──LIFULL STORIESはどのようなことを目的としたメディアなのでしょうか?
LIFULL STORIESでは、「しなきゃ、なんてない。」をコンセプトに、既成概念にとらわれない生き方をしている一人ひとりのライフストーリーを紹介しています。その原点にあるのは、LIFULLの掲げる「あらゆるLIFEを、FULLに。」というコーポレートメッセージです。2017年に社名をLIFULLとあらためて以降、社名の認知は少しずつ上がってきたのですが、なにをしている会社なのか理解されていないという課題がありました。そこで、LIFULLが社会に対してどのような存在意義を持つべきかをあらためて議論した結果、「さまざまな生き方の可能性を提示する」ことに行き着きました。多様性のある社会において、誰もが自由に生き方を選べるべきで、そのためには「~しなきゃ」という枠を取り払う必要がある。そうした思いから「しなきゃ、なんてない。」というタグラインが生まれ、多様な生き方を提示する場としてLIFULL STORIESが誕生しました。

──LIFULL STORIESにおける畠山さんの役割を教えてください。
中長期的な視点でLIFULL STORIESがどうあるべきかというブランド戦略を立て、それを実現するためのKPI設定・コミュニケーションの設計・検証を行っています。現在設定しているKPIは、LIFULL STORIESを通じてLIFULLというブランドを知ってもらうこと。社名を知ってもらうだけでなく、企業理念をともなった認知をいかに上げていくのかが課題です。

加えて、私は2020年10月より社内の未来デザイン推進ユニットを兼任し、社会課題の解決に向けた取り組みの推進を行っています。ここでは、未来に目を向けて、10年、20年先にどのような社会変化が起こりうるのかを予測し、当グループで手がける事業と照らし合わせ検証します。例えば、不動産・住宅情報サイト「LIFULL HOME'S」などの住生活情報サービス事業では住宅市場の変化という視点があります。また、さまざまな高齢者向けの住まいを探すことができる介護施設情報サービス事業では、超高齢社会という視点もあります。それらの未来に起こり得る変化に対して、「各事業でなにをすべきか」「なぜやるべきなのか」「それを実行した先にどのような課題解決があるのか」という議論を行います。それらを整理して、LIFULLが今後どのような社会課題に取り組んでいくのかを対外的に打ち出し、その内容に賛同してくれるステークホルダーを集め、新しい事業を生み出すことを目指しています。LIFULL STORIESは、こうした取り組みやその背景にある当社の思いを発信するための貴重なツールであり、このツールを通してLIFULLという会社を理解してもらうことが私のミッションです。

2021年2月現在、LIFULL STORIESの立ち上げから2年間が経ちました。 LIFULLという会社を理解してくれた人の割合は少しずつ増えており、その手応えを感じています。特に2020年はコロナ禍により、多くの人が暮らしのあらゆる価値観を見直すタイミングとなりましたよね。LIFULL STORIEにおいても、ステイホームでの暮らし方についての記事を展開し、多くの反響をいただきました。変化の激しい社会のなかで、生き方の多様性を提示するメディアの価値を感じてもらえたのではないでしょうか。

──ファッションや文化、夫婦別姓、LGBT、介護など多様な切り口でLIFULL STORIESは展開していますが、どのようにしてテーマを決めているのですか?
決め方は大きく3つあります。まずは世の中のトレンド。いま注目されているトピックや、クリスマスやバレンタインデーのような季節のイベントも考慮しています。次に、当社の事業活動との兼ね合いです。事業のトピックスとなるモーメントに合わせたタイミングで、同様のテーマを取り上げます。最後に、インタビュイーの影響力を最大化できるタイミングも加味します。例えば、LGBTを取り上げるとしたら、3月の国際女性デーや4月のレインボープライドに合わせるなど、そのトピックが注目されやすい日に合わせるという方法です。この3つをかけ合わせて月ごとにテーマを決めています。

大枠のテーマが決まったら、読者が抱えている課題とそこに対する読後感を想定し、記事の方向性を決定します。そのうえで、目指す読後感を提供するためには誰が適任か、人選を行います。この人選こそがもっとも重要です。LIFULL STORIESは、一人ひとりのストーリーを描くメディアなので、インタビュイーの考えや生き方をできるだけストレートに伝えたいと考えています。そのため、編集上の修正も最小限にしています。だからこそ、誰を取り上げるかが大きな鍵を握るのです。

また、テーマが偏らないように留意もしています。メディアの性質上、マイノリティの生き方を取り上げることが多くなってしまうのですが、決してその生き方だけを推奨しているわけではありません。マジョリティの生き方があってもいいし、マイノリティの生き方があってもいい。どちらが正しいと言いたいわけではありません。私たちは、選択肢を広げたいのです。

この先、「ウェルビーイング(well-being)」の考え方がより注目され、自分らしい幸せを追求する社会になっていくと思います。従来の資本主義的な社会においては、GDPのような経済的指標で幸せを測っていました。しかし今後、人口減少の時代を迎え、大量生産・大量消費の社会ではなくなったとき、「お金に頼らない幸せとはなんだろう」という議論になっていく。世界一幸せな国といわれるブータンから生まれたGHP (国民総幸福量)のように、身体的・精神的な満足度が重要視されていくのです。画一的ではない幸せを追求する社会においては、当然さまざまな生き方が尊重されるはずですよね。それこそが、当社の掲げる「あらゆるLIFEを、FULLに。」ということであり、その実現のために、これからも生き方の選択肢を提示し続けていきたいです。
──日々社会課題に向き合う畠山さんの視点で、直近の2021年はどのような動きがあると考えていますか? 
サステナブルな意識が社会全体で高まっていくと思います。個人の生活においても、コロナ禍により多くの人が暮らしのあり方を見つめ直しました。地球規模でもこの動きは加速しており、コロナ禍で行動が制限され二酸化炭素の排出量が減ったことが明らかになっています。今後、見直された新たな様式の暮らしを続けていけば、地球温暖の緩和が期待できると言われています。

また、バイデン氏がアメリカ大統領に就任してパリ協定に復帰したり、日本の菅首相も2050年に向けて温室効果ガスを実質ゼロとする方針を掲げたりと、各国の動きも活発です。こうした動きに相まって、SDGsに関する議論もより本質的なものになると考えています。これまでは、「SDGsとはなにか」「自社の事業と関連しているのか」という話題に留まっていましたが、今後は、実際にどのような取り組みを展開するかという議論へ進展するでしょう。

こうした変化のなかで留意すべきは、誰一人取り残されないことです。SDGsの取り組みが広がることはもちろん大事ですが、そこにおける格差が広がることはあってはなりません。社会的マイノリティに対してもしっかりと目を向ける必要があります。事例を挙げると、住まい探しにおいて「住宅弱者」と呼ばれる人たちが存在しています。LGBTのカップルや外国人が住まいを借りる際に無意識な固定観念によって、当事者がありのままの住まいに関する相談が行いづらい状況が生まれる場合があるのです。そこでLIFULL HOME’Sでは、「FRIENDLY DOOR」というサービスを展開しており、住宅弱者に理解のある不動産会社を紹介する事業をスタートしています。今後は、当社以外にもこうした社会的マイノリティに目を向けた事業に取り組む会社が増えていくのではないかと考えています。企業としてのあり方や姿勢も問われていくのではないでしょうか。

──最後に、LIFULL STORIESの今後のビジョンを教えてください。
一人ひとりのライフストーリーを提示するだけでなく、将来的には人と人とがつながり、新たなストーリーを生み出せるような場にしていきたいですね。自分らしい生き方をしたいと思っている人同士がつながって、「こういうことを一緒にやろうよ」と双方向的なコミュニティが誕生する。そのような場になれば、LIFULL STORIESの社会的意義も高まっていくように思います。

また、インタビューで得られた声をLIFULL STORIESだけで完結させるのではなく、LIFULLのほかの事業にもつなげられるようなネットワークを形成していきたいです。オウンドメディアは、企業の姿勢やメッセージを発信できる場として有用ですが、それだけでは社会に価値を提供し続けるのは難しいと感じています。メッセージを発信するだけでなく、メッセージを受信して誰かと当社事業をつなぐ場となるよう、インタラクティブな機能を広げていきたいですね。インタビューのなかで出た「こういうことをやってみたらいいのでは」という声をLIFULLが拾い上げ、社会課題の解決につなげる。そうすることで、結果的にLIFULLというブランド理解も得られるのではないかと考えています。

──畠山さんが見据えるのは、会社や業界、国境をも飛び越えた、地球全体の未来なのですね。LIFULLが提起する「あらゆるLIFEを、FULLに。」の可能性に今後も注目したいと思います。お話いただきありがとうございました!
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