ひらめきランチを探せ! Vol.22 南青山・とんかつ ここまでやるか。
ひらめきが足りないのは、ランチが足りないからだ! そんな仮説に基づいて、<ひらめきランチ探検隊>が結成されました。クリエイティビティとランチの関係。発想力のある人は、ちゃんと外出ランチを楽しんでいると思うのです。かなり「明確な事実」として。大原則は、以下の3つ。①広告・メディア・マーケティング系の人がいそうな界隈を探検する。②1500円以内を探検する(1000円以内も積極的に)。③メニューにアイデアがある気合い充分・独立系のお店を探索する。第22回はひらめきランチ探検隊隊員の黒澤晃さんが南青山のとんかつ専門店「ここまでやるか。」に伺い、予算1500円以上の特別編として、絶品のヒレカツランチをレポートします。(マスメディアン編集部)
「昼メシ行こう!」と親分の声がする。
子分はキャッチコピーやデザインの手をパタリと止めて、「はーい!」と答える。親分はクリエイティブディレクターやチームリーダーだったりするのだが、<みんなで徒党を組んで和気あいあいとランチに行く>は極めて昭和的な風景であった。
「で、何を食しましょうか」と立ち上がる子分(つまりチーム員)。壁の時計は11時50分。間もなく各ビルから空腹人が一斉にランチ移動を開始する。
「明日はプレゼンだ」
「なるほど、ということは……」
「負けられないプレゼンじゃないか、そうだろ」
親分は一同の顔を熱くねっとりと見回す。
「なるほど」と大声に出さないまでも、大きくうなずく一同。
その反応をしばしおのれの胸中で確かめながら親分はかく宣言する。
「みなのもの、カツを食しに行こう!!」
多少盛ったものの、あらましこんな感じで、競合プレゼンや大きなプレゼンの前日・当日のランチは「カツ」を食べに行くことが多かった。「勝つ」と「カツ」の単なる語呂合わせだったから、勝敗に大きく寄与したことは誠に残念ながらなかったのだが、それはそれとして、プレゼン前の企画会議の連続で落ちた体力をリカバリーするには効果があったのでは?と振り返る。
さて。令和6年、ところは青山。美味なるトンカツ屋さんがあるとの噂を聞いて出かけた。名は「ここまでやるか。」というらしい。ランチにしては豪勢だが、最近オンラインの打ち合わせが多く、弛緩して生きている感もあったので、腹だけでなく心にも「カツ」を入れようとの魂胆もあった。 入ると、カウンター8席とテーブル1席の小ぶりでシャレた店である。着席すると「ここまでやるか。」のエンボス文字のおしぼりが登場する。トレイにはキャベツが品良く置かれ、右には可愛めサイズのすり鉢とすりこぎがあり、客はそれをジコジコと擦り、ゴマの香りを漂わせつつ、主役のトンカツを待つ。ひたすら待つ。脇役はそれだけではなく左から右へ、カナリア諸島伝来のモホソース、日本代表のワサビ、だし醤油のたれが並ぶ。しかも塩は何やらバスク地方の湧き塩水を干したものという。まさに国際的な陣容で、ここまでやるかの気合をヒシヒシと感じたのであった。 カウンター越しにパチパチと揚げ始められたら、もういけない、たまらない。揚げ油の匂いと音で、理性は崩れ、食欲という本能がこぼれあふれんばかりになる。
そうして、ついにカツが舞台に登場した。ヒレカツである。思わずホーッと歓声が上がり、その威容にまず目を奪われる。素晴らしい4つのカツが上向きに、少し赤みを帯びた断面を見せて、光り輝いているのである。それはかつて一度も見たことのない光景であった! 低温でじっくりと揚げ、最後に高温で揚げることで、中(豚肉)はしっとり柔らかく、外(衣)はサクサクカラッと仕上がるのだそうである。供されるソースだれもねっとりとうまさを主張して、さて、全ての脇役と主役がここに揃い、幕は上がったのである。
いただきます!と一口食べると……ふわっとしていながらも、うま味の芯が明瞭に舌を通過し……もうやめよう。言葉にすると陳腐になる。言葉にする力量もおのれにはない。ここはもうこの美味を体験してもらう以外の道はないのである。ちなみに私はワサビとの相性に目を(舌を)みはった。「トンカツはカラシに決まってるだろ」の常識を覆す美味だったことを記しておく。 店を出ると小雨が降っていた。次の打ち合わせに向かおう。そういえば、数日後にプレゼンがあることを思い出す。「勝つ」か「負ける」か。そうして傘を開きながら思う。ただひたすらにうまいものは、そんな地上の勝ち負けを飛び超えて、宇宙に気高く存在するものなのだ。
◎ひらめきポイント:勝負ランチは豚肉でレジリエンスを
今回はひらめきランチの1500円以内ルールを超えた特別編。なぜかというと現代人の体と心の回復力に、豚に含まれるビタミンB1が素晴らしい働きをする(なんと牛肉の8倍も)という効果を特別に推したかったからである。
【店舗情報】
とんかつ ここまでやるか。
住所:東京都港区南青山3-2-4セントラル青山No6-BA
予約・お問い合わせ:050-5593-0438
https://tabelog.com/tokyo/A1306/A130603/13294363/
子分はキャッチコピーやデザインの手をパタリと止めて、「はーい!」と答える。親分はクリエイティブディレクターやチームリーダーだったりするのだが、<みんなで徒党を組んで和気あいあいとランチに行く>は極めて昭和的な風景であった。
「で、何を食しましょうか」と立ち上がる子分(つまりチーム員)。壁の時計は11時50分。間もなく各ビルから空腹人が一斉にランチ移動を開始する。
「明日はプレゼンだ」
「なるほど、ということは……」
「負けられないプレゼンじゃないか、そうだろ」
親分は一同の顔を熱くねっとりと見回す。
「なるほど」と大声に出さないまでも、大きくうなずく一同。
その反応をしばしおのれの胸中で確かめながら親分はかく宣言する。
「みなのもの、カツを食しに行こう!!」
多少盛ったものの、あらましこんな感じで、競合プレゼンや大きなプレゼンの前日・当日のランチは「カツ」を食べに行くことが多かった。「勝つ」と「カツ」の単なる語呂合わせだったから、勝敗に大きく寄与したことは誠に残念ながらなかったのだが、それはそれとして、プレゼン前の企画会議の連続で落ちた体力をリカバリーするには効果があったのでは?と振り返る。
さて。令和6年、ところは青山。美味なるトンカツ屋さんがあるとの噂を聞いて出かけた。名は「ここまでやるか。」というらしい。ランチにしては豪勢だが、最近オンラインの打ち合わせが多く、弛緩して生きている感もあったので、腹だけでなく心にも「カツ」を入れようとの魂胆もあった。 入ると、カウンター8席とテーブル1席の小ぶりでシャレた店である。着席すると「ここまでやるか。」のエンボス文字のおしぼりが登場する。トレイにはキャベツが品良く置かれ、右には可愛めサイズのすり鉢とすりこぎがあり、客はそれをジコジコと擦り、ゴマの香りを漂わせつつ、主役のトンカツを待つ。ひたすら待つ。脇役はそれだけではなく左から右へ、カナリア諸島伝来のモホソース、日本代表のワサビ、だし醤油のたれが並ぶ。しかも塩は何やらバスク地方の湧き塩水を干したものという。まさに国際的な陣容で、ここまでやるかの気合をヒシヒシと感じたのであった。 カウンター越しにパチパチと揚げ始められたら、もういけない、たまらない。揚げ油の匂いと音で、理性は崩れ、食欲という本能がこぼれあふれんばかりになる。
そうして、ついにカツが舞台に登場した。ヒレカツである。思わずホーッと歓声が上がり、その威容にまず目を奪われる。素晴らしい4つのカツが上向きに、少し赤みを帯びた断面を見せて、光り輝いているのである。それはかつて一度も見たことのない光景であった! 低温でじっくりと揚げ、最後に高温で揚げることで、中(豚肉)はしっとり柔らかく、外(衣)はサクサクカラッと仕上がるのだそうである。供されるソースだれもねっとりとうまさを主張して、さて、全ての脇役と主役がここに揃い、幕は上がったのである。
いただきます!と一口食べると……ふわっとしていながらも、うま味の芯が明瞭に舌を通過し……もうやめよう。言葉にすると陳腐になる。言葉にする力量もおのれにはない。ここはもうこの美味を体験してもらう以外の道はないのである。ちなみに私はワサビとの相性に目を(舌を)みはった。「トンカツはカラシに決まってるだろ」の常識を覆す美味だったことを記しておく。 店を出ると小雨が降っていた。次の打ち合わせに向かおう。そういえば、数日後にプレゼンがあることを思い出す。「勝つ」か「負ける」か。そうして傘を開きながら思う。ただひたすらにうまいものは、そんな地上の勝ち負けを飛び超えて、宇宙に気高く存在するものなのだ。
◎ひらめきポイント:勝負ランチは豚肉でレジリエンスを
今回はひらめきランチの1500円以内ルールを超えた特別編。なぜかというと現代人の体と心の回復力に、豚に含まれるビタミンB1が素晴らしい働きをする(なんと牛肉の8倍も)という効果を特別に推したかったからである。
【店舗情報】
とんかつ ここまでやるか。
住所:東京都港区南青山3-2-4セントラル青山No6-BA
予約・お問い合わせ:050-5593-0438
https://tabelog.com/tokyo/A1306/A130603/13294363/