女性こそサウナへ

──はじめに、河瀬さんがサウナにハマったきっかけを教えてください。
もともとは、夫のサウナ好きがきっかけでした。昔からサウナ好きだったようで、結婚する前のはじめてのデートで連れられたのもスーパー銭湯でした。ちょっと変わっていますよね(笑)。私は銭湯や温泉にはよく行っていたのですが、サウナに入ったことはあまりなかったんです。そこで、夫がサウナの入り方をレクチャーしてくれたのですが、それでも水風呂に入るのがどうしても苦手でした。それからは私がサウナに行く度に、夫から「今日は水風呂に入った?」って聞かれるようになってしまって…。毎回「入ったよ」と嘘をついていました。
──よほど水風呂が嫌いだったのですね。
なんだか心臓に悪い気がして、怖かったんです。でもあるとき、ふとしたことがきっかけで水風呂に入ってみることにしました。私は料理のほかにデスクワークなども多く、特に首や肩を酷使していて、コリがひどかったんです。マッサージや針治療に行ってもなかなか改善しない。そのようなときに、夫の言葉を思い出して、私も試してみようかなと思ったんです。それで実際に入ってみたら、全身に血が巡って、首と肩が一気に楽になりました。あのときは本当に感動しましたね

それ以来、サウナと水風呂に入ることが習慣になりました。サウナに入ると、たくさん汗をかいてむくみも取れるので、女性の方には嬉しいことばかりだと思います。

私たち夫婦はお互い仕事が忙しく、普段はなかなか話し合いの時間を持つことができません。趣味もそれぞれ違うので、共感できないことも多いんですけど、サウナや銭湯は一緒に楽しむことができます。休みの日には2人で車に乗り込み、銭湯に向かいながらゆっくり会話を楽しむ。そして銭湯に着いたら、思い切りサウナを満喫する。サウナに関する時間のすべてが、夫婦円満の秘訣になっています

銭湯の近くのオフィスを選ぶ

──夫婦一緒にサウナ、素敵ですね。仕事終わりにサウナに行くこともあるのですか?
仕事の日は、オフィス兼キッチンの近くにある「清春湯」でサウナに入っています。仕事終わりだけでなく、合間に行くこともありますね。オフィスとして利用する物件を探していたときも、「清春湯」に通える距離であることが決め手のひとつになりました。ここは水風呂の温度が低めなのが特徴で、入るとシャキっと気が引き締まります。ぬるい水風呂だとリラックスしてしまい、仕事には逆効果になってしまうので、モチベーションを上げるには最適な場所なんです。
──仕事の合間のサウナが午後の仕事のブーストになっているのですね。そのほかにも、行きつけのサウナなどはあるのでしょうか?
よく通っているのは、東高円寺にあるマジック温泉「昭和浴場」です。ここは入浴料金にプラス100円でサウナに入ることができます。しかも、行くたびに次回無料券が貰えてとてもお得なんです。お客さんの年齢層は少し高めで、中央線沿いの地元サウナーたちが集う憩いの場になっています。水風呂は天然の井戸水を使っていてすごく気持ちよくて、地元の方と一緒にお喋りしながら入っています。

それから「1日中こもって仕事をしたい」というときには、荻窪にある「なごみの湯」に行きますね。パソコンを持ち込んで仕事をしたり、サウナに入ったり、お昼寝したり、ご飯を食べたりと、1日中回遊することができるので、とても快適です。

悩んだときにはサウナへ

──河瀬さんの仕事では「パクチー醤油」など、閃きが求められるものが多い印象です。こうしたアイデアの発生装置としても、サウナを活用されているのでしょうか?
私の場合は、サウナ・水風呂から出て外気浴をしているときにアイデアを閃くことが多いですね。作業的なことを考えることはあまりなく、クリエイティブの企画部分を考えています。サウナに入ったあとは頭がスッキリしているので、外気浴でボーっとしていると、「あ、こういうのアリかも! 」とアイデアが急に浮かんできます。

──サウナが活かされた事例について教えてください。
私は地方活性化を目的とした6次産業化商品の開発を多く手掛けています。例えば、鰻やさんまの蒲焼きを製造する山田水産の新商品「山田のフラヰ」の監修をさせていただくことになりました。通常、商品をプロデュースするときは0から10までの工程を一貫して手がけないと、途中でちぐはぐになってしまう恐れがあります。しかし、このときは既に「魚のフライ」という商品がある状態でのリブランディングだったので、2から10に膨らませるような案件でした。魚のフライの便利さを訴求し、ユーザーの興味を引くにはどのようなどうするべきか、とても苦労しました。行き詰まってしまうことも多かったのですが、サウナに入ることで、良いアイデアを閃くことができました。
もうひとつは、相模健康センターや草加健康センターなどを運営する湯乃泉のメニュー開発です。これは私がサウナーだったからこそ、ご依頼を頂きました。私が草加健康センターによく通って、感想をTwitterに呟いていた。それを偶然、私のツイートを見た施設の広報の方からご連絡があり、仕事につながりました。
ユーザー目線で考えると、銭湯やサウナに入った後は、特別なものを食べたいとは思わないじゃないですか。それよりも「しょうが焼き」のような、定番でホッとするメニューの方が求められる。お風呂上がりにお酒に合うおつまみくらいのもの、でもそれが普段よりもちょっと美味しい。その絶妙なバランスになるように考えて、メニューをつくりました。現在もメニューを考案しているのですが、月ごとに更新のため、メニュー開発には毎月悩みます。良いアイデアが浮かばないときには、やはりサウナに駆け込んでいます
──河瀬さんにとって、外気浴が閃く場所なのですね。
閃く場所としては外気浴になりますが、本当に重要なのは、サウナの中だと思います。私はサウナに入っている間、なにも考えていないんです。だからこそ、その時間は外気浴以上に大切にしています。

──考えない時間を持つことが、閃くために必要ということでしょうか?
普段何気なく過ごしていても、仕事のことや家のことなど、無意識にいろんなことを考えてしまうじゃないですか。やらなくてはならないことに追われて、ついネットで調べたり、SNSを見たり、デジタルに触れている時間も多くなりがちです。サウナのなかでは一切考えず、スマホにも触れないので、自然と「デジタル・デトックス」ができます。頭がパンパンな状態では、新しいことを考えることはできません。だからこそ、サウナで「余白の時間」をつくり、脳の容量を空ける。そうすることで、新しいアイデアを閃く余裕が生まれるようになるんです。
──“新メニューの開発”という料理分野のクリエイティブ作業においても、サウナは欠かせないアイデア発生装置になっていることがわかりました。今後も河瀬さんの「サウナで閃いた」メニューが、サウナ飯を充実していくことになるでしょう。本日はありがとうございました!

<撮影>池ノ谷侑花(ゆかい)
写真
サウナでわたしも閃いた
「サウナによる脳内の刺激が創造性を活発にするのでは?」という仮説をもとにした、サウナと閃きの関係に迫る本連載「#サウナで私も閃いた」。これまでマンガ家、映像作家、音楽家と、多くのクリエイターにアイデア発想法をインタビューしてきました。
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