日本郵便主催による、「第38回全日本DM大賞」が3月14日に発表された。
全日本DM大賞は、ダイレクトメール(DM)施策に対する日本最大のアワード。マス広告と違い、受け取った人にしかわからない、いわゆる「閉じた」メディアであるDMは、具体的な事例が手に入りづらく、なかなかその効果や特性を知る機会がない。それと同時に、緻密な戦略に基づいて制作されたDMが、ほとんど評価されることなく埋もれてしまっているのも事実である。

全日本DM大賞は、DMの入賞・入選作品を通じ、広告メディアとしてのDMの役割や効果を広く紹介するとともに、その企画制作に携わった優秀なクリエイターたちに評価の場を提供したいという思いのもと、1987年から毎年実施し、「戦略に基づいて制作されたDM」を評価する場を提供し続けている。

例年、応募作品は約700点に上り数十点が入賞するが、その会社ならではのマーケティングやコミュニケーションの戦略や、少ない予算でも効果を出した費用対効果の面を重視して評価するため、例年、約半数以上が、BtoB、中小企業・スタートアップや地域密着の企業が受賞している。

また、外観の出来栄えを競う賞ではなく、マーケティングやコミュニケーション全体の見地から、企画の裏側にある戦略性や全体のストーリー性までを評価している。また、近年活性化している紙のDMとデジタルとの連携で成果を出した施策なども高く評価する賞となっている。

今回の「第38回全日本DM大賞」受賞作品から、一部を紹介する。

金賞グランプリ
「購入履歴反映ビンゴDM」「ほたて型DM」

広告主:北海道産地直送センター
制作者:富士フイルムビジネスイノベーションジャパン、プラナクリエイティブ
ターゲット:既存顧客
企画概要:「ビンゴDM」では対象顧客専属のコールセンタースタッフらの、顔写真入りの自筆メッセージを載せた感謝状と、対象顧客の2年分の購入履歴から導き出した商品を縦・横・斜めに配置した「ビンゴカード」を同封。マス目に記載の商品を購入し1列揃うごとに同社商品がプレゼントされるルールで、最低でも年4回以上の購入促進を図った。投函後すぐにゲーム参加と商品購入に意欲的な声が多数寄せられ、同社の既存DMにおいて過去最高の受注率32.2%を記録。「ほたて型DM」は、ECサイトで購入した顧客のリピート率が低いという課題に対し、人気のほたてとのセット商品を勧める案と、ほたて以外の別商品を単品で勧める案でA/Bテストを行った。さらに、ECだけの割引特典を設け、Webに誘導し、個別の2次元バーコードを掲載することでDMからECサイト流入時の行動パターンを解析できるようにした。レスポンス率は前年最高時の3.1%から5.6%へとアップし顧客単価が2倍以上に。ECサイトでの売上が顕著で、ほたてのリピート購入率は約66%となった。

審査委員講評:
恩藏直人氏(審査委員長/早稲田大学 商学学術院 教授)
「ビンゴという誰でも知っているゲームを取り入れたDMです。購入履歴がビンゴカードの獲得箇所として反映されるので、『ビンゴ』を目指すお客の購買意欲を引き上げます。受注率の高さが、このDMの効果を示しています。」

音部大輔氏(クー・マーケティング・カンパニー 代表取締役)
「ユニークに切り抜かれた形状や、DtoCならではの購入データに基づくユーザー理解、それらを使った体験提供など、DMがもつ物性の高さという特徴をうまく使った活動が工夫されています。」

藤原尚也氏(アクティブ CEO)
「『ほたて』と『ビンゴ』の両方とも、愚直なまでにターゲットに寄り添い、商材をしっかり見せたクリエイティブとタイミング、そしてアクションまでのマーケティングストーリーが素晴らしいと思いました。また、『ほたて』のメッセージを真逆にし、ABテストを行うことでより複数のマーケティングストーリーにチャレンジしているところも本当に、広告主と関係者がチームワークでつくり上げたのだと伝わります。」

金賞/審査委員特別賞クリエイティブ部門
「ブランド40周年・エンゲージメントDM」

広告主:アシックスジャパン
制作者:富士フイルムビジネスイノベーションジャパン、フュージョン
ターゲット:既存顧客
企画概要:「アシックスウォーキング」ブランドの40年間の歩みと思いを伝え、ブランド価値の向上を図った。ロイヤル顧客層へは22ページのリッチな冊子、新規/継続/育成顧客層へはタブロイド版とターゲット別に出し分け、ブランドに込めた「思い」を顧客に丁寧に伝えた。ロイヤル顧客へのオファーとしては、直営店とオンラインストアで何度でも使える2000円オフのスペシャルクーポンを同梱し、特別感を演出した。初動から反応がよく、ロイヤル顧客層は約41.2%のレスポンス、その他の顧客層も通常DMよりも高い反応となった。

金賞
「シニアの解約を阻止! 簡単申込書で従来比UPの申込」

広告主:ソフトバンク
制作者:TOPPAN
ターゲット:既存顧客
企画概要:3G携帯電話ユーザーに向けて、停波前に4Gまたは5G対応機種へ変更してもらうよう、数年にわたってDMで伝えていたが、機種変更はなかなか進まなかった。今回のDMでは、返送する申込書の様式や記入方法などを、過去のDM施策から得られた知見をもとに徹底的に分かりやすく、細部の記載や紙質に至るまで配慮した。主なユーザーであるシニア層からの反応は想像以上に良く、申込書の返送期限日時点で従来DMを超える申込書による加入となり、目標を大きく上回る結果となった。これまで動かすことが難しかった顧客の行動を促した。

金賞
「夏のハワイの大冒険」

広告主:常磐興産(スパリゾートハワイアンズ)
制作者:シスク
ターゲット:既存顧客
企画概要:リピーターのファミリー向けに、夏休み期間中の宿泊を喚起するため「夏休み特大号」として趣向を凝らしたDMを送付した。クリエイティブのテーマはRPG。ハワイアンズの広い施設をくまなく歩いて、今まで知らなかったハワイアンズの一面を知ってもらいたいとの思いから、施設のあらゆるものを対象にミッションを設定し、一つひとつクリアしながら施設内を冒険してもらえるDMを制作した。DMを受け取った瞬間からワクワクしてもらえるよう、封筒は宝箱のようなデザインに。世界観をつくり込むため、家族を「パーティー」と言い換えるなど、細かな点までこだわった。旅行前から旅行後まで楽しめて、思い出としても手元に残せることに加え、冬休みや春休みにも持参するなど、何度も楽しんでもらえるDMを目指した。

日本郵便特別賞/コピーライティング部門
「眠った宝を探しに行こう! 行動変容を起こすナッジDM」

広告主:三井住友カード
制作者:大日本印刷
ターゲット:休眠顧客
企画概要:三井住友カードは休眠顧客に向け、大日本印刷と共同で「行動デザイン」を取り入れたDMを実施した。家のどこかにしまい込まれている対象カードを「宝」とし、それを見つけて財布に戻してもらう「宝探しゲーム」を冒険風に表現。新しい世界観で興味をひき従来の約3倍の反応率を獲得した。また、一部の詳細を掲載せずシークレットキャンペーンと題してアプリへ誘導。アプリ内でも訴求することで相乗効果を狙ったところ本DMからのLP流入率が4.5%と、メールに比べ約5倍の差が出た。

日本郵便特別賞/エンゲージメント部門
「お茶の年賀状」

広告主:ハタジルシ
制作者:ハタジルシ、ありがとう
ターゲット:既存顧客
企画概要:広告制作会社のハタジルシは、忙しい仕事始めの日に楽しい気分を届けたいと「お茶の年賀状」を企画した。宛先にはさまざまな嗜好の相手がいるため「ユニークだがもらって困る年賀状」にならないよう配慮。コピーライターが多く在籍している同社らしく、茶柱を仕事道具の鉛筆に見立てたデザイン(パッケージ)に「倍旧の『お挽き立て』の程」というメッセージを添えて遊び心を加えた。あえてサービスの訴求などはせずイメージアップに徹し、エンゲージメント効果を狙った。

日本郵便特別賞/インビテーション部門
「muts プレス発表会案内DM」

広告主:アジュバンコスメジャパン
制作者:アジュバンコスメジャパン
ターゲット:新規(見込み)顧客
企画概要:美容室専売品の新スタイリング剤ブランドを立ち上げたアジュバンコスメジャパン。同社初となる、メディアを対象としたオンラインセミナー開催に向けて、サンプルを添えた案内状を雑誌関係者らに送付した。輸送中に付くシワが味わいとして現れる「ロウ引き封筒」は新ブランドで使用したパッケージと連動しており、素材感を通してプレスリリースでは伝わりにくい商品特性とブランドイメ ージをPRすることに成功。65通配布したうち31社からレスポンスがあった。