「どうでもいい」をポジティブに。ゆとり世代の起業家とクリエイターの本音とは
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27万人以上のフォロワー数を抱えるインスタメディア「古着女子」や、世界初のバーチャルインフルエンサーのみが所属するモデルエージェンシー「VIM」の運営など、起業からわずか1年にして多くの話題を発信し続ける会社、yutori。さまざまな発表を行うなかで、今年の6月に彼らはコーポレートロゴとサイトデザインのリニューアルを発表しました。今回はそのリブランディングに関わった、yutori代表取締役 片石貴展(かたいしたかのり)さん、フリーランスのアートディレクター河野心希(かわのしんき)さん、Ceremony UI/UXデザイナーの若月佑樹(わかつきゆうき)さんのお三方にお話を伺いました。ミレニアル世代・Z世代の起業家とクリエイターたちが抱える本音を語っていただきました。
yutoriの“国”
──2018年4月に設立されたyutoriですが、2019年6月にコーポレートロゴとサイトデザインのリニューアルで話題を呼びました。なぜこのタイミングでリブランディングを行ったのでしょうか?片石:設立から今日までの1年間って、正直言うと結構辛かったんです。会社として、まだ立ち上げて間もないにも関わらず、注目していただけたことはすごくありがたいのですが、外から期待されるyutoriと実際の中のyutoriにはかなり乖離があるような。たまたま売れた一発屋みたいな感覚ですかね。そういう状況で、寄せられる情報が多くて取捨選択をうまくできなかったし、「我」を貫き通すことができなかった1年でした。それで、一度ここでyutori第1章を完結させて、次の章へ移行しようと、今回改めてリブランディングをすることを決めました。
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左から、Ceremony UI/UXデザイナーの若月佑樹さん、yutori代表取締役 片石貴展さん、フリーランスのアートディレクター河野心希さん
若月:コーポレートサイトのコンセプトは、「タイムマシンをつくる」ということでした。
──“タイムマシンをつくる”ですか……。どういうことでしょうか?
河野:僕がアートディレクションを担当したのですが、まずyutoriでも扱っている、古着の存在自体がタイムマシンのようだと思いました。いまと昔を行き来するもので、そこから着想の起点になって。片石からも、「時代に縛られない」ことがこの先のyutoriの目指していく方向だと聞かされたので、いまある垣根をすべて飛び越えたというか。新しくて古いものを表現することが今回のコーポレートサイトのコンセプトになりました。
片石:僕たちが訴えたかったことは、yutoriがなにをやっている会社かよりも、yutoriが持つ世界観を伝えること。その世界観自体をコーポレートサイトに落とし込めれば、それに勝るものはないなと。
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リニューアルしたyutoriのコーポレートサイト。背景がタイムマシンのように波形に動く。
河野:ロゴの構想はコーポレートサイトよりも先に片石と決めていました。コーポレートサイトがさまざまな垣根を越えた「yutoriの未来」を表現している一方で、ロゴは「yutoriのいま」を形にしたかった。yutoriという会社は奇跡の連続で成り立っていて。多くの人に支えられている。僕と若月くんも社員ではなく、業務委託という形で、ここまで深く関わっている。このyutoriを取り巻く「いま」の環境をビジュアル化して、ロゴにしたいと思いました。
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yutoriの新たなコーポレートロゴ
──“国づくり”ですか。
片石:大人の社会って、価値と価値の交換で成り立っていると思っています。価値とは、その人が持つ強みの部分で、それがお金にトレードされている。だから、それ以外の部分は無価値であり、それを自分から表に出そうとはしない。そうではなくて、自身の弱い部分もさらけ出すことができる国を目指したい。たとえ、その部分でビジネスができなくても良い。強みだけ見せていっても、良いものは絶対にできないと思うし、なによりもそれでは生き辛い。強さと弱さを分けないで、一緒くたにした全部が自分である。そうやってお互いを認め合っていることが前提の国、yutoriはそういう場所なのです。そのなかで、自分がどうやって生きて、どうやって希望を見出していくか。僕らの世代はいまの世の中を生きにくいと思っている人が多いと思う。いまが最高だと思って生きている人がどれくらいいるか? そう思うからこそ、どうやって生き抜いていくのかを考えなくてはいけなくて。yutoriの目指す国というのは、それに対する一つの答えなんです。
──若月さんは年齢が20歳と、三人のなかでも一番若いですが、片石さんやyutoriが掲げる国づくりをどのように捉えましたか?
若月:確かに、僕に近い年齢で、未来に期待していない人たちは多いかなと思います。僕の友達には、「別になにもやりたいことがないから、就職もしたくもない。かといって好きな人もいないし、やりたいこともない。けれども死ぬ勇気もない」という話をしている人がいて。それを聞いたときに、みんな「電気グルーヴ」みたいになりたいんだなと思いました。あらゆる呪縛から解き放たれて、ずっとステージで好きに踊って、好きに曲をつくっている。ああいうふうに、なににも縛られない環境に身を置きたいと思う人が多いのではないのかな。
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若月:僕もその友達に同感で、石野卓球さんみたいになりたい。捕まった相方を待ち続けて、あの歳でタトゥーをいれて、 Twitterで叩かれても全員をブロックしちゃう。子どもみたいに振る舞って、楽しそうじゃないですか。電気グルーヴはずっと馬鹿みたいなことをやり続けている。吹っ切れていて、すごく羨ましい。
あと51歳初Tattoo入れました!
— Takkyu Ishino/石野卓球 (@TakkyuIshino) March 23, 2019
“Zin-sayは電気グルーヴ、
電気グルーヴは人生”
真似すんなよ pic.twitter.com/g7jopIrAEG
河野:僕はあんまりわからないな。僕はまだ未来には希望があると思っている側だからかもしれない。僕も、希望がないと思う人の意見には共感できるし、社会や上の世代に対して強い希望を持っているわけではないです。でも自分たちで希望となり得るものを生み出していくことで、未来に希望を抱ける可能性をつくっていく余地はまだあるかなと。そう思いますね。
──お三方が全員同意見なわけではないのですね。yutoriという国のなかにも、それぞれが信じる考え方の差異があるとは。
片石:各々が信じているものが違うから、これは当たり前のことなんです。改めて多様性やダイバーシティのような言葉で、強調して言われることに違和感がある。
なかには、他人も自分と同じ意見を持っていると決めつけて、自分の意見を押し付ける人もいる。だけど、そうではない。少なくとも「ゆとり」と呼ばれる僕らの世代はみんながそれぞれの意見を持っている。言ってしまえば、みんなそれぞれが孤独なんです。みんな違うから。だからこそ、つながりを求めている。
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片石:そうです。それと同様に「無関心」や「どうでもいい」という言葉はもっとポジティブに使っても良いのではないかというのが、僕らが問いたいテーマに近いですね。人を否定する意味での「あいつはどうでもいい」ではなくて、「どうでもいいから」各々が好きなことをする。そうであれば「どうでもいい」は、すごくポジティブだなと。
例えば、芸能人のスキャンダルについての報道が多いですよね? それをどうでもいいと感じている人は結構多いと思っています。どうでもいいと思えるようになれば、少しは束縛も解けて世間もいまより自由になるかもしれませんよね。窮屈な空間よりも、そちらのほうが楽しいと思う人もいるんじゃないかな。
若月:だけど、多様性にかまけて人を攻撃することはとても気持ち悪いなと思います。「私はこう思っているから…」と、自分の意見をひけらかし、他人に対して遠慮なく攻撃をする人。それは多様性という言葉を自分の都合の良いように捉えているだけで、本来の意味を履き違えていますよ。隣人のことをどうでもいいと思えるか、それが僕らの言う多様性です。
yutoriを支える人が集まる理由
──今回新たに作成したyurotiのロゴは、55人の起業家・投資家・クリエイターから署名を集めたとお聞きしました。片石:僕が皆さんに依頼をしたのですが、皆さん好印象を持っていただけて。多くの方が協力してくださいました。
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青木耕平氏、 赤坂優氏、家入一真氏、石川涼氏といった起業家・エンジェル投資家のほか、advanced by massmedianでも取材した飯塚政博氏、草野絵美氏、陳暁夏代氏、中沢渉氏、三浦崇宏氏等も賛同し、yutoriのサインを記す。
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すべてのサインの輪郭を線にすることで、新しいコーポレートロゴは生まれた。
片石:でもここが面白いところで、ロゴのデザインやコーポレートサイトを動的にすることは、別に僕がオーダーしたわけではないのです。ロゴデザインは河野が考えてきたもので、若月くんもストレスを感じながらもやり遂げてくれた。二人とも多くの時間を割いてくれました。合理的に考えたら、二人ともyutoriの社員ではないから、いかに稼働を抑えて、売り上げを最大化するかを普通は考えると思います。わざわざ進んで面倒くさいことをやるインセンティブがないのですよね。
──片石さんのおっしゃることも一理ありますね。河野さんと若月さんはその辺りどのように考えているのでしょうか?
河野:一つインセンティブが働いたのは、片石が僕を信じてくれていることです。リブランディングという、会社にとって非常に大きな案件を僕らに任してくれた。それに対する期待に応えたいというのもありました。片石との関係性が中途半端ではなく、お互いに信じ合えたのは、yutoriと片石が持つ魅力なのかなと。
若月:今回の案件では、片石さんはあまり口出しせず、僕らに任せきりな状態で仕事を進めていきました。業務委託という受発注の構造上、発注側の意見が最優先です。けれども、そうはせず僕らのことを信頼して、口を出さずにこんな大きな仕事を任せてくれた。だからこそ、そこに応えたいとも思えるんですよね。デザインが出来上がったときに、片石さんは「あぁ、できたんだ! それだよ、それそれ!」みたいな感じで喜んでくれて(笑)。
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それにyurotiが目指す国では、このような事例を増やしていかなければならない。僕が深く入らなくても良いものができた。その意味ではyutoriがこれまで経験してきた成功体験のなかでも、今回が一番だったと言っても過言ではありません。きっとyutoriだからこそできた、アウトプットだと思っています。
──一番の成功体験…! 片石さんが関与せずとも高いクオリティのアウトプットができたことが誇らしいのですね。今後もこのメンバーでいろいろなものが生み出されるのでしょうか?
片石:絶対にまたなにかやりたいとは思っています。その際は二人にはなんとか時間をつくってもらいますよ。
若月:僕は河野さんがいるのならやりたいですね(笑)。
河野:僕もyutoriの仕事は楽しいので引き受けたいのですが、大変なんですよ(笑)。自分の人間的なところも含め、すべてを出し切って、本気でぶつからないとできないですから。
片石:ともあれ、yutoriは若い会社で、これからが本番です。たくさん稼いで会社を大きくして、いろんな人と楽しく過ごせる国をつくっていきたいと思います。
──インタビューの短い時間でも仲の良さが伺えるほど、三人とも息が合っていました。そして彼らの持つ思想は独特で、これからのyutoriがどのような物語をつづるか、目が離せません。お話いただき、ありがとうございました!