「三島賞げと!」第29回読売出版広告賞、大賞は集英社『みどりいせき』出版広告
読売新聞社は2月21日、読売新聞東京本社にて「第29回 読売出版広告賞」贈賞式を行った。
「読売出版広告賞」は、出版界のさらなる発展と出版広告の活性化に寄与することを目的として1996年に創設された賞である。第29回となる今回は、2023年12月2日から2024年12月31日の期間に読売新聞に掲載されたすべての出版広告の中から大賞、金賞、銀賞、銅賞、特別賞が選ばれた。
「第29回 読売出版広告賞」の受賞詳細は以下の通り。
2024年6月17日付朝刊 全3段
制作会社:ウッディ
デザイナー:笠原万穂氏
コピーライター:須永敦子氏
選評(中江有里氏):
「三島賞げと!大重版げと!そしてこの度は本広告賞の大賞げと!おめでとうございます。
作家の名を冠した文学賞は堅苦しくなりがち。そんな概念を覆すコピーに惹かれた。
これが〇〇賞受賞だと『謹んで受け取ります』『げと!』なら『獲っちゃった!』
純文学は新たな文体の出現。まだ読んだことのない本を世に送り出す出版社と編集者のアンテナは鋭い。読者に届ける広告は斬新なものがふさわしい。」
2023年12月7日付朝刊 5段2割
制作:筑摩書房宣伝課
アートディレクター・デザイナー:濱中祐美子氏
選評(北村薫氏):
「広告に著名人の推薦の辞が並ぶのは、ごく普通の形です。この本の場合も、力のある言葉が寄せられています。しかし、それらは下に置かれ、上には普通の人々の『語り』がずらりと並んでいます。
町田康氏の『こんな本出されたら儂ら稼業あがったりやで』に対し、
──論より証拠!
というように。
中央の説明部分へ進むと、大きな字から小さな字へと、まるで目が遠近法の消失点に誘われるように『どこを開いても、そこに人間がいる──。』へと行き着く。
見事な文字の処理に、感嘆するしかありません。」
2024年9月29日付朝刊 全5段
制作:KADOKAWA
クリエイティブディレクター・コピーライター:阿部崇平氏(KADOKAWA)
デザイナー:木村隼人氏(KADOKAWA)
フォトグラファー:成田剛氏(unap)
選評(嶋浩一郎氏):
「夫婦のあり方はさまざまな現代社会。受賞作の主人公もかなり異色な夫婦です。戦地に赴く軍人の夫と、その夫に結婚以来全く会ったことのない令嬢妻。しかも、彼女は離婚を企てているという謎の夫婦関係。
広告では、長年連れ添ったと思われる老夫婦がお茶を飲みながらコミックスを読んでいます。これもまた、かなりシュールな風景。旦那さんが奥さんを見つめる視線には、どこか不穏な空気が漂っています。
思わず、どんな夫婦関係なのか想像を掻き立てられる。ファンにとっては『作品の世界観をこう表現したか!』と思わせ、未読の人には『とにかく気になる』インパクトある広告表現になっています。」
2024年1月4日付朝刊 全15段
クリエイティブディレクター:佐藤雄介氏(電通)
アートディレクター:瀧澤章太郎氏(電通)
グラフィックプロデューサー:西澤優花氏(電通クリエイティブピクチャーズ)
デザイナー:浅岡敬太氏、飯塚朋未氏(電通クリエイティブピクチャーズ)
営業:栗野卓氏(電通)
選評(幅充孝氏):
「紙の新聞ならではの広告という意味で、全15段広告の存在感は増しているのではないか。古紙パルプを多く含んだ中質紙には、スマートフォンの画面にはないテクスチャーがあり、単行本にはないスケールがある。このメガタイトルの熱狂の只中にいる者のアーカイブ欲を煽り、一方で作品に対して未知の者でも、何か大きなうねりが起こっていることを直感できる力強い作品だ。
内容に目を向けても、筆文字で描かれる『最強対最強』のコピーはシンプルながら物語の佳境を感じさせ、躍動する作者の筆致は世紀の対決へ向かいほとばしっていることを示唆する。
画面右側だけ空いている目をモチーフにしたフレームのデザインが何だろうと気になっていたが、同日の他紙にはライバルである『両面宿儺』が描かれたバージョンもあり、2紙を繋げてポスターにすることができたようだ。
ファンダム・カルチャーの成熟と、その『聖なる価値(sacred values)』を紙で保有する意味を考えさせる広告である。」
2024年4月25日付朝刊 3段8割
制作:カルチュア・コンビニエンス・クラブ アートラボ事業本部コンテンツ事業
書籍:伊賀本結子氏
選評(小布施祐一氏):
「余白を美しいと思う感性は、日本人特有だといわれる。画面の隅々までくまなく描かれる西洋画と、余白にこそ重きをおく日本画を比べてみると、その違いは明白だ。
京都の窓を集めた写真集の広告。上段の、左上と右下が空いた四角の枠は、両手の親指と人差し指で構図を決める、あのポーズを連想させる。そのフレームの右上に『窓』。明朝体というのは本当に美しいフォントだと思う。
余計なものが一切そぎ落とされ、余白が最小限の要素を最大限に引き立たせている。伝えたい情報を上品に凝縮した下段も、余白の配置が美しい。サンヤツの小空間を、そよ風が通り抜けていくようだ。」
「読売出版広告賞」は、出版界のさらなる発展と出版広告の活性化に寄与することを目的として1996年に創設された賞である。第29回となる今回は、2023年12月2日から2024年12月31日の期間に読売新聞に掲載されたすべての出版広告の中から大賞、金賞、銀賞、銅賞、特別賞が選ばれた。
「第29回 読売出版広告賞」の受賞詳細は以下の通り。
大賞
集英社『みどりいせき』2024年6月17日付朝刊 全3段
制作会社:ウッディ
デザイナー:笠原万穂氏
コピーライター:須永敦子氏
選評(中江有里氏):
「三島賞げと!大重版げと!そしてこの度は本広告賞の大賞げと!おめでとうございます。
作家の名を冠した文学賞は堅苦しくなりがち。そんな概念を覆すコピーに惹かれた。
これが〇〇賞受賞だと『謹んで受け取ります』『げと!』なら『獲っちゃった!』
純文学は新たな文体の出現。まだ読んだことのない本を世に送り出す出版社と編集者のアンテナは鋭い。読者に届ける広告は斬新なものがふさわしい。」

大田ステファニー歓人・著『みどりいせき(集英社)』書影
金賞
筑摩書房「大阪の生活史」2023年12月7日付朝刊 5段2割
制作:筑摩書房宣伝課
アートディレクター・デザイナー:濱中祐美子氏
選評(北村薫氏):
「広告に著名人の推薦の辞が並ぶのは、ごく普通の形です。この本の場合も、力のある言葉が寄せられています。しかし、それらは下に置かれ、上には普通の人々の『語り』がずらりと並んでいます。
町田康氏の『こんな本出されたら儂ら稼業あがったりやで』に対し、
──論より証拠!
というように。
中央の説明部分へ進むと、大きな字から小さな字へと、まるで目が遠近法の消失点に誘われるように『どこを開いても、そこに人間がいる──。』へと行き着く。
見事な文字の処理に、感嘆するしかありません。」
銀賞
KADOKAWA「拝啓見知らぬ旦那様、離婚していただきます」2024年9月29日付朝刊 全5段
制作:KADOKAWA
クリエイティブディレクター・コピーライター:阿部崇平氏(KADOKAWA)
デザイナー:木村隼人氏(KADOKAWA)
フォトグラファー:成田剛氏(unap)
選評(嶋浩一郎氏):
「夫婦のあり方はさまざまな現代社会。受賞作の主人公もかなり異色な夫婦です。戦地に赴く軍人の夫と、その夫に結婚以来全く会ったことのない令嬢妻。しかも、彼女は離婚を企てているという謎の夫婦関係。
広告では、長年連れ添ったと思われる老夫婦がお茶を飲みながらコミックスを読んでいます。これもまた、かなりシュールな風景。旦那さんが奥さんを見つめる視線には、どこか不穏な空気が漂っています。
思わず、どんな夫婦関係なのか想像を掻き立てられる。ファンにとっては『作品の世界観をこう表現したか!』と思わせ、未読の人には『とにかく気になる』インパクトある広告表現になっています。」

銅賞
集英社「呪術廻戦 25巻 シリーズ累計発行部数9,000万部突破!」2024年1月4日付朝刊 全15段
クリエイティブディレクター:佐藤雄介氏(電通)
アートディレクター:瀧澤章太郎氏(電通)
グラフィックプロデューサー:西澤優花氏(電通クリエイティブピクチャーズ)
デザイナー:浅岡敬太氏、飯塚朋未氏(電通クリエイティブピクチャーズ)
営業:栗野卓氏(電通)
選評(幅充孝氏):
「紙の新聞ならではの広告という意味で、全15段広告の存在感は増しているのではないか。古紙パルプを多く含んだ中質紙には、スマートフォンの画面にはないテクスチャーがあり、単行本にはないスケールがある。このメガタイトルの熱狂の只中にいる者のアーカイブ欲を煽り、一方で作品に対して未知の者でも、何か大きなうねりが起こっていることを直感できる力強い作品だ。
内容に目を向けても、筆文字で描かれる『最強対最強』のコピーはシンプルながら物語の佳境を感じさせ、躍動する作者の筆致は世紀の対決へ向かいほとばしっていることを示唆する。
画面右側だけ空いている目をモチーフにしたフレームのデザインが何だろうと気になっていたが、同日の他紙にはライバルである『両面宿儺』が描かれたバージョンもあり、2紙を繋げてポスターにすることができたようだ。
ファンダム・カルチャーの成熟と、その『聖なる価値(sacred values)』を紙で保有する意味を考えさせる広告である。」
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— 読売新聞社ビジネス局 (@yomiojo) January 3, 2024
特別賞
光村推古書院「京都の意匠 窓」2024年4月25日付朝刊 3段8割
制作:カルチュア・コンビニエンス・クラブ アートラボ事業本部コンテンツ事業
書籍:伊賀本結子氏
選評(小布施祐一氏):
「余白を美しいと思う感性は、日本人特有だといわれる。画面の隅々までくまなく描かれる西洋画と、余白にこそ重きをおく日本画を比べてみると、その違いは明白だ。
京都の窓を集めた写真集の広告。上段の、左上と右下が空いた四角の枠は、両手の親指と人差し指で構図を決める、あのポーズを連想させる。そのフレームの右上に『窓』。明朝体というのは本当に美しいフォントだと思う。
余計なものが一切そぎ落とされ、余白が最小限の要素を最大限に引き立たせている。伝えたい情報を上品に凝縮した下段も、余白の配置が美しい。サンヤツの小空間を、そよ風が通り抜けていくようだ。」