9月19日、日本民間放送連盟(以下、民放連)は、「2024年日本民間放送連盟賞」の各部門の入選作品・事績を決定し、公表した。なお、各部門の表彰およびグランプリの発表・表彰は、11月6日に開催する「第72回民間放送全国大会」の式典席上で行われる予定である。

日本民間放送連盟賞は、質の高い番組がより多く制作・放送されることを促すとともに、CM制作や技術開発の質的向上と、放送による社会貢献活動などのより一層の発展を図ることを目的に、民放連が1953年に創設した賞である。

今回、最優秀および優秀となった作品・事績は、番組・CM・技術・特別表彰の4部門14種目で計91件。また、技術部門で技術奨励賞1事績が選ばれた。各部門各種目の最優秀賞は以下の通り。

番組部門

「KNB報道スペシャル ふるさとの亀裂~地震と過疎と原発と~」
種目:ラジオ報道
放送局:北日本放送
ナレーション・取材・構成:数家直樹氏
音声:小塚優氏
編集:平島健一氏
制作統括:河原哲志氏
講評:「石川県珠洲市は20年前、原発建設計画の賛否を巡って生じた住民の亀裂が、いまなお存在する一方、深刻な過疎に直面している。今年(2024年)1月に発生した能登半島地震は、その過疎地域にも甚大な被害をもたらした。原発計画の『総括』と、地震の後を生きる人々の『現在』の双方を取り上げ、翻弄されながらも生きる民の力を届ける。過疎の現状を知り、原発建設計画を巡る取材の厚い蓄積を持つ地元民放局ならではのアプローチを感じさせ、ローカルメディアの在り方を示した。」

「白線と青い海~早川さんと饒平名さんの730(ナナサンマル)~」
種目:ラジオ教養
放送局:ラジオ沖縄
制作・取材・ナレーション・パーソナリティ:竹中知華氏
出演:早川亨氏、饒平名知昭氏
プロデューサー:西中隆氏
講評:「1978年、沖縄の道路を一夜にして右側通行から左側通行に変えた交通変更で一緒に働いた仲間を探してほしいという電話がきっかけ。前半は、困難と思いつつ呼びかけた生ワイド番組のダイジェスト。後半は、当時の取材音源も交え、運命の日の朝となった県民にも知られざる『730大作戦』を伝える。歴史がリアリティを伴い再現され、人間ドラマに胸が熱くなる壮大なドキュメンタリー。歴史的な記憶を保存し、広く伝えることに大きな意義があるとして高い評価を得た。」

「こてつのびんびんサタデースペシャル~Dr.北村 性の課外授業~」
種目:ラジオエンターテインメント
放送局:信越放送
プロデューサー:丸山隆之氏
ディレクター:中嶋直哉氏
ミキサー:森田貴雄氏
講評:「長野県住みます芸人『こてつ』(北村智/河合武俊)がパーソナリティを務めるトークバラエティの1時間拡大版。『性』をテーマに真剣に向き合おうと北村の父親である産婦人科医・北村邦夫氏をゲストに招き、性の悩みや性教育などを共に考える。2人の男の子を子育て中のタレント小林知美も母親としての向き合いや悩みを北村医師に質問。Dr.北村がエンターテイメントにあわせながら『持ち物よりも持ち主』など内容のまとめも入っており、まとまった形で成功させたいという制作者の思いを強く感じさせる。」

「はみだし しゃべくりラジオ キックス」
種目:ラジオ生ワイド
放送局:山梨放送
パーソナリティ:みほとけ氏、塩澤未佳子氏
ディレクター:佐藤かおり氏
プロデューサー:依田司氏
講評:「火曜/13時~16時30分の放送。2024年5月21日の放送から。ピン芸人とラジオキャスターの2人の女性がパーソナリティを務める。この日は『リセット』をテーマに、長篠の戦いや座禅体験、源氏物語の作者・紫式部の晩年などの話題でトークを展開した。ベテランの男性と年下の女性のコンビが多い生ワイド番組の新しい形の一つを示している。女性2人のパワーバランスが非常に良く、お互いの話を引き出しあいながら進行し、各コーナーも時事的な話題から歴史まで幅広く魅力的な内容であることが評価された。」

「SBCスペシャル 78年目の和解~サンダカン死の行進・遺族の軌跡~」
種目:テレビ報道
放送局:信越放送
プロデューサー:手塚孝典氏
ディレクター:湯本和寛氏
ナレーター:古畑あずみ氏
撮影:仲田周平氏
講評:「1945年に現マレーシア・ボルネオ島で起きた『サンダカン死の行進』。日本軍の無謀な移動命令によって、英豪軍の捕虜約2,400人のほか、日本兵や地元住民などが死亡した。元捕虜の親族や、戦犯として処刑された日本軍司令官の遺族など関係者20人余が戦跡をめぐり、真実と向き合った葛藤と軌跡を追った。戦争の加害者と被害者の和解のテーマに深い感銘を受ける。第二次世界大戦の報道が年々縮小される中、取材を長年続けて埋もれていたテーマを見いだしたことが絶賛された。」

「#つなぐひと~わたし、義肢装具士になりました~」
種目:テレビ教養
放送局:ワールド・ハイビジョン・チャンネル
プロデューサー:横山直子氏、及川哲郎氏
ディレクター:長沢孝至氏
語り:佐藤寛太氏
講評:「人口わずか400人の小さな町の義肢装具会社には、多くの若者たちがいきいきと働いている。なぜ、この若者たちが職業として義肢装具士を選び、この仕事に積極的に向き合うのか、その理由を追求していく。身体に障害のある人の現実に目を向けさせるだけでなく、健常者にとっても“体とは?”を考えさせる。真に教養の目を開かせる番組として高い評価を得た。」
「SBCスペシャル 寅や」
種目:テレビバラエティ
放送局:信越放送
プロデューサー:手塚孝典氏
ディレクター:宮川伊都子氏
ナレーター:宮入千洋氏
撮影:吉野雅貴氏
講評:「『男はつらいよ』の寅さんが好きで、赤髪に黒縁メガネ、ダボシャツに腹巻、首から下げたお守りがトレードマークの女将が営む宿『おせっかいゲストハウス 昭和の寅や』。2022年のオープンから女将と家族らの2年間を描いた泣き笑い騒動記。時間をかけ取材対象者との信頼関係を築いたからこそ見えてくる『寅や』を舞台にしたありのままの人間ドラマの圧倒的な面白さ、魅力に惹きつけられる。番組の進行とともに自然に『寅や』と、その家族を応援したくなる演出、見終わった後の爽快感がすばらしい。」

「春になったら」
種目:テレビドラマ
放送局:関西テレビ放送
監督:松本佳奈氏
脚本:福田靖氏
音楽:福島節氏
プロデュース:岡光寛子氏、白石裕菜氏
講評:「『3カ月後に結婚する娘』と『3カ月後に病で世を去る父』を1クール=3カ月という連続ドラマの特性を活かし、リアルタイムで見せるホームドラマ。物語は2024年の元旦、3カ月後の結婚と、3カ月の余命を娘と父がそれぞれ同時に発表することから展開していく。互いの幸せを願うからこその衝突などを軽やかに描きながら、春になれば訪れる、父娘の“はじまりと終わり”を題材とした。見事な脚本、丁寧な演出、そして俳優陣のナチュラルな演技などによって、死を単に悲しいものとして捉えるのではなく、生命のサイクルとして清々しく描いている。笑いあり、涙ありの温かく豊かなドラマであり、人生の機微や日常の尊さを見いだすことのできる血の通った番組として高い評価を受けた。」

CM部門

「中央軒 企業CM/『あますことなく』篇(20秒)」
種目:ラジオCM第1種(20秒以内)
放送局:朝日放送ラジオ
プロデューサー:野本友恵氏
アシスタントプロデューサー:村上正道氏(フリーランス)
プランナー・コピー・ディレクター・キャスティング:森田一成氏(ビッグフェイス)
キャスティング:東竜太氏(ビッグフェイス)
講評:「大阪市内を中心に、ちゃんぽんや皿うどんなどを提供する中央軒の企業CM。ちゃんぽんが気になる方は左、皿うどんが気になる方は右、とナレーターが紹介すると、左のスピーカーからはちゃんぽん、右からは皿うどんの魅力を説明する声が同時に聞こえてくる。ラストは3人が声を揃えて、『中央から、中央軒』と店名で締める。2大看板メニューの魅力を、ラジオだからこその工夫であますことなく伝えきる、技巧を凝らした見事な作品。」

「公共キャンペーン・スポット/ラジオ・チャリティ・ミュージックソン 白杖体験 篇(120秒)」
種目:ラジオCM第2種(21秒以上)
放送局:ニッポン放送
プロデューサー・ディレクター:高橋晶子氏
プロデューサー:飯島誠氏
クリエイティブディレクター・プランナー・コピーライター:山本修氏(電通)
ナレーター:野島健児氏(青二プロダクション)
講評:「白杖を使う視覚障がい者の生活をリスナーに疑似体験してもらうため、ステレオ音声を上手く活用して左右に音を振り分けて白杖の音が一つ一つ違うことや、障害物にあたる音などを工夫を凝らして表現している。音の出る信号機から流れている小さな音を紹介するなど音声だけで想像力をかき立てるラジオの特性を活用しており、最後の『音のチカラで、誰もが安心して過ごせるために』というメッセージも秀逸で耳にも胸にも響く。」

「ダイエー 企業CM/『ずっと一緒』篇(30秒)」
種目:テレビCM
放送局:毎日放送
プロデューサー・ディレクター:榛葉健氏
編集:坂本勉氏(カムコンフィデント)
デザイン:小澤一代氏(カムコンフィデント)
ナレーター:上田純子氏(ワイワイワイ)
講評:「神戸市で創業したスーパーマーケット・ダイエー。能登半島地震を受け、阪神・淡路大震災で被災者のライフラインとして奮闘した同社を紹介するCMを制作・放送した。当時の写真や、創業者発案の『ずっとあなたと一緒です。』と伝えるポスターを映像に使用し、ダイエーの企業姿勢を視聴者の心に訴える。CMは阪神タイガースの日本一を特集する特別番組に合わせて放送し、かつて阪神と日本一を競った福岡ダイエーホークスの親会社としての気概も感じる。ストーリーとタイミングにおいて、この上ない作品と言える。」

技術部門

「放送局が開発したテクノロジーを製品化 映像伝送ソフトウェア『Live Multi Studio』の開発」
種目:技術
放送局:TBSテレビ・WOWOW
研究・開発担当者:藤本剛氏、馬詰真実氏、原拓氏、石村信太郎氏
講評:「映像・音声・制御信号の伝送ソフトウェアを、プロトコル開発から製品化まで自ら手掛けて実用化した。複雑な操作が不要で簡単に接続でき、超低遅延を含む複数の遅延量の映像を一対の帯域・機材で安定して伝送可能など優れた特長を持つ。これにより中継制作現場における機材、要員、回線などの効率化を実現し、リモート制作の活用に資するなど、テレビ制作技術の高度化に大きく貢献した。」

特別表彰部門

「バトンタッチ SDGsはじめてます #142『青鳥特別支援学校 夏の挑戦』」
種目:青少年向け番組
放送局:BS朝日
プロデューサー:茂木あや香氏、平野束紗氏
演出:田中雄一氏
ディレクター:岡崎遼氏
講評:「SDGsに取り組む人々を取材し、誰もが明日から一歩踏み出せる気持ちとなる“バトン”を届ける番組。知的障がいのある生徒が通学する東京都立青鳥特別支援学校のベースボール部は、東京都高等学校野球連盟から初めて加盟を認められ、第105回全国高等学校野球選手権の予選に連合チームで出場した。主に安全面から、知的障がいのある生徒が硬式野球を行うことへの反対は根強く、ほとんどの生徒が挑戦の機会すら与えられていない。久保田浩司監督の熱意や部員の生き生きとした表情を映し出している。また、連合チームでの参加を受け入れた他校の生徒たちと『チーム』になっていく様子などを描いており、多様性を重んじる社会を生きていく青少年に見てほしい番組として高く評価された。」
「14年にわたる関西地区のハンセン病問題報道」
種目:放送と公共性
放送局:関西テレビ放送
実施責任者:押川真理氏、柴谷真理子氏
講評:「関西テレビ放送は、ハンセン病問題を2010年から継続して取材し、隔離政策に翻弄されたハンセン病元患者とその家族への取材を通じ、隠さなければならない社会を変えるため、報道を続けている。先輩から志を受け継いで取材を続ける記者が、ハンセン病元患者の心や人生に寄り添い、試行錯誤しながらも取材対象者に正面から向き合う姿勢に、他人事で終わらせないという取材者の意思が感じられた。集団訴訟を経て表面的には問題が解決した後も、長らく家族との関係を断っていた元患者のリアリティを追い続け、問題は続いていることに焦点をあてた報道が評価された。」