──はじめに、スコップ設立のきっかけを教えてください。クリエイティブ畑にいた平石さんが、なぜ教育領域に挑戦することになったのでしょうか?
平石:それはまさに、海外も含む電通のクリエイティブ職で働いた20年の経験と、それ以前の人生経験が大きく関わっています。そもそも幼少期の私は好奇心が人一倍強く、興味を持ったものに夢中になってまわりが見えなくなる子どもで、「社会に適応しない問題児」というレッテルを貼られていたのです。

それでも、学芸会の企画や高校のときの文化祭など、なにか自分のアイデアで周りの仲間が笑ったり喜んでくれたりしたこと。また、大学のときに放送作家のアルバイトで、ネタの採用数が多かったことなどから、「アイデアで周りに喜びを生むような職業につきたい」という進路のイメージがありました。そして、運よくそのイメージ通りに電通に入社へと至りました。出る杭は打たれるような社会のなか、電通には規格外の人間であっても、それを社会の価値に変える仕組みがある。そのころは気がつきませんでしたが、いまにして思えば「イノベーションは非常識から生まれる」ということをわかって見守ってくれていたんだと。こういうとまるで非常識な会社に思われますが(笑)、そうではなくて人の「多様性」を大事にする会社だということです。それがまるで「大人の学校」のようにも、私は感じられました。

やがて、子どもたちの教育にも同じようなシステムが必要ではないかと考えたのです。多様性を武器に変える、電通のような環境を教育に転用したい。「なにかを教える」というよりも、「一人ひとりのユニークネスを社会の価値にする」。そんな教育を提供したいと思いました。それがスコップ設立のきっかけであり、私が教育領域のビジネスへ挑戦を決めた理由でした。

──一方で岡本さんは、平石さんよりも前から教育業界でお仕事をしていたのですよね?
岡本:そうです。私は大学卒業後に会社を立ち上げ、これまでずっと教育に携わってきました。そのなかで、日本人には「教育は教えるものである」ということが刷り込まれていると感じていました。日本の教育は、決まった答えを見つけ、それを型にはめていく「ジグソーパズル型」の手法が主流でした。一方で、世界中の多くの国では、答えを自ら創造する「レゴ型」の教育が一般的。つまり、日本と世界では、個性や創造性の教育に差が生まれ、日本は世界よりも遅れをとってしまっているのです。

その差を覆すためにも、教育現場の方針を転換する必要がありますが、いきなりすべてを変えることはできません。だからまず、我々が民間企業としてリードするべく、立ち上げたのがこのスコップなのです。教育に対し、同じビジョンを志す平石さんたちスコップのメンバーと手を組むことで、日本の教育を変えていきたいと思っています。
──スコップの活動について伺います。お二人はそれぞれどのような役割を担っているのでしょうか?
平石:私は電通で仕事にしてきたクリエイティブの知見を、岡本さんは教育事業で培った経験をそれぞれ用いて、教育コンテンツの企画や講師の選定を行っています。やはりスコップが持つ優位性は、告会社である電通などとの共同創立というのもポイントにあると思っています。実社会での課題解決に使われるクリエイティブの力を教育に活かし、次世代教育の開発や実践ができるのはスコップにしかできない使命ですから。クリエイティブ×教育の組み合わせから、まったく新しいカルチャーをつくるべく日夜、試行錯誤を続けています。とはいえ、いまは正直、岡本さんの教育の知見と創造力に頼りっぱなしですが(笑)。

岡本:スコップで教育コンテンツをつくる上で、子どもたちのために気をつけているのが、「学ぶことを目的にさせない」ということです。その先にどのような結果が待つのか。それを重視しています。例えば、スコップではプログラミングを用いたコンテンツを導入していますが、プログラミングを学ぶことだけを目的に置いていません。大切なのはプログラミングの結果によって、「社会を豊かにする仕組みをつくれる」こと。それを知ってほしいと思っています。

従来の日本教育は、「宿題をしたのか」や「テストで高得点を取れるか」などを評価し、成績を決めていくものでした。けれども、宿題をやるのもテストで高得点を取ることも、決して目的ではありません。それ自体は多くの社会人の方たちがわかっていると思います。私たちの役割は、さらにそれを子どもたち伝えること。「スコップで学んだことがいかに社会へ連動しているのか」。それを伝えられるような、コンテンツをつくることを心がけています。

平石:私たちは、「10年後に必要な能力」を子どもたちに身につけてあげることが重要だと考えています。そのためには日本の過去と現在を分析し、さらには未来を見据えた教育プログラムをつくろうとしています。これから先の時代では、よりグローバル化が進んでいくと思います。だからこそ、日本人としてのアイデンティティを理解しておく必要があります。そのため、事業としての難易度は高いですが、スコップを通じて、日本の繊細な文化や価値観も伝えることができればと思っていますね。

──いまの日本の学校教育では補えない部分を、スコップでは重点的に発信しているわけですね。
岡本大人が子どもに与えられるのは、「環境」と「きっかけ」だけだと思います。学びたいことを学ぶことができる環境と、背中を押して成長のためのきっかけをつくること。それが、大人が子どもに与えられるものです。とはいえ、地域格差などの課題によって、望む通りの環境を与えることが難しい場合も多いです。だから私たちスコップの目指す姿は、一つの環境になることです。教育的な観点とクリエイティブの観点から、さまざまな専門家や事業家を講師に迎え、子どもたちに多様性を知ってもらう。これまで社会人になってから養われてきた発想力や問題解決力を、幼少期から身につけられること。それがいまの世の中に求められる教育の形だと考えています。
──2020年11月の会社設立後初のオンラインでの短期スクールが、同年同月に実施されたと思います。実際に子どもたちが授業を体験する姿を見て、新たな気づきや手応えなどはありましたか?
平石:やってみるまでは不安に思うこともありましたが、子どもたちが秘めている可能性には、あらためて驚かされました。プログラムのなかでは、私たち大人が想像するやり方ではなく、子どもなりのやり方で問題を解決していくのですよね。また、自分のなかでアイデアが生まれた途端、子どもたちの目はキラキラと輝いていました。少しのきっかけで表情や目、態度が変わっていく子どもたちの純粋さを目の当たりにし、私たち大人も教えられることがとても多かったですね。

また、子どもたちだけでなく、講師を務めたクリエイターたちも、同じように目を輝かせていたのも印象的でした。ベテランのクリエイターほど、そのキャリアのなかでいろいろな刺激に慣れてしまっていると思います。しかし、子どもの持つ無限の可能性に触れたことで、彼らのなかのなにかが弾けているのが見て取れました。大人たちのノウハウを子どもたちと共有することで、それが増幅していく感覚があったのです。

岡本:一方で、子どもだけでなく、保護者のマインドセットの重要性も実感しました。例えば一つの課題に対して、子どもがうまくできずに泣いてしまったとします。それを見た保護者が、我が子に「悔しい」と感じる気持ちが芽生えたことを喜ぶのか、かわいそうと思うかによって、スコップの意義もまるで変わってしまうのです。後者のように「できないからかわいそうだ」と思えば、おそらく今後スコップの授業には参加させないでしょう。それは、子どもたちの学びの機会が一つ失ってしまうことを意味します。無論、「子どもに失敗させたくない」という親心はよくわかりますが、私たちはそれをどうやって乗り越えるのかが重要であると考えています。失敗をして得られる修復力こそが、子どもの人生の大きな糧になるのです。だから、保護者の皆さんにも納得して子どもを預けてもらえるような気配りも必要であると感じましたね。

平石:2020年からは新型コロナウイルスの感染拡大による影響も大きくありました。そのため、大切な子どもを預けるために保護者の方の理解を得ることはますます必要となりましたね。オンラインではなく直接対面していれば、トラブルが起きても直接ケアができるし、その場で保護者の方と相談することもできます。しかし、オンラインの場合は画面越しでの表面的なケアまでしかできません。子どもたちがどんな感情を抱いていたとしても、通話が途切れてしまえば、私たちはその先を見ることができないのです。この部分は、今後オンラインで授業を続けるのならば、しっかりと対応しなければいけない課題の一つですね。
2020年に行われた授業、「「ねぶた」をつくって、お祭り復活を手伝おう。 (こども芸術学校)」
2020年に行われた授業、「「ねぶた」をつくって、お祭り復活を手伝おう。 (こども芸術学校)」
──最後に、今後スコップや個人として成し遂げたいことを教えてください。
岡本:私は、日本から世界に羽ばたく「倭僑」を育てたいのです。中国国籍を持ちながら外国に移住している中国人のことを「華僑」と言いますが、倭僑はその日本人版です。

よく言われるように、日本が持つさまざまな技術は確かに優れています。しかし、その優位性は、世界において少しずつですが、失われてきているのです。日本ではこの先、少子高齢化が進んでいくため、内需産業だけでは確実にジリ貧になっていくでしょう。だからこそ、海外に目を向けることが大切なのです。日本で従来行われてきた、決まった答えを見つけるジグソーパズル型の教育から、アメリカやヨーロッパで主流の答えを自分で創造するレゴ型の教育に舵を切る。自分で考え、自分の意思でフレキシブルに動ける子どもたちを育てなければなりません。そんな倭僑となるような人物を、当社の事業を通じて育てていくことがスコップの事業と、いまの私の目標ですね。

平石:私のやりたいことを一言でいうと、「自分らしさが社会で活きる世界」です。そして、日本が世界に先駆けてこのような国のモデルになれると思っています。私はこれまで、世界の電通支社や、各国の広告会社を見てきました。そこで感じたのは、日本のクリエイティビティは、その繊細なセンスや論理性、大きな視点と小さな視点を合わせ持つなど、世界に堂々と誇れるものだということです。

岡本さんも先ほどおっしゃっていたとおり、残念ながら日本の国力は現在衰退傾向にあります。そんな日本において、まだ豊かに残っている資源は人のパワーとクリエイティビティです。その資源を最大限活かせるような存在に、スコップはなっていきたいですし、いわば「クリエイティブ立国」の一助になりたいと思います。日本にはまだそのためのポテンシャルが残っており、私は十分実現できると思っています。

そのために、子どもたちには、クリエイティブの魅力をもっと共有していきたいです。紙に書いた小さなアイデアや言葉が形になり、日本中に広がって、人々を感動させていく。自分自身が、電通でその喜びをたくさん経験させてもらいました。デジタル時代の現代は、誰もが発信者になることができます。だから、子どものうちからアイデアで世の中を動かすことも十分可能なのです。そんな自分だけの「スコップ」で、自らの中にある創造力を掘り起こし、世の中を自由に掘り進む子どもたちが増えるように、私たちも精一杯事業に向き合っていきます。

──スコップでの授業を受けた子どもたちが、これからの社会でどのように活躍してくのか、とても楽しみですね。スコップが生み出す教育事業が日本をどのように変えていくのか、今後も目が離せません。お話いただきありがとうございました!
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