ROLE×富山県高岡市、広告印刷のヤレ紙を利活用し「新しい古紙再生」のプロジェクトを始動!
クリエイティブスタジオROLEは、富山県高岡市と共同し、新たな消費循環のあり方を考えるプロジェクトを始動した。
チラシやパンフレット、ポスターなど一般的な印刷製造において、「ヤレ紙」という品質保持のための調整用損紙が必ず発生し、それらはそのまま廃棄されてしまう。今回のプロジェクトでは、ヤレ紙を廃棄せずに上書き印字をし、新たに市役所職員の名刺や封筒へと生まれ変わらせた。
ヤレ紙から生まれ変わった名刺や封筒は、富山県高岡市にて10月から本格的な配布を始める。「自分のまちで出たゴミを、すべて資源として利活用できないか」という独自の考え方のもと、一般的な古紙再生とは少し違う、伝わりやすい環境行動の一つとして市民へメッセージを届ける。
印刷品質を安定するためのプロセスとして避けられない、テスト印刷段階で発生してしまう「ヤレ紙」。今回のプロジェクトでは、ヤレ紙を回収し上から塗りつぶすことで、名刺や封筒として再活用。もともと印刷されていた印字もあえて少し残すことで、「わかりやすい・伝わりやすい」アップサイクルをデザインし、環境行動と生活の距離感がより身近になることを目指している。
家庭用プリンターや業務用レーザープリンターを使う際、1枚の印刷に必要な紙は当然1枚の用紙。ただし、チラシや広告など、大量に印刷する際に使用する「オフセット印刷」という方法では、①CMYKのインク4色それぞれの『版』の位置を調整する/②刷り初めのインク量を安定させる/③狙っている色の微調整をする、など品質を安定させるために、最初からヤレ紙を準備して製造をしていく。必要なチラシが数百枚でも数千枚でも、必要なヤレ紙の量は大差がなく、日々全国で大量の紙束が廃棄されている。
●ヤレ紙パターンその①:版ずれ
印刷は通常、C(シアン)、M(マゼンタ)、Y(イエロー)、K(ブラック)の4色を網点状に刷っていく。このとき、CMYKそれぞれの『版』が最初からズレなく印刷することは難しい。職人の技術によって細かな位置を微調整していく必要があり、版が正しい位置になるまで印刷を繰り返しながらテストをする。
●ヤレ紙パターンその②:濃度調整
オフセット印刷では、ローラーにインクを転写して紙へ刷り込んでいく。ただし、刷り始めてからしばらくはインクの定着が安定せず、狙った濃度になるまでしばらく印刷を繰り返さなければならない。この濃度調整の工程にも毎回相応のヤレ紙が必要となる。
●ヤレ紙パターンその③:色味調整
版ズレや濃度調整が済んだ後も、CMYKのなかで赤みが強く出てしまう、青みが強く見えてしまうなどの場合がある。食品のチラシや風景、モデルなど、デザインによっては「色がころぶ(色味が偏る)」ことは伝えたい情報の訴求に大きく影響することから、時にはデザイナーが直接印刷現場に立ち会って納得いくまで細かなテスト印刷を繰り返す場合もある。
古紙を再生する際には、工程に大量の水を使用することや、用途によっては白色度を高めるために相応の薬品が必要になることがある。リサイクルすること自体が環境負荷につながってしまうことから、2000年代以降は大手製紙会社が古紙100%の再生紙製造を廃止するなど、再生紙のあり方を見つめ直す時代になってきている。
ただし、高岡市でも再生紙を併用しているように、このプロジェクトはリサイクルそのものを否定するものではない。「エコ=再生紙」以外にも資源循環の選択肢があることを提示し、環境行動に対してこれまでとは違ったアプローチから市民の関心を高めることを目的としている。印刷物の隅に「この紙は〇〇%の再生紙を使用しています」というメッセージよりも、もともと印刷されていたものの気配をあえて残すことで、資源の循環をより意識できるように工夫した実験的な試みとなっている。
名刺や封筒以外にも、包装紙・紙袋など、ヤレ紙の活用方法はたくさんあるにもかかわらず、なぜ一般的にこのような事例が容易に出てこないかというと、最もシンプルな理由に「権利問題」がある。印刷物に掲載されている商品やサービスには著作権や肖像権が関係し、印刷所がクライアントの印刷物から発生したヤレ紙を使用することは難しく、積極的にそれをおこなっている印刷所はほとんどない。
クリエイティブスタジオROLEは、2022年の秋に開催した再生古着ブランドの展覧会「ROLE YOURS」の案内状でヤレ紙を使用したデザインでPRした。ROLEでは普段からヤレ紙を有効活用する方法を印刷所などへ相談し模索していたが、上記権利問題などが障壁となり、大きなアクションへつなげることに苦戦をしていた。
高岡市が取り組むこのプロジェクトでは、「市の公式な発行物であれば権利関係は市で管理できるので、ヤレ紙を利用して再び市の印刷物に転用ができるのでは」という視点から、職員名刺に採用してみようとスタートすることになった。初期段階は名刺のみの予定であったところに、「環境イベントや来年の20歳の集いで配布する封筒も作り、若者世代へ訴求するのはどうか」と積極的な意見も出た。
ヤレ紙名刺・封筒の原料自体が、高岡市が発行したポスター・パンフレットなどのため、デザインはもちろん用途や仕様がそれぞれ違う。それをあえて同じルールでもともとの印字面を部分的に塗りつぶしてしまうことで、別のツールとして生まれ変わる。縦横から少しだけ除いている“もともとの印面”が逆に面白く、つい色んなパターンを探してみたくなる。通常は廃棄処分されてしまう紙たちを、ほぼそのままの状態で再利用するからこそ、そこに新たな魅力を発見できる。
高岡市長の角田悠紀氏は、「カーボンニュートラルを達成するためには、市民、事業者、行政それぞれが連携・協働して取り組んでいくことが必要。私はヤレ紙の存在を知らなかったが、カーボンニュートラルによる『地域も暮らしも豊かになる社会』の構築に向け、ヤレ紙の取り組みをはじめ新しいことにも積極的に取り組み、高岡を前へ進めていく」とコメント。
また、市のプロジェクト担当である高岡市未来政策部 未来課の係長の鈴木亮平氏は、「ヤレ紙を『印刷済みの紙』という資源と捉え、その素材を活かしながら加工することで、デザイン性という新たな価値が加わった紙製品に生まれ変わった。これらを手に取った市民・事業者のみなさまが、資源が持つ価値を見つめ直し、資源や製品を循環させる中で付加価値を生み出すきっかけになることを期待している」とコメントしている。
ROLEでは、大量回収した廃品の古着に、抗菌・防臭等の新たな“機能”を付加させた「新しい古着」のプロジェクト“ROLE YOURS”を東京のアパレルメーカー「オールユアーズ」と2023年に立ち上げた。今回のヤレ紙のプレジェクトのほか、「足さないをつくる」ことで、消費者としての役割やこれからの循環のありかたを考察するなど、クライアントワークを飛び越えて未来への課題に取り組んでいく。
チラシやパンフレット、ポスターなど一般的な印刷製造において、「ヤレ紙」という品質保持のための調整用損紙が必ず発生し、それらはそのまま廃棄されてしまう。今回のプロジェクトでは、ヤレ紙を廃棄せずに上書き印字をし、新たに市役所職員の名刺や封筒へと生まれ変わらせた。
ヤレ紙から生まれ変わった名刺や封筒は、富山県高岡市にて10月から本格的な配布を始める。「自分のまちで出たゴミを、すべて資源として利活用できないか」という独自の考え方のもと、一般的な古紙再生とは少し違う、伝わりやすい環境行動の一つとして市民へメッセージを届ける。
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ヤレ紙を利用した高岡市の名刺・封筒
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「新しい古紙再生」ができるまでのプロセス
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印刷現場で発生する、品質調整のためにテストプリントされたヤレ紙
印刷は通常、C(シアン)、M(マゼンタ)、Y(イエロー)、K(ブラック)の4色を網点状に刷っていく。このとき、CMYKそれぞれの『版』が最初からズレなく印刷することは難しい。職人の技術によって細かな位置を微調整していく必要があり、版が正しい位置になるまで印刷を繰り返しながらテストをする。
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オフセット印刷では、ローラーにインクを転写して紙へ刷り込んでいく。ただし、刷り始めてからしばらくはインクの定着が安定せず、狙った濃度になるまでしばらく印刷を繰り返さなければならない。この濃度調整の工程にも毎回相応のヤレ紙が必要となる。
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版ズレや濃度調整が済んだ後も、CMYKのなかで赤みが強く出てしまう、青みが強く見えてしまうなどの場合がある。食品のチラシや風景、モデルなど、デザインによっては「色がころぶ(色味が偏る)」ことは伝えたい情報の訴求に大きく影響することから、時にはデザイナーが直接印刷現場に立ち会って納得いくまで細かなテスト印刷を繰り返す場合もある。
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ただし、高岡市でも再生紙を併用しているように、このプロジェクトはリサイクルそのものを否定するものではない。「エコ=再生紙」以外にも資源循環の選択肢があることを提示し、環境行動に対してこれまでとは違ったアプローチから市民の関心を高めることを目的としている。印刷物の隅に「この紙は〇〇%の再生紙を使用しています」というメッセージよりも、もともと印刷されていたものの気配をあえて残すことで、資源の循環をより意識できるように工夫した実験的な試みとなっている。
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ヤレ紙を使用した封筒
クリエイティブスタジオROLEは、2022年の秋に開催した再生古着ブランドの展覧会「ROLE YOURS」の案内状でヤレ紙を使用したデザインでPRした。ROLEでは普段からヤレ紙を有効活用する方法を印刷所などへ相談し模索していたが、上記権利問題などが障壁となり、大きなアクションへつなげることに苦戦をしていた。
高岡市が取り組むこのプロジェクトでは、「市の公式な発行物であれば権利関係は市で管理できるので、ヤレ紙を利用して再び市の印刷物に転用ができるのでは」という視点から、職員名刺に採用してみようとスタートすることになった。初期段階は名刺のみの予定であったところに、「環境イベントや来年の20歳の集いで配布する封筒も作り、若者世代へ訴求するのはどうか」と積極的な意見も出た。
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全紙サイズから「新しい古紙再生」ができるまで
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「新しい古紙再生」の高岡市封筒、市役所職員名刺
また、市のプロジェクト担当である高岡市未来政策部 未来課の係長の鈴木亮平氏は、「ヤレ紙を『印刷済みの紙』という資源と捉え、その素材を活かしながら加工することで、デザイン性という新たな価値が加わった紙製品に生まれ変わった。これらを手に取った市民・事業者のみなさまが、資源が持つ価値を見つめ直し、資源や製品を循環させる中で付加価値を生み出すきっかけになることを期待している」とコメントしている。
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(左)高岡市長/角田悠紀氏、(右)高岡市未来課/鈴木亮平氏