2月20日、ドイツのiFインターナショナルフォーラムデザインが主催する「iFデザインアワード 2025」の最終審査が行われ、受賞プロジェクトが発表された。

iFデザインアワードはドイツ・ハノーバーに本拠地をおくインターナショナルフォーラムデザインにより、1953年に設立された国際的なデザイン賞の一つである。毎年、全世界の工業デザインを対象に優れたデザインを選定していて、賞は、「プロダクト」「パッケージ」「コミュニケーション」「サービスデザイン」「建築」「インテリア・内装」「プロフェッショナルコンセプト」「UX」「UI」の9分野で構成されている。

今回は、66カ国から寄せられた1万1000件近くの応募に対し、23カ国から集まった131名の専門家による審査が行われ、iFデザインアワード3346件が、iFデザインゴールドアワード75件が発表された。

日本からiFデザインアワードゴールドを獲得した12件は以下の通り。

キヤノンアネルバ「AX07」

部門:Product/Industry
企画種別:半導体製造装置
クライアント・製造会社:キヤノンアネルバ
デザイン会社:キヤノン
プロダクトデザイナー:Yasunori Senshiki
UIデザイナー:Nobuo Oshimoto, Emiko Yoshio, Tatsuya Hisatomi
UXデザイナー:Susumu Oya, Masatoshi Lin, Akari Komma
公開日:2024年
開発期間:機密
対象地域:アジア、ヨーロッパ、北米
対象ジャンル:貿易・産業

企画概要:本製品は、ナノレベルの厚さで金属や絶縁体を「成膜・積層」し、電気回路を形成する半導体製造装置である。急速に多様化する半導体に対応するため、さまざまな材料の成膜を可能にするモジュール化を実現した次世代の成膜プラットフォームである。複雑な内部機構を多角形の筒状構造でカバーすることで、小型化・拡張性・操作性を飛躍的に向上させた。これにより、クリーンルーム内で作業するオペレーターの安全性と作業効率を向上させ、働く意欲を高める設計となっている。

講評:「半導体のクリーンルーム製造向けに設計されたこの高度に複雑な機械は、モジュール化によって効率を最大化している。開発および生産設備を個別に用意する必要がなく、両者の機能を1台に統合することで、コンパクトかつ高機能な設計となっている。このシンプルなデザインは、電力および水の消費量を大幅に削減する点でも優れている。特に、多角形の幾何学的な形状の遊び心のあるデザインに強く感銘を受けた。」

福井県立恐竜博物館「福井県立恐竜博物館 化石研究体験」

部門:Interior Architecture/Cultural Exhibitions
企画種別:博物館
クライアント・製造会社:福井県立恐竜博物館(福井県)
デザイン会社:丹青社(SHITORI Satoshi, SHINOHARA Koichi, OKURA Toshiaki, NOMOTO Makiko, SATO Takuto, ITO Makoto)/黒川紀章建築都市設計事務所(SAITO Orie, FUJISAWA Tomohiro, TAKAHASHI Morio, WATANABE Chihiro, YAMANA Kurara)
開発開始年:2023年
開発期間:24カ月以上
対象地域:アジア
対象ジャンル:一般消費者/公共部門・政府/小学生以上の子どもと家族

企画概要:福井県立恐竜博物館の新館において、「化石研究体験」プログラムを企画・設計した。本プログラムは、化石研究のさまざまなプロセスを通じて参加者を研究の世界に没入させるデザインとなっている。「研究の『リアル』に触れる」というコンセプトのもと、専門的で学術的な研究作業をインタラクティブな体験へと変換。落ち着いた照明による洗練された空間デザインが緊張感を適度に演出し、実際の研究で使用される本物の道具、機材、岩石、化石を取り入れることで、前例のない本格的な体験を提供する。

講評:「この恐竜をテーマとした博物館は、ハリウッド的な演出を意図的に避けた点が特筆される。この魅力的な空間は、訪問者の注意を惹きつけることを前提とせず、研究というテーマを真摯に伝える。あらゆる年齢層に適しており、恐竜という驚異的な先史時代の生物の研究がどのようなものかを体感できる雰囲気を創出している。子ども向けではあるが、決して子ども騙しではない。このデザインの魅力は、審査員の中にも『研究者になりたい』と思わせる人がいたほどだった。」

European Cultural Centre「World-Food Waste Teahouse」

部門:Architecture/Public Architecture
企画種別:Tea House Pavilion(茶室パビリオン)
クライアント・製造会社:European Cultural Centre/Dubai Design Week
デザイン会社:三菱地所設計(Takaaki Fuji, Hiroya Inage)/Mitsubishi Jisho Design Asia(De Yuan Kang, Vibha Krishna Kumar)
公開日:2023年
開発期間:6カ月以内
対象地域:アフリカ、アジア、オーストラリア・オセアニア、ヨーロッパ、北米、南米
対象ジャンル:世界中の一般観衆

企画概要:「World-Food Waste Teahouse」は、食品廃棄物を建築資材として活用し、世界各地に設置される茶室インスタレーションのシリーズである。本プロジェクトは、世界中で深刻な問題となっている食品廃棄物の大量発生に対する解決策を提示するとともに、食品廃棄物を建築資材として活用する可能性を探求することを目的としている。本プロジェクトの基本理念は「地域性への敬意」「普遍性」「循環性」であり、2023年には2つのインスタレーションが完成した。1つはイタリア・ヴェネツィアの「ベネチ庵」、もう1つはアラブ首長国連邦・ドバイの「アラビ庵」である。

講評:「植物学者なら誰でも、『雑草という植物は存在せず、単にその場に適さない植物があるだけだ』と言うだろう。同じように、『廃棄物』の定義も視点次第で大きく変わる。この美しい格子構造の建築物は、完全に食品廃棄物からつくられており、実用的には茶室として機能するとともに、概念的には廃棄物の本質とその最適な管理方法について考え、議論する場を提供する。まさに『考えるための食糧(Food for thought)』とも言えるデザインだ。」

NTTソノリティ「nwm ONE」

部門:Product/Audio
企画種別:ワイヤレスオープンイヤーヘッドフォン
クライアント・製造会社:NTTソノリティ
デザイン会社:NTTソノリティ/83Design
公開日:2024年
開発期間:機密
対象地域:アジア、ヨーロッパ、北米
対象グループ:一般消費者

企画概要:「nwm ONE」は、環境音とオーディオ体験の調和的な共存を実現し、革新的な音響体験を提供するオープンイヤースタイルのヘッドフォンである。開放型デザインによる空間音響体験を革新し、2ウェイドライバーを搭載することで優れた周波数特性を実現。さらに、独自技術により音漏れを抑えつつ、わずか6.5オンス(約184g)という超軽量設計により、長時間でも快適に装着できるストレスフリーな使用感を提供する。

講評:「nwm ONE ワイヤレスオープンイヤーヘッドフォンは、周囲の音を遮断することなく、卓越した音響体験を提供する。現実からの逃避ではなく、現実をより豊かにするという発想が際立つ。デザインは洗練され、無駄がなく、クリーンなフォルムが特徴。このソリューションは、従来のイヤフォンや密閉型ヘッドフォンに代わる、より健康的で社交的、かつエレガントな選択肢である。」

DCW éditions PARIS「FOCUS」

部門:Product/Lighting
企画種別:シャンデリア
クライアント・製造会社:DCW éditions PARIS
デザイナー:沖津雄司氏
公開日:2022年
開発期間:24カ月以上
対象地域:アフリカ、アジア、オーストラリア・オセアニア、ヨーロッパ、北米、南米
対象グループ:一般消費者

企画概要:「FOCUS」は、周囲の光、空気、景色を再構築することで生まれた照明器具であり、機能性と美しさを兼ね備え、使用者の環境への意識を高めるデザインとなっている。昼間は点灯していなくても、空間に意味を持つオブジェとして機能する。薄く軽量なフラットレンズが、モビールのようなバランスを保ちながら、窓から差し込む自然光や室内の間接光を集め、拡散する。同時に、空気の流れに身を委ねるような柔軟な動きを見せる。夜間や光の弱い環境では、レンズの縁に埋め込まれた照明装置が、フレーム内の景色を優しく照らし、空間を穏やかに明るくする。

講評:「このデザインは、イノベーションが直線的なプロセスではないことを示す好例である。この巧妙な照明ソリューションは、電子機器を使用せず、何世紀も前からあるレンズ技術を活用し、室内空間で自然光を遊び心たっぷりに演出する。形状は、子どものモビールとエレガントなシャンデリアを融合させたハイブリッドなデザインであり、『FOCUS』はまさに光を活き活きとさせる存在である。」

Good Life & Travel Company「NOT A HOTEL FUKUOKA」

部門:Interior Architecture/Residential Interiors
企画種別:貸し別荘
クライアント・製造会社:Good Life & Travel Company
デザイン会社:A.N.D., 乃村工藝社(Ryu Kosaka , Reiko Saitou)/ axonometric + NKS2 architects(Kei Sasaki, Hiroyuki Sato)
公開日:2023年
開発期間:24カ月以上
対象地域:アジア
対象グループ:一般消費者

企画概要:「NOT A HOTEL」シリーズとして初めての都市型コンドミニアム。通常の大規模な単一構造ではなく、それぞれ異なるコンセプトを持つ8つの住戸(=客室)が集合する、ライフスタイルの多様性に対応した立体的な都市空間としてデザインされた。前庭は、敷地に隣接する公園とシームレスに接続されており、客室の静寂から賑やかな都市環境へと自然に移行する役割を果たす。施設全体には統一感を持たせながらも、それぞれの部屋は異なるコンセプトとデザインを採用し、都市の利便性を享受しつつ、まるで山荘のような穏やかな時間を提供する空間を実現している。

講評:「『変化は休息に匹敵する』という格言に応えるかのように、『NOT A HOTEL』は、ゲストに異なる現実を体験させるユニークな建築空間を創り出した。この『都市型コンドミニアム』は、8つの個性的なリビングスペースを通じて、非日常的な体験と多様なライフスタイルを提供する。プロジェクト全体が、室内空間と外部の都市環境とのバランスの取れた相互作用を生み出すために細部まで設計されている点が秀逸である。」

Mistletoe Japan「学ぶ、学び舎」

部門:Architecture/Public Architecture
企画種別:Architecture
クライアント・製造会社:Mistletoe Japan
デザイン会社:VUILD(Koki Akiyoshi, Hiroyuki Nakazawa, Gaku Shinohara, Kenta Isebo, Kazuya Takano)/佐藤淳構造設計事務所(Jun Sato, Ikuyo Honda, Kosuke Suehiro, Yuta Shimoda)
公開日:2023年
開発期間:24カ月以上
対象地域:アジア
対象グループ:一般消費者/公共部門・政府

企画概要:このRC製造施設は、東京学芸大学の産官学連携プロジェクト「教育インキュベーションセンター」によって建設された。建物にはCNC加工された木製の梁やパネルがコンクリートスラブの型枠として使用されており、施工後も「残存型枠」として仕上げ面にそのまま残されている。このプロジェクトでは、通常の建築設計や構造設計の枠を超えたシステムを構築。曲面形状を生成する幾何アルゴリズムを用いてCADモデルを自動生成し、それを補助線として5軸CNC加工用のCAMパスを作成。これにより、木製型枠の社内製造が可能となった。

講評:「『学ぶ、学び舎』は、驚くほど革新的なパビリオンである。コンクリートと木材を組み合わせることで、ダイナミックな空間を生み出し、訪れる人々を積極的に空間へと引き込むデザインとなっている。歩行可能な屋根構造は、馴染みのある素材を用いることで、新たな発想を促し、思考を刺激する空間を実現している。圧巻の仕上がりである。」

友安製作所「BRUSHUP」シリーズ

部門:Product/Home Furniture
企画種別:清掃用具
クライアント・製造会社:友安製作所
デザイン会社:TENT
公開日:2023年
開発期間:12カ月以内
対象地域:アジア、ヨーロッパ、北米
対象グループ:一般消費者/貿易・製造業

企画概要:創造的なプロセスには失敗がつきものだが、不要なものが積み重なると生産性が損なわれる。同社は「整理された空間が、整理された思考とより良いアイデアを生む」と考え、この「BRUSHUP」シリーズを開発した。このシリーズは、丈夫で持続可能な素材である鉄と木を使用し、異なる用途やニーズに適応する6種類のアイテムで構成されている。デザインは機能性と一体であり、日常使用に耐えうる耐久性を持ちながら、洗練された和の美しさがモダンなインテリアにも自然に溶け込むよう設計されている。

講評:「日本の職人技によるデザインの質の高さとミニマリズムは、常に私たちを魅了する。『BRUSHUP』シリーズは、家庭用清掃用具を徹底的に本質まで削ぎ落とし、馴染みのある形状に新しさと革新性を吹き込んでいる。私たちは、この普遍的なデザイン言語に恋をした。伝統的な製造技術を守ることこそ、最も誠実で持続可能なアプローチである。」

ソニー・インタラクティブエンタテインメント「PlayStation®5 Pro」

部門:Product/Gaming/VR/AR
企画種別:ゲームコンソール
クライアント・製造会社:ソニー・インタラクティブエンタテインメント
デザイン会社:ソニー・インタラクティブエンタテインメント/グローバルデザインセンター
公開日:2024年
開発期間:機密
対象地域:アフリカ、アジア、オーストラリア・オセアニア、ヨーロッパ、北米、南米
対象グループ:一般消費者

企画概要:「PlayStation®5 Pro」は、現行のPlayStation®5の技術をさらに発展させ、より高度なゲーム体験を可能にする次世代ゲームコンソールである。ハプティックフィードバック、アダプティブトリガー、3Dオーディオ技術、カスタムCPU・GPU・SSDといった従来の技術を基盤としながら、さらに進化したGPUとメモリを搭載することで、より高速なレンダリングを実現。また、先進的なレイトレーシング技術により、光の反射や屈折がよりダイナミックに表現されるほか、AI駆動のアップスケーリング技術「PlayStation Spectral Super Resolution」を採用し、映像表現のさらなる向上を図っている。

講評:「『PlayStation®5 Pro』は、複数世代にわたる進化を反映した、大胆かつ未来的なデザインを備えている。高度な技術、重層的なエコシステム、洗練されたアーキテクチャのデザイン言語を通じて、ゲーム体験を新たな次元へと押し上げる可能性を秘めている。また、現在世界的な盛り上がりを見せているeスポーツにおいても、最も有望なプラットフォームおよびフォーマットのひとつであると確信している。」

NEC「NEC避難行動支援サービス」

部門:Service Design 
企画種別:デジタル防災支援サービス
クライアント・製造会社:NEC
デザイン会社:NEC(アートディレクター:Yoshiteru Tomooka,リードデザイナー:Naomi Shinada)/ループデザイン(Yasuhisa Tawa, Yuzuki Tamai, Keita Imai)
公開日:2024年
開発期間:機密
対象地域:アジア
対象グループ:公共部門・政府

企画概要:この防災支援サービスは、自治体と地域コミュニティの連携を支援し、災害時に住民の安否確認や避難支援を円滑に行うことを目的としている。日本は世界でも有数の自然災害が多発する国であり、高齢者や単独での避難が困難な人々が取り残されないようにすることが大きな課題となっている。NECは、自治体や地域住民がこの課題に対応できるよう、デジタルシステムを開発。現場での実証実験から得た知見を取り入れ、自治体の導入・運用がしやすく、住民にも直感的に使いやすい設計とすることで、災害時の安心感向上に貢献している。

講評:「日本は、地震、津波、洪水、火山噴火など、さまざまな自然災害に見舞われてきた歴史を持つ。そのため、日本のデザイナーは、迅速かつ効率的な緊急対応サービスの必要性を深く理解している。このアプリケーションは、自治体のデータと初動避難計画を効果的に連携させ、住民や救助隊がリアルタイムで情報を共有できる仕組みを提供している。まさに『命を守る』ためのサービスである。」

Unison Dept.「TEN'I」

部門:Product/Luggage/Bags
企画種別:レザーウォレット
クライアント・製造会社:Atelier Unison Dept.
デザイン会社:Kougasha(ヤマグチケンスケ氏)
公開日:2023年
開発期間:12カ月以内
対象地域:アジア
対象グループ:一般消費者

企画概要:「TEN'I」は、縫製や接着、金具(ファスナー、フック、マグネットなど)を一切使用せず、1枚の革のみで構成された2つ折り財布である。縫い目のほつれやファスナーの破損、フックの接触によるダメージの心配がなく、革本来の耐久性が財布の寿命に直結するデザインとなっている。また、簡単に平らな革の状態に戻せるため、ユーザー自身がクリーニングやメンテナンスを行うことができる。機能性と持続可能性を兼ね備え、現代社会のニーズに応える唯一無二のウォレットが誕生した。

講評:「『TEN'I』は、まさに『シームレス』なデザインの原則を具現化した作品である。このクラシックなレザーウォレットは、縫製・リベット・接着を一切使用せず、高い耐久性を実現している。また、1枚革を巧みに折りたたむことで構成されており、持続可能な循環型デザインの好例でもある。」

日本再生「承継樓 : 古民家トランスフォーメーション モデルハウス」

部門:Interior Architecture/Residential Interiors
企画種別:モデルハウス
クライアント・製造会社:日本再生/山岸建工
デザイン会社:Design Japan(Kenji Sumi)/山岸建工(Yoshiharu Yamagishi, Hayato Maruyama)
公開日:2024年
開発期間:24カ月以内
対象地域:アジア、オーストラリア・オセアニア、ヨーロッパ、北米
対象グループ:一般消費者

企画概要:古民家は、日本の伝統的な住居のひとつであり、特に上越地域の古民家は、厚みのある欅の柱や梁による堅牢で美しい構造が特徴である。この地域では、積雪が約10メートルに達することもあり、これに適応した建築様式が発展してきた。「承継樓」は、この特性を活かしながら、現代の最先端技術を取り入れ、古民家が抱える「立地の不便さ」「断熱性・耐震性の問題」「高コスト」といった課題を解決するプロジェクトである。移築や改修を通じて、次世代に向けた持続可能で快適なライフスタイルを提供する。

講評:「『承継樓』は、古民家を再生するプロジェクトの中でも、特に創造的かつ現代的な視点で持続可能性を追求している。その素材選びや建築のディテールへのこだわりは、目を見張るものがある。室内空間の整理と風景の調和、さらには地域の気候への適応が見事にバランスされており、訪れる人々に心地よい静寂をもたらす。まさに、共有体験を生み出す空間デザインの傑作である。」