「憧れ」のまま終わらせたくない、プランナーになるため一念発起

──協賛企業賞、受賞おめでとうございます。今日はいろいろお聞きしたいと思います。まずはキャリアからよろしいですか。
はい。美術大学の映画専攻学科で映画を学んでいました。就活のタイミングで、映画やCMの企画をする仕事に携わりたいなと思い、活動しましたが、ご縁がありませんでした。代わりにCM制作会社のマザース(現モット)に採用していただいて、プロダクションマネージャーとして、スタッフの方とのやり取りや予算管理、現場の仕切りなどをやっていました。でも、一緒にお仕事をするクリエイターの方たちを見ているうちに、憧れに近い気持ちや、やっぱり企画って楽しそうだなという気持ちが抑えきれず……。私も企画の仕事をしたいという思いが強くなっていきました。しかし、その勤めていた制作会社には企画職がなかったので、 社長に直談判して企画やりたいんです!と訴えてみたんです
──決断しましたね。
今思うと、思い切りましたね(笑)。そのうち、回ってくる小さな案件を担当したり、たまたま知り合いになった、小規模な会社さんのCMをつくらせていただいたりして、やる気を徐々に認めてもらえてプランナーの名刺を初めてもらいました。そこがまず入口でしたね。それから、今のテレシーに転職する前にワンクッションありました。

ただ、プランナーの名刺をいただいたものの、企画の勉強をちゃんとしてこなかったので、すごく力不足を感じていました。他の方の作品を見て、私より全然いいなぁと痛感することも多くて、1回ちゃんと勉強したいなと思いました。で、突飛なことなんですが、イギリスのロンドンに広告を学べる大学院があって、そこに留学することに決めたんです。「ヨーロッパに住んでみたい」という気持ちもずっとあって、当時30歳手前で、年齢的にも行くなら今しかないと思いました。ついでにハリーポッターやシャーロックホームズが大好きだったので、絶対行くぞ!勉強してくるぞ!という感じで、5年いた制作会社を退職しました。

──2回目の大きな決断ですね。どのくらいロンドンの大学院にいましたか。
1年半ほどです。物語広告において共感がどう作用するのかみたいな内容を、英語が不慣れながらも一生懸命勉強して帰国しました。そして、テレシーと縁があって入社し、CMプランナーとしての今があります。4年ほど前、テレシーの立ち上げの時期に入社しました。

──2回の決断を経て今があるわけですね。プロダクションマネージャーはなかなか大変な仕事だったと思いますが、どうでしたか。
そうですね、大変なこともありました。でも、大学でも自主制作映画をつくっていたので、個人的にはみんなでわちゃわちゃと一緒に何かをつくっていく感じや、楽しい雰囲気はすごく好きでした。

──1社目で、プランナーの名刺をもらってからはどうでしたか。
たまたま何かの勉強会で、金属加工などの会社を経営されている方と知り合いになって、その会社の商品のCMをつくらせていただいたことが印象に残っています。予算が少なくてほぼ利益にはならないんですけど、社内の若手のディレクターと一緒に組んで必死につくりました。出来上がってお見せした際に、すごく喜んでくださったのを間近で見て……自分のつくったものでこんなにも喜んでもらえるんだ! 頑張ってやってよかった!と幸せな気持ちがすごく湧いてきました。ある種、原点みたいな瞬間でした

クライアント、制作スタッフ、CMを見る人。「人に寄り添う」を大事に

──今、テレシーではCMプランナーですね。CMの企画が主な仕事になるんでしょうか。
はい、基本的にはテレビCMの企画が主です。あとはタクシーCMやデジタル動画広告などの企画も多く行っています。 テレビCMが初めてというお客さまも多くいらっしゃるので、いきなり大きな予算を使ってテレビCMを制作、放映しましょう!ではなく、ご予算と目的に沿った戦略やメディアプランを、営業やストラテジックプランナーのメンバーと一緒になってチームで検討します。お客さまの本質的な課題は何か?伝えたい想いは何か?をしっかりとヒアリングし、媒体特性を考慮しながら企画を練っていきます。エージェントというよりもパートナーとしてお客さまに寄り添っていく。そういう仕事が多いです。

──そんな業務の合間を縫って公募賞に応募して、さらに成長しようとなさっています。宣伝会議賞のキャッチコピーの他にも、Metro Ad Creative Awardのグラフィック部門でも入賞、BOVAの一般部門でファイナリストに選出されています。
そうですね、時間を見つけて、社外の友人やスタッフの方といろいろアイデアを出して楽しくチャレンジしています。公募は通常の広告制作業務と違い、より自由度が高いので、自分たちがやりたいことやいいな!と感じたものを詰め込んでみています。
Metro Ad Creative Award 日本デザイン賞受賞作品《デザインで、日本をしあわせに》制作:鳫金佑紀さん(あしたの為のDesign)、勝浦千賀さん(テレシー)、皆川真麻さん(ライトパブリシティ) 協賛企業:日本デザイン
Metro Ad Creative Award 日本デザイン賞受賞作品《デザインで、日本をしあわせに》制作:鳫金佑紀さん(あしたの為のDesign)、勝浦千賀さん(テレシー)、皆川真麻さん(ライトパブリシティ) 協賛企業:日本デザイン
──いつもはCMの企画を考えているのに、今回は宣伝会議賞でキャッチコピーに挑戦しましたね。「そこに山があったから」という感じですか。
それもありますけど、映像の企画を考えるとき、いつもコピーは同時に考えているので、その力をつけたいという気持ちもありました。実はテレシーに入社した2021年から毎年応募していて、今回やっと賞をいただけたんです

──今回のマスメディアンのお題は難しかったですか。苦労されましたか。
自分自身が転職経験者だったので、むしろ考えやすかったかもしれないです。 コピーって、本当にそうだよね!というリアルさや共感がどれだけ伝わるかが大事だと思っているので。コンサルタントの方からこう言われて助かったな、こういう発見があったなという、実体験を振り返って考えられたのは良かった。マスメディアンは特化型の人材紹介エージェントなので、普通の会社さんより業界に精通していて、「自分では見つけられなかった未来の可能性や、新たな選択肢を教えてくれる存在」と発想しました。それを言葉にしようと思ってやってたら、割と自然に書けていた感じです。
──自分の経験からクリエイティブな発想ができることは本当に素晴らしいことですね。お話をお聞きしていると、紆余曲折があっても美大時代からずっと同じ思いでキャリアを積み重ねてきている感じがします。
子供の頃から漫画や本、映画とか、そういう物語がとても好きでしたし、普段の生活で、今こういうことが起きたら面白いのにとか妄想をするのも大好きでした。その流れで、今、自分が元々好きだったものを仕事にできているので、常に頭の中が楽しい、みたいな感じはありますね。プロダクションマネージャー時代も大変なだけじゃなくて、予算やスケジュールの感覚を学べて、それが今の企画仕事の役に立っているし、何より根性も身に付きました(笑)。確かにひとつの流れで、キャリアを積み重ねているかもしれません。

──そんな中で、今感じているクリエイティブ職の楽しさって何でしょうか。
やっぱり広告はお客さまありきのものだと思うので、お客さまが抱える課題をどうやって解決していくかが第一だと思います。それをクリエイティブ職だけじゃなくて、営業職やストプラ職、外部のスタッフも一緒に、チームのみんなでひとつになって一生懸命考えて形にしていく。そんなプロセスでつくりあげて、お客さまに見せて、喜んでもらう。いい結果が出てますよ!と言われた時は、本当にやって良かったなと思うんです。達成感でいっぱいになって。それが今の楽しさでしょうか。

CMは、日々の自分が感じる「ちょっとしたこと」を描く

──日頃、クリエイティブセンスを鍛えるために、何か特別なことをされてますか。
CMは、ターゲットの共感、言い換えると「どれだけ自分のことだと思ってもらえるか」がすごく大事だなと思うのですが、その共感の種は、やっぱり自分が実際に感じたことや経験したことがベストだと考えているので、いつも気にかけています。なので、日々の生活の中で忘れないようにしようと思って、今日経験した、良かったこと、笑ったこと、モヤっとしたこと、あれっと感じたことなどを、共感の種候補としてメモしています。多分ですけどCMで描くものって、大げさなハッピーよりも、ちょっとした、日々のなんかいいことあったな、みたいな内容の方がリアルで共感を得られるのかなと……。そのメモを見返すと、結構、これ使えるかもというヒントがあって、企画するときにすごく活きているなと思っています。

──CMづくりは共感づくりでもあるので、日々やりがいがありますね。
CM広告だからこそできることもあるのかなとよく思うんです。限定されたメディアとターゲットのインフォマーシャル広告は欲しい人には欲しい情報が届く。でも、CMはテレビを見ているときに勝手に入ってくる。ターゲットをピンポイントで限定できないけど、間口は広い。そこに、気持ちを動かされる良質なCMが入ってくると、予想外の感動が起こる。今、自分に関係ない商品でも、関係ない企業でも、あれ、これって、自分のことを励ましてくれていると思えてしまう。私もその昔、就職する前に見たカロリーメイトのCM「とどけ、熱量」篇(コピーライター・福部明浩氏)で、満島ひかりさんが『ファイト!』を歌う姿に、背中を押してもらえた経験があります。そんなふうに人の気持ちを動かすことができるCMの仕事は、最高にいい仕事だなと思います。
──最後に、今後の抱負をぜひ、お聞かせください。
今のCMの企画やコピーを考える時間がすごく好きなので、「人」に近いところで共感をどうつくっていくかを、悩みながらもずっと考えていたいなと思います。もちろん「お客さま」の課題解決にもしっかりコミットしていきたい。その上で、先ほども言いましたが、「見た人」の背中を押せるようなCM広告をつくっていけるといいのかなと。 「世の中をちょっと前向きに……。」を大切にしてやっていきたいと思っています。

──キャリアには突然変化型と積み上げ型がある。たとえば、銀行員が広告会社に移ってコピーライターになるのが前者。美大生がデザイン会社に入り、広告会社に移ってアートディレクターになるのが後者。勝浦さんは後者だった。小さいときから妄想して物語を考えるのが好きだったという、その思いを紆余曲折はありながら見事に叶え、お客さまやスタッフや世の中の、人のために、日々CM企画を考えている。そんな勝浦さんも素敵な仕事の「人」だと思った。
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黒澤晃
元博報堂 クリエイティブディレクター
横浜生まれ。1978年、広告会社・博報堂に入社。コピーライターを経てクリエイティブディレクターになり数々のブランディング広告を実施。受賞多数。2003年から博報堂クリエイターの人事、採用、教育を行う。多くの優れた若手クリエイターを育成した。2013年退社。黒澤事務所を設立。さまざまなライティング、プランニングの領域で活躍している。東京コピーライターズクラブ(TCC)会員。最近の著書「20歳からの文章塾」「これから、絶対、コピーライター」など。ツイッター#ツボ伝ツイート。note「3ステップ・ライター成長塾」。
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