はじめまして! さつまです!

ART FUN FANをご覧の皆さん、こんにちは! もしかしたら、こんばんは。美術ライターのさつま瑠璃です。

ミュージアムと展覧会のご紹介を始める前に、まずは簡単に自己紹介をしておきます。

私は1994年に神奈川県で生まれ、富士山がよく見える自然豊かな町で育ちました。中高生のころから少しずつ1人で美術館に行くようになり、大学では近代日本文学を専攻しつつ、趣味でアート巡りを継続。当時は、19世紀フランスの印象派絵画が一番好きでした(いまも好きです)。

卒業後はIT系の企業で営業や時々ライターをしていましたが、「美術に関する仕事をライフワークにしたい」と思い立ってフリーに転身しました。読者の皆さんほど詳しくないと思いますが、Web広告やマーケティングについて知る機会に恵まれた環境で、4年ほど働いています。

現在は自身で立ち上げをしたWebメディア「さつまがゆく」を運営しながら、公式ラジオ「おさつとアート」を配信したり、外部の美術メディアに記事を寄稿したりと、アートを中心に活動しています。また、noteではアート以外の話題も積極的に発信! 社会問題にも注目しており、教育・福祉・環境保全・動物愛護・フェミニズム・SDGsなどに関心を持っています。

そんなさつまとしては、社会課題に焦点を当てた広告は気になるところ。ワクワクしながら展覧会へと足を運びました。

アドミュージアム東京はどんなところ?

アドミュージアム東京は、日本で唯一の広告ミュージアム。江戸時代から現代まで約33万点の収蔵資料を誇ります。広告が辿ってきた歴史を体験しながら学べる場であり、世界の最新トレンドにも触れられる施設です。大人から子どもまで、広告業界で働く人もそうではない人も、感覚的に楽しめる場所と言えるでしょう。

2002年に開館し、2017年にリニューアルオープン。常設展と企画展、ライブラリーがあるので、1年中いつでも楽しめます。

企画展「ほほ笑みをとりもどす世界の広告 ―Good Ideas for GoodⅢ― 」展の魅力に迫る!

現在、アドミュージアム東京の企画展示室では「ほほ笑みをとりもどす世界の広告 ―Good Ideas for GoodⅢ― 」展が開催されています。

タイトルの「for Good」は広告の根底にあるべき考え方として、特に海外では顕著なもの。「広告は人を幸せにする存在であるように」とソーシャル・グッドを意識した価値観の広まりには、コロナ禍も大きく影響していると言われます。

2021年に開催した「世界のクリエイティブがやってきた!」展の人気作品に共通する姿勢として、“難しさやシリアスさよりも、楽しむことの大切さ”を表現している点がありました。そこに焦点を当て、「暗い世の中だからこそユーモアが大事」だと発信している広告を約50作品集めています。
 

愛すべき広告たちは、まるでこう言っているようです。
―――難しい顔は、難しくするだけさ。
(出典:アドミュージアム東京 公式サイト)

「III」は、本企画がシリーズものの第3弾であることを表しています。2016年の「世界を幸せにする広告 ―Good Ideas for Good― 」展から始まったこの企画は、「社会課題に対してなにができる?」「広告でなにを発信できる?」といった意識から、社会課題に向き合う広告を集めたものです。

次に企画された「ひと・人・ヒトを幸せにする広告 ―Good Ideas for GoodⅡ― 」展(2018年)では、「第1回を踏まえて、社会はどう変わった?」「幸せな社会とは?」と問いかける内容。アンコンシャスバイアスの自覚を促し、自分が当事者であると気付かせる意図があります。

本展もこの「for Good」の文脈にあり、広告と社会の関係性について深く掘り下げています。

広告に見る、現代アートに通じる“芸術性”

展示室の壁に取り付けられた7台のモニターが、繰り返し流し続けるコマーシャル。「広告の博物館」というよりも、まるで現代アートの企画展示室のよう。広告とアート、目的は違っていても本質はつながっているのではないかと感じられます。

現代アートの大きな特徴に、「作品を通して思考の営みや哲学を表現する」ことが挙げられます。また、作品と対面することで問題を提起したり、なんらかの気付きを与えたりすることも目的です。

映像作品を通してメッセージを訴求する広告も同じこと。それに、例えば「北極の動物たちを守りましょう」「男女格差は是正しましょう」と言葉で表すことは簡単です。けれども、ただのテキストは私たちにどれだけの課題意識をもたらすでしょうか?

クリエイティブには、クリエイティブでしか伝えられないことがあるのだと実感させられます。

その広告がもたらす“気付き”はなに?

取材時にお話を伺った学芸員さんが、アドミュージアム東京を訪れた学生に必ず見せている広告があると言います。それは、『AI Versus(邦題:AI対決)』です。
こちらは、ロシアの広告会社・Voskhod Ekaterinburgが独立系テレビ局「TV Rain」のために制作した広告。2つの全く同じAIを用意し、片方には国営テレビ「ロシア1」を、もう片方には「TV Rain」を6カ月視聴させたのちに、いくつかの質問を投げかけた試みです。

彼らが持っている知識や語彙は、見ていた番組に由来するものだけ。

広告を見て、私たちは“情報でできている”のだと気付かされます。だからこそ、メディアリテラシーを強化しなければと感じ、与えられたものを鵜呑みにせず「本当に正しいのか?」と自分で考える力を付けなければ、と感じるのです。この場において、私たちは作品の鑑賞者であり、広告の視聴者でもある点が面白いところです。

さつまが気になった広告、『DNA割引』

バラエティ豊かな広告は、どれも刺激的! その中でも、特に印象に残ったのは、メキシコ最大の航空会社・アエロメヒコの『DNA割引』。「DNA鑑定でメキシコ人の遺伝子が確認されたアメリカ人は、遺伝子の割合の分だけ運賃が割引になる」という斬新なキャンペーンです。

その背景には、アメリカ人がメキシコをなかなか訪れない・アメリカ人がメキシコにネガティブな感情を持っているという課題がありました。ところが、メキシコ人の遺伝子の割合が高いとわかったアメリカ人は驚き、複雑な表情をしながら「でも割引になるなら行こうかな」と言い始めるのです! まさに、“難しい問題をユーモアで解決する”広告だと感じます。

ほかには、江崎グリコの『smile, Glico 笑顔トリビア』もお気に入り。学生時代にずっと演劇をやっていた私だからなのか、ストーリー性がある広告にはとても惹かれます。最後の伏線回収もすごく好きですね。

広告は、時代を映す鏡

常設展では、広告の歴史を辿りながら各時代のクリエイティブを鑑賞できる、魅力的な展示が用意されています。時代ごとの媒体の変化や、大企業を中心とした産業の発展、広告に見られる男女像の変化などが手に取るようにわかる空間。広告はまさに、時代を映す合わせ鏡だと実感します。

展示のキャプションは200字程度。広告のミュージアムという個性を活かすために、リニューアル時に読みやすさを重視し、見た目もコピーライティングのようにチェンジしたそうです。

江戸時代のインフルエンサーマーケティング!?

日本で「広告」という言葉が生まれたのは明治時代。西洋から伝わった「新聞」の広告欄を発端にメジャーなものとなりました。しかし、遡ると江戸時代にはすでに「浮世絵」が広告の役割を持っていたのだとか。

海外と戦争をしていなかった日本では、国内が安定し、文化・商業が独自の発展を遂げました。そのためマーケティング・広告の活動が活発化した経緯があり、かの経営学者、ピーター・ドラッカーも「マーケティングは、実は日本の江戸で生まれた」と高く評価しているのです。

また、当時の国民的スーパースターとも言える歌舞伎役者が幕間に商品を宣伝するのは、まさに現代のインフルエンサーマーケティング。市民が遊んだという「絵双六」は、商品購入時の景品として配られていたそうで、いまで言うサンプリングやセールスプロモーションと似ていますね。

日本美術のミュージアムでは絵画作品として扱われる浮世絵も、市井の人びとの暮らしを描いた風俗画は、ここでは当時の生活ぶりを知るための貴重な資料。大正時代のポスターに女性モデルが多いのは、美人画の影響があるのだとか。

美術館でよく見る作品の別の側面や、新たなつながりを知れるのはとても興味深いことです。

おわりに

アドミュージアム東京は、広告を通して心躍るアイデアが生まれ、クリエイティブの奥深さを知れる場所。芸術的な感性には、現代アートを見ているような発見や驚きも見出せます。

企画展の開催は8月27日まで。さまざまな見せ方のユーモアに触れることで、いままでにない発想が生まれたり、面白い発見を得られたりするかもしれません。会場は誰でも入場無料、都心で複数路線が使えるアクセスの良さも魅力的です。

【博物館情報】
アドミュージアム東京
https://www.admt.jp/
・会期:2022年6月4日(土)~8月27日(土)
・時間:12:00~18:00(日・月は休館日) ※事前予約制
・住所:〒105-7090 東京都港区東新橋 1-8-2 カレッタ汐留 地下2階
・交通案内:JR新橋駅から徒歩5分、東京メトロ銀座線新橋駅から徒歩6分、都営大江戸線汐留駅から徒歩2分
・観覧料:無料
※掲載日時点での情報です。詳細は、博物館からの情報をご確認ください。
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さつま瑠璃
文筆家・エッセイスト。芸術領域から社会と人を捉える書き手としてBlogマガジン「さつまがゆく」を運営。SNSでもアート情報を発信する他、さつまがゆく Official Podcastでは取材執筆にまつわるトークを配信中。Web:https://satsumagayuku.com/ Twitter:@rurimbon
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