企業も個人も固定せず柔軟に。パラレルキャリア時代の生き方 amadana CEO/代表取締役社長 熊本浩志さん
基本的に、製造は別の会社ですし、販売権も渡して別の会社が担っています。僕らは、アイデアやブランドを形にして知的財産をつくることが仕事です。だから権利はすべて売ってしまいます。販売して利益を稼ぐということを放棄しています。
例えば、1万台のマーケットがあるとき、自分たちで製造して販売すると7割の利益を稼ぐことができます。でもそれをすると、ヒト・モノ・カネのすべてを1つのプロジェクトに投下しなければならなくなり、他のプロジェクトには手が回らなくなります。でも、僕らの強みはアイデアがたくさんあることだから、いろいろなプロダクトを世の中に出していきたい。たくさんのプロダクトを世の中に出すためには、製品の販売は、販売代理店に任せてしまったほうがいい。販売の利益はいらないから、ブランドを横展開し続けていくことが、僕らの本分です。
──ビジネスモデルは独占販売権の譲渡ですか? それともライセンスフィーですか?
どちらもあります。製造した段階で権利が発生する場合もありますし、売り上げから企画・デザインの手数料をもらう場合もあります。パートナーとして組む企業もさまざまで、いろいろなビジネスモデルがあります。
──すべてamadanaブランドで展開しているのですか?
amadanaブランド以外の製品もたくさんあります。amadanaブランドで製品を乱発すると、なんのブランドかわからなくなるからです。例えば、ホリスティックキュアドライヤーは、黒子として企画とデザインのみを行っています。
──では、プロモーションもパートナー企業に任せているのですか?
いいえ。プロダクトを企画開発して、次にプロモーションをして、最後に販売をして、というプロセス自体がもはや古いと思っています。企画する段階で、すでに消費者とのコミュニケーションを設計しています。だから、製品は完成していないにも関わらず、クラウドファンディングで公開する動画までつくるんです。既存のビジネスプロセスは踏みたくありません。ビジネス全体のモックアップをいかに早くつくれるかが大事なのです。またプロダクトもモックアップの段階で世の中に出します。モックアップだから、世間の反応を見て、中止することも修正することもできます。これがポイントです。誰よりも早く意思決定をして、世の中に問うて、次のステップへ進むかどうかを素早く判断します。
勝機を逃さないために
──大手家電メーカーを経て、amadanaを立ち上げたとのことですが、起業したときからそのような考えだったのですか?いいえ、違います。起業しようとしたきっかけは、ファブレス(工場を所有せずに製造業として活動する)でモノづくりがしたかったからです。2002年頃の日本では、工場を持たずに製品をつくっている企業はなく、新たなビジネスプロセスでした。でもある瞬間から、これは大きな資本がないとやっていけないビジネスだとわかりました。僕らはたくさんのアイデアがあるから、同時多発的にプロダクトをローンチしていきたい。製造から販売までしていると、一つのプロダクトに労力がかかり過ぎてスピーディーにモノづくりができない。今のアイデアは今の空気を感じて発想しているものだから、今実現しないと意味がありません。来年では遅すぎます。
──素早い意思決定を行うために、具体的にどのようなステップでプロジェクトは進んでいくのでしょうか?
10個ピースがあるとしたら、2個そろった時点で、なんとなくその先の6個目までが見えてきたら事業化できそうな感覚があります。そのタイミングでテストをして判断していきます。いきなり大きな投資はしません。必ず実験をします。そこで駄目ならプロジェクトを潰します。例えば、6個目の段階ではまだ実物は完成していないけれど、コンセプトムービーをクラウドファンディングで公開して、共感を募ってみる。そこで資金調達をしているわけではなくて、4000万円集まったという現象をみて、共感してくれている人たちを数値化して可視化しているわけです。これだけのニーズがあることがわかれば、パートナーも協力的になり、ピースが10個まで埋まっていきます。一方で、大企業は、ピースが9個まで集まらない限り動けないんですよね。そうするとすでに勝機を逸しているので、消費者に見向きもされません。
プロジェクトマネージャーの熱狂が必須
──決まった形を持たないスタイルが、次々に新しい製品を生み出せる秘訣なのでしょうね。そうですね、組織についても同様の考えで、固定された組織ではないほうが意思決定も早いし、時代に合っているように感じます。だから今は、組織や仕組みを完全に壊しています。組織ありきではなく、プロジェクトありきで考えています。そのため、その人のバックグラウンドや得意分野によってプロジェクトごとにアサインしています。ただし、クオリティやアウトプットをなにより重視しているので、最適な人材だと思えば、社外メンバーをアサインすることもあります。プロジェクトに応じて、毎回、アサインの判断軸が変わります。
先月、コーヒーのビジネスを立ち上げましたが、その担当者は異常なほどコーヒーに愛情があります。彼は元々コーヒーメーカー出身で、コーヒーブランドをつくりたいという思いから当社に入社しました。当社には、プロジェクト立ち上げのために必要なピースがいっぱい転がっています。やりたいという気持ちだけではなく、さまざまな仕事を通して学びながら、ピースを拾い集め、組み合わせていきます。そして、ピースがそろったタイミングで、プロジェクトを立ち上げていきます。
プロジェクトに対してクレイジーなくらい愛情がある人に担ってもらっています。それはなぜか? みんなが売れると思うマーケットは、みんなが参入してくるので競争が生まれます。僕は競争が好きではないので、競争がないところにマーケットをつくっていくことを好みます。そうすると、「不合理な心」をしっかりと読み解ける必要があります。そもそも人間は不合理な感情でモノを買うんですよ。CDが衰退している時代に、思い出やコレクション欲に惹かれCDプレイヤーを買ったり、履く機会も少ないのに何足も白いスニーカーをコレクションしたりします。僕は、不合理でも心を満たすマーケットにお金が動くと考えています。そして、そんなマーケットを生み出すことができるのは、そのプロジェクトに愛情がある人です。ゼロイチの火をつけても、3回ぐらいは消えてしまいます。そうすると普通は心が折れてしまいます。でも愛情がある人は、心が折れてもずっと笑っていられるんです。今の時代は、そういう現象から新たな境地が見えてくるし、イノベーションが起こるのだと思います。
生き残るには多面性が重要
──マーケットが成熟した時代だからこそ、心が動かされるものに対する消費が高まっているかもしれませんね。そんな現在、そして未来で生き残っていくためには、どのような能力が必要だと思われますか?
僕は一人の人間が一つのキャリアで終わる時代は終結すると常々言っています。人間はパラレルキャリアであるべき。多彩さが一つの武器になるし、それによって客観視できる能力が身につくと、もっと専門性も磨かれる。肩書にどんどんスラッシュを追加していろいろな顔を持っていくべきです。ひとりダイバーシティです。当社がクリエイティブ休暇という制度をつくって週休3日にしたのもそのためです。先ほどもお話ししたように熱意を注ぎながらも、ビジネスになるかを考えられる力が僕らには求められています。マーケットのつくり方も変わってきていますので、そういうセンスを磨いていく時間を与えないといけないと思っています。現在、社員20名の内7名がデザイナー出身です。しかしデザイン業務だけでなく、パートナーと商談もするし、社内外でプレゼンもします。デザイナーがすべてできるとすごくいいですよ。僕の中で、デザイナーはもはや絵を描く人いう認識はでありません。ビジネスをデザインする人です。
また僕たち経営者も、組織をつくろうという意識ではなく、ビジネスやプロジェクトを成功させるために必要なピースを埋めていく意識を持つべき。これが真実だと思います。過去には、堅苦しい組織をつくったこともありました。それも経て、うちの会社の強みって何だろうと向き合うようになりました。まだ、答えは出ていませんけどね。ただ、会社も個人も固定化せずに進化し続けることが、これからの時代に強いのではないかというのが僕の仮説です。
すべてをニュートラルに考えたいです。バイアスをかけると間違ってしまうから。僕は、これまでたくさん判断を誤ってきました。だからこそ、常にニュートラルでいられるかを大切にしています。「どこに向かっているのか」「何をやりたいのか」とよく聞かれますが、答えはわかりません。目指すは「カオス」です。でも、それで良いのではないか、と思っています。
──右にも左にも対応できるように常に中立の立場にいる。だからこそ柔軟に対応できると。しかし、どちらにも寄らないと「カオス」が待っているけれども、「それで良い」という潔さは面白いですね。amadanaが飛び込むカオスが今後どのようなシナジーを生むか楽しみです。本日はありがとうございました。