ART FUN FAN Vol.3 森美術館「六本木クロッシング2022展:往来オーライ!」

ART FUN FANでは、広告・マーケティング・クリエイティブ業界で働く皆さまにアートの情報をお届けします。おすすめの企画展をピックアップして、美術ライターが独自の切り口で解説。「アートってなんだかよくわからない。」方から「興味があるからもっと知りたい!」方まで、誰でも楽しめるアートの魅力に触れていきましょう!
コラムの第3回は、森美術館で開催されている「六本木クロッシング2022展:往来オーライ!」の魅力と見どころについてご紹介します。
お送りするのは、美術ライターのさつま瑠璃。“やさしい言葉でartをもっと楽しく身近に”をモットーに、西洋美術や日本美術、古美術から現代アートまで、幅広く取材するフリーの記者です。今回は豊かな感性が溢れる現代美術に興味津々! 刺激たっぷりの展示空間をレポートします。
コラムの第3回は、森美術館で開催されている「六本木クロッシング2022展:往来オーライ!」の魅力と見どころについてご紹介します。
お送りするのは、美術ライターのさつま瑠璃。“やさしい言葉でartをもっと楽しく身近に”をモットーに、西洋美術や日本美術、古美術から現代アートまで、幅広く取材するフリーの記者です。今回は豊かな感性が溢れる現代美術に興味津々! 刺激たっぷりの展示空間をレポートします。
三度めまして!さつまです!

さて、今回ご紹介するのは現代アートの展覧会です。皆さん、現代アートはお好きですか? 「もちろん大好き!」という人もいれば、「難しくて理解できない…」「鑑賞の仕方やおもしろさがまだ分からない…」と感じる人もいるかもしれませんね。
後者の方こそ見てほしいのが、この「六本木クロッシング2022展:往来オーライ!」です。
そもそも六本木クロッシングとは?

(左から)竹内公太《⽂書 1: 王冠と身体 第 3 版》2022年/青木野枝「core」シリーズ 2022年 Courtesy: ANOMALY(東京)/猪瀬直哉《Plate 1 blue and white X Homage for Richard Diebenkorn》2021年
今回のテーマは3つ。コロナ禍を起点に、
- 「これまで当たり前のように受け入れてきた身の回りのできごとや生活環境を見つめ直そう」
- 「共に生きる自分の身近な人たちの多様性について改めて考えてみよう」
- 「複雑な歴史を経てさまざまな民族的、文化的な背景を持つ人々が共生する今の日本について再認識してみよう」

やんツー《永続的な一過性》2022年
新型コロナウイルスの感染拡大で社会は大きく変化しました。これまでの生活では当たり前だったことがそうではなくなることに、戸惑いや困難を感じた人も多いのではないでしょうか。
移動制限で人と会えない。遠くの地に行けない。——どこにも行けないからこそ、自宅や近所という狭いコミュニティの中で、思いがけず今まで気付かなかった隣人の姿を見たのでは?

石垣克子の作品群
そんな時代を生きる私たちに対して、アートは「一度立ち止まってみようよ、みんなで一緒に考えてみようよ」と問いかけています。
──往来が戻った未来とは? 展示室を出る頃には、その想像図が少しずつ頭に浮かぶかもしれません。
美術ライターが徹底レビュー!「#往来オーライ」の楽しみ方

(手前)青木千絵/(奥)O JUN 展示風景
その①展覧会の背景を知ろう

呉夏枝(オ・ハヂ)《海鳥たちの庭》2022年
- 「新たな視点で身近な事象や生活環境を考える」
- 「さまざまな隣人と共に生きる」
- 「日本の中の多文化性に光を当てる」
その②展覧空間に身を委ねてみよう!

(手前)AKI INOMATA《彫刻のつくりかた》2018年/(奥)青木野枝「core」シリーズ 2022年 Courtesy: ANOMALY(東京)
けれども、できたら90分、さらにできるなら120分、じっくり見ていると新たな気付きを得られるはずです。
今回、さつまも2時間近く展示を見ていました。すると不思議なことに、現代アートに向けたアンテナが研ぎ澄まされていく感じがしたのです。
初めは「何だかあまりピンと来ないなぁ」と通り過ぎてしまった作品を、改めて見ることで「おもしろい」と思えたものも1つ。
キャプションを見てもよくわからなくたっていいんです。何か意見や議論を無理して生み出そうとしなくても「へえ~そうなんだ」からでいい、私はそう思います。自分にはない視点に気付けるだけで意味があるから。そうしたインスピレーションとの接触が増えれば増えるほど刺激を受けて、自分なりの感受性がもっと強くなるのだろうと考えています。
さつまのお気に入りはキュンチョメ《声枯れるまで》

キュンチョメ《声枯れるまで》2019/2022年
2部構成の映像作品で、上映室の入り口でヘッドホンを借りて鑑賞します。映像の中で語られるのは、とある2人の物語。それぞれ自らの生まれた性と心の性の不一致に悩み、生まれた性に基づく名前を変えた経歴を持ちます。最後には本人が、アーティストと一緒に今の名前を大声で叫ぶというもの。対話の中で紡がれる言葉の一つひとつに強く心を揺さぶられ、衝撃を受けました。

キュンチョメ《声枯れるまで》2019/2022年
それでも、これほど当事者の言葉を“浴びた”経験はありません。「元の名前は自分のアイデンティティに合わない」と、過去の名前をマジックペンで石に書いて川に投げた悠真(ゆずま)さんは、父親から「お前を悠真と呼ぶことはない」と断言されるショッキングな体験をしています。改名しても「真依(元の名前)は大切な名前」と真っ直ぐな目で言い切る佑真(ゆうま)さんは、キュンチョメからの「この名前は誰が決めた?」という問いに「僕が決めた、世界が決めた」と回答します。
LGBTQ当事者の声が社会でも注目度を増している今、こうした言葉をもっと聞かなければ、と切実に感じました。気付きと考える機会をくれたアートの存在に、ありがたみをひしひしと感じます。
他にも印象に残った作品がたくさん
どれも興味深く、本当は記事で全部取り上げたいくらい! けれどもその中から、さつまが特に“グッときた”素敵なアートを厳選してご紹介します。
折元立身《50人のデンマークのおばあさんのランチ(記録映像):KØS パブリックスペース美術館(デンマーク、キューエ))》2016年

石内都《Moving Away》2015-2018年

市原えつこ《未来SUSHI》2022年

市原えつこ《未来SUSHI》(2022年)のお品書きは持って帰れる。

市原えつこ《「自宅フライト」完全マニュアル》2022年
飛行機に乗る機会のなくなったコロナ禍を表現する《自宅フライト》も、薄気味悪さとユーモアが共存して何とも言えない気分を味わえます。
他にも会場にはさまざまな作品があります。出展しているのは総勢22組のアーティスト。お気に入りの作品や、印象的な作品をぜひ見つけてみましょう。
おわりに

横山奈美《Shape of Your Words》展示風景
車を誘導するときの「オーライ」という掛け声。一人では難しい操作も、別の角度から誰かが見て声を上げてくれるからできる。“all right”——オーケー、大丈夫。そんなふうに互いを認め合っていこうじゃないか。多様な人の往来、そのすれ違い様に目線を交わす。そんな世界を目指したい。
本展キュレーターの1人である天野太郎氏は、オーディオガイド内のコメントにて、「“多文化”という言葉をわざわざ使って改善しなければいけないような状態、つまり、同調圧力のある排他的な状態になっている」と問題提起しています。当たり前に“多文化”であるはずの世界で私たちは今、これまでの価値観を振り返る必要がありそうです。
開催は3月26日(日)まで。うららかな兆しを感じる今日この頃、桜並木がやがて見頃を迎える六本木の界隈はお散歩にもおすすめです。
共に豊かな社会をつくるためのヒント、探しに行きませんか?

ミュージアムショップでは森美術館オリジナル コットンバッグ(Black)×「六本木クロッシング2022展:往来オーライ!」スペシャルエディションなどを販売しています。グッズもお見逃しなく。
森美術館「六本木クロッシング2022展:往来オーライ!」
https://www.mori.art.museum
・会期:2022年12月1日(木)~ 2023年3月26日(日)会期中無休
・時間:10:00~22:00
※会期中の火曜日は17:00まで
※ただし3月21日(火・祝)は22:00まで
※最終入館は閉館時間の30分前まで
・住所:〒106-0032 東京都港区六本木6-10-1 六本木ヒルズ森タワー53階
・交通案内:東京メトロ日比谷線「六本木駅」1C出口 徒歩3分(コンコースにて直結)/都営地下鉄大江戸線「六本木駅」3出口 徒歩6分/都営地下鉄大江戸線「麻布十番駅」7出口 徒歩9分/東京メトロ南北線「麻布十番駅」4出口 徒歩12分/東京メトロ千代田線「乃木坂駅」5出口 徒歩10分
・観覧料:[平日]一般 1,800円(1,600円)/学生(高校・大学生)1,200円(1,100円)/子供(4歳~中学生)600円(500円)/シニア(65歳以上)1,500円(1,300円)
[土・日・休日]一般 2,000円(1,800円)/学生(高校・大学生)1,300円(1,200円)/子供(4歳~中学生)700円(600円)/シニア(65歳以上)1,700円(1,500円)
※専用オンラインサイトでチケットを購入すると( )内の料金が適用されます。
※掲載日時点での情報です。詳細は、会場からの情報をご確認ください。