サウナで見えた歪な人間像。ベストセラー連発の編集者・箕輪厚介が語る #サウナでわたしも閃いた 幻冬舎 編集者 箕輪厚介さん
堀江貴文さんの『多動力』、前田裕二さんの『メモの魔力』など数々の書籍を手掛け、ヒットメーカーとして活躍する編集者の箕輪厚介さん。そんな箕輪さんですが、幻冬舎のオフィスにはほぼ立ち寄らず、サウナ施設で仕事をしていると噂を聞きました。真相を探るべく、箕輪さんにインタビューを実施しました。
サウナー(サウナ愛好家)にはクリエイターが多い。それはサウナによる脳内の刺激が創造性を活発にするという仮説をもとにスタートした連載「#サウナでわたしも閃いた」。今回はサウナワーカーである箕輪さんが格闘家・青木真也さんとともにつくりあげた『空気を読んではいけない』の制作秘話を伺いました。
サウナー(サウナ愛好家)にはクリエイターが多い。それはサウナによる脳内の刺激が創造性を活発にするという仮説をもとにスタートした連載「#サウナでわたしも閃いた」。今回はサウナワーカーである箕輪さんが格闘家・青木真也さんとともにつくりあげた『空気を読んではいけない』の制作秘話を伺いました。
──はじめに、箕輪さんがサウナ好きになったきっかけを教えてください。
私の場合、どちらかというと水風呂に入るためにサウナに入っています。昔から冷たい川が好きで、大学生のころは奥多摩の川によく遊びにいきましたね。電車で2時間揺られて奥多摩へ行って、川で泳いでから授業に戻ってという生活でした(笑)。そういった経緯で水風呂も好きになって、サウナにハマりました。でも正直、1人で入るサウナは退屈で、早く出たくなります。水風呂に入ることが目的なので、さっさと体を温めてくれって思っています。
──川好きだったからこそ「川とサウナ」(埼玉県秩父で活動するサウナチーム)にもよく参加されているのですね。
初めて体験したときは「こんなものがあったのか!」と感動しました。それに川は水風呂と違って、魚もいるじゃないですか。小学生のころ「目黒の河童」と呼ばれていたぐらいで、清流の中を魚たちが泳いでいる光景は、僕にとってのユートピアなんです(笑)。
──仕事においてサウナを活用していることはあるのでしょうか?
僕は、基本的にデスクに座ってPCで仕事をすることがなく、ほとんどの作業をスマホで行っています。だから、スマホ片手に、サウナ施設の「アダムアンドイブ」や足裏マッサージ店の「足庵」で仕事をしていることが多いですね。ほとんどがこの小さな端末のなかで完結するので問題ないです。それに、マッサージ中やサウナ後にシャワーを浴びているときの方が集中できるんです。 ──サウナ施設内でもスマホ片手に仕事をされているのですね。
アダムアンドイブと足庵には共通点があって、一つはスマホを触ることができる点。サウナ室は熱くなるのでさすがにスマホを触らないですが、水風呂やシャワーのときはスマホをひたすらいじっています。もう一つは、プライベート空間を確保できる点。オフィスや喫茶店だと、意識の3割くらいは他者を気にしてしまいます。「誰か入ってきたな」「あの人、今近づいてきているな」みたいに、無意識に乱されてしまうんです。
マッサージやシャワーの最中であれば、話しかけてくる人はいません。100%仕事に集中することができて、ゾーンに入ることができます。
──確かにオフィスだと上司や部下から声かけられて、集中力が切れてしまいますよね。
ちなみに、「川とサウナ」は仕事のためではなく、あくまでエンタメです。疲れたときに都会から離れた大自然のなかでサウナに入ることで、リフレッシュできる。そして、脳が活性化されます。
──脳が活性化されることで、閃きにつながるのでしょうか?
クリエイティビティの種は、海外に行ったり、新しい出会いを増やしたりと、初めての体験をすることです。だから、僕は国内・国外問わずさまざまな地域を巡っています。ルーティーンワークがクリエイティビティの敵。だから僕が行く必要のない会議には参加しないようにしています。それよりも、自分の脳を開放する作業を優先したいんです。
──実際に、サウナをきっかけに世に出た書籍はあるのでしょうか?
2016年に出版した、格闘家・青木真也の『空気を読んではいけない』が生まれたきっかけはサウナでした。当時、青木さんが柔術の大会に出場するというのでなぜかセコンドをするために韓国へ帯同しました。現地のサウナに入って話をしているうちに、青木さんの魅力を本にしたいと考えるようになったんです。 ──サウナのなかで、青木さんとどのような会話があったのですか?
青木さんのことはファンとしてずっと好きだったし、本を出したいという話も本人からありました。けれども、僕自身はずっと出版には後ろ向きでした。反対していたというより、僕がやる必要はないなと。編集者としての僕は、好きだから売れなくてもいいとは考えないタイプ。広告部出身だったからかもしれませんが、「ヒット作を出して利益を生む」ことが根底にあった。だから、「青木真也の自叙伝を出して本当に売れるのか?」というドライな視点で見ていました。
僕が担当するなら、格闘技ファンではなく一般人に刺さるものでないと意味がない。あくまでビジネス書としての切り口が必要でした。だから、青木さんが本を出したいと言っても、「格闘家の本はいま売れないでしょ」とずっと考えていました。
アスリートの書籍って、編集者が本人やそのスポーツを好きだから本にするパターンが多いじゃないですか。それを否定はしませんが、僕にはできない。超ドライに「今は格闘技ブームでもないし、青木真也ブームでもない。本を出しても売れないだろう」と思っていましたね。 ──初めから書籍化を考えていたわけではないのですね。
でもRIZINで桜庭和志さんとの対戦が決まって、「桜庭さんと対戦するなら話題になるし、流れをつくれるんじゃないか」と思った。それでNewsPicksにお願いして、桜庭戦まで道のりを全10回のコラムとして連載することにしました。
その取材のために、改めてサウナで話を聞いてみたら、青木真也という人間がとても歪だということがわかってきたんです。例えば、「箕輪さんって友だちいます?」と聞かれて、「いますよ」と答える。すると、「僕、友だち1人もいないんですよね。他人とご飯を食べたことないんですよ」と言われたり。どうやら、自分の領域に人が入ってくるのが嫌みたいなんです。驚きましたね。ここまで歪だと、アスリートとしてのアプローチではなく、1人の人間の哲学として本にできるかもしれないと考えました。
現代社会の同調圧力に、これだけ「個」が暴走している生き方もあるんだよ、と提示する。そんな内容になれば、本として成立する。その結論に辿り着いたのも、サウナの中で雑談のように話していたからです。
──裸で向き合うサウナだから、青木さんの本質が見えてきたのですね。
スケジュールを確保して取材する時間を用意しても、ありきたりな方向にまとまって、ボツになっていたでしょう。効率が悪くても、サウナで話すことに意味がありました。サウナって熱さに耐えられる時間に個人差があるから、青木さんがいいことを言おうとしても、僕が我慢できずに部屋を出てしまうこともある。そして、水風呂でリラックスしてサウナ室に戻ると記憶がすっかり抜けて「で、なんの話でしたっけ?」って振り出しに戻る。こんなことがしょっちゅうです。
でも打合せや会議って、目的に向けて一直線に進めてしまう分、凡庸な結果に終わりがち。サウナは寄り道しまくって気が散りまくるからこそ、本質的な場所に辿り着ける気がします。
──アイデアを生み出すのに最適な場所ということですね。
サウナにいると、目的とは離れたアイデアが出てくることがあります。なんの役に立つのか、どういう結果になるのか明確に見えていない、輪郭もあやふやなことを妄想する場所として適しています。仕事に直結した会議ばかりだと緊張してばかりだし、予定調和になってしまう。それを緩和させて、想定外のアイデアが生まれる場所として、サウナは最適だなと。
アイデアが生まれる法則は「拡散と収束」。拡散して突拍子もないことを言いながら、「そんなのあり得ないよね」と収束していった先に、面白いものが生まれます。ネタをブレストする場としてサウナは適しているのかもしれません。
ちなみにちょうどいま、『社長とサウナ』というテレビ番組を仕込んでいます。僕がいろんな社長にインタビューをするのですが、社長がパワーワードを言いそうになった瞬間に、「ちょっとのぼせちゃったので……」と僕が水風呂に逃げてしまう。戻ってきて「それで、なんの話でしたっけ?」と聞こうとしたら、今度は社長が水風呂に行ってしまう。永遠に噛み合わない、ゆるい番組を日曜の深夜あたりに放送したいですね。巷に溢れているパワーワードてんこ盛りの番組へのカウンターとして、「どうでもいいな。くだらねぇ」って思える番組です。 ──番組を観たら、翌日の月曜日は有給休暇を取って、サウナに行きたくなってしまいますね(笑)。箕輪さんにとってサウナは、パフォーマンスを最大限に引き上げると共に、想定外の発想に導いてくれる場所になっているのですね。箕輪さんが今後サウナ編集会議で生み出すものが楽しみです。本日はありがとうございました!
<撮影>池ノ谷侑花(ゆかい)
<取材協力>アダムアンドイブ(adam・eve)
私の場合、どちらかというと水風呂に入るためにサウナに入っています。昔から冷たい川が好きで、大学生のころは奥多摩の川によく遊びにいきましたね。電車で2時間揺られて奥多摩へ行って、川で泳いでから授業に戻ってという生活でした(笑)。そういった経緯で水風呂も好きになって、サウナにハマりました。でも正直、1人で入るサウナは退屈で、早く出たくなります。水風呂に入ることが目的なので、さっさと体を温めてくれって思っています。
──川好きだったからこそ「川とサウナ」(埼玉県秩父で活動するサウナチーム)にもよく参加されているのですね。
初めて体験したときは「こんなものがあったのか!」と感動しました。それに川は水風呂と違って、魚もいるじゃないですか。小学生のころ「目黒の河童」と呼ばれていたぐらいで、清流の中を魚たちが泳いでいる光景は、僕にとってのユートピアなんです(笑)。
川とサウナ! pic.twitter.com/uySiBpPcsV
— 言わずと知れた天才編集者(箕輪厚介) (@minowanowa) October 8, 2019
僕は、基本的にデスクに座ってPCで仕事をすることがなく、ほとんどの作業をスマホで行っています。だから、スマホ片手に、サウナ施設の「アダムアンドイブ」や足裏マッサージ店の「足庵」で仕事をしていることが多いですね。ほとんどがこの小さな端末のなかで完結するので問題ないです。それに、マッサージ中やサウナ後にシャワーを浴びているときの方が集中できるんです。 ──サウナ施設内でもスマホ片手に仕事をされているのですね。
アダムアンドイブと足庵には共通点があって、一つはスマホを触ることができる点。サウナ室は熱くなるのでさすがにスマホを触らないですが、水風呂やシャワーのときはスマホをひたすらいじっています。もう一つは、プライベート空間を確保できる点。オフィスや喫茶店だと、意識の3割くらいは他者を気にしてしまいます。「誰か入ってきたな」「あの人、今近づいてきているな」みたいに、無意識に乱されてしまうんです。
マッサージやシャワーの最中であれば、話しかけてくる人はいません。100%仕事に集中することができて、ゾーンに入ることができます。
──確かにオフィスだと上司や部下から声かけられて、集中力が切れてしまいますよね。
ちなみに、「川とサウナ」は仕事のためではなく、あくまでエンタメです。疲れたときに都会から離れた大自然のなかでサウナに入ることで、リフレッシュできる。そして、脳が活性化されます。
──脳が活性化されることで、閃きにつながるのでしょうか?
クリエイティビティの種は、海外に行ったり、新しい出会いを増やしたりと、初めての体験をすることです。だから、僕は国内・国外問わずさまざまな地域を巡っています。ルーティーンワークがクリエイティビティの敵。だから僕が行く必要のない会議には参加しないようにしています。それよりも、自分の脳を開放する作業を優先したいんです。
──実際に、サウナをきっかけに世に出た書籍はあるのでしょうか?
2016年に出版した、格闘家・青木真也の『空気を読んではいけない』が生まれたきっかけはサウナでした。当時、青木さんが柔術の大会に出場するというのでなぜかセコンドをするために韓国へ帯同しました。現地のサウナに入って話をしているうちに、青木さんの魅力を本にしたいと考えるようになったんです。 ──サウナのなかで、青木さんとどのような会話があったのですか?
青木さんのことはファンとしてずっと好きだったし、本を出したいという話も本人からありました。けれども、僕自身はずっと出版には後ろ向きでした。反対していたというより、僕がやる必要はないなと。編集者としての僕は、好きだから売れなくてもいいとは考えないタイプ。広告部出身だったからかもしれませんが、「ヒット作を出して利益を生む」ことが根底にあった。だから、「青木真也の自叙伝を出して本当に売れるのか?」というドライな視点で見ていました。
僕が担当するなら、格闘技ファンではなく一般人に刺さるものでないと意味がない。あくまでビジネス書としての切り口が必要でした。だから、青木さんが本を出したいと言っても、「格闘家の本はいま売れないでしょ」とずっと考えていました。
アスリートの書籍って、編集者が本人やそのスポーツを好きだから本にするパターンが多いじゃないですか。それを否定はしませんが、僕にはできない。超ドライに「今は格闘技ブームでもないし、青木真也ブームでもない。本を出しても売れないだろう」と思っていましたね。 ──初めから書籍化を考えていたわけではないのですね。
でもRIZINで桜庭和志さんとの対戦が決まって、「桜庭さんと対戦するなら話題になるし、流れをつくれるんじゃないか」と思った。それでNewsPicksにお願いして、桜庭戦まで道のりを全10回のコラムとして連載することにしました。
その取材のために、改めてサウナで話を聞いてみたら、青木真也という人間がとても歪だということがわかってきたんです。例えば、「箕輪さんって友だちいます?」と聞かれて、「いますよ」と答える。すると、「僕、友だち1人もいないんですよね。他人とご飯を食べたことないんですよ」と言われたり。どうやら、自分の領域に人が入ってくるのが嫌みたいなんです。驚きましたね。ここまで歪だと、アスリートとしてのアプローチではなく、1人の人間の哲学として本にできるかもしれないと考えました。
現代社会の同調圧力に、これだけ「個」が暴走している生き方もあるんだよ、と提示する。そんな内容になれば、本として成立する。その結論に辿り着いたのも、サウナの中で雑談のように話していたからです。
──裸で向き合うサウナだから、青木さんの本質が見えてきたのですね。
スケジュールを確保して取材する時間を用意しても、ありきたりな方向にまとまって、ボツになっていたでしょう。効率が悪くても、サウナで話すことに意味がありました。サウナって熱さに耐えられる時間に個人差があるから、青木さんがいいことを言おうとしても、僕が我慢できずに部屋を出てしまうこともある。そして、水風呂でリラックスしてサウナ室に戻ると記憶がすっかり抜けて「で、なんの話でしたっけ?」って振り出しに戻る。こんなことがしょっちゅうです。
でも打合せや会議って、目的に向けて一直線に進めてしまう分、凡庸な結果に終わりがち。サウナは寄り道しまくって気が散りまくるからこそ、本質的な場所に辿り着ける気がします。
──アイデアを生み出すのに最適な場所ということですね。
サウナにいると、目的とは離れたアイデアが出てくることがあります。なんの役に立つのか、どういう結果になるのか明確に見えていない、輪郭もあやふやなことを妄想する場所として適しています。仕事に直結した会議ばかりだと緊張してばかりだし、予定調和になってしまう。それを緩和させて、想定外のアイデアが生まれる場所として、サウナは最適だなと。
アイデアが生まれる法則は「拡散と収束」。拡散して突拍子もないことを言いながら、「そんなのあり得ないよね」と収束していった先に、面白いものが生まれます。ネタをブレストする場としてサウナは適しているのかもしれません。
ちなみにちょうどいま、『社長とサウナ』というテレビ番組を仕込んでいます。僕がいろんな社長にインタビューをするのですが、社長がパワーワードを言いそうになった瞬間に、「ちょっとのぼせちゃったので……」と僕が水風呂に逃げてしまう。戻ってきて「それで、なんの話でしたっけ?」と聞こうとしたら、今度は社長が水風呂に行ってしまう。永遠に噛み合わない、ゆるい番組を日曜の深夜あたりに放送したいですね。巷に溢れているパワーワードてんこ盛りの番組へのカウンターとして、「どうでもいいな。くだらねぇ」って思える番組です。 ──番組を観たら、翌日の月曜日は有給休暇を取って、サウナに行きたくなってしまいますね(笑)。箕輪さんにとってサウナは、パフォーマンスを最大限に引き上げると共に、想定外の発想に導いてくれる場所になっているのですね。箕輪さんが今後サウナ編集会議で生み出すものが楽しみです。本日はありがとうございました!
<撮影>池ノ谷侑花(ゆかい)
<取材協力>アダムアンドイブ(adam・eve)