三度めまして!さつまです!

ART FUN FANをご覧の皆さん、こんにちは! もしかしたら、こんばんは。美術ライターのさつま瑠璃です。

さて、今回ご紹介するのは現代アートの展覧会です。皆さん、現代アートはお好きですか? 「もちろん大好き!」という人もいれば、「難しくて理解できない…」「鑑賞の仕方やおもしろさがまだ分からない…」と感じる人もいるかもしれませんね。

後者の方こそ見てほしいのが、この「六本木クロッシング2022展:往来オーライ!」です。

そもそも六本木クロッシングとは?

(左から)竹内公太《⽂書 1: 王冠と身体 第 3 版》2022年/青木野枝「core」シリーズ 2022年 Courtesy: ANOMALY(東京)/猪瀬直哉《Plate 1 blue and white X Homage for Richard Diebenkorn》2021年
(左から)竹内公太《⽂書 1: 王冠と身体 第 3 版》2022年/青木野枝「core」シリーズ 2022年 Courtesy: ANOMALY(東京)/猪瀬直哉《Plate 1 blue and white X Homage for Richard Diebenkorn》2021年
「六本木クロッシング」は森美術館で3年に一度開催される、日本の現代アートを紹介する展覧会です。2004年にスタートしたこの企画は第7回を迎えました。

今回のテーマは3つ。コロナ禍を起点に、
  • 「これまで当たり前のように受け入れてきた身の回りのできごとや生活環境を見つめ直そう」
  • 「共に生きる自分の身近な人たちの多様性について改めて考えてみよう」
  • 「複雑な歴史を経てさまざまな民族的、文化的な背景を持つ人々が共生する今の日本について再認識してみよう」
この旗印の下、現代を生きる1940~1990年代生まれのアーティストを紹介しています。
やんツー《永続的な一過性》2022年
やんツー《永続的な一過性》2022年
現代アートはいわば、その時代を表現するもの。アーティストを取り巻く社会とは切り離せないものであり、時代背景の影響が色濃く出るものです。

新型コロナウイルスの感染拡大で社会は大きく変化しました。これまでの生活では当たり前だったことがそうではなくなることに、戸惑いや困難を感じた人も多いのではないでしょうか。

移動制限で人と会えない。遠くの地に行けない。——どこにも行けないからこそ、自宅や近所という狭いコミュニティの中で、思いがけず今まで気付かなかった隣人の姿を見たのでは? 
石垣克子の作品群
石垣克子の作品群
また、ウイルスは誰にでも感染しますが、それぞれの人の属性や置かれている家庭・社会の環境は人それぞれです。そうした中でさまざまな問題が浮き彫りになり、思いがけない結びつきが生まれたり、一方で断絶を意識させられたりした、私たちのリアルな体験は作品からも想起させられます。

そんな時代を生きる私たちに対して、アートは「一度立ち止まってみようよ、みんなで一緒に考えてみようよ」と問いかけています。

──往来が戻った未来とは? 展示室を出る頃には、その想像図が少しずつ頭に浮かぶかもしれません。

美術ライターが徹底レビュー!「#往来オーライ」の楽しみ方

(手前)青木千絵/(奥)O JUN 展示風景
(手前)青木千絵/(奥)O JUN 展示風景
さつまから、「普段、現代アートはそんなに見ないんだけど…」という人でも楽しく鑑賞できる2つのご提案です。

その①展覧会の背景を知ろう
呉夏枝(オ・ハヂ)《海鳥たちの庭》2022年
呉夏枝(オ・ハヂ)《海鳥たちの庭》2022年
「往来オーライ!」は日本人とイギリス人の4人のキュレーターが、3つのトピックを立てて展覧会を企画しています。
  • 「新たな視点で身近な事象や生活環境を考える」
  • 「さまざまな隣人と共に生きる」
  • 「日本の中の多文化性に光を当てる」
作品を見て「何を感じたらいいんだろう?」と思ったら、このトピックに照らし合わせてみましょう。「こういうことなのかな」とヒントが見つかると、もっと自分らしい自由な発想が生まれてくるかもしれません。

その②展覧空間に身を委ねてみよう!
(手前)AKI INOMATA《彫刻のつくりかた》2018年/(奥)青木野枝「core」シリーズ 2022年 Courtesy: ANOMALY(東京)
(手前)AKI INOMATA《彫刻のつくりかた》2018年/(奥)青木野枝「core」シリーズ 2022年 Courtesy: ANOMALY(東京)
展示が広がっているのはワンフロア。サクサクと見るなら1時間もあれば十分でしょう。

けれども、できたら90分、さらにできるなら120分、じっくり見ていると新たな気付きを得られるはずです。

今回、さつまも2時間近く展示を見ていました。すると不思議なことに、現代アートに向けたアンテナが研ぎ澄まされていく感じがしたのです。

初めは「何だかあまりピンと来ないなぁ」と通り過ぎてしまった作品を、改めて見ることで「おもしろい」と思えたものも1つ。

キャプションを見てもよくわからなくたっていいんです。何か意見や議論を無理して生み出そうとしなくても「へえ~そうなんだ」からでいい、私はそう思います。自分にはない視点に気付けるだけで意味があるから。そうしたインスピレーションとの接触が増えれば増えるほど刺激を受けて、自分なりの感受性がもっと強くなるのだろうと考えています。

さつまのお気に入りはキュンチョメ《声枯れるまで》

キュンチョメ《声枯れるまで》2019/2022年
キュンチョメ《声枯れるまで》2019/2022年
アートユニット、キュンチョメの作品がとても良かったです。

2部構成の映像作品で、上映室の入り口でヘッドホンを借りて鑑賞します。映像の中で語られるのは、とある2人の物語。それぞれ自らの生まれた性と心の性の不一致に悩み、生まれた性に基づく名前を変えた経歴を持ちます。最後には本人が、アーティストと一緒に今の名前を大声で叫ぶというもの。対話の中で紡がれる言葉の一つひとつに強く心を揺さぶられ、衝撃を受けました。
キュンチョメ《声枯れるまで》2019/2022年
キュンチョメ《声枯れるまで》2019/2022年
私自身、Xジェンダーと呼ばれる人に出会ったことがあります。友達にもいて、一緒に仕事をした人もいます。彼ら・彼女らとの交流の中でセクシュアリティにまつわる悩みや価値観の話を聞くことも度々ありました。

それでも、これほど当事者の言葉を“浴びた”経験はありません。「元の名前は自分のアイデンティティに合わない」と、過去の名前をマジックペンで石に書いて川に投げた悠真(ゆずま)さんは、父親から「お前を悠真と呼ぶことはない」と断言されるショッキングな体験をしています。改名しても「真依(元の名前)は大切な名前」と真っ直ぐな目で言い切る佑真(ゆうま)さんは、キュンチョメからの「この名前は誰が決めた?」という問いに「僕が決めた、世界が決めた」と回答します。

LGBTQ当事者の声が社会でも注目度を増している今、こうした言葉をもっと聞かなければ、と切実に感じました。気付きと考える機会をくれたアートの存在に、ありがたみをひしひしと感じます。

他にも印象に残った作品がたくさん

どれも興味深く、本当は記事で全部取り上げたいくらい! けれどもその中から、さつまが特に“グッときた”素敵なアートを厳選してご紹介します。
折元立身《50人のデンマークのおばあさんのランチ(記録映像):KØS パブリックスペース美術館(デンマーク、キューエ))》2016年
折元立身《50人のデンマークのおばあさんのランチ(記録映像):KØS パブリックスペース美術館(デンマーク、キューエ))》2016年
折元立身の「おばあさんのランチ」シリーズがとても良かったです。芸術の道を応援してくれた母への愛が、母の没後も世界中のおばあさんたちに向けられていく。国籍も何も関係なく、食で人はつながれるのだなと感じました。朗らかな笑顔でランチを振る舞う折元氏のパフォーマンスは、まさに隣人愛の結晶と言えます。
石内都《Moving Away》2015-2018年
石内都《Moving Away》2015-2018年
こちらの石内都の展示は、淡いブルーの空間が純粋に良いなと感じました。写真に自分は写っていなくても、確かに存在していたことを証明する“ポートフォリオ”と表現していたのがエモい。
市原えつこ《未来SUSHI》2022年
市原えつこ《未来SUSHI》2022年
市原えつこ《未来SUSHI》(2022年)のお品書きは持って帰れる。
市原えつこ《未来SUSHI》(2022年)のお品書きは持って帰れる。
市原えつこ《「自宅フライト」完全マニュアル》2022年
市原えつこ《「自宅フライト」完全マニュアル》2022年
衝撃的なビジュアルが話題になった《未来SUSHI》。接客するロボット、培養してつくる寿司ネタ。ディストピア感にゾクゾクする人もいるのでは?

飛行機に乗る機会のなくなったコロナ禍を表現する《自宅フライト》も、薄気味悪さとユーモアが共存して何とも言えない気分を味わえます。

他にも会場にはさまざまな作品があります。出展しているのは総勢22組のアーティスト。お気に入りの作品や、印象的な作品をぜひ見つけてみましょう。

おわりに

横山奈美《Shape of Your Words》展示風景
横山奈美《Shape of Your Words》展示風景
オーライってそもそも何でしょう?

車を誘導するときの「オーライ」という掛け声。一人では難しい操作も、別の角度から誰かが見て声を上げてくれるからできる。“all right”——オーケー、大丈夫。そんなふうに互いを認め合っていこうじゃないか。多様な人の往来、そのすれ違い様に目線を交わす。そんな世界を目指したい。

本展キュレーターの1人である天野太郎氏は、オーディオガイド内のコメントにて、「“多文化”という言葉をわざわざ使って改善しなければいけないような状態、つまり、同調圧力のある排他的な状態になっている」と問題提起しています。当たり前に“多文化”であるはずの世界で私たちは今、これまでの価値観を振り返る必要がありそうです。

開催は3月26日(日)まで。うららかな兆しを感じる今日この頃、桜並木がやがて見頃を迎える六本木の界隈はお散歩にもおすすめです。

共に豊かな社会をつくるためのヒント、探しに行きませんか?
ミュージアムショップでは森美術館オリジナル コットンバッグ(Black)×「六本木クロッシング2022展:往来オーライ!」スペシャルエディションなどを販売しています。グッズもお見逃しなく。
ミュージアムショップでは森美術館オリジナル コットンバッグ(Black)×「六本木クロッシング2022展:往来オーライ!」スペシャルエディションなどを販売しています。グッズもお見逃しなく。
[イベント情報] 
森美術館「六本木クロッシング2022展:往来オーライ!」
https://www.mori.art.museum
・会期:2022年12月1日(木)~ 2023年3月26日(日)会期中無休
・時間:10:00~22:00
※会期中の火曜日は17:00まで
※ただし3月21日(火・祝)は22:00まで
※最終入館は閉館時間の30分前まで
・住所:〒106-0032 東京都港区六本木6-10-1 六本木ヒルズ森タワー53階
・交通案内:東京メトロ日比谷線「六本木駅」1C出口 徒歩3分(コンコースにて直結)/都営地下鉄大江戸線「六本木駅」3出口 徒歩6分/都営地下鉄大江戸線「麻布十番駅」7出口 徒歩9分/東京メトロ南北線「麻布十番駅」4出口 徒歩12分/東京メトロ千代田線「乃木坂駅」5出口 徒歩10分
・観覧料:[平日]一般 1,800円(1,600円)/学生(高校・大学生)1,200円(1,100円)/子供(4歳~中学生)600円(500円)/シニア(65歳以上)1,500円(1,300円)
[土・日・休日]一般 2,000円(1,800円)/学生(高校・大学生)1,300円(1,200円)/子供(4歳~中学生)700円(600円)/シニア(65歳以上)1,700円(1,500円)
※専用オンラインサイトでチケットを購入すると( )内の料金が適用されます。
※掲載日時点での情報です。詳細は、会場からの情報をご確認ください。
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さつま瑠璃
文筆家(ライター)。芸術文化を専門に取材執筆を行い、アートと社会について探究する書き手。SNSでも情報を発信する他、さつまがゆく Official Podcastでは取材執筆にまつわるトークを配信中。Web: https://satsumagayuku.com/ X:@rurimbon
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