──実際にマーケティング職に就いているのはどんな人?
大手企業は、新卒採用を定期的に行っているため、新卒の生え抜き社員が、さまざまな部署を経てマーケティング部へ異動となっているケースが多いです。もちろん、新卒時から専門職採用でマーケティング部へ配属されるケースもありますが、日本の企業においては決して多いとは言えません。ベンチャー企業は、さまざまなバックグラウンド(職歴)を持った経験豊富な人材が中途入社でマーケティング職に就くことが多いです。

──大手とベンチャーでやりがいに違いはある?
大手企業は、マーケティングにかける予算も大きいので、マス広告からデジタルまで、王道のマーケティング手法を網羅的に経験できるチャンスがあります。一方でベンチャー企業は、潤沢なマーケティング予算があるケースは少なく、自分のアイデア力が試される場面が多いと言えるでしょう。また、これまで世になかった商品・サービスを社会に送り出す役割があることから、成功した場合には「マーケティングの力で認知度が300%上がった」といった劇的な体験ができる可能性があります。これがベンチャー企業のマーケティング部で働く醍醐味と言えるでしょう。まだ誰も踏み入れたことのない未開の領域だからこそ、ゼロをイチにするダイナミックな仕事を経験できると思います。

──社内、さらに退社後のキャリアアップの可能性は?
大手企業は、昇進昇格のための試験など、定年までしっかりと働いてもらうための社内のキャリアステップ制度ができあがっています。だからこそ、年功序列の風土になりがちで、より高い役職に就くには、時間がかかる場合があります。また、さまざまな業務の経験を積むために、一定期間で部署や職務が変わるジョブローテーションを導入している企業もあります。ベンチャー企業のマーケティング職は、より短期で成果を出すことが求められます。そこで評価されれば、入社後1年で役員に駆け上がる人もいます。一方で、大手のよう年功序列ではなく、実力主義の評価制度を設けている会社が多いので、成果を出せなければ、後から入社してきた社員に抜かれてしまうこともあります。

──マーケティング職の中途採用は行っていますか?
大手企業は、ジョブローテーションで社内他部門からの異動で人員を補充するケースが多いため、マーケティング専門職で採用するケースは少ないです。ただまれに、社内にノウハウのない分野のスキルを持った人材を採用したり、新規部門を立ち上げる際に求人を募集したりするケースがあります。その場合、採用する理由が極秘情報のため、一般に告知されない非公開求人となり、採用条件やスキルがマッチした人にのみ声がかかることが多いです。昨今、人材不足で転職市場は売り手市場といわれていますが、大手企業のマーケティング部の求人は、数が少ないにも関わらず人気があるため、需要と供給のバランスから買い手市場といっても過言ではありません。ベンチャー企業の場合には、経営者がマーケティングの重要性を理解していることが多く、他社との差別化を図り、企業としてのポジション確立のために、マーケティング担当を積極的に採用する傾向があります。しかし、人数が1人など少人数となります。

──大手とベンチャー、中途入社しているのはどんな人? 
大手企業は専門スキルだけでなく、その企業に対する理解の深さと志望度の高さを求めます。また予算規模が大きく、関わる人も多いのでチームプレイが得意な人が好まれる傾向もあります。最近、大手企業でニーズの多い専門スキルはデジタルと顧客データ活用の経験を持った人。評価されやすいです。ベンチャー企業は、マルチプレイヤーが評価される傾向が強いですが、社長との相性も重要かもしれません。面接には社長が出てくるケースが多く、社長のビジョンに共感して一緒に頑張りたいという熱意を持てるかどうかが判断されます。経験はもちろんですが、マインドや志向性といった評価機軸がある点が特徴でしょう。

 
ワンポイントアドバイス

今回は、いわゆる国内の伝統的なナショナルクライアントと呼ばれる大手企業とゼロからイチを生み出そうとするベンチャー企業の2つに焦点を当て、マーケティングの仕事の比較をしてみました。 CMOや役職者クラスではなく、メンバークラスの事例を中心に、転職のキャリアアップについて紐解いてみましたが、もちろん紹介した内容には、例外もあると思います。 転職をしようと考えたとき、今いる会社に対する不満から転職活動をしてしまいがちですが、転職は入社して終わりではなく、入社してから活躍できて成功と言えます。とりあえず知名度のある会社だからと安直に入社を決めるのは危険ですし、転職先を決める前に、いろいろな角度から情報収集をしてほしいと思います。転職先で何を得たいのかを明確にしたうえで、知名度がある大手企業が自分にマッチしているのか、それとも今は誰も知らないけれどポテンシャルがある会社でチャレンジした方がよいのかをじっくり考えてください。

ただ大手企業の求人は少ないので、ピンときたら入社するかはともかく、まずは応募したほうがよいでしょう。数が少なく、いま応募しないと、次に求人が発生するのは10年後ということもありえます。面接に行ってみないと相性もわからず、受けてみないとチャンスも広がりません。中途採用は、応募者も求人企業も対等な立場です。1次面接の段階から求人の背景や会社の現状を包み隠さず開示してくれる企業が多いです。その企業の社長やCMOに面接を通して、マンツーマンで会えることは貴重な機会です。面接でお会いする方々から受ける印象や直接お聞きした内容は入社判断の重要な情報となり、キャリアアップを考えるうえで次につながる道標となるでしょう。
 

──次回は、裁量労働制とフレックスタイム制の違いについて解説します。

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【キャリアコンサルタント】
荒川直哉
株式会社マスメディアン
取締役 国家資格キャリアコンサルタント
荒川直哉
マーケティング・クリエイティブ職専門のキャリアコンサルタント。累計4000名を超える方の転職を支援する一方で、大手事業会社や広告会社、広告制作会社、IT 企業、コンサル企業への採用コンサルティングを行う。転職希望者と採用企業の両方の動向を把握しているエキスパートとして、キャリアコンサルティング部門の責任者を務める。「転職者の親身になる」がモットー。
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キャリアアップナビ
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