「絶メシ」の生みの親がTVドラマプロデューサーをやって見えた、クリエイティブディレクターのその先 博報堂ケトル クリエイティブディレクター/プロデューサー 畑中翔太さん
群馬県高崎市のローカル特化型グルメサイトとして誕生した「絶メシリスト(以下、絶メシ)」。公開されるとたちまち話題となり、数々の広告賞を受賞。さらにテレビドラマ化も発表され、2020年1月24日より『絶メシロード』(テレビ東京系)として放映をスタートします。
今回は「絶メシ」の生みの親である博報堂ケトルのクリエイティブディレクター 畑中翔太(はたなかしょうた)さんにインタビューを行いました。今回のドラマ化に際し、畑中さん自身もプロデューサーとして制作へ参加。クリエイティブディレクターとしては異色のドラマのプロデュースも務めました。「絶メシ」がいかにしてドラマ化までの道のりたどったのか、そしてドラマのプロデューサーを経験し見えたという、この先クリエイティブディレクターが目指すべき姿についてお話いただきました。
今回は「絶メシ」の生みの親である博報堂ケトルのクリエイティブディレクター 畑中翔太(はたなかしょうた)さんにインタビューを行いました。今回のドラマ化に際し、畑中さん自身もプロデューサーとして制作へ参加。クリエイティブディレクターとしては異色のドラマのプロデュースも務めました。「絶メシ」がいかにしてドラマ化までの道のりたどったのか、そしてドラマのプロデューサーを経験し見えたという、この先クリエイティブディレクターが目指すべき姿についてお話いただきました。
「絶メシ」から『絶メシロード』へ。ドラマ誕生秘話
──畑中さんがクリエイティブディレクターとして企画した「絶メシ」。「絶やすには惜しすぎる絶品グルメ」のことを指しており、群馬県高崎市をきっかけに多くの反響を呼んでいますよね。カンヌライオンズ2019でも銅賞を獲得したとお聞きしました。正直受賞できるとは考えていませんでした。「絶メシ」という名称は語呂遊びから生まれた言葉であるため、海外では評価されにくいと言われていたんです。でもこの企画の真意にあるのは、「失くなってしまうものを人は惜しむ」という概念。これ自体は海外でも通ずる部分がきっとある。そう思い、絶滅危惧種生物を指す「Red List」という言葉から引用した、「Red Restaurants List」を「絶メシ」の英訳としてカンヌに出しました。「絶メシ」の根底にある真意にいま一度立ち返り、企画を練り直したことが海外でも「絶メシ」という企画を受け入れていただいた結果になったんだと思います。 ──海外にまで受け入れられた「絶メシ」ですが、2020年1月からは『絶メシロード』として連続ドラマにもなるのですよね。これはどのようなドラマになるのでしょうか?
普通のサラリーマンが週末に、車中泊をしながら日本各地の絶メシを求め、旅をする小さな大冒険を描いたドラマになっています。絶メシを求め旅する、しがない中年サラリーマンを演じるのは、映画『カメラを止めるな!』で主演を努めた濱津隆之さん。その妻を酒井若菜さんが演じており、旅先で出会うベテラン車中泊マスターを山本耕史さんが演じています。ドラマを見た方たちも、車中泊や知らない街のお店に行きたくなるような「地域創生ドラマ」となっています。
おっしゃるとおり、大変ありがたいことに「絶メシ」はテレビ番組やネットニュースで多く取り上げられました。しかし、多くのメディアで露出できても知っていただける方たちには限界があり、PRだけでは到達できない領域があると実感したんです。広告会社に長く勤めていた影響で、「メディアに取り上げてもらう」という関係に疑問を持たなかったのですが、そうではなく「メディアで流す側」に回ることはできないかと考えはじめました。
「絶メシ」が持つ「グルメ」や「哀愁感」といった要素を思い浮かべたときに私のなかで浮かんできたのがテレビドラマ『孤独のグルメ』(テレビ東京系)でした。また同時期に、Y!mobileの『恋のはじまりは放課後のチャイムから/720 HOURS UF YOUTH』や『パラレルスクールDAYS』といったWebドラマの制作に携わっていたこともあり、コンテンツ制作への興味と知見が深まっているタイミングでもありました。そのような経緯で、テレビ東京へテレビドラマの企画を持ち込むことにしたのです。
──テレビドラマ『孤独のグルメ』から着想を得ていたのですね。しかし、同じグルメジャンルで類似した企画となると、テレビ局もその企画を受け入れないと思います。どのような点で差別化を図ったのでしょうか?
この企画をテレビ東京に持ち込んだときの反応がまさにそれで、『孤独のグルメ』とテーマが近く感じるかもしれないということが「絶メシ」のウィークポイントでした。そのなかで、考え出したのが「車中泊」というキーワードでした。その当時、私がたまたま車中泊をするYouTuberにハマっていて、そこから感じた哀愁がどことなく「絶メシ」に通ずる部分があると思ったんです。それに「車中泊」はいま、一つのカルチャーとしてブームになりつつもあります。こうして、地域創生につながる「絶メシ」と「車中泊」を掛け合わせた、『絶メシロード』という形に落ち着きました。 ──過去にWebドラマを手がけていますが、テレビドラマの制作では違いなど感じましたか?
Webドラマの制作経験を活かせる部分は多々あったため、今回のテレビドラマ制作にも不安はありませんでした。しかし、テレビというメディア特有の文化やスピード感に対応するのには苦労しましたね。今回の『絶メシロード』の撮影期間は1カ月ほどだったのですが、内訳は5日連続の撮影を6回繰り返すという日々で、これほど長期的な撮影は経験したことがありませんでした。そしてなにより、「放送の枠を与えられている」というプレッシャーが大きかったですね。
Webドラマは「見たい人だけが見るコンテンツ」ですが、テレビドラマはそうではありません。「その時間帯に強制的に見せるコンテンツ」になるので、作品を通して視聴者の方をちょっとでも不快な思いにさせてはいけない。広告の延長線上あったWebドラマと、見てもらえることがある程度担保された状態にあるテレビドラマでは、広告発想とは異なるコンテンツづくりの考え方が必要でした。
──これまでとは別のプレッシャーがあったわけですね。広告とテレビでの考え方の違いは具体的にはどのような部分になるのでしょうか?
テレビでのコンテンツをつくる発想としてまずあるのが、「この時間帯に視聴者が見たいものはなんだろう」という考え方なんです。「こんな想いを伝えたい」ということも重要ですが、「金曜日の深夜0時52分」という時間帯を考えると、多くの視聴者はクタクタですよね。仕事で疲れていたり、酔っ払っていたり。そう考えると、小難しいことを考えている人は少ないだろうと想像できますよね。
「そんなときに見たいドラマはなんだろう」という視点で、作品に向き合い続けました。そこで出た答えは「平日お疲れさま」というメッセージを伝えるドラマ。視聴者を悩ませるような凝った演出は入れず、見ていて気が楽になる内容にしたいなと。それがこの『絶メシロード』の着想の第一歩でした。いままで私が手がけてきた広告発想にはない、テレビ発想だったと思います。
クリエイティブディレクターを超えていく
──畑中さんはドラマ『絶メシロード』では原案者とともに、プロデューサーとして携われていますよね。広告業界の人がこのような形でテレビドラマに関わることも、大変珍しいかと思います。そうですよね。これに関しては今作をともに手がけたテレビ東京のプロデューサー寺原洋平さんのおかげです。寺原さんから、私に「プロデューサーやってみませんか?」と提案していただきました。寺原さん自身も「絶メシ」を面白いと思ってくれて、より作品を面白くするために「畑中さんは作品を背負って入り込んだ方がいい」とおっしゃっていただいて、クリエイティブディレクターではなくプロデューサーとして携わることになりました。
──本来は博報堂ケトルでクリエイティブディレクターを勤めていらっしゃいますが、テレビドラマのプロデューサーを経験してみた率直な感想はいかがでしたか?
クリエイティブディレクターが、ドラマのプロデューサーから学ぶことは多かったです。ドラマのプロデューサーって、営業的に動かなければならないときもあれば、映像や脚本のディレクション能力も求められ、さらに制作技術も欠かせません。それぞれの現場やフェーズによってあらゆるスキルが求められ、制作スタートからオンエアまで特定の領域に留まることを許されない仕事だなと。このような広義な役割を俯瞰(ふかん)してみると、プロデューサーという存在はやはり「現象をつくる人」であると思いました。
──自分が持つ能力をフル活用して、現象をつくる人。それがプロデューサーということですか。
またその逆に、クリエイティブディレクターという肩書がとても曖昧な職能だと気づいたことも、このように思った一因ですね。『絶メシロード』のドラマ現場で制作スタッフの方たちと名刺交換した際に、一部のスタッフの方たちから「クリエイティブディレクターってなにをするお仕事なんですか?」と聞かれたんですよ。知らないことはまったく問題はないし、皆さんも悪意もなく、純粋にそう聞いてきて。そして自分自身その質問をされたときに、この肩書きについて一言で説明できないことに気づいたんです。そのときに、クリエイティブディレクターって何者でもないのだと思い知りました。クライアントがいて、オリエンがあって、デザイナーやプランナーがいるチームがあって、そこに初めてクリエイティブディレクターは存在できる。そういう大きなシステムのなかで力を発揮できる存在なのだと。だから私は、社内外的にも「クリエイティブディレクター」となったいま、この肩書きを一度忘れてみたいなと思いました。
もちろん、いまもクリエイティブディレクターという仕事は誇りですし、僕が提供できる最大の価値です。でもそれ以上に、「クリエイティブディレクターという言葉を使わずに生きていくこと」に興味がある。この視点こそが今後自分をクリエイティブディレクターのその先に連れていってくれるヒントなのかもしれない。いまではそう思っています。 ──クリエイティブディレクターを超えて、「次」を目指さなければいけないと。ドラマのプロデューサーを務めて、そのことに気づいたというわけですか…。
はい。今回の『絶メシロード』というテレビドラマは、誰かに求められていたモノではないし、そもそもクライアントもいないので、「課題解決」という概念が存在しません。この案件はプロデューサーとして、「世の中にこういう種をまきたい」と能動的に自分が始めた活動であり、課題解決が目の前にあり、それをチームとともに向き合っていくクリエイティブディレクターの仕事とは逆にあったんです。どちらがいいということではなく、多くの案件に溢れているクリエイティブディレクターだと、物理的にもどうしても「世の中にこういう種をまきたい」という自発アクションを忘れがちになっていないかなと。だからこそ自分自身の「次のステージ」をイメージする意味で、この肩書きを一度まっさらにしたいなと思いました。
──一つの場所に留まるだけでは気づけないことですね。
これから先は「業界の外に、自分にとってのライバルを置く」というような、自分のいる業界の外に目を向けるということがとても重要になると思います。そこを見ているかどうかが自分自身の成長に著しく左右するのではないかと。例えば、人気コンテンツとコラボした広告キャンペーンをつくる以前に、その人気コンテンツ自体の「生みの親(つくる側)」になることを考えなければならない。そして、僕ら広告業界のクリエイターはその能力を絶対に持っていると思います。そう思うと、自ずと自分のライバルは世界にいるすべての「つくり手」になると思います。
だからこそ広告で培った能力をもとに、より影響力のある領域に早く手を伸ばしていきたい。漠然とした言い方ですが、いまは「誰もやったことがない仕事」をすることよりも、「誰もなったことのない人」になることを目指していこうと思っています。 ──すべての業界・存在がライバルとなるいま、肩書きをニュートラルにする。それがプロデューサーという経験から得た畑中さんが今後目指していく姿なのですね。
現代はコンテンツも広告も、人の24時間をどれだけ奪えるかが重要になります。どんなに情報やコンテンツが増えたとしても、人が活動している24時間という時間は変わらない。その時間をなにに割くのかを消費者に選択する権利があるからこそ、その奪い合いは熾烈を極めます。広告のクリエイティブディレクターだろうが、テレビ・映画のプロデューサーだろうが、本の編集ライターだろうが関係なしに、現代の人々の時間をどう奪っていくのかが、シンプルに求められると思っています。
だからこそ、この業界で10年以上やってきた自分の存在自体をいま一度ニュートラルにして、多くの人の時間を奪えるモノを自分自身がたくさん生み出していけるよう、これからもさまざまなことにチャレンジしていきたいです。
──一つの街の地域創生案件から、テレビドラマ化という発展を見せた「絶メシ」。さらにそこで出会った広告業界の外の人たちから刺激を受け取った畑中さんがこれから仕掛けていく、「時間を奪うコンテンツ」にとても期待が持てますね。テレビドラマ『絶メシロード』並びに、畑中さんのこれからのご活躍も楽しみにしています。お話いただき、ありがとうございました!
テレビドラマ『絶メシロード』(テレビ東京系)
畑中さんがプロデューサーを務めたテレビドラマ『絶メシロード』はテレビ東京系列にて、2020年1月24日から毎週 深夜0時52分~に放送が始まります。(動画配信サービス『ひかりTV』と『Paravi』では各放送話を地上波放送1週間前から先行配信中!)
絶滅してしまいそうな絶品メシ、「絶メシ」。それを求め、週末一泊二日の旅に出るサラリーマンの小さな冒険譚です。果たしてどのような「絶メシ」が取り上げられるのでしょうか? お楽しみに!