インターネットメディア協会(以下JIMA)は、「Internet Media Awards 2024」のグランプリと部門賞など全8作品を発表した。第4回となる同賞は、情報の信頼性や情報伝達における質の高さなどを審査基準とするアワード。2023年中に公開・注目されたコンテンツや活動を対象とし、幅広く公募を実施した結果、応募作115件を集めた。JIMA会員の投票による第1次選考、専門家や識者からなる選考委員の討議による最終選考を経て、受賞作品が決定した。
受賞は、「テキスト・コンテンツ」「ビジュアル・コンテンツ」「スポンサード・コンテンツ」「ソーシャル・グッド」の各部門、および選考委員による議論から追加された「選考委員特別賞」の5部門6作品・活動となった。

さらに、その中から「グランプリ」作品には、日本経済新聞データビジュアルセンター写真映像グループによる「さまようロシア人 ジョージアでみた侵攻の代償(NIKKEI Film)」が選出された。また、昨年度に続き実施した、次世代を牽引する30歳未満の選考委員3名が自身の感性や独自の視点でオンラインコンテンツ作品を選ぶ「U30's VIEW」では、選考委員それぞれが1作品ずつ選出された。

各賞の詳細は、以下の通り。

グランプリ/ビジュアル・コンテンツ部門 受賞作品
「さまようロシア人 ジョージアでみた侵攻の代償(NIKKEI Film)」

受賞者:日本経済新聞社 データビジュアルセンター写真映像グループ
評価ポイント:動画・画像・デザインによって理解が深まり印象に残った作品
受賞者コメント(日本経済新聞社 データビジュアルセンター写真映像グループ):
日経電子版で公開した「さまようロシア人 ジョージアでみた侵攻の代償」は、通常スチールカメラを手にする記者が動画の撮影や原稿、構成などを考え制作しました。ウクライナ侵攻後、ロシアから隣国ジョージアへ流れた人とマネーの動きに焦点をあて、侵攻開始から1年のタイミングで公開した映像ルポです。IT技術者などの高度人材がロシアから周辺諸国に脱出している実態をオープンソースの情報からつかみ、彼らの証言から「ロシアの頭脳」の流出を裏付けました。また、国外へ逃れた人の足取りを衛星画像などから分析し、2022年9月にジョージアとの国境付近で3000台もの車が渋滞していたことを突き止めました。この作品では映像とグラフィックスを効果的に使い、未来を描けずさまよう彼らの姿に迫りました。今回はグランプリとして評価していただき、取材チームも大変うれしく思っています。今後もデジタルジャーナリズムの質を高め、信頼できる情報を発信していきたいと考えております。
選考委員コメント(コード・フォー・ジャパン 代表理事 関治之氏):
ロシアからの高度人材の流出を、隣国ジョージアの視点から深く掘り下げたこのドキュメンタリーは、理解しやすく、洗練されたデザインで提示されています。個々の人物に寄り添ったインタビューを核とし、衛星データや統計データを駆使した幅広い視野で、各々の複雑な背景を巧みに編み上げました。新聞社が展開するこの映像作品は、その卓越した情報収集能力と編集技術を駆使して、一つのテーマを深堀りする際の新たな可能性を示しています。複雑な社会的問題を適切なバランスで、単純化せずに多様な視点からの理解を促進する、優れたフォーマットであると評価します。このような取り組みを是非とも継続していただきたいと思います。

テキスト・コンテンツ部門
「虚飾のユニコーン ——線虫がん検査の闇」

受賞者:NewsPicks
評価ポイント:取り上げた問題の深刻さと、調査手法の手堅さとのバランスに優れた作品
受賞者コメント(NewsPicks 編集部 須田桃子氏):
かねて医療関係者の間で疑問の声が上がっていたユニコーン企業によるがん検査サービスについて、編集部内で初めて立ち上げた調査報道取材班のメンバーである花谷美枝記者、中居広起記者、洪由姫記者と共に取材を深めていきました。元社員をはじめとする多くの関係者や社長を含む企業本体への取材、論文などの公開情報の分析によって疑惑の真相に少しずつ迫っていったのですが、その過程ではさまざまな困難もありました。その都度、乗り越えることができたのは、勇気をもって証言してくださった方々の思いに支えられたからです。趣向を凝らしたバナーや分かりやすい図版といった、NewsPicksが誇るデザイン力を駆使したコンテンツでもあります。 今後に向けて大きな励みになる賞に選んでいただき、ありがとうございました。
選考委員コメント(小説家 平野啓一郎氏):
「虚飾のユニコーン/News Picks」は、取り上げた問題の深刻さと、調査手法の手堅さとのバランスに於いて、候補となった記事中でも、群を抜いていた。新型コロナウイルスのパンデミックによって、私たちの社会は改めて、専門知識を一般市民がいかに適切に共有するか、という課題と直面することとなった。科学技術の進歩は目覚ましく、その十分な理解なしには、民主主義そのものが機能不全に陥ってしまう。政府に何を求めるべきか、判断できなくなってしまうからである。そこに更にビジネスが自己目的的に関与してくれば、混乱は必至である。その意味では、ほとんど悪夢のような事件の告発だった。コメント付きの記事紹介というNewsPicks独特の仕組みは、議論もあるが、今回は多くの専門家の有意義な知見が集められ、うまく機能した事例だったと評価した。

スポンサード・コンテンツ部門
「DOCS for SDGs - ドキュメンタリーで知るSDGs -」

受賞者:Yahoo!ニュース ドキュメンタリー
評価ポイント:さまざまなステイクホルダーに対し、共感やインパクトをもたらすことに成功した作品
受賞者コメント(Yahoo!ニュース ドキュメンタリー チーフ・プロデューサー 金川雄策氏):
この度は、このような素晴らしい賞を頂戴し、制作チーム一同飛び上がって喜び合いました。これまで私たちは、ドキュメンタリーを通じて社会に少しでも貢献したいとクリエイターの皆さんと二人三脚で地道に頑張って参りました。そうした思いに共鳴いただき、これまで5年あまり長期にわたって支えてくださった大和証券の皆様には、感謝してもしきれません。ネット空間でいかにマネタイズしていくかは、メディア業界全体の課題でもあります。メディアは何のために存在するのか?そう自問自答したときに、社会課題への取り組みに理解あるスポンサーを増やしていくことは、私たちに課せられた重要なミッションであると感じています。スポンサーにも光を当てる素晴らしい賞を設置されたJIMAの皆様に改めて感謝申し上げます。
選考委員コメント(BOW&PARTNERS 代表/ディスカヴァー・トゥエンティワン共同創業者・前社長 干場弓子氏):
登場するのはいずれも無名の市井の人々なのに、圧倒的に美しい映像と心に響く言葉……カメラと編集の技によるものなのだろうか、とにかく、NHKのドキュメンタリー番組にも肩を並べうる動画だと、最初の0.1秒から惹きつけられてしまった。と思ったら、一部が、NHK及び韓国EBSで放送されたという。しかし、ネット上では、テキストも合わせて読める。動画とテキストの協働によるコンテンツは、ネットメディアならではの表現形式だ。JIMAが発足して今年で4年目だが、インターネットコンテンツのオールドメディアを凌ぐ進化を象徴する作品の1つだと実感させられた。さらにこれは、Yahoo!ニュースと大和証券のスポンサードコンテンツだという。両者のブランドイメージ向上に貢献したことも確実で、インターネットコンテンツの広告媒体としての進化もまた実感させれることとなった。

ソーシャル・グッド部門
「カメラを頭に乗せて川を渡るーー軍の圧政下のミャンマー、ジャーナリストが命をかけて伝えたいこと」

受賞者:久保田徹(Yahoo!ニュース ドキュメンタリー)
評価ポイント:社会に対しよいインパクトをもたらした作品
受賞者コメント(ドキュメンタリー映像作家/Docu Athan代表理事 久保田徹氏):
この度の受賞をとても嬉しく思います。「辺境のフィルムメイカーたち」は、タイの国境付近で活動しているミャンマー人映像作家たちを写したドキュメンタリー作品です。私は2022年にミャンマーで撮影中に国軍によって拘束され、111日後に解放されました。私は帰国後、北角裕樹らと共に、Docu Athan(ドキュ・アッタン)という団体を立ち上げ、ミャンマーから逃れながらも制作を続ける表現者を支援しています。本作品はそのような背景のもと制作されました。ミャンマーをめぐる報道は減少していく一方ですが、当事者たちが自分たちで発信をできるような環境づくりを目指しています。今後も、「取材する側」と「される側」の境界線を超越しながら、共に制作をしていくつもりです。
選考委員コメント(WELgee 代表 渡部カンコロンゴ清花氏):
ミャンマーのクーデターから3年。世界の様々な国・地域で紛争や人権侵害が次々と起きる中で、未だ平和の訪れは遠いにも関わらず国際社会からの関心は薄れてゆく。自身もジャーナリストとして抗議デモの撮影中に国軍に拘束された久保田氏は、そんなミャンマー出身のジャーナリストや映像作家たちに光を当てる。「伝える人がいなくなったら世界から忘れられる」命をかけて活動を続ける表現者たちの視点と生き様を映像で捉えたのがこの作品だ。表現者2人の作品を通し、自らの国に命や生活を脅かされる人々が経験している日常を私たちは知る。戦地のジャーナリストたちの存在の意味を伝える作品ともいえる。ミャンマー人の映像作家を支援するためのオンラインプラットフォーム「Docu Athan」の広がりにも期待したい。

選考委員特別賞
「冷凍餃子フライパンチャレンジ」

受賞者:味の素冷凍食品
評価ポイント:SNSの企業活用の特性を生かし、PRに成功した作品
受賞者コメント(味の素冷凍食品):
弊社のPR活動「冷凍餃子フライパンチャレンジ」に、このようなご評価を頂き御礼申し上げます。生活者とのタッチポイントがあふれる中、タイムリーに生活者の声に出会え、その瞬間を捉える事ができた事例だと感じています。私たち味の素冷凍食品はこれまでも「永久改良」として生活者のライフスタイルや、食のトレンド等を見ながら時代に即した製品改良を続けてきました。今回のアクションもその一つと考えていますが、デジタル化した時代がゆえに、SNSで広く伝播したと感じています。情報があふれる中、正確な情報を伝えることが重要であり、フライパンチャレンジはまだまだ続きますが生活者との共創構造を丁寧に作っていきたいと考えています。
選考委員コメント(BOW&PARTNERS 代表/ディスカヴァー・トゥエンティワン共同創業者・前社長 干場弓子氏):
冷凍餃子を焼くとき、どうしもフライパンにこびりついて、餃子もフライパンも焦がしてしまうという「餃子あるある」。消費者からの苦情の声をきっかけに全国から焦がしてしまったフライパンを集めると同時に、焦げない羽根つき餃子作りの改良プロセスを公開。収集した大量のフライパンの画像と共に、その数を都道府県事に集計。だから何?ではあるが、そのばかばかしいまでのしつこさに圧倒されつつも、クスリと、癒やされる。 SNSの企業活用においては、その双方向性とともに、オールドメディアとは異なり、企業総体ではなく、中の人、つまり特定の個人とパーソナルにコミュニケーションできているような気持ちになれるという特性をいかに活かすかが、成否を決める。その意味で、この味の素のスポンサー記事は成功していると言っていいだろう。

選考委員特別賞
「小山田圭吾×荻上チキ 東京オリパラ騒動から2年…小山田圭吾は何を思い、考えたのか~いじめ、メディア、キャンセル」

受賞者:wezzy(サイゾー)
評価ポイント:情報が消費される時代においてより重要な役割を果たす作品
受賞者コメント(サイゾー):
栄誉ある賞を頂戴し感謝申し上げます。本対談記事は、評論家・荻上チキさんからの提案がきっかけとなったものです。速報性が重視される傾向にあるインターネットメディアですが、時間を置いたからこそ、当時の心境や経緯、具体的ないじめ研究の現在を広く届けることができました。荻上さんはもちろん、再びたいへんな批判を浴びる可能性もあった小山田圭吾さんのご出演に深くお礼を申し上げます。残念ながら掲載媒体であるwezzyは2024年3月をもって閉鎖されますが、本記事は他媒体への再掲載を検討しています。受賞をきっかけに改めて読み継がれていくことを祈っています。
選考委員コメント(WELgee 代表 渡部カンコロンゴ清花氏):
当時はネットを中心に大きく炎上した非常にセンシティブな出来事を、その2年半後にインタビューという形式で扱った対談記事である。NPO「ストップいじめ!ナビ」の理事でもある荻上チキ氏が、一連の出来事が起きた構造と、本件を巡るネットでの反応・騒動の課題に切り込み、丁寧に解き明かす。「不適切な発言」などに対する批判的言及は必要な一方、万単位の反応が連続的にぶつけられ、批判の範囲を逸脱し、攻撃にまで及ぶことがあるのがSNSの世界だ。一連の出来事の肯定のためでも批判のためでもなく、実際に起きた出来事から、読者それぞれが、当時の自分自身の思考や行動に思考を巡らせ学びを重ねる作業を手助けするこのようなコンテンツが、情報が消費される時代においてより重要な役割を果たすだろう。

U30's VIEW
「朝日新聞 with Planet」

選考委員:PoliPoli 代表取締役/CEO 伊藤和真氏
受賞者:朝日新聞社
評価ポイント:ブランディングや持続可能性のあり方に新しいメディアの形を感じる作品
受賞者コメント(朝日新聞 with Planet編集長 竹下由佳氏):
感染症や貧困、ジェンダー不平等。世界には国境を越えて取り組むべき課題にあふれています。新型コロナを経験した今こそ、地球規模の課題を報じ、解決策を模索したいと、「with Planet」を立ち上げました。こうした課題に取り組むのは、政府、国際機関、NGOなどだけだと思われがちです。しかし、取材を通じて痛感したのは、関心を持ち、行動する人を一人でも増やすことが、とても大きな力になるということです。そのために、課題解決に向けて行動する若い世代との連帯・連携に力を入れてきました。U30の方からこのような賞を頂くことができ、本当にうれしく思っています。これを励みに、今後も行動の輪を広げていきたいです。
選考委員コメント(PoliPoli 代表取締役/CEO 伊藤和真氏):
朝日新聞という歴史あるメディアの新しい挑戦に、賞を贈らせていただきます。「朝日新聞 with Planet」では、グローバルヘルスや気候変動などの国際的な課題を継続的に取材し、読み応えのある記事が多いです。これらの課題は「日本にいる私たちから遠い、発展途上国の話」とされがちですが、記事だけでなくトークイベントなどの動画もあったりと、ユースをはじめとしたさまざまな読者、視聴者が触れやすい情報発信に挑戦されていると思います。「地球が健康でないと、私たちも健康でいられない」をコンセプトに「解決策を探るメディア」として、そのブランディングや持続可能性のあり方に新しいメディアの形を感じています。

U30's VIEW
「高島りょうすけ TikTok」

選考委員:Senjin Holdings代表 下山明彦氏
受賞者:高島りょうすけ
評価ポイント:従来ではリーチが困難だった層にも、選挙や政治に関する情報を伝えた作品
受賞者コメント(兵庫県芦屋市長 髙島崚輔氏):
市長なんて誰がやっても同じだ。どうせ何も変わらないだろう。そう思ってた。でも、今回だけは、髙島だけは、信じてみようと思う。市民の皆さまの期待。ただただ期待によって、市長に押し上げていただきました。心から、ありがとうございました。ここからは、私が応える番です。でも、「社会をより良い方向に変えていく」のは、私一人では不可能です。異なる立場の人が、ともに前向きに歩み続けなければなりません。だからこそ、私たちは伝えたくなるんだと思います。だからこそ、私たちは聴きたくなるんだと思います。だからこそ、私たちは動きたくなるんだと思います。ともに、よりよい世界を創っていきましょう。
選考委員コメント(Senjin Holdings代表 下山明彦氏):
体に最適化したコンテンツを作成し、従来ではリーチが困難だった層にも選挙や政治に関する情報を伝えられたという点で、とても先進的でした。コンテンツとしてのクオリティが高く、また多様な観点に配慮した発信内容となっており、我々同世代に対しても社会での発信の仕方を問い直してくれるような営みだったと考えます。実際に市長に当選されたということも踏まえて、多くの人を勇気づける活動であったとして選出させていただきました。今後とも益々のご活躍を楽しみにしております!

【選考委員】(50音順)
関治之氏(コード・フォー・ジャパン 代表理事)
平野啓一郎氏(小説家)
干場弓子氏(BOW&PARTNERS 代表/ディスカヴァー・トゥエンティワン共同創業者・前社長)
渡部カンコロンゴ清花氏(WELgee 代表)

【U30's VIEW選考委員】(50音順)
伊藤和真氏(PoliPoli 代表取締役/CEO)
下山明彦氏(Senjin Holdings代表)