強烈な実体験から

──はじめに、サラドのサービスについて教えてください。
サラドは、「主食に代わるサラダ」を提供するため、定期配送サービスやケータリングサービスなどを行っています。多くの人にとってサラダは、副菜というイメージを持つ人が多いと思いますが、私たちが提供するのはそれ一つで1食分の食事になる、主食としてのサラダです。

また、「サラダが健康にいい」ということは、誰しもがイメージできると思います。だからといって、「サラダを食べ続けること」って、かなりハードルが高いですよね。だから私はもっと多くの人にとって、サラダが食事の選択肢になるような機会をつくっていきたいと思っています。

そしてそれを実現するためには、3つの障壁があると私は考えました。「物理的な障壁」と「経済的な障壁」、そして「味の障壁」です。いくらサラダが健康にいいとわかっていても、わざわざ20~30分もかけてまで買いに行くのはハードルが高いし、1食にかける金額も限られます。なにより、幾千もある食べ物のなかからサラダをわざわざ食事に選ぶとなると、おいしくなければ食べ続けるためにモチベーションを維持することができない。

そのためサラドでは、これら3つの障壁を解消した「アクセスしやすいサラダ」を目指しています。「サラダを食べる」という選択肢がもっと身近にあれば、健康への意識や行動もより良い方向へきっと、変えていける。私はそう考えています。
サラドが提供するサラダ
サラドが提供するサラダ
──細井さんがサラダの事業を立ち上げようとしたきっかけはどのようなものだったのでしょうか?それまでのキャリアも飲食関連のお仕事をなさっていたのでしょうか?
私はこの事業を立ち上げるまでは、アップルジャパンで営業職として勤めており、アメリカの本社で決められた「理想の売り場のデザイン」をもとに、日本中の家電量販店それぞれと協力して売り場をつくっていく仕事などをしていました。

そのため、飲食関連のお仕事をしたことはいままで一度もありませんでした。私がこの事業を立ち上げるきっかけになったのは、前職に勤めていたころに自身の健康を強く意識する機会があったからです。

当時、同じ職場にいた先輩があるとき、体調が悪く外来で医師に診て頂いたところ、「狭心症」という病気だと言うことがわかり、当日緊急入院して翌日手術をすることになりました。幸い、無事に手術は終わり、退院もしたのですが、自分の近くにいた人間が死にかけたという事実がかなり衝撃的で……。

またその先輩は医師から「食事に気をつけましょう」と指導されたんですよ。その当時の私の食生活はその先輩とよく似ていましたし、歳もそれほど離れていなかった。なにより、先輩も私も家族を持っていました。「もし、自分が病気になって家族を残していくことになったら…」そんなふうに考えるようになり、この件以来、自分の食生活を見直すことにしたんです。
そこから、サラダを晩ごはんに食べる生活を2カ月ほど続けたところ、体重が7キロも落ちて、身を持ってサラダが体に与える影響を実感しました。サラダをつくってくれた妻も、適度に肉や魚を入れるなどして、創意工夫して協力してくれましたのですが、同時にサラダを食べ続けることの難しさも痛感しました。ランチでサラダを食べようとすると、意外と選択肢が限られたし、1食あたりにかかる費用も安くはなかった。

先輩が死にかけたことがきっかけで、サラダの効果と食べ続けることへの難しさ、この2つを実感しました。そしてこれらは、なにも私一人にだけ当てはまることではないのではないか? そう考えるようになりました。きっと、働く多くの人にとって有益なサービスになる。その可能性をサラダに見出したことがきっかけとなり、この事業の立ち上げに至りました。

──現在の事業を立ち上げるまで細井さんは、IT業界にいたとのことですが、異業種である飲食業へ参入することに感じたハードルなどはありましたか?
おっしゃるとおり、業界の知識も経験もないし、料理だって不慣れなゼロからのスタートで、とても苦労しましたね。食材の買い付けからレシピ開発、キッチンづくりや営業、配達の代行探し、デスクワークまでの一連の業務すべてを自分一人でやっていましたが、体力的には相当きつかったし、0→1でものごとを生み出すことの難しさを痛感しましたね。

そこからどうにか、チームを立ち上げたのですが、チームマネジメントの面でも苦戦しました。その当時、私の理想としてあった「威厳のあるリーダー」として振る舞っていましたが、これが全然うまくいかなくて。360度評価を取り入れた時のスタッフからの評価は、10段階評価で6点だったんですよ(笑)。「これはいかん!」と恥も外聞も捨てて、翌日からスタッフの指摘も反映して自身のキャラクターを変更し、積極的にコミュニケーションを取る様にするなど、トライ&エラーでもがき続けました。おかげでスコアも9点以上へ上がりました。いまでこそ笑い話にできる部分ですけど、組織を成り立たせるためにとにかくがむしゃらに試行錯誤を続けて、2020年の現在では事業として5期目に入るところです。

サラダができる最大限の社会貢献を目指す

──サラダでの事業を始めて2020年で5期目を迎えるということですが、細井さんが初めに思い描いていたビジョンとのギャップはありますか?
会社の福利厚生として導入するなど、法人に対してのニーズが想像以上にありましたね。これは、この2年ほどの間で、「健康経営」という言葉をよく聞くようになったことが要因だと思います。実際に私自身も、食事をサラダに変えることで体のコンディションが整い、働くときのパフォーマンスの改善を感じていました。

そこで、旭化成と共同で、食事とパフォーマンスの関係を調査したんです。いつもどおりのランチと、サラダを中心にしたランチを食べた人たち。それぞれにランチを食べたあとに、「集中できたか?」「眠気を感じたか?」など質問をしました。その結果、「集中できた」と回答したのは、ラダランチを食べた人が83%、普段食を食べた人では62%と、21%多く明確な差が見られたんです。また「眠気がある」と答えたのは、サラダランチを食べた人が23%、普段食を食べた人では38%と、こちらも15%少ないと言う差があり、ようやく信頼のおける大企業と定量的なデータを得ることができました。
サラダとパフォーマンスの関係調査
サラダとパフォーマンスの関係調査
──ランチをサラダに変えるだけで、そこまで数字が変動するとは…。
ランチ後の集中力や眠気に大きく寄与するのが体内の血糖値なんです。食べて血糖値が上がったあと、体のなかではそれを平常時の値に戻そうとインスリンが分泌されます。この血糖値を下げようとする動きの際に、眠気が発生すると言われていて、生産性が悪化します。

以前、2週間ほど血糖値を測定しながら生活をしてみたことがあります。そのとき空腹時は80台の数値を示していましたが、エナジードリンクを飲んだときはそれが170になり、コンビニの牛丼を食べたときは200を超えるぐらいまで数値が上昇したんです。一方で、サラダを食べたときの血糖値は110くらいまでしか上昇しませんでした。あくまで私のサンプルですが、サラダを食べたあとは血糖値の上げ幅と下げ幅が小さく済むということなんです。

このようなデータと私自身が体験した経験から、ランチのメニューを選択することには、とても大切な意味があると、私は考えています。ランチを、ただ空腹を満たすためだけの行為にするのではなくて、自分の午後のパフォーマンスを維持もしくは改善させるために、メニューを決める。「自分の午後のパフォーマンスを改善させるため」という新しい観点でのランチになり得る可能性をサラダは秘めているんです。
──健康を維持するためだけではなく、食事によってワークパフォーマンスを向上させる。そのような観点でも食事にサラダを選ぶことは有効であるわけですね。
さらに深堀りすると、サラダにどのような食材を使うかでも、サラダが持つ役割も変化していきます。

例えば、職場でのストレスを和らげたいという人におすすめできるのが腸内環境を整えられる食材を使ったサラダです。「セロトニン」という脳内伝達物質があるのですが、これはメンタル面の安定性に寄与するもので、「幸せホルモン」なんて呼ばれていることもあります。

このセロトニンも含め、脳内伝達物質の90%程度が腸内に存在しています。そして、腸内ではセロトニンのもとがつくられて、これが脳に送られセロトニンになります。つまり、腸内環境を整えることはこれらの脳内伝達物質の生成と脳での活用に寄与してくれるので、腸内環境を整えられる食物繊維を多く含む食材や発酵食品を使ったサラダは、結果的にリラックスや不安感の軽減の役割を担うことができるんです。このように、使う食材をロジカルに逆算した上でサラダをつくってあげると、より効果的にワークパフォーマンスの改善に寄与することができるんです。

サラドの事業ではこのような「サラダのコンサルタント」として、企業それぞれの要望や環境にあったメニューの開発も行っています。私たちが本当に提供したいと思っているのは、サラダだけではないんです。その先にある、健康やワークパフォーマンスの改善です。サラダを通して社会全体のQOL(Quality of Life)を上げていきたいんです。それは、「サラダを提供して終わり…」というだけでは到底かなえられません。

多くの人は週に21食の食事を取ると思います(※1日3食とした場合)。そのうち週2回、私たちが提供するサラダを食べていただいたとしても、たった10%程度しか影響を与えられません。ですが、先ほどもお話した旭化成と行った調査では、「サラダランチを食べることで自分の健康を意識するようになった」と5割を超える回答者から声が集まったんです。このことはサラダを直接提供すること以上に高めていくべき価値であると考えています。この意識を高められれば、サラダ以外の19食分の食事にも、健康やワークパフォーマンスを意識したものに置換できる可能性がどんどん高くなりますから。今後は、この部分に寄与していくことを目指していきたいですね。

私が経験したような、食生活が原因で誰かが倒れること。これをなくすことも私たちの重要なミッションですが、それは私たちが解決すべき最低限のミッションだと考えています。それに加えて、サラダを通した最大限の社会貢献をこの先、実現させていきたいと思います。
──異業種から越境し、0からサラダ事業を立ち上げた細井さん。多くの困難を超えた先に見据えているのは、サラダを通したパフォーマンスの改善でした。サラドが見せるこの先の展開がとても楽しみです。お話いただき、ありがとうございました!

※3月下旬に、「密閉」「密集」「密接」を避けて取材・撮影しております。
※2020年4月28日に一部数値に誤りがありましたので、記事の修正を行いました。
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