スタートアップとCOO

──2019年末に、スタートアップ企業の成長支援を掲げる、COO株式会社を設立されたそうですが、立ち上げの経緯について教えていただけますか?
COO株式会社を立ち上げた一番の理由は、自分自身の成長のためです。現在COOを務めているいるイチナナキログラムは、ファッションブランドのD2C事業を展開しています。ECから始まった事業も、いまでは常設店での取り組みや東京ガールズコレクションへの参加など、新しい挑戦を続けています。この先も積極的に新しいことに挑戦していく姿勢は変わりませんし、私自身も日々新しい学びを得られるので充実しています。一方でイチナナキログラムの事業で得られる知見は、どうしてもファッション領域に偏ってしまうとも感じていました。
  
僕自身のキャリアとしては「ベンチャー経営のスペシャリスト」を目指しており、特定の領域のスペシャリストになるよりも、20代のうちから複数の領域を見れるようになりたいと考えていました。

そんな願いを実現するために立ち上げたのが、COO株式会社です。経営者の事業や組織の壁打ち相手として、アドバイザリー的に関わりを持つことで、自分自身の成長につながると考え、この会社を立ち上げました。

──具体的にどのような部分で、COO株式会社はスタートアップ企業に貢献できるとお考えなのでしょうか?
僕がイメージするのは、スタートアップ企業や新規事業の加速装置になることです。というのも、日本の起業へのハードルは昔に比べて低くなり、スタートアップ企業や起業家が増えました。しかし、多くの人が「0→1」に注目するばかりで、「1→10」の領域にノウハウを持つ人が意外と少ないとも感じていました。
 
海外では資金調達のシリーズAの段階になっていくと、ベンチャーキャピタルがプロ経営者をスタートアップ企業に送り込む場合もありますが、日本ではそうした例がまだまだ少なく、創業者が経営者を兼務するケースがほとんどです。こういった現状からも、現役のスタートアップ企業経営者がスタートアップを支援するサービスはニーズがあるのではないかと感じています。
 
──スタートアップ企業を支援する存在として、日本でもベンチャーキャピタルやエンジェル投資家などが存在していると思います。これらから受ける支援とプロCOOができる支援に違いはあるのでしょうか?
もちろん、起業家にとって、ベンチャーキャピタルやエンジェル投資家たちは頼れる味方です。そこは大前提として間違いなく、ゆるぎありません。一方で、株主ではない外部の人間だからこそ出せる価値というのも存在すると感じています。例えば、会社にとってネガティブな問題など、株主であるベンチャーキャピタルやエンジェル投資家には気軽に相談しにくい事項もあると思っています。そんなときに、外部のプロ経営者に相談できるというのは一定のニーズがあると思っています。

──CEOの隣に立てる。それが、ベンチャーキャピタルやエンジェル投資家が持たない、COOのみが持つ特性であるというわけですね。
そうですね。あとは僕自身が現役スタートアップ経営者なので、自社の経営の中から得られる鮮度の高いインプットを起業家に還元していくこともできると考えています。COO株式会社でそれを実現し、スタートアップのエコシステムの形成に微力ながら貢献できればと考えています。

──ここまでCOOがスタートアップ企業に貢献できるポイントについてお話いただきました。ほかに秋山さんが思う、スタートアップ企業が伸びていく上で必要だと思うことはありますか?
スタートアップ企業であっても、経営のベースは個人商店の八百屋と変わらないと思っています。つまり、まずは利益を出すことに集中すべきだということです。「利益を出して、その利益の中から次の投資を実行する」というのが、健全なサイクルだと考えています。

というのも、最近の若手起業家は「資金調達して一人前」という風潮があるように感じています。もちろん、資金調達することを否定しているわけではありません。明確に競合相手が存在し、先に市場のパイを刈り取らなくてはならない状況も確かに存在します。こういった状況下ではスピードが命なので、いち早く資金を調達する必要があります。

一方でそういった状況下でないにも関わらず、「とりあえず調達」してしまったというスタートアップも私の周りには存在します。資本政策は唯一と言っていいほど後戻りのできない意思決定なので、私は外部から資本を入れる場合は、本当にその必要性があるのか十分に検討してから実行すべきと考えています。

──会社である以上、「利益を出す」という目的から逸れてはいけないと。
そうですね。あとは資金調達することによって、自分たちの経営権は薄まります。また株主とのコミュニケーションが必要になりますし、事業を運営する上での自由度は確実に落ちます。 そのため、会社を経営する上では、「外部株主が存在する企業の経営は、自己資本経営よりも難易度が高くなる」ということは肝に銘じるべきだと思います。

──スタートアップ企業のCOOを務めている秋山さんならではのリアルな視点で、スタートアップ企業の経営についてお話いただきました。後編では、個人と企業のこれからの付き合い方についてお話いただきます。

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