──“Buzz Machine”という肩書で、サントリー『忍者女子高生(C.C.Lemon)』や縦型スマホジャックMV『RUN and RUN(lyrical school)』など数々のヒット企画を世に送り出してきた栗林さんですが、今はその肩書を使っていませんよね。どうしてでしょうか? 
話題を生み出し、その結果として本当にモノが売れるなど、世の中を動かすには、まだまだ修行が足りないと思ったからです。これまで素晴らしいクライアントやパートナーとともに、いろいろな企画を一緒に実現させていただき、なかには何千万回も再生されたり、何十万回もシェアされたり、Yahoo!ニュースのトップで紹介されたりと、いわゆる“話題”を生み出すことはたくさんできました。一方で、地方の高校生とかに聞いてみるとまったく認知されておらず、シェア以上の行動を起こした、という人が多くなかった。その点、『君の名は。』や『ボヘミアン・ラプソディ』は圧倒的に話題になり、実際に人が鑑賞し、世の中が動いている。それと比べてしまうと「自分はまだ本当の“Buzz”を生み出せていない」ということを痛感しました。そして、社会を変えるような話題を生み出すには、広告という領域を超えて、商品や事業、サービス、もしくはコンテンツそのものに介入しないといけないと改めて感じて、ゼロからやり直そうと博報堂を退職。そういう経緯で“Buzz Machine”の肩書を捨てたんです。
──肩書がしっくりこなくなったと感じたときに、掲げた看板を捨てるには勇気がいると思います。CHOCOLATE社に所属しているプランナーの方々に限らず、新たな旗を掲げて活動する若手クリエイターが増える中で、同じような葛藤に直面するかと思います。何かアドバイスはありますか?
“戦うフィールド”に影響します。僕の場合“Buzz Machine”というのは「広告」で戦うためのワードでした。「Buzzを保障します」と言っているようなものなので、ありがたいことにクライアントからとても期待していただき、僕がその期待を超えられるかという戦いでした。でも、僕がこれから向かい合うべきは、徹底的に“ユーザー”そのもので、ユーザーに本当に面白いと思ってもらえるコンテンツをつくれるかどうかという戦いです。今までのように、肩書に期待してくれて仕事の相談をいただく、というスタイルとはまったく違い、とにかくコンテンツの質がすべてなので、肩書を気にしなくなりました。肩書は「何かを約束すること」と同義なので、その約束に意味がある人は肩書を貫いたほうがいいとは思います。僕の場合は、その必要がなくなり、ある意味”CHOCOLATE“が新しい看板として立ったわけです。

CHOCOLATEという旗のもとで

──CHOCOLATEも“コンテンツメーカー”としてブランドが確立しつつありますからね。栗林さんは2017年にCHOCOLATEへ参画していますが、どういった思いで入社したのでしょうか?
代表の渡辺の“世界を圧倒的にワクワクさせられるコンテンツメーカーを本気でつくりたい”という熱い思いに打たれました。当時、渡辺は欧米で進んでいた“デジタルスタジオ”の話をしてくれました。「テレビ局を中心としたコンテンツモデルはこれからYouTubeをベースとしたモデルに移行し、それによって新しいコンテンツビジネスが生まれる」という趣旨だったのですが、僕のまったく知らなかった世界で純粋にめちゃくちゃ面白いと感じました。さきほども述べたように、”本当の意味で話題になるものをつくりたい“という思いから、商品や事業、サービスをつくることを考えていたのですが、時間もかかるし、専門家でもない。対してオリジナルコンテンツに注力する考えは、今までの専門だった映像やソーシャルの知識をふんだんに活かせるフィールドだと確信し、CHOCOLATEへの参戦を決意しました。

──今回CHOCOLATEに、さまざまな異分野のコンテンツプランナーが集まり、CHOCOLATEの案件も対応できるし、個人でこれまで受けてきた案件も対応できるギルド型組織になったかと思いますが、いつからこのような構想をお持ちになったのでしょうか?
もともとギルド型の組織をつくろうと思ったわけではありません。僕も含めて企画を考える人たちが、一番テンションの上がる、そして一番成長できる環境を考えたときに、必然的に「全員が正社員でフルコミットする形ではないよな」と思い、このような組織になりました。

──そのなかで栗林さんの役割はどのようなところにあるのでしょうか?
プランナー全員の潜在能力を限りなく引き出して、次のステージに成長してもらうことが一番のミッションです。それが、次世代のコンテンツをつくるために絶対不可欠なことだと考えています。現在20名のプランナーが在籍していますが、個々のやりたいこと、できること、会社が求めること、そして稼働キャパシティを鑑みながら采配しています。例えば、ライターとして参画したメンバーでも映像作家になりたいという要望があれば、ディレクターとして皆をリードしてもらいます。ただ、会社としてやってほしいことを詰め込みすぎると、個人の主観や作家性を貫いて進める創作活動に時間が割けられなくなってしまうので、バランスを取りながらですね。集結したメンバーの期待に応え、CHOCOLATEだからこそ面白い案件ができた、成長ができたと思ってもらうことが、僕の役割だと考えています。

──メンバーの得意分野だけでなく、成長するために別分野を任せたりもするのですね。ギルド集団ですが、個人のスキルアップの機会も提供していると。
はい、そのために一人ひとりとじっくり話す時間を設けており、「去年はこうだったけど、今年はこうなりましょう」といった個々の目標を定めています。全員が目標をクリアしてレベルアップしたら、とんでもなく楽しい景色が待っているのが目に見えて明らかなので楽しみです。

──ちなみに4月1日には#チョコレイト参戦 の第2弾がありましたね。
Twitterで話題をかっさらっているデザイナーの有村泰志さんや、自身でギルド型組織を運営している佐藤ねじさん、『in living.』という大注目のYouTubeチャンネルのディレクターをしている末永光さん、そしてCMでも大人気のキャラクター「けたたましく動くクマ」の生みの親たかだべあさんが参戦してくれました。

領域を越境してピクサー・任天堂に勝つ

──すごい方々は参戦したんですね! このようにどんどんメンバーを増やし、対応領域を広げていくのはどういった狙いなのでしょうか?
CHOCOLATEにとってのライバルであり目標はピクサーや任天堂です。しかし、歴史・ノウハウ・資金力などすべてが劣っていて、普通にやっても絶対に勝てません。ただコンテンツにはいろいろなカテゴリーがあって、番組、アニメ、映画、漫画、ゲーム、雑貨、空間、VRとあります。ピクサーや任天堂は、ある特定の分野のカテゴリーでは最強ですが、僕らはカテゴリーを横断し、越境し、人の心を動かすための知恵をフル動員して、次世代のコンテンツを生み出していけば必ず勝機があると考えました。だからこそ、編集者や放送作家、トラックメイカー、ゲームクリエイターなどなど、次々と新しいメンバーを迎えて、対応範囲を広げていくつもりです。

また、コンテンツには制作工程がいくつかあって、企画フェーズ、制作フェーズ、公開フェーズと続きます。制作や公開には、専門性が必要とされ、僕らでは太刀打ちできない分野も多い。けれども、コンテンツの元となる企画なら、これまでのスキルを流用できるし、縦横無尽に越境できる。実際に漫画を描くのには特殊な専門スキルが必要ですが、面白い漫画を企画することは、ゲームや番組で培った知恵を活かすことができます。ボードゲームのルール設定をヒントにした漫画とか、映像映えする漫画とか、いろいろとアイデアが出てきます。

そして、一度でもつくりあげてしまえば、編集プロダクションや版元と盤石な企画・制作・公開のラインが完成します。映画も同じですよね。映画企画が採用されれば、制作会社や配給会社などと制作ラインができます。その後は、面白い企画さえつくれれば、次々に制作・公開へつなげられる体制になります。こうやって制作実績が増え、あらゆるカテゴリーの知見を吸収し、さらに良い企画を生み出せれば、どんどんと企画のオファーも集まるという循環が生まれます。そうやって僕たちは、カテゴリーを越境する最強の企画屋集団になりたいですね。
──コンテンツのカテゴリーに縛られないのですね。栗林さん自身はどのように関わっていくのでしょうか?
コンテンツは制作して終わりではありません。公開後の拡散や接触動線を設計する必要があり、広告出身のプランナーは、そこで強みを発揮できると考えています。いまCHOCOLATEでも映画製作に取り掛かっていまが、そもそもの作品の企画段階から、いかにして拡散が自走するかについて考慮しています。見たことない作品が生まれそうなので、ぜひ楽しみにしていてほしいです。

──ほかにはどのような企画を進めているのでしょうか?
ショートムービーアプリTikTokで流行った短尺の曲をリミックスして、ヒット曲を長尺化していく音楽レーベルや、新しいキャラクターの開発スキーム、はたまたYouTubeをベースとしたスポンサード番組など、本当にいろいろな試行錯誤を始めています。実際に、一社提供型のYouTube番組は、海外だとたくさん生まれています。

──どのような番組でしょうか?
アメリカでは、クルーザー会社がスポンサーになって豪華客船の上で繰り広げられる恋愛ドラマをYouTubeで配信したり、ソース会社の1社提供で料理番組を配信したりしています。YouTubeチャンネルは、しっかりマネタイズができる貴重な動画プラットフォームの1つで、SVODなどと違い、参入障壁が低く、データ管理も自分たちでできる。良質なコンテンツを提供していけば、広告単価は着実に上がっていくだろうという仮説があります。これまでは「1再生=0.1円」くらいでした。けれども今は0.3円くらいまで上昇しています。さらにこの先は、0.7円~1円程度に上昇する可能性もあります。そうなれば、同じことをやっているのに、前と比べると安定収益が2倍、3倍に増え、どんどん新しい作品づくりに注力できます。

──それは魅力的ですね。プロYouTuberのプロダクション企業であるUUUMと業務提携したのも関係しているのでしょうか?
UUUMには、たくさんのファンを抱えるクリエイターがいます。対して僕らは “企画軸”でファンをつくっていきたいと考えており、この思想にUUUMも賛同してくれて、協業ができると考え、タッグを組ませてもらいました。
今進めている企画に、「おやすみ先生」という番組があります。“あの人の夢みたいな授業“をお届けするトーク番組で、人軸+企画軸で、出演者の素の部分を垣間見ることができる内容です。ファンからすると、これまで見たことのない一面を見ることができ、唾涎ものです。

自らもアーティストに

──本当にコンテンツの振り幅が広いですね。それでは最後に、栗林さん自身が今後目指していきたいものはありますか?
小学校のときに他己紹介をする時間があって、同級生から「栗ちゃんはすべてが平均的ですごい」と紹介されました。勉強も顔も運動神経もすべて平均的で逆にすごいみたいな感じに(笑)。これが“心の棘”のように残っていて、ずっと才能に対するコンプレックスを持っていました。CHOCOLATEでの活動を通して、特筆する才能がなくても世界中の心を動かすことができるんだ、という証明がしたいというのが根底にあります。平凡な自分がピクサーや任天堂を超えられたら、それは超絶革命的だし、すごく勇気を与えられるかなと。
あとは、逆算的、マーケティング的発送ではなく、主観の延長にある作品づくりで成功したいです。簡単にいうとアーティストになることです。ピクサーや任天堂を超えるために、自分はメンバーの成長にだけコミットすればいいという選択肢もあります。けれども、CCOとして、メンバーをリードさせてもらっている僕が、ただマネジメントをするだけの人間だったら求心力を失ってしまうなと。だからみんなに負けないくらい面白いものを自分でも生み出す必要があります。僕が誰よりも面白いことをやっていたら、組織にもっと強い求心力が生まれるので。“Buzz Machine”のころだと、「事例を分析して、成功要因を紐解いて、再現する」というマーケット発想で、外から考えていました。けれども、それではやっぱり辿り着かない答えもあって、自分の感覚を信じて貫いた先に、まったく新しい作品が生まれるという面では、アーティストになる必要があります。だから、早く会社の体制を盤石にして、自分を研鑽する時間をつくっていきたいです。今年はそこを目指していきたいですね。

──会社としても個人としても新たなチャレンジをしていくのですね。さらに互いが成長した先にどんな科学反応があるのか目が離せません。お話ありがとうございました。
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