ART FUN FAN Vol.10 東京都現代美術館「サエボーグ『I WAS MADE FOR LOVING YOU』/津田道子『Life is Delaying 人生はちょっと遅れてくる』Tokyo Contemporary Art Award 2022-2024 受賞記念展」

ART FUN FANでは、広告・マーケティング・クリエイティブ業界で働く皆さまにアートの情報をお届けします。おすすめの企画展をピックアップして、美術ライターが独自の切り口で解説。「アートってなんだかよくわからない。」方から「興味があるからもっと知りたい!」方まで、誰でも楽しめるアートの魅力に触れていきましょう!
コラム第10回では、東京都現代美術館で開催中の「サエボーグ『I WAS MADE FOR LOVING YOU』/津田道子『Life is Delaying 人生はちょっと遅れてくる』Tokyo Contemporary Art Award 2022-2024 受賞記念展」へ。受賞した2人のアーティストの展覧会を、なんと無料で見られます!
書き手は文筆家・作家のさつま瑠璃。芸術文化の領域で取材執筆を行い、多くの美術展やアートスポットに足を運ぶフリーの記者です。今回は、特別に作家インタビューも敢行しましたので、作品説明と交えながらおふたりの制作裏話もご紹介していきます!
コラム第10回では、東京都現代美術館で開催中の「サエボーグ『I WAS MADE FOR LOVING YOU』/津田道子『Life is Delaying 人生はちょっと遅れてくる』Tokyo Contemporary Art Award 2022-2024 受賞記念展」へ。受賞した2人のアーティストの展覧会を、なんと無料で見られます!
書き手は文筆家・作家のさつま瑠璃。芸術文化の領域で取材執筆を行い、多くの美術展やアートスポットに足を運ぶフリーの記者です。今回は、特別に作家インタビューも敢行しましたので、作品説明と交えながらおふたりの制作裏話もご紹介していきます!
じ、十度めまして!? さつまです!

一見、館内の通路に見えますが実はここも展示会場で……!?
ART FUN FANをご覧の皆さん、こんにちは! もしかしたら、こんばんは。さつま瑠璃です。
連載はついに第10回を迎えました。広告・マーケティング・クリエイティブ業界で働く皆さま、アートの記事はお楽しみいただけていますか?
これまで、主に近現代の幅広い芸術作品をはじめ、写真やデザインなどさまざまな分野のアート情報をお届けしてまいりました。何かひとつでも好きなジャンルや作品に出会えていたら、これほど嬉しいことはありません!
今回は、清澄白河にある東京都現代美術館(MOT)へ。常に多彩な企画展やコレクション展を開催しているMOTでは3月30日から7月7日まで、「サエボーグ『I WAS MADE FOR LOVING YOU』/津田道子『Life is Delaying 人生はちょっと遅れてくる』Tokyo Contemporary Art Award 2022-2024 受賞記念展」を開催中です。
Tokyo Contemporary Art Award(TCAA)とは?

サエボーグ《I WAS MADE FOR LOVING YOU》2023-2024年
TOKASは幅広いジャンルの芸術活動を東京から創造・発信するアートセンターで、発表の場としての「TOKAS本郷」と、滞在制作やリサーチ活動の拠点となる「TOKASレジデンシー」の2館を中心に運営しています。
TCAAの対象となるのは中堅アーティストで、受賞から複数年にわたる継続的支援によって、さらなる飛躍を促すことが目的です。第4回目の開催となる今回の「TCAA 2022-2024」では、サエボーグさんと津田道子さんが受賞しました。
サエボーグ「I WAS MADE FOR LOVING YOU」は、巨大な造形に圧倒される!

サエボーグ《I WAS MADE FOR LOVING YOU》2023-2024年
中央には1匹の犬がいて、どこか悲しげな目でこちらを見ています。本物の犬のように歩いたり寝転んだりするこのワンちゃん。観客のふるまい次第で反応を変え、時には近寄って人懐っこく鼻先を近づけてくることもあります。

サエボーグ《I WAS MADE FOR LOVING YOU》2023-2024年

サエボーグ《I WAS MADE FOR LOVING YOU》2023-2024年
家畜やペットに見られる「弱さ」は、「人の心に揺さぶりをかけてくるもの」。現実と非現実の境界線のような空間で出会う犬と、どういう関係を結べるかが今作のテーマ。ステージが円形のため、犬を見つめているといつの間にか向かい側の観客とも視線が交わされ、他の人たちが犬にどういう振る舞いをしているかもありありと見えてきます。
犬を構ってやっているとき、本当は構われているのは私たちかもしれない。ペットは人間のケアワーカーだという連想から生まれるサエボーグさんの作品に、思わず私も、社会的に弱い立場といわれる存在への向き合い方を省みました。
津田道子「Life is Delaying 人生はちょっと遅れてくる」は、演劇的な見せ方が面白い!

津田道子《カメラさん、こんにちは》2024年
登場人物は父・母・娘の3人ですが、時には女性が父役になったり、男性が女の子を演じたりして、 “家族”のステレオタイプなイメージを揺るがします。

津田道子《カメラさん、こんにちは シングル・チャンネル・バージョン》2024年
台本で描かれているのは、父親を中心とする家族の中で、カメラの画角の真ん中を取り合うような3人のやり取り。一見、家族という小さく親密な世界のようで、

津田道子《12の家族写真》2024年

津田道子《12の家族写真》2024年

津田道子《カメラさん、こんにちは》2024年
津田さんは「この作品では、映像の中の人が家で行う所作や振る舞いをしています。その映像を見ていると思ったら、モニターと同じ大きさの鏡に自分が映っている。これも映像かな、と思ってみたら自分で、他人を見ている目線で自分を見る体験ができる」と話しています。

津田道子《生活の条件》2024年
サエボーグさんにインタビュー!

サエボーグさん
サエボーグ:ペットは飼い主から世話をされ、その代わりに「かわいい」という役割を果たし、飼い主の心を慰めるケアワーカーです。それは家庭の中の制度の仕組みと似ていて、特に構造として問題視される女性の役割と、ペットは全く同じ役割を果たしてしまっている。
そういう弱い存在を目にしたときに、どのような情動が生まれるか。その子(サエボーグさんの作品)とどう向き合って関わるか、という問いかけを受け取ってほしいです。
やっぱりみんなが弱いものに対して、無条件にかわいい、何かしてあげたいと“母親的”に振る舞うのはすごく面白い。それは作品をつくるまで全く想像もつかなかった。加えて、二足歩行の着ぐるみに対しては全くそうではないのに、四つ足の動物には“母親的”な態度に変わるので、目線や立ち位置だけで関係性が変わるのは非常に面白いと思います。

傷ついたような犬を見て、優しく手を差し伸べたい気持ちが湧いてくるのはなぜだろう。
津田道子さんにインタビュー!

津田道子さん
津田:《カメラさん、こんにちは》の中で起こっている、カメラの存在についてのことや、家族の中での役割などは、小津安二郎監督の映画を題材にしたパフォーマンスやインスタレーションなどを私がつくる時にも、作品内でよく扱ってきたテーマです。それらのテーマは、私が子どものころ自宅に初めてカメラが来た日に撮影された、ホームビデオの中に既にあったと考えると、映像が先で人生は遅れてやってきているように感じました。
「Life is Delaying 人生はちょっと遅れてくる」は、わかるようで意味がわからない言葉。だから、これについて考えてみよう、と意味を込めてタイトルにしました。ちょっと遅れてくる、という響きも優しいなと感じています。

津田道子《振り返る》2022年、2024年
おわりに
犬を憐れみながら、あるいは他人の所作の映像を見ながら。何気ない体験の中で、自らの振る舞いに気づいてハッとする体験。2人の作家のアプローチは異なるようでいて、その“振る舞い”に注目し、自身の身体性に気づかせることに共通点があります。日常で意識していないことに気づけば、きっと世界は少し広がって、頭もちょっと柔らかくなる。現代アートの面白さは、そこにあるのではないでしょうか。
イベント情報
サエボーグ「I WAS MADE FOR LOVING YOU」/津田道子「Life is Delaying 人生はちょっと遅れてくる」
Tokyo Contemporary Art Award 2022-2024 受賞記念展
会期:2024年3月30日~7月7日
休館日:月曜日(4月29日、5月6日は開館)、4月30日、5月7日
開館時間:10:00~18:00
会場:東京都現代美術館 企画展示室3F(東京都江東区三好4-1-1)
主催:東京都、公益財団法人東京都歴史文化財団 トーキョーアーツアンドスペース・東京都現代美術館
協力:TARO NASU
入場料:無料
URL:https://www.tokyocontemporaryartaward.jp/
※予定は変更になる場合があります。