北アルプスの最奥部に位置する山小屋、雲ノ平山荘は、「自然」「人、社会、自然の関連性」をテーマした芸術表現に対し、制作活動の場を提供する「雲ノ平山荘 アーティスト・イン・レジデンス・プログラム」を2020年夏山シーズンから実施する。
雲ノ平は、飛騨山脈・黒部川源流にある、標高2600m付近に位置する溶岩台地で、どの登山口からもアプローチに1日はかかるため「最後の秘境」とも呼ばれている。黒部五郎岳や水晶岳などの名峰に囲まれ、草原の中に点在する池塘や花畑がつくり出す、まるで天上の庭園のような情景が雲ノ平の特徴。

同プログラムは、雲ノ平の自然に浸りながら、新しい芸術表現に挑戦できる。8月下旬から10月初旬の間の最大2週間程度の宿泊が可能で、創作活動に関わる生活面のサポートはすべて雲ノ平山荘が行う。

絵画や写真、グラフィックアート、建築、文学など、あらゆる分野の表現を対象とし、1シーズンにつき1~2人を募集する。
日本の木造建築文化や茶道、花道、陶芸・漆芸といった工芸など、日本には豊かな自然の資源を生かした独自の文化がある。しかし、20世紀以降の近代化の流れのなかで、古い文化は急速に放棄され、現在は自然と人間社会の分断が著しい状況になっている。

年間1000万人に迫る登山者が利用する北アルプスのような国立公園でさえ、予算や人材が著しく欠乏し、自然保護のシステムがほとんど存在せず各地で山の荒廃が進んでいる。

同プログラムでは、山と街、歴史と現代、生活や産業をつなぎ合わせ、高次元に調和した環境を社会のデザインとして生み出すことを狙いとしている。都会の喧騒を逃れて山を訪れるだけではなく、山で育んだイメージを都市の創造性に還元し、日常的により多くの人々が自然の価値について考える機会をつくることで、自然環境と都市空間の分断を解消していく。

山小屋が人と自然の新しい関係性を創造する基地となることで、手詰まり感のある国立公園問題や、アウトドアカルチャーの持続可能性にとってポジティブな刺激を与えていく。