ロフトワーク、Psychic VR Lab、パルコによる共同プロジェクト「NEWVIEW(ニュービュー)」は、XR(複合現実) コンテンツアワード「NEWVIEW AWARDS 2021」の受賞作品を発表した。

同アワードは2018年に第1弾をスタート。誰もが3次元空間の表現を手にする近未来を見据え、XRの新たな表現と体験の世界を牽引し得る次世代クリエイターを発掘し、次なるステップへと進むきっかけをもたらすべく立ち上げられた。受賞したクリエイターの発展支援活動を通して、引き続き次世代のXRクリエイターの発掘・育成、3次元空間での新たなクリエイティブ表現と体験のデザイン開拓を目指す。

第4弾となる今回はテーマに「ポストリアリティとノーノーマル」を掲げ、昨年8月10日から11月1日までの期間、世界中から作品を公募した。

15ヶ国から合計152作品の応募があり、宇川直宏氏(審査員長)、磯光雄氏、バーチャルヒューマンのimma氏、デイヴィッド・オライリー氏、ゾーイ・ブローチ氏(英国)、ルー・ヤン氏(中国)、バブー・リャオ氏(台湾)、ティナ・ソーアランダー氏(ドイツ)、ヤコブ・クドスク・スティーンセン氏の9名の審査員による最終審査会を経て、グランプリをはじめとする各種受賞作が決定した。

152作品の内訳は、AR(拡張現実)43作品、VR(仮想現実)97作品、MR/XR(複合現実)12作品。うち、受賞作品はGold Prizeが1点、Silver Prizeが3点、Sponser Prizeが5社に各1点。

■NEWVIEW AWARDS2021 受賞作品
GOLD Prize

作品名:「Neo Tengri」
作者:Ardak Mukanova(Artist,Graphic and Motion Designer Kazakhstan/USA)
古代の遊牧民の宗教「テングリズム」を題材に、現実とはあらゆるものが異なる未知世界を体験する作品
審査員:宇川直宏氏コメント(現在美術家/DOMMUNE)
「カザフスタン出身のArdak Mukanova氏は、モンゴルにおける民俗シャーマニズムに基づく古代遊牧民の宗教、テングリをテーマにVR空間を演出した。氏は、トランスメディア空間のクリエイティブを得意とするアーティストとして、このテーマとの出会いは必然であったかのように、バーチャル空間においてのミステリアスな世界秩序の構築に成功している。そこに描かれた古代の神々は逸脱し果てたクリーチャーとして、今世紀的ファンタジーを描いている。また、一神教であるテングリの物語は、ヘッドマウントディスプレイでのVR体験によって極めて深い没入感を生み出し、崇高なイニシエーションのような儀式空間を彷彿とさせる。」

SILVER Prize
作品名:Phosphorescent City
作者:KAZUKI MOTANI(Speculative Urban Designer/Japan)
建築ファサードが蓄光化し、街頭やソーラーパネルが無用の長物化した2045年の都市体験をデザインした作品
審査員:宇川直宏氏コメント
「まず、来るべき近未来においての、エネルギー革命の物語設定が大変秀逸である。建築ファサード用蓄光塗料が太陽光を吸収し、夜間光源として機能するという発想が素晴らしい。所謂ブレードランナー的ディストピアではなく、整然とした郊外の風景を照らし出す、ビビッドな蓄光光源や、空中を舞う20世紀的デザインの街灯。そのような色鮮やかなデッドテック・フューチャーの投影が、過去のどんなSFにも描かれていなかったPOPアヴァンギャルドな近未来像を成立させている。退廃的な未来ではない、にも関わらず、ソーラーパネルが無用の長物となった2045年。作者はそのことを赤瀬川原平の"トマソン"という考現学用語を使って説明している。なんて粋なVRなんだろう!!! 」

SILVER Prize
作品名:隙間 / [gap]
作者:しょーろんぽー。(デザイナー/アーティスト/Japan)
狭い空間がコンセプト。一般的なVRにおける空間の広さではなく、狭さに新たな体験の可能性を見出した作品
審査員:磯光雄氏コメント(アニメーター/演出/脚本家)
「個人的には最もVRで体験したい方向性の作品だった。今回の応募作品としては簡素な方ではあるが、このフォーマットをもとにして複雑な構造やギミック、ストーリー性など盛り込んでいければ、特異な体験や感覚を生み出し得る題材だと考え選出した。」

SILVER Prize
作品名:World's Palette
作者:Shinya Hasebe (プロダクトデザイナー/Japan)
カメラに映った画像を絵の具のパレットのように取り込んで、空間上に3次元ドローイングできるAR
審査員:ルー・ヤン氏コメント(アーティスト)
「この作品はとてもインタラクティブで、いつでも実世界とARの世界を切り替えることができます。とても成熟した作品であり、アプリストアに載せれば多くの人が積極的に参加してくれると思います。このツールを使用して、いくつかも興味深い表現を制作すると思います。」

PARCO Prize
作品名:VR CYPHER
作者:Eguo (オーディオビジュアル・アーティスト/Japan)
ヒップホップから派生した「サイファー」がテーマ。プレイヤーが能動的に参加するオーディオビジュアルアートに昇華
審査員:今枝立視氏コメント(パルコ取締役/常務執行役員/PARCO SC事業グループ管掌)
「自分が身体を動かしたり操作したりすることで音や空間が変化する、"インタラクションによって鑑賞者自身が作品に関わる感覚"を、審査員一同が楽しみながら感じることが出来ました。また、こうした仕掛けを現実世界で実装する時には、場所の工面や設備の開発など、物理的な実現ハードルが多々あるだろうということも想定でき、それをクリアしていく未来も想像しました。本作品は、XRによって表現のフィールドがあらゆるクリエイターに開放された事を象徴する作品としても意義があるものであり、また、"感性で世界を切り裂く"というパルコのパーパスの体現を予感する作品だとの思いから、PARCO Prizeに選出させていただきました。これから素敵なコラボ作品が誕生することを楽しみにしております。」

SUPER DOMMUNE Prize
作品名:Phosphorescent City
作者:KAZUKI MOTANI(Speculative Urban Designer/Japan)
※Silver Prizeとダブル受賞
審査員:宇川直宏氏コメント
「このプライズは唯一独断が許されるゆえ、全く迷うことなく『Phosphorescent City』を選出した。SILVERとSUPER DOMMUNE PrizeのW受賞である。先述のとおり、作者のKAZUKI MOTANI氏は、この近未来におけるデッドテック・フューチャーを、赤瀬川原平の”トマソン"を引用し描き切った。このコンセプトは、不動産と一体化しつつ「無用の長物的物件」となった建築物の”ナンセンスさの美学"のことを指すが、スーザン・ソンタグの"キャンプ”や、アンドレ・ブルトンの”シュルレアリズム"に通じるような、常軌を逸したイメージや過剰なリアリティを、愛を持って失笑しているようにも感じる。そう、この作品は、バーチャル都市空間をユーモラスなレンズによって再発見し、"路上観察学”の視点で幻視させているのだ!!!!!」

Media Ambition Tokyo Prize
作品名:Grandpa’s new old times: reminiscent of the past with haptics and VR
作者:Mingcheng Wu, Yipin Huang, Wei-Chen Yen, Chun-Cheng Hsu(Research team on HCI  Taiwan)
独自の触感コントローラーを自作。高齢者に古き良き時代を取り戻してもらう認知治療としてのVRを制作
審査員:杉山央氏コメント(Media Ambition Tokyo)
「『Grandpa’s new old times: reminiscent of the past with haptics and VR』は、VRの新しい使い方を切り拓いた意欲的な作品だ。高齢者による「VRでの鶏への餌やり」は、エンタメの枠を超えて、医療分野への活用の可能性を示してくれた。技術面では、専用デバイスを開発しVR世界への没入感を高めることに成功していることや、医療機関との共同研究を行っていることも評価し、今後の更なる発展性を期待したい。」

Nreal Prize
作品名:See there / ここに見る
作者:kiyotaka watanabe(Interactive Engineer/AR Developer/Japan)
世界とのずれや断絶など、変容していく世界をスマートフォンをモチーフに表現したAR作品
審査員:フー・シャンロン氏コメント(Nreal副社長)
「今回選出した『See There』は、新しいアイデアとユニークなアートスタイルで、Nrealの審査員から満場一致の賞賛を得ました。高い技術、拡張現実における発想とものの捉え方に加え、拡張現実そのものに対する作者の思いやりが込められており、テクノロジー・アート・エモーショナルの3つの側面からユーザーの心に触れる作品となっています。今後、この作品にどのような磨きをかけていくのか、あるいはその延長線上で、どのようにNrealのグラスを通して表現されるのか、さらなる成長を楽しみにしています。 近い将来、STYLYや開発者の皆さんと一緒に、誰もが拡張現実を通し、自分の世界を見て、新しい発見ができるような暮らしが実現できればと心より願っています。」

GIZMODO Prize
作品名:My Painting World
作者:Yuhi Namai(VRで表現方法を模索している人/Japan)
平面的な絵画の世界に入り込み、画の中と外の両面の世界を体験する作品
審査員尾田和実氏コメント(ギズモード・ジャパン編集長)
「世間はメタバース、NFTはとにかく金になる!! との大狂騒曲。ノイズだらけのVRテクノロジーをめぐる喧騒の中で、なんだかほっとしてしまうような牧歌的、かつとても真面目な作品と感じました。そんなことを抜きにしても、このナラティブ(物語)的なアプローチは魅力。個人的には、ディズニー・シーのような物語世界にいくと、この街角の片隅でずっとひっそりと生きていきたい、もう帰りたくない、みたいな郷愁に襲われることがあるのですが、このやさしい絵画のようなパリの世界も、確実に帰りたくなくなるような吸引力のある名作だと思います。細かい部分の作りこみも素晴らしい!」