左:ヤフー MS統括本部マーケティング本部長 井上大輔さん。ヤフー、ニュージーランド航空、ユニリーバ、アウディジャパンを経て、2019年2月より現職に。長年、デジタル領域のマーケティングを牽引してきた。<br />
右:ワンメディア 代表取締役 明石ガクトさん。動画クリエイターのためのメディアカンパニー・ワンメディアを創業。著書『動画2.0 VISUAL STORYTELLING』を発刊し、独自の動画論を展開。
左:ヤフー MS統括本部マーケティング本部長 井上大輔さん。ヤフー、ニュージーランド航空、ユニリーバ、アウディジャパンを経て、2019年2月より現職に。長年、デジタル領域のマーケティングを牽引してきた。
右:ワンメディア 代表取締役 明石ガクトさん。動画クリエイターのためのメディアカンパニー・ワンメディアを創業。著書『動画2.0 VISUAL STORYTELLING』を発刊し、独自の動画論を展開。
──お二人がそれぞれサウナにハマったきっかけは何だったのでしょう?
明石:僕がサウナにハマったのは、2015年ですね。その当時、会社があまりうまくいっていなくて、精神の平穏を保つために気持ちが晴れるような楽しいことはないか、社員に聞いたんです。それで、サウナを教えてもらいました。すぐにサウナ界のバイブルであるマンガ『サ道』を買って読んでみると、巻末付録に全国のおすすめサウナ一覧が載っていて、そこで目に留まったのが静岡の「しきじ」でした。しきじは僕の実家から徒歩10分ぐらいの距離で「そんなに有名だったの?」と驚いたのを覚えています。それでサウナを教えてくれた社員が「これは運命ですよ」とそそのかされまして(笑)。帰省ついでにしきじへ行ってみました。

サウナ―の間では、サウナに目覚めた施設を「産湯」と呼ぶのですが、僕の産湯はしきじですね。初めてのサウナでしたが、水風呂がプールの塩素消毒とは全然違ってやわらかくて、衝撃的でした。もうデビュー戦からととのいましたよ。東京に帰ったあとも、仕事関係の人たちを誘ってサウナに行くようになり、そのときのつながりが今の仕事にもなっています。僕の人生を変えてくれたのはサウナだったし、しきじだったと改めて振り返ると感じます。

井上:僕はスカイスパYOKOHAMAができた1996年くらいですね。当時まだ大学生でした。水風呂に入ると周りの音が変わってハウスミュージックを聴いたときのようなトランス状態になることができると気づいたんです。それで友人たちとクラブで遊んだ後のトランス不足のときにサウナに通っていました。追いトランスですね(笑)

──確かに「ととのう」と知覚・聴覚が変容しますよね。ちなみに明石さんに取材依頼をしたら、ぜひ井上さんと対談したいと逆提案をいただきました。お二人の出会いについて聞かせてください。
明石:井上さんがアウディのマーケターとして活躍されていらっしゃるときに、僕はまだ名もないスタートアップの起業家でした。どうしたら井上さんと話ができるだろうと思案していたときに、井上さんがサウナ好きなのは業界では有名だったので、サウナをフックに話しかけようと思いました。カンファレンスで井上さんをお見かけして、しきじの話をきっかけに井上さんとファーストコンタクトをとりました。そのときはサウナの話ばかりで、結局仕事の話はできなかったんですけど(笑)。

井上:そのときに明石さんから、しきじのタオルを買えるって教えていただいたんです。サウナ好きのヤフーの元同期にその話をしたら、すごくびっくりしていて。しきじのタオルは印籠みたいなもんですからね。
──お二人の出会いのきっかけは、サウナだったのですね! それから一緒にサウナに行ったりされていたのですか?
明石:
最初の出会いから、特に一緒にサウナに行くわけでも仕事をするわけでもなく、2年くらい時が流れましたね……。

井上:イベントではたびたびお会いしていましたけどね。

明石:井上さんがアウディからヤフーに戻られるタイミングで「一緒に仕事をしませんか?」と井上さんから連絡をいただきました。その流れで、これはサウナで集合しましょう、ということになりました。井上さんも僕も部下をひとりずつ連れて、新橋のアスティルのサウナ室で落ち合いました。部下は、それぞれ初対面でした。

井上:それがちょうど3カ月前くらいの話ですね。

サウナミーティングは有効か?

──そのときのサウナミーティングはどのような感じだったのでしょうか?
明石:ミーティングはすごくシャープでした。まずサウナ室でどういうことがしたいのかを井上さんからブリーフィングされて、水風呂で詰めて、外気浴中は誰もしゃべらない。そして、またサウナ室に戻ってディスカッションをして……これを3セット繰り返しました。サウナ中には商品アイデアはまとまって、サウナから出てレストランで打ち上げをしちゃおうという流れになりました。

井上:革命的な広告商品ができましたね。さらにガクトさんが打ち上げの乾杯前に商品のネーミングまで閃いてしまって(笑)。

──すでにリリースされていますが、改めてその広告商品について教えてください。
井上:
それが「Yahoo! JAPANじぶんCM」です。なるべくじぶんの好きなタレントやインフルエンサーがでている広告を見ることができるように、データを使って広告をつくり分け、配信し分けるというものです。
井上:僕は、かねてから広告を好かれものにしたいと思っていました。僕が子どもの頃は、CMを歌ったり真似したりと、みんなCMが好きだったと思うんです。技術が発達してインターネットやデータを使ったら、広告はもっと面白くなるはずだった。なのに、いまでは広告を非表示にさせるアドブロッカーが人気になるほどで、広告は嫌われものになっています。それで「テクノロジーを駆使して広告を面白くしたい」と、サウナミーティングでガクトさんにお話しました。

そうしたら、明石さんの洞察がまた鋭くて。結局、面白いものは「人」。人が興味を持つのは人だと。でも、現代では視聴者がそれぞれ面白いと思う人、好きな人が多様化してしまった。そうだとしたら、個別に好きな人を的確に当ててあげれば、CMは面白くなるんじゃないか。このような流れで話がどんどんまとまっていきました。この間、わずか1時間半くらいじゃないかな?

明石:1時間半にぎゅっと凝縮されていたのがよかったですね。普通だったら、会議室に集まって複数回に分けてミーティングを重ねて、長い期間をかけて進めますよね。そうだとすると「じぶんCM」も1カ月間くらいかかっていたかもしれない……。

井上:しかも、打ち上げまで当日にできちゃう(笑)。明石さんとのこのミーティングはサウナ室に集合で、最初から服を着てない状態でお会いしたので一瞬で打ち解けるし、アイスブレイクも不要でした。あとは、苦難を一緒に乗り越える、みたいな一体感があるのがいいですよね。ただでさえ熱い中、ミーティングもするので、一緒に苦労して達成した感じがすごくよかったです。

──ほかに、サウナミーティングのいいところはありますか?
明石:あとはやっぱり沈黙の時間がすごくいいと思います。普段の会議室でのミーティングは、みんなが黙ってしまうとちょっと気まずいですよね。僕なんかは、会話をつなげようと、とりあえず話をするんですけど、そうするとつなげることに気を取られて、思考が深くならないんですよ。サウナミーティングでは、サウナで話をして水風呂でシャープにして、外気浴では誰も何もしゃべらない。あのしゃべらない数分間で、自身の思考を整理したり深めたりできます。普段のミーティングでいう“一旦持ち帰ります”が外気浴ですね。この一連のサイクルが高速で進む。それがサウナミーティングのいいところだと思います。

井上:あとは、さまざまな刺激を受けられることがサウナの良さだと思います。会議室だと、話している人間の声を聞く聴覚的な刺激と、資料を見る視覚的な刺激しかありません。サウナではアウフグースのアロマや、熱さ、冷たさなど五感を刺激されますよね。ミーティング中に物理的な冷たさって普通絶対感じないですよね。大きな音で目が醒める、みたいな、脳活性化のトリガーがたくさんある感じというか。

“閃く”よりも“整える”

──そういう意味ではサウナはミーティングに適した場所ということですかね。お二人にとって閃きやすいお気に入りのサウナはありますか?
井上:
シングル(編集部注、9℃以下の水風呂をサウナーはシングルと言う)で有名なユーランド鶴見もいいですが、ユーランド緑が最近のお気に入りです。足を伸ばせる広いサウナ室と、木々に囲まれた外気浴スペースが最高にととのえてくれます。

明石:名古屋にあるウェルビー栄が最高ですね。“死にサウナ”がないというか、いろんなサウナがあるのに無駄なサウナがないんです。組み合わせも楽しめるし、サウナごとの環境の変化によって、自分のいろんなスイッチに引っかかる感じがすごくいいです。

僕はサウナで閃くというよりも、サウナによって思考が整理されて、部下からの判断を迫られるメールの返信がめちゃくちゃ速くなります。サウナに入っていた1時間のビハインドを簡単に取り戻せるくらい、サウナのあとは聖徳太子のように社員からの連絡を一気にばばばばっと捌いています(笑)
井上:僕もサウナでは、閃くというより、思考を深める感じに近いですね。アイデアがポンっと出るというより、すでにあるアイデアをまとめるという感覚です。それこそ「ととのえる」感じですね。サウナではいい意味で頭の回転が鈍るので、余計なことを考えずに、本質的なところだけで思考できるような、没入できるような、そんな感覚があります。タイムプレッシャーってあるじゃないですか。締め切りが逆に人の創造性を高めてくれる、という考え。広告のフォーマットもそうですが、制約が人をよりクリエイティブにする感じがサウナにもあるように思えます。
──いろんなものが削ぎ落とされたり、あるいは水の音や風、庭の緑、肌に感じる温度など、あらゆる刺激を受けたりすることで、人間的な思考や感覚を取り戻すことができるのですね。
明石:
そうかもしれませんね。僕はサウナではテレビなし派なんです。それにサウナに入る分数も決めていません。それは、デジタルな情報に邪魔されずに自分と向き合いたいから。仕事上、普段からデジタルな情報に触れている時間がものすごく多いので、サウナに入るときは感覚の世界に振り切っています。

僕たちは普段、論理の世界に生きています。その論理の世界では文法に基づいた情報が正しい。そういった情報を受け取ることが多くなる一方で、感覚の世界がおろそかになっている気がします。そういう点では、サウナは論理的には意味のない世界なんです。サウナでは、風を感じたり風鈴の音を聴いたり、自分の中の「感覚」を取り戻せるので、論理的ではないが良いアイデアが生まれるのだと思います。
──「サウナはデジタルデトックス」という言葉をよく耳にしますが、お二人のお話をお聞きして、その本質に触れることができました。今後も、サウナミーティングからどんな商品が生まれるのか楽しみです。本日はありがとうございました!

<撮影>池ノ谷侑花(ゆかい)
<取材協力>ZEN VAGUE
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