──鈴木さんは、クリエーティブディレクター/映像作家としても活躍されていますが、電通ではどのような業務を担当されているのでしょうか?
電通には、プランナー/コピーライターとして所属しています。広告・CMの企画やコピーライティングなどはもちろんですが、案件によっては映像ディレクターとして、あるいはアートディレクターやクリエーティブディレクターのように動くこともあります。肩書を超えた業務を任されるときには、フリーランス時代の経験が活かされることも多いです。
──直近で携わった案件について教えてください。
最近の事例だと、2019年7月に実施された、ヤマハの研究チームによるAIと人間の共創を追求するプロジェクト「Dear Glenn」に参加し、プランニングや映像制作などを担当しました。

これは1982年に亡くなった伝説的ピアニスト、グレン・グールドの演奏をAIシステムが学習し再現したもの。オーストリアのリンツ市で毎年開催されるメディアアートの祭典「アルスエレクトロニカ・フェスティバル」にて、AIによる初演奏が披露されました。当日は1000人規模の修道院で、グレン・グールドの演奏データを学習したAIが彼の音楽性を再現しながら、人間のピアニストをはじめ、ヴァイオリン、フルートなどの演奏家とも共演する新たな表現が生まれました。

以前から一度は参加したいと思っていたメディアアートの祭典に仕事として関われたことが嬉しかったです。また、クリエーティブディレクターの田辺俊彦さんや、アートディレクターの田中せりさんなど、先輩方の仕事を間近で見られたことで、これまで得られなかった気付きがたくさんありました。
──それとは別に個人制作もされていらっしゃると思いますが、会社と個人を両立することで、どのようなメリットが得られていると思いますか?
スキルとして双方に活かせていることはもちろんですが、最も大きなメリットは、個人でつくった「プロトタイプ」をクライアントワークに活かせることですね。

例えば、主宰しているARフィルターレーベル「IDENT(アイデント)」では、新型コロナウイルスの影響で普及しているオンライン飲み会やビデオチャットの通話中に話題を提供するフィルター『#答えてフィルター』や、目の動きを使って遊べるInstagramストーリー用ゲームフィルター『FACEBOY』などを企画・開発しています。

「IDENT」の本質は、フィルターを提供することではなく、映像やデジタル技術を活用して「クライアントワークを見据えたプロトタイプをつくる」こと。フィルターは未だ日本では馴染みが薄く、仮装するだけのものが多いのが現状です。こうした世に出ていない新たなコミュニケーション体験をプロジェクトとして実験的につくり、その経験を得ることで、将来的にクライアントの課題解決の一つとして提案できます。

2019年には、コンテンツスタジオCHOCOLATEと独立系映画会社スポッテッドプロダクションズとともに、日本初の微電影レーベル「37.1°微電影」を立ち上げました。「微電影」とは中国ではじまった「インターネットで公開される無料の映画」のことで、インターネット上で展開していく新しい映画を、さまざまな角度から実験中です。また、2020年4月に始動したフルリモート演劇集団「劇団ノーミーツ」では、Web会議ツールの「Zoom」を活用した、新たな演劇表現にもチャレンジしています。
クライアントワークでは、まだ誰も試したことのないまったく新しい施策をいきなり提案しても、説得力がなく受け入れてもらえないことが多くあります。しかし、先にプロトタイプをつくって成果を残すことができれば、「実は個人的にこんなことをやっていて…」と提案しやすくなるし、すでに効果が出ていることを実証できれば、クライアントにとっても受け入れてもらいやすくなります。活動の場を複数つくることで、それらの相乗効果が生まれていることを日々実感しています。

──最後に、鈴木さんの今後の目標を教えてください。
僕の働き方は、周囲から見ると「二足のわらじ」だと思われがちですが、自分ではそんな感覚はありません。

軸としているのは「作品を通して、世の中とつながる」ということ。この軸がブレないのであれば、居場所がいくつあってもいいし、どんな人と一緒に働いたっていい。今後も自分の活動のいろんな領域が融合していくような取り組みを続けながら、誰かにとって一生大切にしたくなる作品をつくることができたらいいなと思っています。

──重要なのは、居場所ではなく信念。正解となるルートがないからこそ、もがき続けた先に自分だけの飛躍の道が見えてくるのかも知れませんね。次はどんな作品で社会にインパクトを与えていくのか、鈴木さんの今後の活動にも目が離せません。本日はありがとうございました!
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