──ソングァンさんはヤフーやGoogle、そして現在所属されているLINEクリエイティブセンターなど、さまざまな組織で長らくデザイナーとしてのキャリアを築かれてきたかと思います。今後求められるクリエイターとはどのような姿だと思われますか?
いま私たちは環境や時間、技術、ニーズなどの多くの変数が存在する世界で生きています。その世界に適応するためには「変化」への適応力が必要であり、変化に合わせて学ぶことが重要なのではないでしょうか。そのため、未来のデザインは「ハイテクと思想と文化を連結させたもの」になると私は考えています。

デバイスやAIといったテクノロジーの進化に合わせて、時代の流れをキャッチしたモノづくりをしていくことも大事でしょう。しかし、その一方でトレンドと普遍性のバランスも取れていなければなりません。なぜなら、トレンドを追うだけでは持続性が失われるからです。クリエイターは創造的に革新を生み出す人々です。だからこそ、現在と未来を創造していくべきではないか。私はそう思います。

また、クリエイターはなにをどのようにつくるかについて、繰り返し悩まなければなりません。デザインを考えるときには、理解や定義、アイデア、プロトタイプ、検証などのプロセスを経ます。クリエイターはこれらのプロセスを通じて、目の前の問題と正確に向き合い、真のユーザーニーズに基づいたソリューションを提示することが求められます。手がけるデザインの先にある目標を達成するための最適な方法を選択し、それを実現するためにどのように進行させるかを計画する。本質課題の解決に対し、最も良いソリューションはなにかを考え、探索しながらデザインをしていく。この経験を繰り返すことこそがクリエイターの成長へとつながっていくのです。
──具体的にいうと、LINEクリエイティブセンターでは、どのようなデザインの構築を目指しているのでしょうか?
LINEのデザインはただ美しいものをつくることではなく、「ソリューションをデザインする」ことを追求しています。つまり解決策を示すことです。Airbnbの共同創業者ジョー・ゲビアさんとブライアン・チェスキーさんの2人は、アメリカにある美術大学のRISD(ロードアイランド・スクール・オブ・デザイン)でデザインを勉強していました。彼らはただホテルをデザインしたのではなくて、Airbnbという宿泊システムをデザインし、いままでなかった斬新な会社をつくりあげました。

彼らのように「そもそもの課題とはなにか」という本質的課題を抽出し、それをどうやって解決していくのか方法を考えることが重要です。これらをLINEの立場から考えると、サービスの本質をユーザーにより優しく、フレンドリーに理解させる。そんなデザインこそがLINEが目指すべきデザインだと思っています。

──昨今のデザイントレンドに対し、ソングァンさんやLINEはどのように考えていますか?
アイコンやUIに関するデザイントレンドを振り返ってみると、元々テキストのみの操作画面だったところからGUI(グラフィカルユーザーインターフェース)が初めに生まれました。それを機会に、画像やイラストを用いたインターフェイスのデザインによって、さまざまなサービスの操作性や説明のわかりやすさが大きく向上しました。そこからさらにスマートフォンやタブレットの台頭により、直感的に操作できるインターフェイスとそれに伴うデザインが生まれていきました。

スマートフォンにフォーカスすると、例えばiPhoneの登場直後はユーザーの理解というものが最優先され、普段から馴染みのあるものにデザインを似せた「スキューモーフィズム」というデザインがトレンドとなりました。続いて表示の容易さや拡張性が重要視されるに連れて、シンプルな要素や図形を用いた「フラットデザイン」がトレンドに。その後、Googleからシンプルさと直感的なわかりやすさを融合させた「マテリアルデザイン」が生まれました。こういった変化は、このトレンドの歴史を振り返るとわかるように、ユーザーや社会的ニーズの変化、それからテクノロジーの進化といったものに大きく影響を受けています。

そしていま、私のスマートフォンのホーム画面を眺めると実にカラフルなアイコンが多いです。これもトレンドではありますが、では一体なぜカラフルなのか。例えば親しみやすさや遊び心といったイメージを訴求したいがためかもしれないし、利用率の向上の観点からそうしているのかもしれません。要因はさまざま考えられますが、決定的な理由はないと思いますし、いずれこのトレンドに逆行する流れも出てくるでしょう。現に2021年に入って日本で大きなうねりをつくっている音声SNS「Clubhouse」のアイコンなんてモノクロの写真です。

こういったトレンドを研究し、ユーザーや社会的ニーズに耳を傾けることはとても大事なことです。しかしなによりも、良いデザインにはトレンドや時代を超えて愛される持続性が備わっている必要があると考えています。例えばフォルクスワーゲンがつくる自動車。これらのデザインはいまもなお、私たちの生活に馴染んでいます。だからこそ、私たちはむやみにデザインのトレンドを追うことはしません。時間が経っても愛され続ける持続性を持ち、人々の感性を動かす。そんなデザインをつくり続けていきたいと思います。
──Google+やYouTubeなど、これまで多くのサービスのデザインを担当されてきたかと思いますが、ソングァンさんは普段どのようなものからデザインのインスピレーションを受けているのでしょうか?
Appleのプロダクトにも影響を与えたというドイツの伝説的なインダストリーデザイナーのディーター・ラムスさん。彼のデザインしたものは、一つひとつが長期的に持続可能で人間中心につくられています。彼のデザインを常に尊敬しており、彼の考えを私も実行するようにしています。特に下記に挙げる、ディーター・ラムスさんによる「良いデザインの十カ条」は参考にすることがとても多いです。

•良いデザインは革新的である。
•良いデザインは製品を便利にする。
•良いデザインは美しい。
•良いデザインは製品を分かりやすくする。
•良いデザインは慎み深い。
•良いデザインは正直だ。
•良いデザインは恒久的だ。
•良いデザインは首尾一貫している。
•良いデザインは環境に配慮する。
•良いデザインは可能な限りデザインをしない。

※引用元:Klaus Klemp, Keiko Ueki-Polet (2009)『Less and More: The Design Ethos of Dieter Rams』gestalten から英文を翻訳。

そんな彼のデザインからインスピレーションを受けて、実際にデザインを進めたエピソードがあります。それはGoogleクラウドのデザインコンセプトについてです。実はGoogleクラウドは、ディーター・ラムスさんが手がけた、あるヒット製品をデザインに取り込みコンセプトをつくりました。その製品とは、1956年にディーター・ラムスさんがデザインしたBrown社のターンテーブル&ラジオ「SK55」というものです。SK55は現在も変わらず愛されている製品で、この製品のデザイン要素を一つずつクラウドページの機能とサービスに取り入れたのです。

また私は、普段の日常生活のなかで、モノとストーリーをデザインに連結させる習慣を持っています。そうすることによって、デザインの存在価値が高くなり、持続可能性が出ると信じているのです。その訓練のためにも、日常のなかで常に激しく、あらゆるモノとストーリーをデザイン的目線で眺めなければなりません。そうやって私は、デザインを考えるときに製品や建物、日常のいろいろな部分からもインスピレーションを受けています。
──デザイナーとして長いキャリアを持つソングァンさんのデザインに対する哲学や考えをお聞きしました。トレンドと持続性、このバランスを追求するというソングァンさんが、この先LINEでどのようなデザインを展開していくのか、とても楽しみです。お話いただき、ありがとうございました!
SHARE!
  • facebookfacebook
  • twittertwitter
  • lineline