クリエイティブで、会社のステージを上げる。インハウスだからこそできるチャレンジングな姿勢 Sansan CBO/クリエイティブディレクター 田邉泰さん
クラウド名刺管理サービスで成長を続けてきたSansan。「それさぁ、早く言ってよ~」の印象的なフレーズで、シリーズ化されたテレビCMを思い浮かべる方も多いのではないでしょうか。会社の「顔」ともいえる名CMを生み出した背景には、企業の価値観やミッションの先を見据えたビジョンの解像度を上げようとする経営陣の姿勢がありました。現在、Sansanのブランディングを統括するChief Brand Officer(CBO)の田邉泰(たなべやすし)さんは、そういったビジョンの社内外への浸透を進めます。クリエイターのキャリアの到達点の一つであるCBOについて、また理想の “インハウスクリエイティブ”についてお聞きしました。
──2014年にSansanに入社し、CBOに就任されるまでの経緯を伺っていきたいです。
2014年にクリエイティブディレクターとして入社し、2016年には広報部から改名したブランドコミュニケーション部の部門長に就きました。その後2018年末にCBOへ就任といった流れです。
入社してからいままで、Sansanの存在意義や信念を伝えていくため、クリエイティブを通したさまざまな活動を行ってきました。築地本願寺で初開催し、現在は神田明神で開催している「Sansan名刺納め祭」や名刺アプリEightのプロモーション動画「Eight: Business Cards」なども含まれます。
──さまざまなブランディング施策を行ってきたのですね。これは田邉さんが中心となって起案したのでしょうか?
僕が入社するまでは、ブランディングを専門とするポジションの者がおらず、社長の寺田自らがブランディングを指揮していました。入社後はSansanをどのようにブランディングしていくかについて、寺田と毎日のように議論を重ねてきました。その後、事業フェーズの推移とともに、寺田の社長としての業務が広がり、ブランディングについて寺田以外の人間がより大きな責任と裁量をもって統括していくことが求められるようになった。そのタイミングで、僕がCBOになりました。
──もともと寺田社長はブランディングの役割に期待していたんですね。
寺田は「クリエイティブの持つ力」を信じていて、ブランディングを中長期的に進めていこうとする価値観を持っていました。僕が入社する前の面接時に寺田をはじめとする経営陣と話すなかで強く感じたのは自分たちが掲げているミッションにかける「想い」を大切にしているということです。僕が入社する前年の2013年からテレビCMの出稿を開始していますが、これも「想い」の表れだと思います。
寺田自らクリエイティブエージェンシーのTUGBOATに制作依頼をしたそうです。広告業界のコネクションがないなか、TUGBOATの連絡先を手に入れるのも大変だったと思いますが、会社のブランディングを熟考した上で「TUGBOATにCMをつくって欲しい」という気持ちがあったのでしょう。
抽象的な言葉となってしまいますが、自分が取り組まなければならないのは「会社のステージを上げること」だと感じていました。当時、寺田をはじめとした経営陣は、会社に対して「なにか足りない」と漠然と思っていた。そこで、寺田だけでなく、現場との対話を重ねるなかで、ブランディングに力を入れていこうと決めました。
ブランディングに力を入れるというのは、大枠だけでなく、細部も含みます。採用サイトやコーポレートサイトなどのわかりやすい部分はもちろん、来社されたお客さまへお出しするお水をどうするかなど、細かな部分にも取り組みました。
だからすべての社員が、そのミッションの先にある、もっと大きくて、もっと先まであるビジョンを見通せるようにしようと考えました。ビジョンの前にある霧を晴らすようなイメージです。Sansanという会社が描いているビジョンの解像度を上げていきたいと考えました。そのため、ビジョンと現場の認識の間に、中継点を示し、会社の目指すものをわかりやすく伝えることに努めました。
──“中継点”とは、具体的にはどのようなものでしょう?
例えば、当社はもともと、取引先を訪問する際の「手土産」を大事にしている社風でした。もちろん、手土産を持っていかなくてはならないとか、無理強いしているわけではなく、自然発生的に「手土産」文化があったのです。当社は、「出会い」というものをなにより大切にしているので、出会う人へのおもてなしの精神みたいなものが根付いているのでしょうね。
そこで、ノベルティとして出会う人にお渡しするためのバームクーヘンをつくりました。そのバームクーヘンは、四角い形をしていまして(笑)。つまり、名刺が積み重なっているイメージをかたどったものなんです。Sansanのサービスには「素晴らしい出会いが積み重なってほしい」という思想があります。バームクーヘンは、自分たちの事業と社員の意識をつなぐものです。「新しい出会いが生まれてほしい」というホスピタリティの具現化であり、名刺管理サービスによって生まれる未来の具現化でした。
ミッションへの共感があっても、その先にあるのが遠くて見通しにくいビジョンだけだったら、置いてけぼりになってしまう社員が出てきてしまうかもしれません。そのため、日々の業務を通して、会社のDNAが入っていくことが必要だと考えています。自分たちの会社がなにに価値を感じていて、なにを大事にしているのか。バームクーヘンも、会社が大切にしたい文化を社員に伝えるための取り組みのひとつです。
──日々の業務の中で会社のDNAが入る仕組みとして、メンバーの成長促進・組織力強化・企業文化の形成を目指すSansanの社内横断型プロジェクト「Juice」も生まれたのでしょうか?
はい。当社は、世にアウトプットするクリエイティブのほとんどをインハウスで手がけています。現在、全社で600名近いメンバーがいますが、そのなかでクリエイターに関していうと、およそ40名が在籍しています。この規模で、いわゆるベンチャーと呼ばれる会社では異例の比率だと思います。人数が増えれば増えるほど、コミュニケーションが希薄になってしまいがち。そして、大人は「仲良くなれ」といわれたからといって、仲良くなれるものではないですよね(笑)。だからこその横断型プロジェクトだといえます。
Juiceでは、社内の課題をクリエイティブで解決するようなプロジェクトを自分たちで立ち上げて、週に3時間を目安に業務時間を使ってそのプロジェクトに取り組むことを認めています。例えば、社員証とスマートフォンを一緒に携帯できるオリジナルのミニバックがあればみんな便利だからつくってみようとか。クリエイターは、なにか一緒にものをつくり出すことで仲良くなることができます。文化祭的な感覚ですかね。文化祭の準備を通して、親しくなかった人とコミュニケーションできたり、知らなかった一面が見えたりしますよね。通常業務の範囲を超えて、自由な発想で一緒にものづくりをする過程で、濃密なコミュニケーションが生まれると思います。
広告業界にいた頃から、課題の本質と向き合おうとしてきました。どうしたら課題を解決できるか、クライアントと一緒に考えていく視点を大切することで、経営目線や全社的に考えられる資質を得たことが大きかったと思います。課題解決することが好きなんです。
インハウスクリエイティブというものは、場合によっては、経営者よりも先にやるべきことに気づくことができます。自分の判断で、ブランディングやクリエイティブを主導することができるんです。課題解決のために、先んじて動くことができるかというのが、インハウスとアウトソースの大きな違いだと思います。 ──11月4日から始まった新CMも、インハウスだからこそ実現できたものになりますか?
そうですね。TUGBOATとタッグを組んだCMも今回で7本目となります。1年に1本のペースでCMをつくり、シリーズ化してきました。このテレビCMは、Sansanを印象付ける重要なクリエイティブであり、すでにブランドの資産となっています。一方で、シリーズものはマンネリ化する懸念もありました。
そこで、新しいチャレンジとして15秒CMへ取り組むことにしました。SansanのCMは30秒だからこそ効果のあるものだったと思います。だからこそ、その壁を超えていきたいと考えています。
30秒の予算を15秒へどう転化できるかだけでなく、15秒でも戦えるようにしていく必要があります。これまでも、テレビCM以外にトレインチャンネルやタクシー広告でも展開を行ってきましたが、15秒CMへ取り組むことで、さらに制限のあるチャネルを利用することも可能になります。この先、デジタルの進化によって、そのほかの媒体が生まれてくる可能性もある。フレキシブルに対応していくためにも、いくつかの弾を持っておくことは重要です。
今回、15秒CMではCM制作現場のメイキングを流しています。テレビでメイキングを流して、本編をWebで流すという手法なんです。これは、SansanのCMのアセットが、すでに世間に共有されていることを逆手に取った発想です。まさに、インハウスだからこそできる取り組みだと思います。
もちろん、TUGBOATを信じての企画でもあります。このように「CMを30秒から15秒にしたい」といった“お題”を、企業発信で投げられることこそ、インハウスの強みです。
インハウスクリエイティブは、誰も挑戦していない領域にトライすることができる。今後も、身を引き締めて責任を持った仕事をしていきたいと思います。
──インハウスだからこそチャレンジングな取り組みをすることができる一面もありますよね。今後も、インハウスの強みを最大限に活かした、Sansanならではの独自性のあるコミュニケーションを期待しています。貴重なお話をありがとうございました。
2014年にクリエイティブディレクターとして入社し、2016年には広報部から改名したブランドコミュニケーション部の部門長に就きました。その後2018年末にCBOへ就任といった流れです。
入社してからいままで、Sansanの存在意義や信念を伝えていくため、クリエイティブを通したさまざまな活動を行ってきました。築地本願寺で初開催し、現在は神田明神で開催している「Sansan名刺納め祭」や名刺アプリEightのプロモーション動画「Eight: Business Cards」なども含まれます。
僕が入社するまでは、ブランディングを専門とするポジションの者がおらず、社長の寺田自らがブランディングを指揮していました。入社後はSansanをどのようにブランディングしていくかについて、寺田と毎日のように議論を重ねてきました。その後、事業フェーズの推移とともに、寺田の社長としての業務が広がり、ブランディングについて寺田以外の人間がより大きな責任と裁量をもって統括していくことが求められるようになった。そのタイミングで、僕がCBOになりました。
──もともと寺田社長はブランディングの役割に期待していたんですね。
寺田は「クリエイティブの持つ力」を信じていて、ブランディングを中長期的に進めていこうとする価値観を持っていました。僕が入社する前の面接時に寺田をはじめとする経営陣と話すなかで強く感じたのは自分たちが掲げているミッションにかける「想い」を大切にしているということです。僕が入社する前年の2013年からテレビCMの出稿を開始していますが、これも「想い」の表れだと思います。
寺田自らクリエイティブエージェンシーのTUGBOATに制作依頼をしたそうです。広告業界のコネクションがないなか、TUGBOATの連絡先を手に入れるのも大変だったと思いますが、会社のブランディングを熟考した上で「TUGBOATにCMをつくって欲しい」という気持ちがあったのでしょう。
ステージを上げる、解像度を上げる
──寺田社長から田邉さんに対する期待はなんだったと感じていますか?抽象的な言葉となってしまいますが、自分が取り組まなければならないのは「会社のステージを上げること」だと感じていました。当時、寺田をはじめとした経営陣は、会社に対して「なにか足りない」と漠然と思っていた。そこで、寺田だけでなく、現場との対話を重ねるなかで、ブランディングに力を入れていこうと決めました。
ブランディングに力を入れるというのは、大枠だけでなく、細部も含みます。採用サイトやコーポレートサイトなどのわかりやすい部分はもちろん、来社されたお客さまへお出しするお水をどうするかなど、細かな部分にも取り組みました。
こうした取り組みは、会社の価値観を現場の社員に正しく伝えていくことにつながります。Sansanは、「出会いからイノベーションを生み出す」という企業ミッションを掲げて、全員が同じ目的に向かって業務にあたっている、いわばプロジェクトのような組織です。そもそも「ミッションへの共感」が根底にあるので、経営層と現場の認識の間に、大きな乖離があったわけではありません。しかし、とても大きなミッションを掲げているにも関わらず、その大きさが見えていないという感覚がありました。
だからすべての社員が、そのミッションの先にある、もっと大きくて、もっと先まであるビジョンを見通せるようにしようと考えました。ビジョンの前にある霧を晴らすようなイメージです。Sansanという会社が描いているビジョンの解像度を上げていきたいと考えました。そのため、ビジョンと現場の認識の間に、中継点を示し、会社の目指すものをわかりやすく伝えることに努めました。
──“中継点”とは、具体的にはどのようなものでしょう?
例えば、当社はもともと、取引先を訪問する際の「手土産」を大事にしている社風でした。もちろん、手土産を持っていかなくてはならないとか、無理強いしているわけではなく、自然発生的に「手土産」文化があったのです。当社は、「出会い」というものをなにより大切にしているので、出会う人へのおもてなしの精神みたいなものが根付いているのでしょうね。
そこで、ノベルティとして出会う人にお渡しするためのバームクーヘンをつくりました。そのバームクーヘンは、四角い形をしていまして(笑)。つまり、名刺が積み重なっているイメージをかたどったものなんです。Sansanのサービスには「素晴らしい出会いが積み重なってほしい」という思想があります。バームクーヘンは、自分たちの事業と社員の意識をつなぐものです。「新しい出会いが生まれてほしい」というホスピタリティの具現化であり、名刺管理サービスによって生まれる未来の具現化でした。
ミッションへの共感があっても、その先にあるのが遠くて見通しにくいビジョンだけだったら、置いてけぼりになってしまう社員が出てきてしまうかもしれません。そのため、日々の業務を通して、会社のDNAが入っていくことが必要だと考えています。自分たちの会社がなにに価値を感じていて、なにを大事にしているのか。バームクーヘンも、会社が大切にしたい文化を社員に伝えるための取り組みのひとつです。
──日々の業務の中で会社のDNAが入る仕組みとして、メンバーの成長促進・組織力強化・企業文化の形成を目指すSansanの社内横断型プロジェクト「Juice」も生まれたのでしょうか?
はい。当社は、世にアウトプットするクリエイティブのほとんどをインハウスで手がけています。現在、全社で600名近いメンバーがいますが、そのなかでクリエイターに関していうと、およそ40名が在籍しています。この規模で、いわゆるベンチャーと呼ばれる会社では異例の比率だと思います。人数が増えれば増えるほど、コミュニケーションが希薄になってしまいがち。そして、大人は「仲良くなれ」といわれたからといって、仲良くなれるものではないですよね(笑)。だからこその横断型プロジェクトだといえます。
Juiceでは、社内の課題をクリエイティブで解決するようなプロジェクトを自分たちで立ち上げて、週に3時間を目安に業務時間を使ってそのプロジェクトに取り組むことを認めています。例えば、社員証とスマートフォンを一緒に携帯できるオリジナルのミニバックがあればみんな便利だからつくってみようとか。クリエイターは、なにか一緒にものをつくり出すことで仲良くなることができます。文化祭的な感覚ですかね。文化祭の準備を通して、親しくなかった人とコミュニケーションできたり、知らなかった一面が見えたりしますよね。通常業務の範囲を超えて、自由な発想で一緒にものづくりをする過程で、濃密なコミュニケーションが生まれると思います。
インハウスクリエイティブだからこそ
──クリエイターのキャリアアップの先にあるCBOを目指す人へ向けて、参考として伺いたいのですが、CBOとして創業者の思想をくみ取ることができたのはなぜなのでしょう?広告業界にいた頃から、課題の本質と向き合おうとしてきました。どうしたら課題を解決できるか、クライアントと一緒に考えていく視点を大切することで、経営目線や全社的に考えられる資質を得たことが大きかったと思います。課題解決することが好きなんです。
インハウスクリエイティブというものは、場合によっては、経営者よりも先にやるべきことに気づくことができます。自分の判断で、ブランディングやクリエイティブを主導することができるんです。課題解決のために、先んじて動くことができるかというのが、インハウスとアウトソースの大きな違いだと思います。 ──11月4日から始まった新CMも、インハウスだからこそ実現できたものになりますか?
そうですね。TUGBOATとタッグを組んだCMも今回で7本目となります。1年に1本のペースでCMをつくり、シリーズ化してきました。このテレビCMは、Sansanを印象付ける重要なクリエイティブであり、すでにブランドの資産となっています。一方で、シリーズものはマンネリ化する懸念もありました。
そこで、新しいチャレンジとして15秒CMへ取り組むことにしました。SansanのCMは30秒だからこそ効果のあるものだったと思います。だからこそ、その壁を超えていきたいと考えています。
30秒の予算を15秒へどう転化できるかだけでなく、15秒でも戦えるようにしていく必要があります。これまでも、テレビCM以外にトレインチャンネルやタクシー広告でも展開を行ってきましたが、15秒CMへ取り組むことで、さらに制限のあるチャネルを利用することも可能になります。この先、デジタルの進化によって、そのほかの媒体が生まれてくる可能性もある。フレキシブルに対応していくためにも、いくつかの弾を持っておくことは重要です。
今回、15秒CMではCM制作現場のメイキングを流しています。テレビでメイキングを流して、本編をWebで流すという手法なんです。これは、SansanのCMのアセットが、すでに世間に共有されていることを逆手に取った発想です。まさに、インハウスだからこそできる取り組みだと思います。
もちろん、TUGBOATを信じての企画でもあります。このように「CMを30秒から15秒にしたい」といった“お題”を、企業発信で投げられることこそ、インハウスの強みです。
インハウスクリエイティブは、誰も挑戦していない領域にトライすることができる。今後も、身を引き締めて責任を持った仕事をしていきたいと思います。