七度めまして! さつまです!

一体何をしているのか?は後ほど解説します!
一体何をしているのか?は後ほど解説します!
ART FUN FANをご覧の皆さん、こんにちは! もしかしたら、こんばんは。美術ライターのさつま瑠璃です。

第7回のコラム取材では、東京都・表参道にあるギャラリースペース・Spiral Gardenで開催された「脳よだれ展 2023」を訪れました。博報堂プロダクツのフォトグラファー22名と博報堂のアートディレクター22名が1対1でタッグを組んだ、計22組のクリエイターによる写真展です。

「脳よだれ展」とは?

展示風景より
展示風景より
「脳よだれ展 -Photo Exhibition Brain Drool-」は、博報堂プロダクツのフォトグラファーと博報堂のアートディレクターがペアを組み、テーマに基づき自由に制作をして発表する展覧会です。

脳よだれ、という刺激的なタイトルは広告業界用語の“Sizzle(シズル)”に基づくもの。読者の皆さまならご存知でしょうか? 例えば、鉄板の上でジュージューと音や湯気を立てて焼ける肉汁たっぷりのハンバーグを見て「美味しそう!食べたい!」と思うように、人間の本能に訴えかける直感的な表現を指します。広告を見た人の「食べたくなる」「行きたくなる」といった欲求をかき立てるのが広告の役目、そのような“Sizzle”を重視し、本能に直接訴える表現を究めるのがこの展覧会の趣旨です。

博報堂プロダクツには多くのフォトグラファーが在籍。「脳よだれ展」は過去3回の開催を経て、今や博報堂グループの重要なイベントにもなっています。

脳よだれ展2023の見どころをさつまがピックアップ!

実は写真展というジャンルを普段から沢山見ているわけではないさつま。今回の展覧会を見て「写真って面白い!」と思ったり、「広告クリエイティブってすごいんだなぁ」と学んだり、色々な刺激を受けました!

そして今年の目玉でもあるAIも体験し、その驚きの仕掛けにびっくり。ここからは3トピックに分けて見どころをご紹介します!

【1】脳からよだれが止まらない!刺激的な作品の数々
今年は「未知のホルモン」をテーマに制作されたという22作品は、どれも脳からよだれが止まらない!

言葉で語るのは憚られるほど。説明や解釈を求めるよりも、それ以上に作品と相対して湧き上がる感覚を味わうのがこの写真展の本質です。
《moth mof》Photographer 堤悠貴/Art Director 小畑茜
《moth mof》Photographer 堤悠貴/Art Director 小畑茜
例えば、この作品はどう見えるでしょうか?

かわいい? 神秘的?

この作品を制作したアートディレクターの小畑さんは虫が苦手。けれども、フォトグラファーの堤さんは虫を撮るのがお好きなのだとか。その二人がタッグを組んで試みたのは、「気持ち悪く見えない虫の写真」でした。特殊なカメラでズームした蛾は、まるでモフモフした犬のよう?

【2】Creative AI「脳よだれくん」で遊んでみよう! 
Creative AI「脳よだれくん」
Creative AI「脳よだれくん」
今年は新しい試みとして、AIが活用されています。コロナ禍の3年間でDX化やデジタライズ化が急速に進み、世の中が便利になる一方で「いかに人の心を揺さぶり、反応してもらうか」は広告業界において課題となりました。そして、豊かな情報量で溢れている現代だからこそ、ビジュアルクリエイティブの力が必要だと位置付けています。

そのような背景から開発されたCreative AI「脳よだれくん」は、誰もが知っている絵文字を拡張したポップなデザインが魅力的。写真を読み込ませるとモグモグと食べるような動きを見せ、人間がなかなか発しないようなオノマトペで感想を述べてくれます。

試しにさつまが撮った写真の感想を聞いてみました。
スマートフォンでQRコードを読み取り、好きな写真をアップします。
スマートフォンでQRコードを読み取り、好きな写真をアップします。
まるで作品を深く味わいながら鑑賞するようにモグモグ。
まるで作品を深く味わいながら鑑賞するようにモグモグ。
独特のオノマトペと表情が映し出されました!
独特のオノマトペと表情が映し出されました!
「キミの写真はぁ ホッコポカ~ って感じぃい」とのことでした。たしかに、穏やかな海の写真だったので、「ほっこりした感じ」「ぽかぽかと心あたたまるような雰囲気」を連想させるこの表現は的を射ている気がします。

「かわいい」や「ヤバい」といった馴染みの表現ではカテゴライズできない、言語化できない“Brain Drool(脳よだれ)”を表現してくれる脳よだれくん。来場者参加型で楽しみながら気づきを得られるこの企画は、メディアアート的な側面があるようにも感じます。

【3】写真展を見るのって面白い!
展示風景より
展示風景より
写真展で、大きく印刷された写真を見るのはスケール感があって楽しい!

普段、「写真」「広告ビジュアル」というと、スマートフォンやパソコンで見る小さな画像のほうが私たちには身近ではないでしょうか。けれども、そこにはクリエイターのこだわりが沢山詰まっていて、巨大な写真で見るからこそ発見できる質感や繊細な表現にも気づけます。

それに、普段はクライアントワークを中心としているプロのクリエイターたちが、業務ではなかなかできない攻めた表現に挑戦したり、自由な発想を広げたりしているのが面白い!
展示風景より
展示風景より
展示風景より
展示風景より
展示風景より
展示風景より

脳よだれ展の魅力をさらに掘り下げる!

今回の取材では、3名のクリエイターの方にお話を伺いました。

亀井友吉さん|フォトクリエイティブ事業本部
フォトグラファーとして活躍されている亀井さんは、「脳よだれ展」初期から参加しているクリエイターの1人です。
《FLOAT》Photographer 亀井友吉/Art Director 杉山ユキ
《FLOAT》Photographer 亀井友吉/Art Director 杉山ユキ
神秘的な青い画面。ビーズや水滴を思わせる丸い形を見て、最初にさつまが抱いた感想は「綺麗だ、美しいなぁ」でした。けれども、これは一体どうやって撮ったのか、そもそも室内なのか屋外なのか、一目見ただけではわかりません。

「実は、ご自身もフォトグラファーとして活動されている人ほどこの作品の前で足を止めています。どうやって制作したのか、興味を持ってくださっているみたいです」と亀井さんは話します。

種明かしをすると、この作品が撮られたのは海辺の砂浜。よく見てみると、丸の中に映る景色は明け方の水平線だとわかります。丸い球は人工物ですが、中には少しいびつなフォルムのものも混ざり、自然物と人工物が不思議な調和を見せています。

「図録の色校正は少し大変でしたね」とおっしゃいながらも楽しげにお話しされるお姿に、写真という表現に込める情熱を感じました。

熊谷周太さん|デジタルプロモーション事業本部
デジタル領域でクリエイティブディレクター、テクニカルディレクターとしてご活躍されている熊谷さんからは、「脳よだれくん」に関するお話をさらに教えていただきました。
オープニングイベントで「脳よだれくん」の解説をする熊谷周太さん
オープニングイベントで「脳よだれくん」の解説をする熊谷周太さん
「いわゆる生成系AIや、数列などを定量的に分析するAIとは異なり、定性的に評価してくれるのがこのAIの面白いところですよ」と熊谷さんは話します。

その仕組みづくりとして、AIにいくつかの写真作品と、それにまつわる博報堂グループのフォトグラファーやアートディレクターの感性を数値化したデータをインプットしたそうです。機械的な分析ではなく、人間の感覚的な評価に近づけるため、数値化する評価軸は「感性」に絞ったのが大きなポイントだといいます。  

「例えば、『光量が多い/少ない』『彩度が高い/低い』といった物理的な批評ではなく、『堂々としている』『圧迫感がある』など、感性に基づく項目を50個ほど用意しました」

また、モグモグ中のエフェクトや顔の表情にもいくつかの差分があるのだとか! 一緒に鑑賞するパートナー的な、鑑賞体験をアップデートするAIとして楽しませてくれます。

高橋秀行さん|フォトクリエイティブ事業本部
高橋さんは本展で作品を展示しているフォトグラファーの1人であり、「脳よだれ展2023」全体を統括するクリエイターチームのトップでもあります。
オープニングイベントでご登壇された高橋秀行さん
オープニングイベントでご登壇された高橋秀行さん
《白馬と王子》Photographer 高橋秀行/Art Director 関谷奈々
《白馬と王子》Photographer 高橋秀行/Art Director 関谷奈々
まるで童話の1シーンのような、メルヘンで愛らしい景色。絵本の世界に出てきそうな森や花畑の中に、「白馬の王子様」として登場するのは若く美しい少年…と思いきや、たしかにかわいい男の子ではあるものの、“王子”の一般的なイメージからやや遠いふくよかな体型に気づきます。

ぽっちゃりした王子の意外ながらもクスッと笑えるような佇まい。肩の力を抜いてリラックスできるような温かさを感じます。

なお、この作品のロケ地となったのは全て国内。ヨーロッパ風のイメージに合う場所を探したそうです。また、1日がかりの撮影当日は馬がなかなか言うことを聞いてくれないなど、リアルならではのハプニングも。一方、白馬と少年が初対面から次第に距離を縮めていく中で、「心を通わせたように見える1枚が撮れた」と、CGグラフィックではなく写真だからこそ偶然出会えた景色があるといいます。

写真の力ってすごい。脳から溢れる未知のホルモンはもはや言葉で表すなんてナンセンスだと思ってしまうほどで、文を生業にするさつまとしては圧倒されるばかりです。しかし、高橋さんは「僕は、言葉は写真よりも強いと思っています」と意外にもおっしゃいます。

「広告として写真にコピーライティングが加えられると、言葉は強力だなと思います。ただ、情報の伝わる速さは写真のほうが持っていますね」

言葉よりも速く伝わり、人の脳に働きかける写真。その刺激を生み出すクリエイターの表現のこだわりや挑戦が、本展では沢山感じられました。

気になる、AIと広告クリエイティブの今後

(左)博報堂プロダクツ 熊谷周太さん(右)博報堂プロダクツ 百々新さん
(左)博報堂プロダクツ 熊谷周太さん(右)博報堂プロダクツ 百々新さん
今後AIがビジネスでどう使われるかについて、「まずはこういうサンプルが1つある、と示せたことが大きい」と熊谷さんは話します。

AIがクリエイティブにどのような影響を与えていくかは、多くの広告クリエイターが注目する話題。博報堂社内でも、実際に、生成系AIはすでに活用アイデアが生まれています。例えば、AIを使用するとライティングなどを複数パターン調整した写真サンプルの生成機能や、アイデアの糧となるアウトプットの作成などが可能です。
(左)博報堂 小山秀一郎さん(右)博報堂 小畑茜さん
(左)博報堂 小山秀一郎さん(右)博報堂 小畑茜さん
そこに「脳よだれくん」のようなAIが加われば、定量的な数字だけではなく、感情や感覚といった定性的な、そして本能的なリアクションを得ることができます。「脳よだれくん」に博報堂グループのクリエイターの感性を宿らせたように、仮に「東京で暮らす10代の若者」の感性を持ったAIを生み出して、彼らをターゲットにした広告クリエイティブの評価をさせることも可能になる。

AIをいかに使いこなし、クリエイティブやマーケティングの精度を上げていけるかが注目されています。

おわりに

AIが台頭したら、人間はどんどんいらなくなっちゃいそう。

なんて、少しヒヤッとする感想も抱きましたが、決してそうとは言えない部分も大いにあると教えてもらいました。

AIを使って分析し、価値を生み出すのは人間。脅威かもしれませんが、それをどう活かせるかが課題なのだと、本展に参加した多くのクリエイターは話していました。

広告やマーケティング業界に携わる方は、AIの可能性に意外なヒントを見出せるかもしれません。

イベント情報

博報堂と博報堂プロダクツによる「脳よだれ展2023」
https://brain-drool.jp/2023/
・会期:2023年9月2日(土)~9月13日(水)11:00~20:00
・住所:〒107-0062 東京都港区南青山5-6-23スパイラル 1F
・交通案内:東京メトロ銀座線・半蔵門線・千代田線「表参道駅」B1出口前もしくはB3出口より渋谷方面へ1分。
※B3出口にはエレベーター・エスカレーターがあります。
・入館料(税込):入場無料
写真
さつま瑠璃
美術ライター。“やさしい言葉でart(アート)の鑑賞・体験を紡ぐ”をコンセプトとしたBlogマガジン「さつまがゆく」主宰。SNSやnoteでもアート情報を発信する他、Podcast「おさつとアート」では展覧会情報を中心とした音声コンテンツを配信中。Web: https://satsumagayuku.com/ Twitter: @rurimbon
写真
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