線香花火づくりに大苦戦。新世代の女性シェフの #初体験ズ〈体験編1〉 電通 CMプランナー クドウナオヤさん、ete シェフ 庄司夏子さん
初体験が多い人生は、長く楽しめる人生だ。大人になるにつれ時の流れを早く感じるのは、幼少期に比べて「初めての体験」が少なくなり、「経験済みのこと」の繰り返しになるからだと言います。なにか一つのことを極める人たちこそ、意識的に初めてのことにチャレンジして刺激を摂取する必要があるのでは? そんな仮説を携えて、スタートした「初体験ズ」。
この連載では、毎回さまざまな分野のゲストをお招きし、ゲストがやったことのない初体験を一緒にチャレンジしながら、普段の本業ではなかなか垣間見ることができない、その人のモノの捉え方、考え方の本質に踏み込んでいきます。そして、そこで新しく得た刺激をもとに本業に活かせるアイデアのヒントを空想していきます。さまざまな領域に越境する電通CMクリエイターのクドウナオヤさん(写真左)が、ホスト役としてゲストの初体験をナビゲートします。
今回のゲストは、eteのシェフ/パティシエの庄司夏子さん(写真右)。彼女のつくる、みずみずしい花びらの一枚一枚がマンゴーの果実のスライスでかたどられた「フルール・ド・エテのマンゴータルト」は、多くの人を魅了します。庄司さんの選んだ初体験は「花火をつくること」。今回は、線香花火づくりワークショップを開く佐々木厳さん(写真中央)を講師にお呼びし、線香花火をつくってみました。
この連載では、毎回さまざまな分野のゲストをお招きし、ゲストがやったことのない初体験を一緒にチャレンジしながら、普段の本業ではなかなか垣間見ることができない、その人のモノの捉え方、考え方の本質に踏み込んでいきます。そして、そこで新しく得た刺激をもとに本業に活かせるアイデアのヒントを空想していきます。さまざまな領域に越境する電通CMクリエイターのクドウナオヤさん(写真左)が、ホスト役としてゲストの初体験をナビゲートします。
今回のゲストは、eteのシェフ/パティシエの庄司夏子さん(写真右)。彼女のつくる、みずみずしい花びらの一枚一枚がマンゴーの果実のスライスでかたどられた「フルール・ド・エテのマンゴータルト」は、多くの人を魅了します。庄司さんの選んだ初体験は「花火をつくること」。今回は、線香花火づくりワークショップを開く佐々木厳さん(写真中央)を講師にお呼びし、線香花火をつくってみました。
佐々木:今日の流れとしては、まず「線香花火」についてお話します。どういった原料からどういった工程でつくっているのかを、映像を交えながら紹介します。その後、ワークショップに入ります。花火づくりの基本動作を練習して、そこから実際の火薬を使って花火をつくっていただきます。
簡単に自己紹介をさせていただきます。私は「和火師」という肩書で、印鑑や花火で有名な山梨県の市川三郷町で花火づくりをしています。もともとは打ち上げ花火を製造している会社で経験を積み、日本の伝統的な花火である「和火」に魅了され、和火を追求しようと2014年に独立しました。 佐々木:「和火」というのは江戸時代から伝わる日本の伝統的な花火で、原料は塩硝、硫黄、木炭の3種類のみの炭火の火の粉が特徴です。オレンジ色の線を引く薄暗い花火です。戦国時代に、鉄砲や狼煙で火薬を使っていたのですが、それが黒色火薬と呼ばれるもので、その黒色火薬をそのまま使用したのが和火と呼ばれるものになります。
これが線香花火の原型となっている「スボ手牡丹」と呼ばれるものです。稲わらの先に練った火薬をつけて、お線香の香炉に立てて上向きに火をつけて楽しんでいた様子が、見たままお線香ということで、線香花火という名前がつきました。主に西日本で親しまれる花火です。一方、今日つくっていただく紙で撚る(よる)タイプのものを、「長手牡丹」と言います。こちらは東日本でメジャーな線香花火です。
クドウ:嗅いだことあるかも……。なんだろう、靴屋さんの匂いがする。
庄司:わかる! 靴のソールの匂いに似ている気がする。 佐々木:靴屋さんと言われたのは初めてですね(笑)。この松煙がどんな工程でできるかを説明すると、松ヤニと呼ばれる油分がたくさん含まれた赤松の枯木、枯れてから20~40年経ったものを拾い集め、木の皮を剥いで、油分が多い部分だけを抽出していきます。これに火をつけると黒い煙が上がってきます。この煙を集めたものが松煙となります。
どうやって煙を集めるか。それはつけた四方を障子紙で囲んで小さな部屋をつくり、その中で燃やし続けていきます。木に火をつけて8時間くらい繰り返していくと、すすが障子紙に付着し、集めることができます。
庄司:かなり手間暇をかけたのに、これだけしか取れないんですね。
クドウ:それだけ希少な原料なんですね。
佐々木:そうなんです。きれいに火花を咲かせる4つの条件があります。1つは和紙の薄さと強度。2つ目は3種類の原料の配合比率。3つ目は原料の松煙の質。ホームセンターなどで売られている線香花火は、基本的に中国など海外でつくられているのですが、これには工業用のすすが使われています。天然のすすとの違いは、火花の形、咲いたときの形です。松煙を使うとパッと尾を引きながら火花が咲くんです。そして4つ目は撚り方(よりかた)です。和紙で火薬を撚る技術で、火花がきちんと咲くかどうかが決まります。 佐々木:ということで、これから皆さんに線香花火づくりの「紙撚り(こより)」という作業をしてもらいます。紙の上に火薬を少量乗せて巻いていくというもので、花火の咲き具合に大きく影響します。
まず3つの原料をブレンドしたものがこちらです。先端に金属がついたさじ、溝があるのでここに火薬を入れていきます。火薬の瓶を持って山盛りにすくったら、竹の棒で擦り切ってください。これで線香花火1本分の火薬が取れます。 佐々木:紙の端から1cm~1.5cmのところに、すくった火薬を注ぎ、和紙を下から上に半分に折り曲げます。次は火薬の一番前の部分を左指で押さえてください。火薬を動かないように押さえた状態で紙撚りをします。
右手の中指と親指で、一番角の部分をつまみ、こすり合わせてください。そうすると繊維が絡まってきて棒状になってきます。ポイントとしては、紙をピンと張った状態のままグリグリすること。まとまりやすいです。その後は、右の指で引き続き先端部分をつまんで、つくった棒状のものを、ぐぐぐっと親指で前に押し出して、回転をさせます。 佐々木:1cmくらい丸まったら、左指も使い、紙をピンと張った状態のまま丸めていきます。それを繰り返して、火薬の入っていない部分を首と呼んでいるのですが、首を回転させてしっかり閉めます。後は両指を転がし、最後まで紙撚りをしていきます。ポイントは、火薬の部分に空気が入らないようにしっかりと押さえながら前に進んでいくことです。火薬部に空気が含まれていると、火をつけたときに一気に燃えてしまう可能性があるので。
ではみなさんも紙撚りをしてみましょう。
庄司:では、初体験いきますね…! あ、難しい。紙が破けちゃった…。火薬がもったいないから、瓶に戻そう。 クドウ:じゃあ、僕も。ダメだ…全然丸まらない! 佐々木:数をこなせば、紙撚りの感覚が身についてくるので、ぜひたくさんつくってみてください!
クドウ:あ……破けてしまった(笑)。
クドウ:僕も、最初に撚り過ぎて短くなってしまった。でも、徐々に調整してちょうどよい長さにできたかな。
佐々木:お二人ともとても上手にできたと思います。紙縒り作業はどうでしたか? 私もそうでしたが、最初は線香花火なんて簡単につくれるだろうと思っていませんでしたか。けれども実際やってみると非常に繊細で奥が深く大変ではなかったでしょうか。自分でつくってみると線香花火1本1本に対する愛着というか、尊さみたいなものを感じますよね。昔は余った線香花火を束で燃やしていましたが(笑)、こうしたつくったものは1本づつ丁寧に灯したくなりますよね。
佐々木:ベテランの方だと、1本30~40秒ですね。1日800本くらい生産できます。
クドウ:さすがのペースだ。けれどもコンビニで売っている線香花火なんて、20本入りで200円とかで売っているから、1本あたり10円ですよね。採算が合わない!
庄司:コンビニで売っている花火も手作業なんですか? それとも花火工場で大量生産している?
佐々木:すべて手作業ですね。中国の工場などでつくられています。が、我々からすると、なんでこんなに安くつくれるのだろうという感じです。実際につくってもらうとわかると思うのですが、手間と技術がすごく必要なので。
庄司:最近、高級な線香花火も見かけますが、材質が違うのですか?
佐々木:材料も違いますし、配合も違います。だから火花の咲き方が違います。海外製だとこぢんまりしてしまいますが、国産だと30cm四方くらいまで火花が飛びます。
クドウ:では移動して試してみますね。本日はこのような場を設けていただきありがとうございました。
庄司:線香花火づくり、初めての体験でしたが、いろいろと学びの深いワークショップでした。ありがとうございました!
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簡単に自己紹介をさせていただきます。私は「和火師」という肩書で、印鑑や花火で有名な山梨県の市川三郷町で花火づくりをしています。もともとは打ち上げ花火を製造している会社で経験を積み、日本の伝統的な花火である「和火」に魅了され、和火を追求しようと2014年に独立しました。 佐々木:「和火」というのは江戸時代から伝わる日本の伝統的な花火で、原料は塩硝、硫黄、木炭の3種類のみの炭火の火の粉が特徴です。オレンジ色の線を引く薄暗い花火です。戦国時代に、鉄砲や狼煙で火薬を使っていたのですが、それが黒色火薬と呼ばれるもので、その黒色火薬をそのまま使用したのが和火と呼ばれるものになります。
これが線香花火の原型となっている「スボ手牡丹」と呼ばれるものです。稲わらの先に練った火薬をつけて、お線香の香炉に立てて上向きに火をつけて楽しんでいた様子が、見たままお線香ということで、線香花火という名前がつきました。主に西日本で親しまれる花火です。一方、今日つくっていただく紙で撚る(よる)タイプのものを、「長手牡丹」と言います。こちらは東日本でメジャーな線香花火です。
佐々木:線香花火の原料は硝酸カリウム、硫黄、そして木炭の代わりに松煙と呼ばれるものを使います。こちらは硝酸カリウムで、酸化剤で燃焼を促進させる役割があります。こちらは硫黄の粉末です。
佐々木:硝酸と硫黄は無臭なのですが、3つ目の松煙は、匂いを嗅いでいただくと独特な匂いがすると思います。
クドウ:嗅いだことあるかも……。なんだろう、靴屋さんの匂いがする。
庄司:わかる! 靴のソールの匂いに似ている気がする。 佐々木:靴屋さんと言われたのは初めてですね(笑)。この松煙がどんな工程でできるかを説明すると、松ヤニと呼ばれる油分がたくさん含まれた赤松の枯木、枯れてから20~40年経ったものを拾い集め、木の皮を剥いで、油分が多い部分だけを抽出していきます。これに火をつけると黒い煙が上がってきます。この煙を集めたものが松煙となります。
どうやって煙を集めるか。それはつけた四方を障子紙で囲んで小さな部屋をつくり、その中で燃やし続けていきます。木に火をつけて8時間くらい繰り返していくと、すすが障子紙に付着し、集めることができます。
庄司:かなり手間暇をかけたのに、これだけしか取れないんですね。
クドウ:それだけ希少な原料なんですね。
佐々木:そうなんです。きれいに火花を咲かせる4つの条件があります。1つは和紙の薄さと強度。2つ目は3種類の原料の配合比率。3つ目は原料の松煙の質。ホームセンターなどで売られている線香花火は、基本的に中国など海外でつくられているのですが、これには工業用のすすが使われています。天然のすすとの違いは、火花の形、咲いたときの形です。松煙を使うとパッと尾を引きながら火花が咲くんです。そして4つ目は撚り方(よりかた)です。和紙で火薬を撚る技術で、火花がきちんと咲くかどうかが決まります。 佐々木:ということで、これから皆さんに線香花火づくりの「紙撚り(こより)」という作業をしてもらいます。紙の上に火薬を少量乗せて巻いていくというもので、花火の咲き具合に大きく影響します。
まず3つの原料をブレンドしたものがこちらです。先端に金属がついたさじ、溝があるのでここに火薬を入れていきます。火薬の瓶を持って山盛りにすくったら、竹の棒で擦り切ってください。これで線香花火1本分の火薬が取れます。 佐々木:紙の端から1cm~1.5cmのところに、すくった火薬を注ぎ、和紙を下から上に半分に折り曲げます。次は火薬の一番前の部分を左指で押さえてください。火薬を動かないように押さえた状態で紙撚りをします。
右手の中指と親指で、一番角の部分をつまみ、こすり合わせてください。そうすると繊維が絡まってきて棒状になってきます。ポイントとしては、紙をピンと張った状態のままグリグリすること。まとまりやすいです。その後は、右の指で引き続き先端部分をつまんで、つくった棒状のものを、ぐぐぐっと親指で前に押し出して、回転をさせます。 佐々木:1cmくらい丸まったら、左指も使い、紙をピンと張った状態のまま丸めていきます。それを繰り返して、火薬の入っていない部分を首と呼んでいるのですが、首を回転させてしっかり閉めます。後は両指を転がし、最後まで紙撚りをしていきます。ポイントは、火薬の部分に空気が入らないようにしっかりと押さえながら前に進んでいくことです。火薬部に空気が含まれていると、火をつけたときに一気に燃えてしまう可能性があるので。
ではみなさんも紙撚りをしてみましょう。
庄司:では、初体験いきますね…! あ、難しい。紙が破けちゃった…。火薬がもったいないから、瓶に戻そう。 クドウ:じゃあ、僕も。ダメだ…全然丸まらない! 佐々木:数をこなせば、紙撚りの感覚が身についてくるので、ぜひたくさんつくってみてください!
クドウ:あ……破けてしまった(笑)。
クドウ:なっちゃん、だいぶ上手になってきたじゃん!
佐々木:確かに、最後のほうは上達していますね。つくったもの並べてみましょう。
庄司:始めの2本は和紙の裏表を間違えてしまったけど、中盤でコツを掴んだ気がする。けれども結局最後のほうはダメだった。コツを掴んだようで掴めず終わってしまったな。
クドウ:僕も、最初に撚り過ぎて短くなってしまった。でも、徐々に調整してちょうどよい長さにできたかな。
佐々木:お二人ともとても上手にできたと思います。紙縒り作業はどうでしたか? 私もそうでしたが、最初は線香花火なんて簡単につくれるだろうと思っていませんでしたか。けれども実際やってみると非常に繊細で奥が深く大変ではなかったでしょうか。自分でつくってみると線香花火1本1本に対する愛着というか、尊さみたいなものを感じますよね。昔は余った線香花火を束で燃やしていましたが(笑)、こうしたつくったものは1本づつ丁寧に灯したくなりますよね。
クドウ:我々は1本つくるのに5分ぐらいかかってしまいましたが、プロの方々はどのぐらいのペースでできるものなのですか?
佐々木:ベテランの方だと、1本30~40秒ですね。1日800本くらい生産できます。
クドウ:さすがのペースだ。けれどもコンビニで売っている線香花火なんて、20本入りで200円とかで売っているから、1本あたり10円ですよね。採算が合わない!
庄司:コンビニで売っている花火も手作業なんですか? それとも花火工場で大量生産している?
佐々木:すべて手作業ですね。中国の工場などでつくられています。が、我々からすると、なんでこんなに安くつくれるのだろうという感じです。実際につくってもらうとわかると思うのですが、手間と技術がすごく必要なので。
庄司:最近、高級な線香花火も見かけますが、材質が違うのですか?
佐々木:材料も違いますし、配合も違います。だから火花の咲き方が違います。海外製だとこぢんまりしてしまいますが、国産だと30cm四方くらいまで火花が飛びます。
クドウ:では移動して試してみますね。本日はこのような場を設けていただきありがとうございました。
庄司:線香花火づくり、初めての体験でしたが、いろいろと学びの深いワークショップでした。ありがとうございました!
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