──コロナ禍以降、人が集まることが当たり前ではなくなり、スペースマーケットにとっては大きな転換期となったのではないでしょうか。どのような変化がありましたか?
以前は飲み会やパーティー、イベントなどで当社のサービスを利用する方が多かったのですが、コロナ禍以降はワークスペースとしての利用が急増しました。そのなかでも、新型コロナウイルス感染症の状況によって、スペースへの需要は変化しています。2020年4月に最初の緊急事態宣言が発令されたころは、急にテレワークになったことで、自宅に働ける環境がない方たちの利用が相次ぎました。最近では、出社する方やテレワークと出社の併用をする方も増えてきたので、オフィスでの密を避けるための場や、オンライン会議をするための場としても多く利用いただいています。ビジネスシーン以外では、ロケ地やオンラインイベントの配信場所としての利用も増えました。また、不特定多数との接触を避け、少人数の仲間内で集まって映画鑑賞やゲームをするといったパーソナルスペースとしての需要も生まれています。このように、人々のニーズの変化によって、当社の事業形態も刻々と変化しています

──変化の激しい時代において、コミュニケーションを展開するうえで心がけていることはありますか?
PRというと施策に注目されがちですが、当社では、企業やコミュニケーションのあるべき姿を徹底的に議論し、行動・発信することを大切にしています。特に昨今のコロナ禍においては、事業としての継続性と同時に、社会課題にいかに貢献していくか、という姿勢を示すことがより重要だと感じます。なぜなら、多くの人が「自分にとって本当に大切なものはなにか」をこれまで以上に考えるようになり、企業やサービスを選ぶ際も、背景となるストーリーも含めて見極めるようになったからです。一過性のPR施策で話題を集めるのではなく、会社としての考え方を誠実に発信し、そこに共感してくれる人を増やす。そのようにして、消費者と長期的な信頼関係を構築していくことを当社では重視し、世の中とのコミュニケーションを行っています。

──スペースマーケットの今後のビジョンを教えてください。
「スペースを貸す・借りる」という行動を、もっと世の中の当たり前にしていくことを目指しています。「スペースシェア」を当たり前の選択肢にしてもらうことで、人々の日常における選択肢を増やしていきたいです。特に、コロナ禍によって、オンラインでできることが増えた一方で、対面でしか得られないものも見えてきました。リアルで会うことがより厳選された機会になりましたよね。その貴重な場をより充実した時間にするために、当サービスを活用いただき、多くの人に幸せになってもらいたいです。
──続いて、端山さんご自身について伺います。これまでのキャリアを教えてください。
新卒で楽天に入社し、営業やECコンサルティングなど幅広い業務を経験しました。なかでも印象に残っているのは、地方創生プロジェクトです。さまざまな地方自治体とタッグを組み、地元の企業や商店を巻き込んでEC上で商品を販売することで、地域の活性化を目指すものでした。Web上での物産展を実現するために、自治体への企画書作成や、賛同企業を集めるための営業活動、ワークショップの開催などに奔走しました。

楽天で社会貢献性の高い事業に出会えたことは、私のキャリアにおけるターニングポイントになりました。なぜなら、事業の継続性と社会貢献性の両軸をいかに回していくのか、その面白さを実感できたからです。もっと追求してみたいと思うようになり、楽天からNPOへ転職しました。

NPOでは、社会貢献活動をしたいと思っている一般企業と、その企業に合うNPOとのマッチングを行い、多くのプロジェクトを数多く生み出しました。さまざまなNPOの広報活動や資金集めの支援に取り組むことで、社会課題の解決をサポートしました。熱い思いをもった素晴らしい方々とのプロジェクトは、とてもやりがいがありましたが、そこで感じたのは、世の中をより良くするためには、人を動かすためのマーケティングやコミュニケーションのノウハウがもっと必要であるということでした。

自分自身の力不足も自覚し、スキルアップを目指すため、マーケティングコンサルティング会社へ転職。ここでマーケティングやPRの支援を通してさまざまな企業と関わるうちに、自分が本当にやりたいことに気づくことになりました。それは、未開拓の新しい市場を生み出していくことで、世の中をより良くすること。ある程度成熟した市場でシェアを拡大するよりも、新しい市場自体をつくって世の中を変えていくことのほうが私にとって魅力的だったのです。 そんなとき、偶然スペースマーケット代表の重松と知り合う機会がありました。当時、創業したばかりの同社が「スペース」を扱うという新しい事業を展開していることとそのビジョンに、自分のやりたいこととの親和性も高く、非常に興味を持ちました。はじめは重松と情報交換をする関係でしたが、スペースマーケットがPRを強化していきたいというタイミングで声を掛けてもらい、ジョインすることになりました。入社後はPRやマーケティング、経営企画などを任されたあと、2019年より執行役員に就任しました。

──大手Webサービス企業、NPO、マーケティングコンサル企業、と多方面からPRに携わってきた端山さんから、PRに携わる若い世代に向けてアドバイスをお願いします。
現在のコロナ禍も想定外の事態でしたが、今後も同様に、世の中の変化は予想がつきません。私たちPRに携わる者としても、難しいことが多いと思いますが、今起きていることを丁寧に捉えて判断することが重要だと思います。当事者としてだけでなく、違う立場の視点からも見る。さらに、遠く離れた視点でも見てみる。それぞれ違う場所からいま起きていることを多角的に捉えるのです。

というのも、多様性の時代においては、自分の価値観はもちろん大切ですが、自分は多様性のなかの一員でしかないことも自覚する必要があると思います。だからこそ、一つの物事に対して自分や自社がどう思うかだけでなく、世の中はどう捉えているのか、どうしたらみんながより幸せになれるのか、それを俯瞰的に捉える視点をPR活動の前提として多くの人に持っていただけたらと思います。

──環境が目まぐるしく変化し、予測できないVUCA時代に、PRパーソンのみならず誰もが参考になるアドバイスをありがとうございました。
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