ベンチャーで働くなら職種へのこだわりを捨てた方がいい

──現職の前はインターネット広告会社のセプテーニにお勤めでしたね。
はい、新卒からずっと。広告に興味があったというのもありますが…めちゃくちゃ忙しいところで働きたかったんです(笑)。将来にわたって自分の仕事観のベースになるものって、社会に出て最初に働いた時の感覚だと思っています。最高潮に忙しい環境から始めれば、自分の中でそれが「普通」になる。それができたら、すごく強いなと思ったんです。

──強い、とはどういうことでしょう?
いろんな経験を積んだ人になれるということです。そのためには、楽な会社にいてはいけない。セプテーニは、今でこそ大きくなりましたが、当時はまだ100人くらいしかいないベンチャー企業でした。一人ひとりがやるべき仕事が多そうに見えたんです。

──忙しい会社ということなら、他にも選択肢がありそうです。
セプテーニは、人事や採用部門以外のいろいろな部署の人たちも面接官をやっていたのですが、すごく能動的に動いているように見えたんです。人材を採用するのは、その人たちの本来の業務ではないはずなのに、当事者として関わっているように感じました。自分もそんなふうに、いろんな仕事にのめり込めたら面白そうだなと思ったんです。

──つまりセプテーニの、これぞベンチャーという働き方が良かったわけですね。
そうです。大手広告会社の選考も進んでいましたが、自分から辞退を伝えました。そうすれば「大手を落ちてセプテーニに入った」のではなく、「自分がセプテーニを選んだ」ことになるじゃないですか。いつか壁にぶつかった時、「私は本来ここに入りたかったわけじゃないから」なんて言い訳ができないようにしたかったんです。辞退した大手企業の人事担当者の「え?」というニュアンスがにじんだ声は、今でも忘れられないですね(笑)。

──大手を辞退してベンチャーに行くケースが、当時はそう多くなかったですからね。入社後はどのようなお仕事をしていたのでしょうか?
入社前に予想した通り、幅広い仕事を担うことができました。進行管理業務から始めて、広告枠の仕入れや広告企画も。

さらには子会社の立ち上げにも関わりました。初期メンバーはわずか4人。営業や受発注管理、別の子会社のマネージャー業務も兼務しましたし、あれこれと忙しくて。この環境が私のベンチャー精神をますます燃え上がらせました。

ネクストビート 執行役員CMO 佐々木麻位也さん<br />
早稲田大学 政治経済学部卒。新卒でセプテーニに入社し、進行管理業務を経て、メディア仕入れ部門の責任者として着任。その後、アドテクノロジー領域の戦略子会社イーグルアイの立ち上げメンバーとして参画。事業責任者と他子会社のマネージャーも兼務し、その後セプテーニに戻り管理部門の責任者として着任。2019年5月、デジタルマーケティングのゼネラルマネージャーとしてネクストビート入社。2020年10月にCMO就任。
ネクストビート 執行役員CMO 佐々木麻位也さん
早稲田大学 政治経済学部卒。新卒でセプテーニに入社し、進行管理業務を経て、メディア仕入れ部門の責任者として着任。その後、アドテクノロジー領域の戦略子会社イーグルアイの立ち上げメンバーとして参画。事業責任者と他子会社のマネージャーも兼務し、その後セプテーニに戻り管理部門の責任者として着任。2019年5月、デジタルマーケティングのゼネラルマネージャーとしてネクストビート入社。2020年10月にCMO就任。
──「社会に出て最初に働いた時の感覚が仕事観のベースになる」とおっしゃっていましたが、子会社に行かれたことで何か見えたものはありましたか?
いろんな業務をやっているうちに、どの職種も仕事の本質は一緒だと思いました。やるべきことは、誰かのために問題を解決することです。このことに気付いた時から、職種にこだわるのをやめました。すべての経験を血肉にして、会社が実現しようとしていることの前に立ちはだかるさまざまな問題を、スピード感を持って解決できる人になろうと思いました。そのベンチャー精神こそが私の強みだと。

だから、子会社からセプテーニに戻った時は違和感がありました。その頃には、私が入社した当時の何倍もの人数に増えていまして、子会社の環境に比べたら、すっかり大企業といった雰囲気です。会社としては変わらずベンチャーであり続けることを大切にしていましたが、私の感覚とはスピード感が少しずれたように感じたんです。

──ご自身の強みであるベンチャー精神を、うまく発揮できないかもしれないと感じたのでしょうか。
会社の規模が拡大すると、プロジェクトを成功させれば世の中に与えるインパクトも大きくなります。でも、そこに1人が関われる範囲はどんどん狭くなる。自分がいてもいなくても、結果はそう変わりません。極端に言うと、自分が何かやらかしたら、この会社は倒産するっていうくらいの緊張感を持って仕事がしたい。だから転職して、環境を変えるのもありかなと思うようになっていました。

──それで現在のネクストビートに移ることにしたのですね。
ネクストビートのことは知り合いの紹介で知りました。それから社員の人たちに会って話を聞いたのですが、いざ選考に進んでみると、採用の内定が出るまでがすごく早かったんですよ。「本当にちゃんと考えているのか?」と疑ってしまうくらい(笑)。でも、私にはそのスピード感が心地よかった。14年前、セプテーニに入社した頃の感覚がよみがえってきたんです。「そうそう、これこれ! この感じだ!」って懐かしくなって。

──フィーリングが合ったわけですね。
組織と自分のリズムが合うのって、すごく大事だと思います。自分に合ったスピード感で働けるなら仕事にのめり込める。何かうまくいかないことがあっても、自分に言い訳せず、会社が掲げるミッションにしっかりコミットできる気がした。ここだったら腹をくくれそうだと思いました。

それに、自信があったんです。ネクストビートは、私が入社した2019年当時は200人くらいで、これから規模を拡大しようとしていました。そういう時は、業績が伸び悩んだり、苦しい局面に立ったりするものです。社員をまとめる求心力も問われます。当時はまだ若い会社でしたから、そういった問題に初めて直面することになる。成長期のさまざまな苦しみを前職で経験済みの私は、必ず貢献できるはずだと思いました。

「明日は自分の手でつくる」という当事者意識があるか

──入ってみて、ギャップを感じることはありませんでしたか。
スピード感に関しては入社前にイメージしていた通りでした。ただ、別のところに課題がありそうでした。

──と言うと、どんな課題でしょうか?
入社して数カ月後に、部課長クラスの宿泊研修に参加しました。話してみると、みんな、経営陣のことを尊敬しすぎているんです。創業からすごいスピードで事業をつくってきた実績からか、「すごい人たちだ!」と口をそろえて言う。確かにすごいけれど、経営陣に頼るばかりじゃダメ。当事者意識を持って、自分たちでなんとかしようぜって思わないと、次に続く人材が育たない。会社の規模が大きくなっていった時にスピードが鈍化してしまいます。それがすごく気になって、当時の経営層に話したこともあります。

──ネクストビートという会社にとって、一人ひとりが当事者意識とスピード感を持って仕事に取り組むことは、どういう意味があるのでしょうか。
私たちは、人口減少社会がはらむ課題を解決したくて、保育士や地方観光業の就職・転職、子育て世代を支援するインターネットサービスを提供しています。でも、数年前と今では、人口も子どもの数も、待機児童の状況も全然違う。さらにコロナ禍のようなことが起きると、社会の構造は一気に変わってしまうわけです。だから、みんなが当事者となり、スピード感を持ってやらないと、私たちが向き合いたい課題に対して何も貢献できないまま時代が変わってしまいます。

当社の社員が、「明日が普通に来ると思っちゃいけない。ベンチャーの明日は自分たちの手でつくるんだ」と言ったことがありました。本当にそうだと思います。私たちにとって、当事者意識とスピード感は、人間にとっての呼吸と同じくらい重要です。

──確かに組織づくりは大事なことですが、佐々木さんはデジタルマーケティング部門の統括責任者として入社されたわけですよね。マーケティング領域の問題ではなさそうですが…。
全然関係ありません(笑)。でも、先ほどお話ししたように、私は職種にこだわりがないんです。会社を成長させていく上で何か問題があれば、自分の経験をすべて使って解決する。このベンチャー精神こそが私の強みですし、それを活かしたくて入社したんですからね。

──つまり、他にもマーケティングとは直接関係ないことにたくさん関わっているということですか?
例えば、会社のカルチャーを社員に浸透させていくプロジェクトもそうです。プロジェクトメンバーの新入社員たちをサポートして、最終的に人事評価制度に落とし込むところまでやりました。

私は今、CMO(チーフ・マーケティング・オフィサー)に任命されていますが、自分のことをマーケターだと思ったことはありません。ベンチャー企業が事業を拡大していくのに、マーケティングこそが最重要だとも思わない。大切なのは、ここまでが自分の仕事だと線引きをしないこと。事業を広げるために必要なことが何かを懸命に考えて、放置されているボールがあれば自ら拾う。「領域関係なく実行する!」というスタンスが1番大事だと思っています。

──先ほどもおっしゃった当事者意識ですね。
そうです。CMOだからって全部私が決めていたら、私の限界を超えられない組織になってしまいます。

せっかくベンチャーにいるのだから、一人ひとりがめちゃくちゃ大変な思いをして急成長してほしい。ネクストビートにいる期間を最高に濃いものにして、自分の武器となるものを見つけてほしいと願っています。

──佐々木さんご自身は、この先どんなふうになりたいですか?
私は80歳まで現役で仕事をしていたいですね。そうすると、あと40年。その間、世の中の変化のスピードはどんどん加速していくんだと思います。年齢とともに経験を積み重ねていても、その変化のスピードについていけなくなった瞬間、戦力外になり得る。そのリスクは年々高まっていくでしょうね。

もちろん、そうならないように努力します。でも、これからは自分が成果を上げるばかりでなく、一緒に働く人たちのことを今まで以上に考えたい。私は個人理念として「同志のかけがえのない人生に欠かせないスパイスになる」を掲げています。私と一緒に働いた経験が、その人のキャリアにとって強烈なインパクトになるようにしたい。そして、みんなの市場価値が高まるように、影響を及ぼし続けていきたいと思っています。

──ベンチャー企業で働くためには、アイデアとそれをカタチにする専門スキルが1番重要だという印象を持っていました。そうではなく、立ちはだかる問題を職種の領域を超えて解決しようとする姿勢こそが大事だというお話に、「自分も挑戦できるかもしれない」と背中を押された読者の方も多いと思います。ありがとうございました。

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