ビジュアルデザインの先にある、ユーザーの体験や感情まで創造する

──SaaS企業ではよく聞くようになりましたが、BXデザイナーとはどんなポジションですか。
BXは「Brand Experience(ブランド体験)」を意味します。BXデザイナーは、ブランドの価値観や魅力をビジュアライズして、ブランドに触れるすべての人に一貫した体験を届ける役割です。そして、それらの体験を通じて共感や信頼を生み、最終的にはブランドへの愛着を育むことが目的です

私が所属しているCorporate Identity推進室は、MVVC(Mission・Vision・Values・Culture)を浸透させるカルチャー部、ブランドの世界観を表現するBX部、スポーツを通じて社会にブランドらしさを届けるスポーツビジネス部の3部署で構成されていて、それぞれが異なる役割や強みを活かしてコラボレーションすることで、「マネーフォワードらしさ」を形づくっています。
また、マネーフォワードには、BtoB、BtoC、BtoBtoXの3つの事業領域があります。それぞれターゲットもサービス内容も異なりますが、根底にあるミッション「お金を前へ。人生をもっと前へ。」は同じ。Corporate Identity推進室 BX部(以下CIBX部)は、各事業部に所属するBXデザイナーやコミュニケーションデザイナーと共創し、全社として一貫したブランド体験を生み出せるように、「マネーフォワードらしさ」を横断的に繋いでいく役割も担っています。

──実際にはどのようなクリエイティブを制作しているんでしょうか。
CIBX部が手がける範囲は幅広く、コーポレートブランドに紐づく全社発信のプロジェクトや施策を推進しています。具体的には、サービスロゴ、ノベルティグッズ、イベントのアートディレクションなど、多岐に渡ります。また、誰でも簡単に「マネーフォワードらしさ」を表現できるように、ブランドガイドラインの策定や、カバーイラストやアイコンなどのデザインアセットの制作にも取り組んでいます。
カバーフォーマット
カバーフォーマット
アイコンアセット
アイコンアセット
入社前、BXデザイナーの役割は「一貫したビジュアル表現をつくること」だと思っていましたが、BXデザインにおけるビジュアルは、あくまでブランドの世界観をユーザーに体験してもらうための手段。私たちが創造するのは、ビジュアルを通じて生み出されるユーザーの「体験」なんです

昨年開催した採用イベントでは、転職活動を「旅」に例え、「人生を旅する人に寄り添う案内所」というコンセプトで企業ブースを出展しました。プロジェクトメンバーと一緒に、コンセプトに沿ったノベルティグッズを制作。さらにルーレットを回して「人生ゲーム」のようにマスを進む仕掛けを取り入れることで、一貫性のある世界観を演出しました。また、SNSでノベルティを紹介した際は、採用候補者にワクワクしてもらえるようにストップモーションアニメにも挑戦し、たくさんの反響をいただくことができました。

今では、
制作する際に「相手にどのような気持ちになってほしいか」を意識し、それを実現するための体験設計を考えるようになりました。そうすることで、より多くの人の心に響くアウトプットが生み出せるようになったと感じています。
イベントブース「旅する人に寄り添う案内所」実際の様子
イベントブース「旅する人に寄り添う案内所」実際の様子
高木さんが制作したストップモーションアニメ。「旅」を連想させる搭乗券やキャリーバッグをモチーフにした、ノベルティセットを紹介している
高木さんが制作したストップモーションアニメ。「旅」を連想させる搭乗券やキャリーバッグをモチーフにした、ノベルティセットを紹介している
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「自分の世界観の表現」から「誰かの困りごとの解決」に

──高木さんは桑沢デザイン研究所のご出身と伺いました。そもそもデザイナーを志したきっかけはなんだったのでしょうか。
高校時代、美術の先生がアーティストやデザイナーをたくさん紹介してくれたことがありました。なかでも、デザイナーの駒形克己さんが手がけた仕掛け絵本は、ページを捲るたびに物語の風景が頭の中に広がっていくようで、心を動かされました。私は子どもの頃から言葉での表現が苦手で、その代わりに絵やモノに気持ちを込めて伝えることが自然なコミュニケーション手段だったんです。自分がつくったものを通じて人に共感してもらったり、喜んでもらったりすることに魅力を感じ、だんだんとデザインの世界に没頭していきました

その後、桑沢デザイン研究所へ入学し、ビジュアルデザインを中心にプロダクト、スペースなど複数の領域を学び、ゼミでは広告デザインを専攻。「デザインには世の中に新しい価値や視点を提案する力がある」と、実感できた3年間でした。また、教員であり、立体造形家の森井ユカ先生にも大きな影響を受けました。自分らしさを詰め込んだ世界観を表現される方で、その作品に魅了されました。就活の際はポートフォリオにアドバイスももらったほどです。

──では就活でも、広告制作などのクライアントワークよりは、自分の世界観を表現するような作品をつくるデザイナーを志望したのですか?
はい、最初は、憧れを抱いていたデザイナーの個人事務所を志望していました。ただ、そもそも採用枠がほぼないうえ、実績のあまりない学生にはハードルが高くて……。ゼミでの学びを活かせる広告業界へと志望を切り替え、2016年に広告制作会社に入社しました。小学館、DHC、UCC上島珈琲などの大手クライアントの案件で、新聞広告、交通広告、パッケージ、Webサイト、キャラクターなどのデザインを担当しました。自分が手掛けたポスターが、渋谷駅に大きく掲出されたときの世に出るワクワク感や喜びは今でも忘れられません

スキルや制作スピードはどんどんと上がっていきましたが、次第に長期間でじっくりと制作に向き合える環境で、デザイナーとして手がける領域を広げたいと思うようになりました。その後、2018年にBtoC商材を扱う事業会社へ入社しました。しかし、BtoC商材に惹かれて入社を決めたものの、ちょうど入社時期に新規サービスが立ち上がることになり、WebマーケティングやコンサルティングのBtoBサービスを扱う、新規事業部に配属されることに。しかもデザイナーは私ひとりと聞いて、1社目とは大きく異なる環境に、最初は不安もありました。
──現職につながるように思えるBtoBサービスのご経験ですが、最初は偶然だったんですね。広告のデザインとはどのような違いがありましたか。
マーケターやエンジニア、セールスと連携しながら、サービスに関連する制作物に携わりました。具体的には、Webサイト、広告バナー、営業ツール、SNS動画など、さまざまです。

サービスのデザインを経験してみて良かったことは、ユーザーとの距離がとても近くなったこと。制作会社では、クライアントの顔やユーザーの反応が見えない中で制作することが当たり前でしたが、ここでは直接フィードバックをもらえたり、制作物の改善後にはCV率がぐっと上がるのを目にできたり。ユーザーとのつながりを感じる場面が増えて、やりがいもありました。

広告制作では、クライアントやユーザーの課題や目的にはあまり目を向けず、見た目の美しさやインパクトを重視しがちになっていました。ただ、ビジネスサービスのデザインに携わったことで、必ずユーザーの課題があって、それを解決するためにデザインという手段があると、実感できたんです。デザインへの価値観も、ユーザーの課題解決を重視するように変わっていきました。

──その後、マネーフォワードへ入社するまでにどのような経緯があったのですか。
もともとビジュアル表現が好きで、広告業界でのアウトプットの華やかさや、より良いクリエイティブをミリ単位で追求していくことにはとても魅力を感じていました。しかし、Webサービスに携わってからは公開までのスピードが求められ、常に50~60%の完成度でテストし、改善を繰り返す日々。こうしたアプローチから新たな学びも得た一方で、これまで大切にしてきた姿勢とは異なる環境に少しつらさを感じるようになっていました。

さらに、以前はアートディレクターやマーケターの指示に従って手を動かす立場に徹していたのですが、もっと上流から関わり、より広い視野で仕事に取り組みたいという思いが強くなりました。その後、コロナ禍がきっかけで自分のキャリアを見つめ直し、再び転職を決意しました。

転職先を考える際に軸にしたのは「ひとつのサービスやブランドに深く関われること」と「提供サービスやビジュアルが生み出す世界観に共感できるか」でした。もう一度制作会社に戻る選択肢もありましたが、サービスを育てていく感覚に強く魅力を感じていましたし、自分の感性に合った世界観を持つ事業会社であれば、その企業の価値観にも共感できるだろうと思いました。そこで、マスメディアンに登録して、事業会社のインハウスデザイナー求人を見せてもらったのが、マネーフォワードとの出会いでした。

マネーフォワードが生み出しているものからは、「人の温かさ」や「前向きなマインド」を強く感じ、それが私の価値観とも一致しました。さらに決め手となったのは、BtoC向けスマホアプリの開発に関する記事です。単に機能性を上げていくという内容ではなく、ユーザーに貯金の楽しさや手軽さを体験してもらうためのインタラクションにこだわっている点が印象的でした。

デザイナーが全社的に信頼されている環境で、上流工程からモノづくりができる。そんなマネーフォワードに惹かれて、入社を決めました。
──マネーフォワードへ入社した高木さんを待っていたのは、想像以上に多様なアウトプットと、魅力的なカルチャーでした。後編では、手のかけ方がすごすぎる社内イベント向けのクリエイティブや、BXチームのメンバー、お仕事のやりがいなどに迫っていきます。

この記事は前後編です:後編はこちら
「ブランドとSaaSには完成が『ない』、だからBXデザインは面白い」
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