ART FUN FAN Vol.9 ポーラ美術館「モダン・タイムス・イン・パリ 1925―機械時代のアートとデザイン」

ART FUN FANでは、広告・マーケティング・クリエイティブ業界で働く皆さまにアートの情報をお届けします。おすすめの企画展をピックアップして、美術ライターが独自の切り口で解説。「アートってなんだかよくわからない。」方から「興味があるからもっと知りたい!」方まで、誰でも楽しめるアートの魅力に触れていきましょう!
コラム第9回は、都心から少し足を伸ばして冬の箱根へ。観光でも人気の箱根は、大小いくつもの美術館が点在するアート旅の聖地! その中でも、印象派やコンテンポラリーアートの作品を多く有するポーラ美術館を訪れました。
書き手は文筆家・エッセイストのさつま瑠璃。芸術領域から社会と人を捉える書き手として、展覧会の取材も幅広く行うフリーの記者です。実は神奈川県出身のさつま。改めて地元を訪れて発見した、箱根とアートの魅力とは?
コラム第9回は、都心から少し足を伸ばして冬の箱根へ。観光でも人気の箱根は、大小いくつもの美術館が点在するアート旅の聖地! その中でも、印象派やコンテンポラリーアートの作品を多く有するポーラ美術館を訪れました。
書き手は文筆家・エッセイストのさつま瑠璃。芸術領域から社会と人を捉える書き手として、展覧会の取材も幅広く行うフリーの記者です。実は神奈川県出身のさつま。改めて地元を訪れて発見した、箱根とアートの魅力とは?
九度めまして! さつまです!

地元に帰ってきました! ではなく、ポーラ美術館の取材に来ました!
ART FUN FANをご覧の皆さん、こんにちは! もしかしたら、こんばんは。さつま瑠璃です。
第9回は、連載で初となる神奈川県の美術館へ。県西地域で随一の観光特区、箱根を訪れました。箱根の中でも北側に位置する仙石原、ここで独自の魅力を打ち出しているのがポーラ美術館です。
年に数回の企画展を開催するポーラ美術館では今、「モダン・タイムス・イン・パリ 1925―機械時代のアートとデザイン」と題した展覧会の真っ最中。1920~1930年代、急速な工業化で大きく変容したパリを中心に、ヨーロッパやアメリカ、日本の社会の変化を、さまざまなアート作品を通じて捉えます。
今回は、企画展だけではなく、ポーラ美術館のさまざまな魅力についてもたっぷりと紹介していきます。
いざ箱根へ。自然とアートを楽しむポーラ美術館への道
ポーラ美術館の最寄り駅は、箱根登山鉄道の強羅駅。そこからバスで向かいます。富士箱根伊豆国立公園の中に建つポーラ美術館の敷地は、山に近く自然豊か。左右に森を見ながらランウェイのようなアプローチブリッジを歩いていくと、だんだんと心も体もほぐれていく。絵を見るのにちょうどいい状態に「整う」感覚を味わえます。

ポーラ美術館 エントランス
向かって左側は、山のダイナミックな景観を眺められるつくりになっています。地上2階+地下3階建ての大規模な美術館ですが、木の高さを超えないように半分以上を地階に。それでも、ガラス張りの天井から差し込む天然のトップライトは地下まで届きます。
館内の壁に、地層をイメージした波型のキャストガラス(すりガラス)を使っているのもこだわりのひとつ。太陽光を反射して発光し、空間を明るく開放的でクリーンな印象にしています。

エントランスに入ると左手に森の眺望が広がる

ポーラ美術館 ロビーの様子
まずは、若手アーティストを応援するアトリウム・ギャラリーを見てみる
ポーラの2代目社長・鈴木常司氏は美術好きで、独学で美術史を学んで自らの審美眼にかなった作品を収集した方だったそう。彼が好んだ印象派の絵画は、チューブ絵の具が発明されて屋外で絵を描けるようになった時代のもの。だからこそ、これらの絵画を展示する美術館は「入館する時、自然の光の中に包まれてくつろいだ気持ちになってから作品を見られる場にしたい」、との思いで緑豊かな箱根の地に構えられたのです。ポーラ美術館の取り組みは、作品の収集・展示だけではありません。美術館を運営するポーラ美術振興財団では、アーティスト支援を積極的に行っています。選ばれた若手作家は助成を受けて海外へ。彼らが学んだ成果を発表する場として、ポーラ美術館では美術の表現と美術館の可能性を「ひらく」という思いが込められたプロジェクト「HIRAKU Project」を開催しています。

ポーラ美術館 アトリウム ギャラリー

大西康明《境の石 凸に凹》2023年(部分)
さつまは見た! 「モダン・タイムス・イン・パリ 1925」はここが面白い!
美術好きの方であれば、「ポーラ美術館といえば、モネやルノワールなど印象派」というイメージをお持ちの方もいるのではないでしょうか。本展は印象派が流行した時代のその先、20世紀前半の作品を取り上げます。「機械時代(マシン・エイジ)」を迎えた、20世紀パリ

第1章 機械と人間:近代性のユートピア 展示の様子
展示室の中央を占めるのは、蒸気機関の模型や車(2分の1スケールでつくられた子ども用の電気自動車)、航空機のエンジンといった「機械」のランウェイ。その前方には有名なチャップリンの映画『モダン・タイムス』のワンシーンが上映されています。チャップリンはベルトコンベアのある工場を舞台に、機械に取り込まれていく人間をコミカルに演じます。街中に機械が溢れることへの、憧憬と恐れ。当時の人々にとって機械とは革命であり、生活や価値観を一気に変えてしまうものでした。
けれども、よく見てほしい。実は現代を生きる私たちも同じで、AIやChatGPTのような今まであり得なかったテクノロジーに魅了されたり、恐れたりしながら今後の社会を考えている。私たちも『モダン・タイムス』の当事者だと捉えると、この展覧会のリアリティが一気に増してきます。

(左から)航空機用計器類、航空機用プロペラ どちらも株式会社青島文化教材社/コンスタンティン・ブランクーシ《空間の鳥》1926年(1982年鋳造) 滋賀県立美術館
「機械美」という新たな表現が生まれる

(左から)フェルナン・レジェ《女と花》1926年 東京国立近代美術館/フェルナン・レジェ《木の根のあるコンポジション》1934年 個人蔵/フェルナン・レジェ《鏡を持つ女性》1920年 ポーラ美術館
その次に足を踏み入れたのは、中央に蓄音機が据えられた展示室。最奥を飾るのは、音楽を抽象絵画で表現したワシリー・カンディンスキーの作品です。ひと部屋ごとのキュレーションにもこだわりが感じられます。ちなみにこの蓄音機は、ギャラリートークの時にレコードを再生することもあるのだとか。

約100年前の蓄音機と絵画が並ぶエスプリのある展示構成

ル・コルビュジエが自身の建築に合うようにデザインした椅子が並ぶ。当時の室内にはフェルナン・レジェの絵も飾られている
機械に反発する精神性。シュルレアリスムが開花する

ジョルジョ・デ・キリコ《ヘクトールとアンドロマケー》1930年頃 ポーラ美術館 ©SIAE, Roma & JASPAR, Tokyo, 2023 B0685
一方で、その頃の日本は?との問いに答えるのが次の展示室です。当時の日本は大正末期~昭和初期。関東大震災からの復興を目指し、都市の姿が大きく変わった時期でもありました。
杉浦非水、古賀春江、河辺昌久などの作家は、いずれも同時代のパリの芸術や先進的な機械美に影響を受け、日本のモダニズムを独創的に表現しています。

杉浦非水《ポスター「新宿三越落成 十月十日開店」》1930年(昭和5) 愛媛県美術館

化粧品のポスターと、当時実際に使用されていた化粧品や鏡台を組み合わせたユニークな展示も

(左から)古賀春江《白い貝殻》1932年(昭和7) ポーラ美術館/古賀春江《現実線を切る主智的表情》1931年(昭和6) 株式会社西日本新聞社(福岡市美術館寄託)
現代におけるモダン・タイムスとは何か
20世紀パリの機械や絵画からスタートした展示は、100年後の現代アートで締め括られます。1920年代から2024年の現在へ。今後もテクノロジーの発達とともに、アートの表現手法やテーマ性も変化していくのだろうと感じさせられます。
ムニール・ファトゥミ《モダン・タイムス、ある機械の歴史》2010年 Courtesy of the artist, Art Front Gallery, Tokyo ©Mounir Fatmi

空山基による作品群 (中央)《Untitled_Sexy Robot type II floating》/(左、右)《Untitled_Sexy Robot_Space traveler》どちらも2022年 Courtesy of NANZUKA ©Hajime Sorayama

ラファエル・ローゼンダールの《Into Time》シリーズ(Courtesy of Takuro Someya Contemporary Art ©Rafaël ROZENDAAL)は、鑑賞者の行動が関与することで作品の見え方が変化する作品
展覧会を見終わったら、お腹を満たすためにレストランへ
充実した展示を見終えたら、何だかお腹が空いてくる。ランチは白で統一された内装がお洒落な「レストラン アレイ」へ。季節感あふれる欧風料理が魅力です。鑑賞の後にぜひ食べたいのが、本企画展とコラボした期間限定のコースメニュー。会期中に提供する「1925-パリの街角」はビストロをイメージした素朴なコース料理で、国境やジャンルを超えて新たな文化・芸術が花開いた100年前のパリをイメージしています。
野菜たっぷりの焼きたてキッシュは、フランスらしい一品。クスクスと一緒に食べるメインディッシュの仔羊と野菜の煮込みは、スパイシーな味わいが印象的で異国情緒を感じます。ほんのり辛い赤色の香辛料「アリサ」もひとさじ乗せてみて。最後に、デザートの甘いパリ・ブレストを口にすれば、心まで満たされます。

仔羊と野菜の煮込み クスクスと共に

パリ・ブレスト バニラアイスを添えて

レストランから見えるテラスの雪景色
お腹いっぱいになったら、今度は外を歩きたくなった
食後、腹ごなしに歩きたくなったら森の遊歩道を訪れてみて。ブナやヒメシャラなどの美しい樹木に囲まれて、風の音と鳥の声だけが聞こえる静けさのなか、箱根の空を見上げて深呼吸。森の中に点在する彫刻が見られるこの場所も、ひとつの展示空間です。

森の遊歩道 入り口

森の遊歩道には彫刻も点在
企画展の都度、作品の入れ替えがある圧巻のコレクション展にもご注目を。ピカソやモリゾなどの西洋絵画から、ゲルハルト・リヒターの抽象絵画まで、さまざまな巨匠たちの作品が揃う空間です。この時は、レオナール・フジタ(藤田嗣治)の絵画も数点見ることができました。

ポーラ美術館コレクション選 展示風景
おわりに
自然に囲まれて、木々や陽の光と一体になる体験をしながらアートを見る。「箱根の自然と美術の共生」をコンセプトにしたポーラ美術館は、その立地や建築を活かした素晴らしい鑑賞体験をもたらしてくれます。もちろん、せっかく箱根に行くのだから、1日遊んでゆっくりしたいはず。そんな欲望も、アート・食・森林浴・ショッピングと充実した時間を1つの館でかなえられます。小旅行には箱根を、そしてポーラ美術館を。印象派の画家たちが描いた戸外の光や瑞々しい草木を全身で感じれば、いつもと違った特別なアート鑑賞をきっと楽しめます。
イベント情報
モダン・タイムス・イン・パリ 1925-機械時代のアートとデザイン
https://www.polamuseum.or.jp/sp/moderntimesinparis1925/
・会期:2023年12月16日(土)―2024年5月19日(日)
・開館時間:午前9時~午後5時(入館は午後4時30分まで)
・休館日:会期中無休
・住所:〒250-0631 神奈川県足柄下郡箱根町仙石原小塚山 1285
・交通案内:https://www.polamuseum.or.jp/info/access/
・入館料(税込):大人¥1800/シニア割引(65歳以上)※1 ¥1600/大学・高校生 ¥1300/中学生以下 無料/障害者手帳をお持ちのご本人及び付添者(1名まで)※2 ¥1000
※小・中学生(無料)、大学・高校生、シニア(65歳以上)価格でのご入館の際は、必ず学生証または年齢がわかる身分証明書等のご提示が必要になります/料金はいずれも消費税込みです/ポーラ美術館は、多くの子供たちに、より身近に芸術作品に触れていただきたいと考えており、2019年8月10日より中学生以下の入場については無料としております/※1、※2は他の割引との併用はできません
※掲載日時点での情報です。詳細は、美術館からの情報をご確認ください