ART FUN FAN Vol.14 ギンザ・グラフィック・ギャラリー「2025 JAGDA 亀倉雄策賞・新人賞展」

ART FUN FANでは、広告・マーケティング・クリエイティブ業界で働く皆さまにアートの情報をお届けします。おすすめの企画展をピックアップして、美術ライターが独自の切り口で解説。「アートってなんだかよくわからない。」方から「興味があるからもっと知りたい!」方まで、誰でも楽しめるアートの魅力に触れていきましょう!
コラム第14回では、前回に引き続きギンザ・グラフィック・ギャラリーを訪問。2025年の「亀倉雄策賞」と「JAGDA新人賞」に輝いた、4名のグラフィックデザイナーの作品を鑑賞しました。
書き手は文筆家(ライター)のさつま瑠璃、専門はアート分野です。そんなデザイン初心者の目線で今回見て感じたのは、四者四様の豊かなクリエイティビティと、デザインの未来に高まる期待感でした。
コラム第14回では、前回に引き続きギンザ・グラフィック・ギャラリーを訪問。2025年の「亀倉雄策賞」と「JAGDA新人賞」に輝いた、4名のグラフィックデザイナーの作品を鑑賞しました。
書き手は文筆家(ライター)のさつま瑠璃、専門はアート分野です。そんなデザイン初心者の目線で今回見て感じたのは、四者四様の豊かなクリエイティビティと、デザインの未来に高まる期待感でした。
十四度めまして! さつまです!

当日はあいにくのお天気でしたが、雨の銀座も趣があります
さて、前回はTDC展の取材でお邪魔したギンザ・グラフィック・ギャラリーに、何と再び足を運ぶ機会が訪れました! しかも、第5回のコラムで取り上げたJAGDA新人賞展を再び見ることに。クリエイションギャラリーG8が2023年9月に活動終了して以来、JAGDA新人賞展の会場はギンザ・グラフィック・ギャラリーへと移ったのです。
そして、会場ではJAGDA新人賞とあわせて、亀倉雄策賞に輝いた作品も展示されています。亀倉雄策さんといえば、日本を代表する大企業のシンボルマークや、東京五輪のポスターなどのデザインを手がけた、まさに伝説的なグラフィックデザイナーのひとり。その名を冠したこの賞は、年鑑『Graphic Design in Japan』入選作品の中から、最も優れた作品とその制作者に対して贈られます。
会場では、ギャラリー1階で亀倉雄策賞を受賞した林規章さんの個展を、地下1階ではJAGDA新人賞を受賞した城﨑哲郎さん、サリーン・チェンさん、松田洋和さんのグループ展を開催しています。特別に受賞者の皆さまにも見どころやこだわりをお話しいただきました!
ひたすら手を動かして生み出された、唯一無二のクリエイション
まずはこちらが、亀倉雄策賞を受賞した林規章さんの作品です。賞に選ばれた女子美術大学・大学院の学生募集のためのポスターは、シンプルで洗練されていて、それでいてユニークな創造性の豊かさを感じます。林さんは同大学・大学院の教授を務めながら、20年にわたり毎年ポスターデザインを制作されてきたそうです。

林規章「教育機関の学生募集ポスター『女子美術大学大学院/3年次編入/短大専攻科 学生募集』女子美術大学」
「美術大学ということもあり、デザイン分野でも造形の勉強から始まります。そうした環境で、学生たちが彫刻や塑像を使って形と格闘する基礎のようなところを、今回のデザインを通して自分なりに表現しています」と林さん。
その制作資料として驚いたのが、こちらのメモです。「普段はお見せしないんですけどね」と言いつつも出品していたメモは、なんと200枚以上。日々、思いついたときにボールペンで書いていたそうです。「まずはイメージを形にすることから始まるのがデザインの基礎。理屈ではなく五感から入り、表現したいという衝動をどう表していくか、考えるよりも手を動かそう、と僕は学生にも話しています」と話す林さんからは、女子美やデザイン教育への真摯な想いを感じました。

「実際に描いてみると、気に入ったものとそうでないものがある」と林さん

独自の幾何学的なデザインは林さんの貫いているスタイル
JAGDA新人賞のフロアは、3人のアイデアが詰まっている
JAGDA新人賞は、『Graphic Design in Japan』出品者の中から、今後の活躍が期待される、39歳以下の有望なグラフィックデザイナーに贈られる賞です。いわばデザイナーの登竜門、デザイン・広告関係者の注目を集める賞の1つでもあります。2025年の受賞者の3人は今回を機に知り合ったといいますが、展示のアートディレクションは全員で担当。どのような空間をつくりたいかを毎週3人で話し合ったそうです。
その象徴的なイメージともいえるのが、本展のキービジュアルにもなったこの作品。左からそれぞれ、城﨑さん、チェンさん、松田さんをキーパーソンとしてイメージし、3Dプリンターで生成したものです。「今までの新人賞展では、立体物を撮影したキービジュアルはないよね」という着眼点から生まれたアイデアだそうです。

それぞれ作家本人が、自分自身をイメージしてデザインしたもの
城﨑哲郎さん
城﨑さんのデザインを見た率直な感想は、「お洒落でかっこいい!」引き締まったモノトーンに馴染む繊細なニュアンスのある色づかいや、筆やペンで描いた手仕事を想像させる味わい深さが印象的です。ナチュラルで不規則な曲線は、どこか自然物にも似ているような美意識を感じさせます。

城﨑哲郎さんの作品展示風景
「店主の方が、『葛はとにかく粘りだ』とおっしゃっていて。そこで、こういう絵の具のぬめっとした感じは粘りっぽいかな?と発想し、デザインを考えました」と城﨑さん。たしかにこのイメージだけで、葛の見た目や食感が思い浮かび、商品を手に取ってみたくなりそうです。

(上)廣久葛本舗のパッケージデザイン/(下)同じく福岡県にある「まるは醤油」のデザイン
9年前に香港から日本に来たサリーン・チェンさんは、「キギと創造」というグラフィックデザイン事務所に入社し、東京都・池尻大橋にあるショップ&ギャラリー「OFS gallery」の仕事をしています。その内容は展示のキュレーションやキービジュアルの制作、空間設計と多岐にわたるのだとか。
デザインするものはポスターやフライヤーなどの紙ものだけではなく、展示室内のサインや、お客さんにお渡しするショッパー、アクリル製のグッズまで幅広い! トータルプロデュース力の高さに驚きます。

明るいイエローが印象的な中央のシリーズは、すべて一つの展覧会のためにつくったクリエイティブ
実際の展示物とリンクする視覚的要素は、その場で受注したジュエリーの保証書が入った封筒や、ショッパーにも世界観として表れています。「わざわざ展示に足を運んで買いに来てくださる方に喜んでもらいたい、という想いを大切にしました」と笑顔で話してくださいました。

既製品のショッパーにかぶせるタイプのショッパーは、店員さんのオペレーションのしやすさも考慮されています
松田さんが得意とするのはブックデザイン。いわゆるアートブックと呼ばれるような、芸術性の高いブックの数々が魅力的です。

松田洋和さんの作品展示風景

会場ではさまざまなブックの制作風景を伝える動画も放映されており、必見です。
おわりに
亀倉雄策賞・JAGDA新人賞はともに、年鑑『Graphic Design in Japan 2025』から選出された栄誉ある賞。そもそもこの年鑑に載ることが素晴らしく、さらにその中から選ばれているので、今回お会いした4名の皆さまはすごい人たちなのです。 最後に、林さんのこんな言葉が印象に残りました。「技術の進歩を考えると、もうAIがグラフィックデザインを支配している部分もあるけれど、やはりどうしても人間の五感から生まれてくるカタチがあると信じたい。そういうものがきっと美術教育でも必要だし、学生にそういう学びがある場を大切にしたい」
自ら考えてアイデアを生み出し、手を動かしてクリエイティブをつくっていく。デザインを通してまだまだ世の中にはない面白いものがたくさん出来上がる、この展示を見てそんな未来にもワクワクしました。この夏、何か表現に取り組みたい人や、表現をもっと磨きたい人にとって、良いヒントが見つかるかもしれません。
[イベント情報]
ギンザ・グラフィック・ギャラリー特別展
2025 JAGDA 亀倉雄策賞・新人賞展
会期:2025年7月15日(火)~8月27日(水)
開館時間:11:00~19:00
休館日:日曜・祝日
会場:ギンザ・グラフィック・ギャラリー (ggg)
〒104-0061 東京都中央区銀座7-7-2 DNP銀座ビル1階/B1階
地下鉄銀座線、日比谷線、丸ノ内線「銀座」駅から徒歩5分
JR「有楽町」「新橋」駅から徒歩10分