新しいコンテンツをつくり続ける意味

──新型コロナウイルスによって、テレビやYouTubeなどあらゆるメディアで、リモートで企画をつくることが増えたかと思います。実際、放送作家として企画を考える仕事をしていてどのように感じていますか?
制限が多く本当に難しいですね。一方で良い作用もあります。出演者が自宅からZoomなどの設備を整えたことで気軽なブッキングができるようになりました。お笑いコンビ・かが屋のYouTubeチャンネル「みんなのかが屋」に、僕は作家として参加していますが、10人の参加者を集めたクイズ大会の企画をしました。少人数で運営しているチャンネルだと、リアルで10人もの人を集めるのは大変。ですが、リモートなら負担も少なくて、楽しくできました。
あと、僕はまったく関わっていませんが、赤西仁さんや錦戸亮さん、小栗旬さん、山田孝之さんらがリモート飲み会をしている動画をアップしていたのを見ました。これもリモートだから実現できた豪華な企画ですよね。リアルだと実現するのは難しい企画も、家からお手軽に配信できるリモートならと、フットワーク軽く実現できるというのは、魅力の一つですよね。

6月後半からスタジオ収録が可能になりましたが、またいつリモート収録に戻るかわかりません。僕個人としては、リモートで企画をつくり続けていくのは、少ししんどいなと感じています。

──それはどうしてでしょうか?
やはり物理的に近づくことができない不自由さはどうしてもありますし、それ以上にもったいないと感じてしまうからです。リモートで面白いものをつくれても、「実際ならもっと面白くできたんじゃないか」とどうしても思ってしまう。だから緊急事態宣言が出されてからは、あまりリモート期間中には頑張ってなにかをやろうとは思いませんでした。その分、普段は時間がなくてプレイできなかったゲームでたくさん遊んでいました。ほかにも英語の勉強も始めて、この先なにかに活かせることを信じて、アウトプットよりもインプットに自粛期間は多く費やしていました。

インプットといえば、僕は高校生のころ映画を年間300~500本近く見ていたんですよ。その当時、TSUTAYAで「発掘良品」という企画があって。有名ではないけど隠れた名作をTSUTAYAのスタッフたちが発掘しておすすめするというものです。高校生の僕はこの企画をすごく気に入って、一週間で10枚を借りて見る生活をずっと続けていたんです。だから学生時代にはとにかくたくさんの映画を見ていました。

この自粛期間の間も、映画をそれなりに見ていたのですが、それでもいまだにこの世にある名作と呼ばれる映画を見切れていない。まだまだ見たい作品が山のようにある。僕としては、生きている間に楽しめるコンテンツは十分な数が出そろっている。コロナを通して僕は実感しました。たとえエンターテインメントが止まってしまったとしても、楽しめるコンテンツは映画やドラマ、本、ゲームなど山ほどあるなと。

──テレビでもドラマの撮影ができず、過去のドラマの再放送を流すこともありましたが、不平や不満をいう声は少なかったと思います。
名作が持つ面白さって変わらなかったり、年月が経って違う面白い見方ができたり。NetflixのようなサービスやApple Musicなどもそうですが、最新の作品であれ、昔の作品であれ、すべてのコンテンツは同列に並べて比べることができて、対等ですよね。オールタイムで比べられる。

ただ、テレビのバラエティ番組はアーカイブが少ないですよね。アーカイブ性がもう少し高ければいいのにと、個人的には思っています。映画やドラマがそうであるように、バラエティ番組にも名作はあります。いまでも『水曜どうでしょう』や『相席食堂』が動画配信サービスで視聴できたり、20年以上前に放送されていた『ダウンタウンのごっつええ感じ』がDVD化されていたり。面白すぎる番組は残されていますけど、それでもまだまだ数は少ないですよね。

365日24時間、テレビは休まず放送しているので、もっと膨大な量がアーカイブ化されたらいいのにと思います。もちろん、他局と足並みが揃わないことやそのほか権利の関係など、いろいろな事情があるのも重々承知していますが…あくまで僕個人の希望ということで(笑)。

──見るべき名作は膨大にあると考えているのなら、白武さん自身の新しいコンテンツをつくるモチベーションはどこにあるのでしょうか?
「新しい」や「面白い」と感じてテンションが上がるかどうかですね。「面白いと思ったこの人と一緒になにかやりたい」と思えるかや、いままでにない新しさを出せそうか。つくる過程が楽しいから新しいものをつくりたくなります。そう考えると誰と一緒に仕事ができるのかって重要ですね。

一方でAIが人間の仕事を奪うというお話がありますが、早くそうならないかなと僕は思います。それに加えて、ベーシックインカムの仕組みができてほしいですね。生活資金を増やすための労働ではなくて、エンターテインメントをつくり、楽しむために人生を使えれば最高ですから。たとえば『マトリックス』や『レディ・プレイヤー1』のように電脳の世界で生きていく仕組みができたりするのも待ち遠しいです。もっと自由に時間を使えれば、生身の人間とテクノロジーによる共創もいまとは違う方向にいくかもしれない。ぜひともそういう世界を見てみたいですね。そこでのコンテンツもつくってみたいです。

これからメディアに求められるクリエイターとは?

──新型コロナウイルスの影響もあってか、ここ最近では芸能人がYouTube上に個人チャンネルを設けるケースが増えていますよね。
とても増えましたね。2018年10月にカジサックさんがYouTubeチャンネルを設けたときには「芸能人がYouTube来ないで!」なんていう反発の声も多かったですけど、いまではチャンネル登録者数が200万人を超えていて、すごい結果を出されています。そこから中田敦彦さんや堀江貴文さんなどもYouTubeを始め、僕自身もお笑いコンビ霜降り明星のお二人に声をかけて、2019年7月から「しもふりチューブ」というYouTubeチャンネルを開設しました。さらに2020年になってからは宮迫博之さんやロンドンブーツさん、江頭2:50さんなど、テレビのなかで長年活躍されていたスターの皆さんが参加し始めた。そして新型コロナウイルスの期間にも、さらに多くの人が開設したという感じですかね。

──YouTubeとテレビでは企画のつくり方や考え方は、やはり異なるのでしょうか?
そのチームによって異なりますね。演者主導のチームもありますし、スタッフ主導のチームもあるので。例えば、藤田ニコルさんは自分で撮影から編集、企画、出演など全部やっているそうです。YouTuberに多いマルチな才能を活かしたスタイルです。一方、知り合いのディレクターやプロデューサー、放送作家などに声をかけてネタだしをしてから1本ずつ動画にしていくような、テレビ的なスタイルで活動している芸能人の方も多くいますね。僕もスタッフとして参加させてもらっている千原ジュニアさんと小籔千豊さん、フットボールアワーさんの4人のYouTubeチャンネル「ジュニア小籔フット」では、演者とスタッフがそれぞれ役割を持って、動画を制作しています。
テレビとYouTubeの違いはまずは予算ですね。テレビ番組の場合は、一つひとつの枠に予算が与えられていて、そのなかでできることを考えていきます。しかしYouTubeは、最初は予算がないことも多い。広告収益は一定条件をクリアしないといけません。コストと時間が先行してかかり、さらに成功して採算が合うのか。ビジネスを成り立たせるのは難しい。テレビで仕事をしてきた人なら、不慣れで抵抗感もあります。

去年はYouTubeの仕事をするテレビのスタッフはまだ数えるほどでした。しかし、YouTubeに参加する芸能人同様に、YouTubeの仕事を始めたテレビマンや放送作家も爆発的に増えました。なぜかというと、芸能人がYouTubeに参入したとき、彼らと仲のいいスタッフ、放送作家やディレクターも一緒にやろうと誘われてチームで制作するためです。去年までは“YouTube作家”と呼ばれる人間は、10人も名前が挙がらなかったのですが、今年に入ってからは放送作家ならむしろやっていて当たり前というふうに変わりました。

──そもそも、どうして白武さんはテレビだけでなくYouTubeでのお仕事も始められたのでしょうか? 昨年までYouTube動画を担っている放送作家は10人もいなかったとお話いただきましたが…。
学生のころからずっとお笑いが好きなので、楽しいことができるならテレビでもYouTubeでもメディアはあまり問いません。ラジオもネットテレビも雑誌もやっていて節操がないです。

僕が放送作家になりたいと思うようになったのは、高校生のころです。高須光聖さんが運営している「御影屋」というホームページがあるのですが、そのサイトでは放送作家のインタビュー記事がまとまって掲載されていました。そこに鈴木おさむさんの記事があって、大学生のころから作家として活動を始めたと知りました。「学生のうちから放送作家ってできるんだ!」と思い、僕もそれを目指すことにしたんです。そして大学2年生のときに、放送作家の先輩が主催するレコードイベントで、偶然お客さんとして来ていた放送作家の樋口卓治さんを目撃して、樋口さんに直接「放送作家になりたいです!」と直訴しました。そうしたら、「一週間後にここにおいで」と名刺を渡され、『学生才能発掘バラエティ 学生HEROES!』という番組の作家見習いとして番組に参加させてもらうことになったのです。これが僕の放送作家としての最初の仕事でした。

──白武さんも学生のころから放送作家としてのご活動を始められたのですね。
いま僕は29歳なのであれから約9年間、この仕事を続けています。それでもまだ、絶対と言っていいほどテレビの現場では僕が最年少ですね。先輩たちが偉大すぎてずっと活躍されています。お笑い界でイメージしてもらえたらわかりやすいと思います。明石家さんまさんやビートたけしさん、タモリさんなどがいまでも最前線で活躍していて、一つ下の世代だとダウンタウンさんやウッチャンナンチャンさんたちがいる。演者として、ものすごい実力を備えたベテランがいつまでも活躍し続けているように、スタッフ側も同様なんですよ。いままでの時代を演者と二人三脚でつくってきた経験豊富なスタッフの方たちがたくさんいるんです。若手が彼らと競り合っていくには、専門知識など強力な武器が必要になります。

あとは少し前の話になりますけど、人口に占める割合の多い50歳以降の人が見るような番組、つまり若者向けではない番組が増えた時期がありました。そのため、年齢が近い人の方が共感できることが多くて、つくるときに有利に働く場面も多かったんですよね。体の不調、結婚や離婚、子どもの教育…若者はまだ経験していないわけですから。

──そうなると、この先も若いクリエイターやスタッフはテレビでは活躍しにくいのでしょうか?
それが必ずしも向かい風というわけでもないんです。従来は世帯視聴率という世帯単位でリサーチをしていましたが、新たに個人単位で測定する個人視聴率の測定も導入されました。これにより、テレビを見ている人の世代ごとの視聴率を測定できるようになったんですね。つまり、購買意欲が高い若い世代がどのくらい見ているかを測る指針が設けられたのです。だからこそ、「お笑い第七世代」など若い演者も台頭してきていますし、若者に響く番組がつくれるかどうかが大事になってきます。

あとは今回のコロナの影響により、広告費を削る企業も多いです。そのため番組の制作費も縮小すると思うので、ベテランや大御所のタレントさんをキャスティングすることができない状況も出てくると予想しています。そういう、やむを得ない事情も若者にとっては追い風になるかもしれませんね。

──まさにピンチのなかにもチャンスが生まれている状況ですね。学生のころから放送作家として活躍する機会を得た白武さんですが、放送作家になるためにはなにが必要になのでしょうか?
よく放送作家志望の若い方に、「どうすれば放送作家になれるのでしょうか?」と聞かれることがあります。先輩から聞いた答えでいいなと思っているものがあって、それは「その方法を思いつける人が放送作家である」ということです。放送作家になるには、たくさんの手段があると思います。養成所に通ったり、ラジオのハガキ職人として実力をアピールしたり。それらにはタイミングや運などももちろん絡んできますが、諦めなければきっとチャンスは訪れます。それにいまの時代は、それこそYouTubeの動画投稿やSNSを使うなどで、自分の才能を証明したり、アピールしたりすることが容易になっています。いまだからこそできる放送作家のなり方がきっとあると思うので、それを見つけられるといいのでしょうね。

──放送作家の白武さん自身が新型コロナウイルスで感じたことや、テレビやYouTubeの実情などをお話いただきました。コンテンツがありふれる世界で、「なぜクリエイターはつくり続けるのか?」をあらためて考えてみる必要があるのかもしれません。お話いただき、ありがとうございました!

※2020年7月28日 リード文に誤字があったため、一部修正しました。

お知らせ

7月30日(金)に白武さんの著書、『YouTube放送作家 お笑い第7世代の仕掛け術』が発売されます。地上波番組やYouTubeの放送作家として媒体を越境しながら働く白武さんが、YouTubeとテレビの最前線の現状を分析。メディア論にとどまらず、エンタメ業界で必要とされるスキルや、白武さんが実践しているライフハックなども紹介しています。第1章はこちらで試し読みできます。ぜひ書籍もチェックしてみてください。
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