマスメディアンさんのコピーも、メーカーの人間として十数年生きてきたから出た言葉なんです。

ターゲットの近くでコピーを書きたい

──その人でなければ書けないものを書く、というのはコピーライティングにとって大切なポイントだと思います。ところで、好きなコピーライターはいらっしゃいますか。
ことあるごとに口ずさんでしまうのが、もう本当にど真ん中の、日本を代表する作品ではあるんですけど、西村佳也さんの「触ってごらん、ウールだよ。」というコピーです。私は、言葉遊びに過ぎないコピーというのにちょっと違和感を覚えてしまいます。メーカーの人間だからそう感じるんだと思うのですが、やはり、書き手の独り善がりにならない、そのお客さまと触れた時に、お客さまがなんだか心地よかったりとか、琴線にふっと触れたりとか、そんなコピーが好きです。西村佳也さんの言葉には、お客さまへの優しい目線を感じますし、だからよく機能するコピーになれるんだと思います。

──やはり、ターゲットがいいと言わない限りは、コピーにはなってないと言うことですね。そういう意味で、内野さんのコピーは、ターゲットに近いところで考えていらっしゃるんだなとお話を聞いて思いました。
サントリーではお客さま志向という言葉がいつも出てきます。本当に1日に1回会議の中で絶対出てくるだろうなというぐらいその言葉が強くて、私はすごく共感しています。とにかくお客さまあってのメーカーだと信じているので、ターゲットの近くで書きたいなと思っています。

──昔、広告とはターゲットのことであると教わりました。
まさに、その言葉は私の中でしっくりきました。

──ターゲットのことをとにかく思って書きなさい、つくりなさい。それがコミュニケーションの基本だと教わりました。「美感遊創」を拝見していると、文字のポイント数がちょっと大きいところなど、読む側に寄り添った丁寧さを随所に感じます。
ありがとうございます。文字に関しても、お客さまアンケートを見ていると、「もうちょっと大きくしてくれないと老眼の私には読みづらい」というお声を頂くことがあります。自由記述欄には、他にもさまざまなお声を頂くので、それをきちんと読み解いて、どういった形がお客さまにとって1番いいのか、手探りで進めています。

この前、渋谷で博報堂生活総研のセミナーを受けてきて、すごく共感したことがあります。年齢にとらわれない、年齢に束縛されない世の中の動向を、「消齢化社会」という新しい言葉として捉えていたんです。「美感遊創」を読んでいただいているお客さまには「いくつになっても若々しく、自分らしくいたい」っていうお声が非常に多くて。それを考えると、この「美感遊創」も、例えば「シニアの方たちに喜んでいただける企画は、これでしょ」という固定観念は捨てるべきだと思っています。お客さまが本当に知りたいことだったり、知ったら色々な人やコトとつながって人生が豊かになることだったり、そんなワクワクドキドキをお届けしたい、そう感じています。

──「美感遊創」はサントリーウエルネスが提供するスマホアプリ「Comado」でも読めるそうですね。「Comado」は健康生活アプリで、フィットネスだけでなく、旅、レシピ、歩数計などの健康や趣味にまつわるコンテンツが豊富に楽しめます。サントリーウエルネスさんの会員に登録すればどなたでも利用でき、しかも無料です。気前がいいですね(笑)。
お客様に喜んでいただきたいという気持ちが、会社の根底にあると思います。サントリーウエルネスのメインの商材であるサプリメントは、体の健康を支えるもの。心の部分はカバーしきれません。私たちは「商品」だけではなく、「Comado」のような「サービス」もあわせて提供することで、お客さまの健康で心豊かな生活にお付き合いができたらいいなと考えています。そのためのコンテンツを私も企画しており、まさに人生100年時代の幸せをつくるクリエイティブな仕事で、やりがいをとても感じています。

──そんなお忙しい中ですが、今年も宣伝会議賞に応募なさりますか。
宣伝会議賞はゴールドとグランプリを取ったら卒業。次回、挑めなくなってしまうルールですが、私の場合シルバーだったので、今年も挑めるんです。なので、ぜひ、トライしたいと考えています。私の得意ジャンルは、生活者に即した課題だと思うので、たくさんの課題の中からそういう課題に挑んでいきたいです。さらにもっと幅を広げるために、BtoBのジャンルでも頑張っていきたいなという思いもあります。

宣年会議賞は、本当に唯一無二の存在です。誰にでもチャンスがある夢のある世界。コピーライターになりたい人もいるでしょうし、企画職に就くチャンスが欲しいという人もいるでしょうし、主婦や学生で自分の気持ちを言葉に残したい人もいるでしょうし、それが無条件、無料でエントリーできる。応募数はものすごく多くて、なかなかチャンスをものにできないのですが、1次2次と勝ち抜いていくプロセスも含め、すごくロマンがあるなと感じています。

──「コピーの甲子園」と言えるくらいロマンがあります。たかだか20文字以内の短い言葉で、です。
今回のマスメディアンさんもそうでしたが、クライアントの方に喜んでいただけることも楽しいです。そのコピーを実際の広告にしてくださる例もありますし。真剣に向き合って必死に絞り出したら、クライアントの心も、審査員の心も、一般の方の心も動かすことができる。そんな夢を信じて、今年も喜んで、ウキウキしながらコピーを書いているんじゃないでしょうか(笑)
──では、宣伝会議賞を目指す方になにかアドバイスをお願いします。
アドバイスというか、私の座右の銘になるのですが…、前職のブランドマーケティング部の部長さんの発言がすごく好きで、心に残っているものがあります。それは、「過去のデータからは未来はつくれないよ」という言葉、考え方です。今、ますます、本当にそうだなと思っています。過去をひっくり返して、データとか数字とかを見て、こういう動きがあるね、ということをいくら突き詰めたとしても、やっぱり最終的に未来をつくっていくのは、自分の肌感覚じゃないの、ということ。私はその考え方がすごく好きなんです。コピーを書く時にも、それは本当に大切なことじゃないかと思います。

──自分の体験から、人の心につながっていくコピーや企画が生まれるということですね。
そうです、自分が体験したことじゃないと創造性のあるものがつくれない。いろいろ考えるとそこに行き着くんです。それは、私たちサントリーグループのお客さま志向にも繋がっていると思っています。データは客観的なものとして大切ですが、自分が消費者としてサービスを受けた時にどう考えるか、そのために、自分が消費者として嫌だったこととか、逆に、すごく嬉しかったこととか、そういう経験を考えてみる。その主観がヒントになって未来のサービス創造につながっていく。人としての経験をどう活かすか、突き詰めるか、が、結局、そのサービスににじみ出てくると思うんです。

──人間性が希薄になりつつある社会で、そのことはとても貴重なことだと思いました。
たぶん人のつくるものって、合理的じゃない部分があったりします。それが素敵な部分だということもある。だから、合理的なところを突き詰めたものは、「揺らぎ」がないというか、微妙なタッチが違うんじゃないかなと思うことがよくあります。綺麗に整っている、理屈として正しい、でも、心にぐっとこない、そんな感じでしょうか。

──「揺らぎ」はこれからの時代のキーワードかもしれません。
たぶん、その揺らぎを楽しむのも、人の特性だと思うんです。ヘタウマじゃないですけど、なんかアンバランスだけど好きだとか、合ってないから気になるとか、そんな揺れているところに愛着が湧いたりするのが人間だと思います。

──クリエイティビティとは、人間っぽいということなのかもしれませんね。
そうですね、今度の宣伝会議賞では、AIで書かれたコピーをなぎ倒す感じでいきたいです。絶対に人にしか書けない作品を書こうという気合いで(笑)。

──クリエイティビティとはクリエイターの持つ特殊な能力という印象が強いが、全くそうではないんだと思った。内野さんがおっしゃるように、リアルな経験、肌感覚を、人のために活かそうとする行為と捉えれば、その意思を持っている人はみんなクリエイターと言える。それが今まで以上に、社会をより良い方向に動かしていく力になるのだろうと今回の取材で感じた。内野さん、いい仕事を、いい企画を、そして、今年もいいコピーを!
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【インタビュアー】
黒澤晃
元博報堂 クリエイティブディレクター
横浜生まれ。1978年、広告会社・博報堂に入社。コピーライターを経てクリエイティブディレクターになり数々のブランディング広告を実施。受賞多数。2003年から博報堂クリエイターの人事、採用、教育を行う。多くの優れた若手クリエイターを育成した。2013年退社。黒澤事務所を設立。さまざまなライティング、プランニングの領域で活躍している。東京コピーライターズクラブ(TCC)会員。最近の著書「20歳からの文章塾」「これから、絶対、コピーライター」など。ツイッター#ツボ伝ツイート。note「3ステップ・ライター成長塾」。
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