ひらめきランチを探せ! Vol.12 表参道・しまだ
ああ、汝の名は、カレーうどん。
それは壮大なるロマン。暑き遠方の国インドで採取されし各種スパイスを魔術のごとくブレンドしたスープ。それが大海原やシルクロードを旅し、やがて大英帝国で偉大なるカレー粉を発明させ、さらに明治の日本で海軍カレーとなり、やがて昭和のボンカレーを生誕させた。まさに地球を右へ左に駆けながら、その芳しき香りを拡散させてきたのである。ここまででも、そのロマンは揺るぎなきものだが、しかし、それが、うどんという日本固有種に遭遇し、新たな美味の血統を育んだとあっては、これはもう、あまりにもロマン過ぎるロマンではないか。
私はたった今、しまだの席でカレーうどんを待っている。
表参道交差点近くのランチどき。厨房からはえも言われぬカレーの芳香が押し寄せてきている。わが食欲はもう頂点に上りつめる寸前である。ちなみに、しまだではカレーうどんとは呼ばない。メニューにあるとおり、「カレースープ」である。うどんか、そばか。プレーンか、もちか、肉か、エビ天か。客はそれを選択して、注文し、しばしジッと待つ。
そして、やがて、ついに、カレースープはやって来た。見たまえ! カレーの黄色の海に泳ぐエビの勇姿を! 心憎いことにエビ天は中央から右にずらして配置されている。ゆえに、「しっぽ」はドンブリからはみ出し、金のしゃちほこさながらの存在感を醸し出しているのである。さすがである。わかっている。こうでなければ、ならぬのである。
一口、熱々のスープをすするとクリーミーなカレーの味わいが、口腔から舌へ、食道から胃袋へと幸せに広がっていく。海の底にあるうどんは、もちもちとしつつ柔らかい。うどんを何度か食べた後に、今度はご飯に移る。カレーをご飯にかけるか、レンゲにご飯を乗せてスープに浸すか、いずれの方式を採用するかで迷うのも、また楽しい。スパイスの効能で、体は熱気を帯び、モヤっていた頭がグイグイと回転し始める。そう、もともとカレーは薬膳料理なのである。それぞれのスパイスが人間の肉体と精神を絶妙のハーモニーで活性化させるのである。
さ、ひらめくぞ! そんな気合が湧いて出るのも、カレーという宇宙の摂理なのである。しかし、うまい。飽きることなくうまい。このうまさにはやはりロマンがある。
ああ、汝の名は、カレーうどん。
◎ひらめきポイント:本場インドでは、カレーのスパイスは60種類ほどもあるという。それぞれに役割があり、うまさだけでなく、人間の脳や体を整え、元気付ける働きを持っている。