三菱総合研究所(以下、MRI)と日本デザイン振興会(以下、JDP)は、3~4月に「第2回 企業経営におけるデザイン活用実態調査」を実施し、その調査結果を9月6日に発表した。

調査結果から、デザイン経営のビジネス面への効果があらためて明らかとなるとともに、企業におけるデザインへの投資がさらに強化され、投資に対する将来的期待が高まっていることがわかった。

調査に至る経緯

「デザイン経営」とは、デザインの力をブランドの構築やイノベーションの創出に活用する経営手法のことで、企業のイノベーションやブランディングを後押しし、産業の国際競争力の強化や個別企業の企業価値向上に資する取り組みを意味する。

「デザイン」は、意匠に限った話ではなく、意匠を含め、商品・サービス・ビジネスモデルなどを人(ユーザー)起点で「構想・設計」することを指している(※1)。

MRIは、国内企業へのデザイン経営浸透に向け、JDP、経済産業省、デザインファームなどと連携し、さまざまな支援、調査研究を展開している。2020年2月、第一歩としてJDPとの共同研究で「第1回 企業経営におけるデザイン活用実態調査」(以下、2020年調査)を実施した。第2回調査(以下、同調査)は主に2020年調査からの時系列変化を追うことを目的に3~4月に実施された。

調査概要
対象:過去に「グッドデザイン賞」に応募したことのある企業5855社
時期:2023年3月~4月
方法:webアンケート調査
項目:デザイン経営の取り組み状況、デザイン経営のアウトカム、「『デザイン経営』宣言」に対する認知度・影響度など
回答数:493社

(参考:2020年調査の概要)
対象:過去に「グッドデザイン賞」に応募したことのある企業3944社
時期:2020年2月~3月
方法:webアンケート調査
項目:デザイン経営の取り組み状況、デザイン経営のアウトカムなど
回答数:519社

調査結果のポイント

(1)デザイン経営の積極度は「売上増加率」「CS」「ES」にプラス効果
同調査では、「デザイン経営の取り組み」に関する質問の回答結果に対して0~10点の配点を付与し、配点の総計上位から回答企業を4つにセグメント化し、取り組みの積極度による比較分析を行った。

デザイン経営のビジネスへの影響を確認するため、ビジネス成果指標として、財務の観点から「(過去5年の平均)売上増加率」、売上成長の基盤となりうる非財務指標として、顧客満足(CS)の観点から「自社のコアなファン」、CSのベースとなる従業員満足(ES)の観点から「従業員からの愛着」を設定し、セグメント間で比較をした。

その結果、デザイン経営に積極的な企業では、過去5年の平均売上増加率について「20%以上増加」と回答した企業が12.4%、「同業他社と比較しても『コアなファン』は多い」と回答した企業が71.2%、従業員から「とても愛着が持たれていると思う」と回答した企業が23.8%といずれも他のセグメントより高い傾向を示した。

デザイン経営に積極的であるほど各指標の肯定的な項目の回答率が高い傾向は2020年調査と同様であり、あらためてデザイン経営がビジネス面にプラス効果を与える可能性が明らかとなった。
デザイン経営の積極度とビジネス成果指標の関係
デザイン経営の積極度とビジネス成果指標の関係
(2)デザイン経営の推進状況は横ばい
2020年調査と同じ配点基準により4つのセグメントの構成比を比較したところ、全体として大きな変化は見られず、3年前と比較してデザイン経営が進展したとはいえない状況であることがわかった。
デザイン経営の積極度(時系列比較)
デザイン経営の積極度(時系列比較)
(3)デザイン経営推進上の課題はいまだ解決されず
デザイン経営を今後も推進していくと回答した企業の課題として最も多く挙げられたのが「費用対効果の説明が困難」、次点が「新商品・サービスデザインをリードできるデザイナーの不足」で、2020年調査と同様の順位となった。続く課題についても2020年調査と同じ順位、同水準の回答率となっており、3年を経てもデザイン経営推進を取り巻く課題状況は変わっていないことが明らかとなった。
デザイン経営推進上の課題(時系列比較)
デザイン経営推進上の課題(時系列比較)
(4)「デザインへの投資」と「投資に対する将来期待」は上向き
デザインへの投資状況は、2020年調査と比較し全体として増加傾向にある。特にデザイン経営に積極的な企業ほど「増加している」とする割合が増えた点は注目すべき変化といえる。
デザイン投資の増減状況(時系列比較)
デザイン投資の増減状況(時系列比較)
また、デザインへの投資に対する将来的な期待についても、「大きな期待がある」とする企業の割合が増加した。
デザイン投資への将来的な期待(時系列比較)
デザイン投資への将来的な期待(時系列比較)

まとめ

同調査では2020年調査とあわせて、デザイン経営がビジネス面にプラス効果を与える可能性があらためて明らかとなったが、この3年間でデザイン経営の進展状況や、課題認識に大きな変化がないことが課題である、と分析している。

一方で、デザイン投資は増強され、その将来的効果に対する期待も高まっている状況が明らかとなり、デザイン経営のさらなる浸透に向けた素地は形成されつつあることがわかる。デザイン経営を一層浸透させていくには、多様なデザイン活用の可能性、および客観的かつ定量的な費用対効果を提示していくことが重要と同社は分析する。それにより、企業経営者がデザインの価値を深く理解し、最適なデザイン活用を実践する動きを加速できると言及した。

※1:ここで紹介した「デザイン経営」の定義は特許庁による定義にのっとる