IT批評家・尾原和啓「最近の若者は“欲しい”“したい”という乾きがなくなっている」 尾原和啓さん、ハヤカワ五味さん
ファッションデザイナー、起業家、インフルエンサーなどマルチに活躍するハヤカワ五味さんがパーソナリティをつとめるTOKYO FMの番組「マスメディアン 妄想の泉」。この番組では、さまざまなフィールドで活躍する起業家やクリエイター、アーティストをゲストに迎え、未来を面白くするヒントを“妄想しながら”探っていきます。2月13日(土)の放送は、前回に引き続き、IT批評家の尾原和啓(おばら・かずひろ)さんが登場しました。
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「Clubhouse」の空間はパッション・エコノミー
前回の放送では、音声SNSアプリ「Clubhouse(クラブハウス)」の魅力について熱く語ってくれた尾原さん。Clubhouseの共同創業者であるローハン・セス氏とポール・デイビソン氏は定期的にタウンホールミーティング(対話集会)を実施しています。ユーザーとの意見交換にも積極的で、あるユーザーから「フォロワー数を表示するのをやめたほうがいいのでは?」との声に対し、「(Clubhouseは)量を求めるのではなく質、意味のあるつながりが起こる場所にしていきたい」と話していたそうです。尾原さん自身もClubhouseに熱中していて「フォロー数を追い求めるよりも、別のやり方をしたほうが、Clubhouseはすごくいい空間になると思う」と実感を語ります。
Clubhouseの設計における面白いところとして、「最初に部屋を立てた人にフォロワーがいない場合、見える世界は小さいかもしれない。だけど、フォロー数を持っている人がふらっと寄ってくれると、その人がスピーカー(Speaker)になったとき、その人のフォロワーにもその部屋が見えるようになること」を挙げ、
「自分でフォロー数を持っていなくても、いい偏愛空間をつくると、フォロー数を持った人が“ちょっとしゃべってみたいな”と思ってふらっと立ち寄りたくなる。あまり自分でフォローを増やすことを考えるよりは、いろいろな人がふらっと寄ってくれる場所になったほうがいい」と言います。
また、Clubhouseに投資したベンチャーキャピタル世界大手のアンドリーセン・ホロウィッツが、新しい経済圏の在り方として「パッション・エコノミー」という言葉を掲げていることについても言及。
「機能はすぐに盗用できてしまうから、機能だけでは儲けられない。だったら、パッション(情熱)を持っている人を“応援しよう”という『小さい経済圏に世の中が変わっていく』と彼らは言っている」と引き合いに出します。「そういう小さい経済圏をつくるプラットフォームという意味で、僕はClubhouseにすごく興味を持っている」と尾原さんは語ります。
アウトプットよりもプロセスの時代に
続いて、ハヤカワさんが最近気になっているという概念「プロセス・エコノミー」についてトークを展開。尾原さんは、「アウトプット(ゴールにあるもの)に至るまでのものがプロセス(過程)。インターネットではあらゆるものを無料化していくから、アウトプットでは儲けられなくなってきている。むしろ、アウトプットに至るまでのプロセスのほうが、希少性がある」と声を大にします。「プロセス・エコノミー」という言葉は、起業家の“けんすう”こと古川健介さんが名づけた言葉だそう。さまざまなアウトプットが無料となるなか、「アウトプットでビジネスをするのではなく、プロセスでビジネスをつくっていくような時代に移り変わっている」と指摘しているそうです。
ハヤカワさんは、「プロセス・エコノミーが難しいのは、当人たちはそのプロセスの重要性を理解していないところ」と主張します。「例えば、オムライスをつくるのがとても上手な料理人がいて、その人がオムライスをつくる動画をひたすらYouTubeに投稿していました。すると、登録者数がものすごい数になった。最初は、オムライスをつくりたい人が検索してその動画を見つけたんだけど、“この料理人はとんでもない(腕前だ)”ということに気づいたのです。いまでは全国から多くの人がそのオムライスを食べにお店に行くようになった」と、例を挙げます。
尾原さんは「まさに、そうした“とんでもない!”というところに情熱を注いでいくことこそが大事になってきている」と強調します。
というのも、インフルエンサーの世界は競争過多になっていて、「“What”でインフルエンスの勝負をするのではなく、どうやってその“What”にたどり着けたのか。つまり“How”ですよね。オムライスの話もそうだけど、インターネットのフォーカスは“How”の部分に移ってきている。人間は機能を味わっているのではなくて、誕生や物語のほうにお金を払う生き物なのです。しかし“How”の競争だけだと模倣できてしまうから、ここも競争過多になってしまう」と述べ、
「では最後に残るのはなにかというと、それは“Why”。なんのために、その人はそこに情熱を注ぐのか。これが見えるとファンになる」と明言します。
「乾けない世代」にとって大事なもの
最後は、「乾けない世代」という言葉について。これは、尾原さんが2017年に発刊した著書『モチベーション革命 稼ぐために働きたくない世代の解体書』(幻冬舎)で生まれた言葉です。編集会議のときに、編集者の箕輪厚介さんがこの言葉を思いつき、ツイートしてみたところ若者から大きな共感を呼びました。その反響の大きさに、当初予定していたテーマから大幅に修正し、書き直して完成させたと言います。「乾いた世代」である昭和の人たちは、「世の中に“ないモノ”があふれていた。(テレビや洗濯機、クルマなど)生活のなかで“ない”ことに対する乾きを埋めるためにみんな頑張ってきた」のに対し、「最近の若い方たち(乾けない世代)は、生まれたときから“ないモノ”がないんです。家には家電が揃っていて、コンビニに行けばおいしいものが食べられる。ないモノがないことによって“なにかが欲しい!”“なにかをしたい!”という乾きがなくなっていく」と解説します。
そして、ポジティブ心理学の第一人者であるマーティン・セリグマン氏が定義している「人間の幸せに必要な5つの要素(PERMA)」を例に挙げて補足していきます。
尾原さんいわく、乾いた世代はそのうちの2つ「達成(Achievement)」と「ポジティブ感情(Positive Emotion)」を“埋めたい”という気持ちが強い。これに対し、乾けない世代にとっては、残り3つの「良好な人間関係や関係性(Relationship)」、「熱中、没入(Engagement)」「人生の意味や仕事の意義(Meaning)」が大事になっているそう。
尾原さんは「乾けない世代にとっての幸せは、この3つにシフトしてきている」と言います。「テクノロジーによってすべてがつながっていくなかで、世代の変化が重なるから『プロセス・エコノミー』や『パッション・エコノミー』といったものの後天としてClubhouseなどが流行る。そういうことが今後もどんどん起こってくると思う」と分析していました。
次回2月20日(土)の放送は、エクサウィザーズ 代表取締役社長 石山洸さんをゲストに迎えてお届けします。どうぞお楽しみに!
※2021年2月19日 イラストレポートを追加しました。
advanced by massmedian読者へ
尾原和啓さんから特別メッセージ
変化の時代にうまくやっていくっていうのは、新しい自分に出会うってことが一番大事だと思っています。でも新しい自分って、まったく違う自分ではありません。いまの自分のなかにある「Why」というもので変わっていくことが大事なのです。そのためには、いろいろなWhyを持った人と交流していき、自分のWhyの解像度を上げていく。そして、やがて自分のWhyのなかでいろいろな変化を楽しめるようになっていくといいなと思います。
番組概要
番組名:マスメディアン 妄想の泉放送日時:毎週土曜 24:30~25:00
パーソナリティ:ハヤカワ五味
番組Webサイト:https://www.tfm.co.jp/mousou/
番組Twitter:@mosonoizumi_TFM