日経BPは11月28日、マーケティング専門メディア「日経クロストレンド」が作成した「マーケティング」「テクノロジー」「消費トレンド」の潮流を見極める「トレンドマップ 2023下半期」を発表、注目キーワードをランキング化した。

マーケティング、テクノロジー、消費の3分野は変化が激しく、さまざまなバズワードが飛び交っている。このなかから中長期的に注目すべきトレンド(潮流)の見極めを目的とし、日経クロストレンドの活動に助言する外部アドバイザリーボード約50人と、編集部の記者など各分野の専門家の知見を集約した。その分析結果は、「現時点での経済インパクト」と「将来性」の2つのスコアでマッピングをしている。

4月に実施した前回調査と比較し、今回、将来性スコアが伸びたトップ3は、マーケティング分野では「リテールメディア(アプリやデジタルサイネージなど)」「CRM(顧客関係管理)」「SDGs」となった。また、テクノロジー分野では「エドテック」「空飛ぶクルマ」「5G(第5世代移動通信システム)」、消費トレンド分野では「マルチハビテーション(複数拠点に住まいを持つ)」「移動ポイント(エコな移動によるポイント獲得)」「お一人様(一人で楽しむ焼肉、旅行など)」であった。

一方、経済インパクトは、全体でスコア上昇率トップだったのは消費トレンド分野の「タイムパフォーマンス(タイパ)消費」となり、そのほかのジャンルについてはマーケティング分野では「リテールメディア(アプリやデジタルサイネージなど)」、テクノロジー分野では「クラウド」、がそれぞれで高い伸びを示した。
 
各分野でスコアを伸ばしたキーワードランキング(2023年上半期調査との比較)

新たに追加したキーワードの将来性スコア

今回のトレンドマップ2023下半期調査は、10月に実施された。主なトピックスは以下の通り。
 
トレンドマップ2023下半期「マーケティング分野」の例

トレンドマップ2023下半期のポイント

将来性のスコアは「リテールメディア」が上昇、再脚光浴びる「CRM」にも注目
前回の調査から、マーケティング分野における将来性スコアが最も大きく伸びたキーワードが、「リテールメディア(アプリやデジタルサイネージなど)」である。これは0.28ポイント増の3.83となった。リテールメディアはスマホアプリなどを通じて購買データに基づいた広告配信を行う手法で、大手小売企業を中心に活用が広がっている。

電通グループのCARTA HOLDINGSなどの調査によると、国内のリテールメディア広告市場規模は2022年に135億円へ達し、26年には約6倍となる805億円へ拡大することが見込まれている。急速に活用が進む現状を受けて、それが将来スコアの上昇という形で表れた。

次に、将来性スコアの上昇率がマーケティング分野で高かったのが、0.20ポイント増の4.46となった「CRM(顧客関係管理)」。分野別スコアランキング(将来性)でも2位となるなど、注目度がアップしている。CRMはリピート購入や再来店を促す目的で、顧客に関する情報を一元管理するITシステムで、1990年ごろから各社が導入を始めた。

近年AI(人工知能)などを活用して顧客行動を予測するなど技術の高度化が進んだことを受けて、資生堂が22年9月に開始した新会員サービス「Beauty Key(ビューティーキー)」で新CRM戦略に乗り出すなど、各社でCRMシステムを刷新する動きが相次いでいる。CRMが再脚光を浴びている事実が、同調査の結果からも裏付けられた。

また、政府が新型コロナウイルスの感染症法上の位置づけを季節性インフルエンザと同様の5類に引き下げてから半年近くが経過し、人流が一層活発になっていることも、調査結果に数字として現れている。移動に関して新たな商機が生まれると多くの専門家が見ており、消費トレンド分野の将来性で「マルチハビテーション(複数拠点に住まいを持つ)」が前回から0.32ポイント増の2.96となり、「移動ポイント(エコな移動によるポイント獲得)」も0.17ポイント増の3.00となっている。

2025年国際博覧会(大阪・関西万博)で実用化を目指す「空飛ぶクルマ」も、同様だ。テクノロジー分野の将来性で伸び率2位(スコアは0.18ポイント増の3.34)となり、新たな人流を生み出すモビリティーに対して期待を寄せる声も大きいことが分かる。

経済インパクトのスコアで「タイムパフォーマンス(タイパ)消費」が伸び率全体トップに
経済インパクト全体で前回調査より最も高い伸び率を示したのは、消費トレンド分野の「タイムパフォーマンス(タイパ)消費」(スコアは0.29ポイント増の3.41)。近年Z世代(1990年代半ば~2010年代初頭に生まれた若者層)を中心に、できるだけ短い時間で情報を得る価値観を重視する風潮が広がっており、例えば動画共有アプリ「TikTok(ティックトック)」など短縮動画を次々と見られるアプリが人気を集めている。

食の世界でも、パソコンで仕事をしている合間に、片手で食べられる“ワンハンドフード”が売り上げを伸ばすといった現象も起きている。産業横断で新ビジネスを生み出すエンジン役を担っていることが、数字の上でも裏付けられた格好だ。

テクノロジー分野の経済インパクトでは、「生成AI(ChatGPT、Copilot in Windowsなど)」(スコアは0.15ポイント増の3.00)が、伸び率で3位となったのが注目されている。ChatGPTの開発元である米オープンAIが11月、大規模言語モデル(LLM)の進化版「GPT-4 Turbo(ターボ)」を発表したほか、米マイクロソフトも9月に対話型AIでWindowsを操作できる「Copilot in Windows」やオフィスソフトウエアを操作できる「Microsoft 365 Copilot」をリリース。生成AIは引き続き進化が著しく、結果として生まれるであろう経済インパクトに対する期待の高さが調査結果からも浮かび上がることとなった。

インフレの影響も顕著、新キーワード「節約志向」は将来性スコアでジャンル別10位に
今回追加した新キーワード「節約志向」については、経済インパクトの消費トレンド分野におけるジャンル別スコアランキングで10位となった。世界的インフレ下で原材料費が高騰し、食品や電気代の値上げが相次ぐなか、価格・料金に対して敏感になった消費者が増えている。この流れは一時的ではないとされ、影響が長引くと専門家の多くが考えていることが分かった。

「トレンドマップ2023下半期」の分析手法

調査は10月に実施。編集部がマーケティング分野の29キーワード、テクノロジー分野の28キーワード、消費トレンド分野の32キーワード、計89キーワードを選定。それぞれを認知する人に、そのキーワードの現時点での「経済インパクト」と「将来性」を5段階で尋ねてスコアリングを行った。質問の選択肢は以下の通り。

[経済インパクト]
1.どの企業も収益を得られていない
2.一握りの企業(1~2割程度)の収益に影響している
3.一部の企業(3~5割程度)の収益に影響している
4.大半の企業(6~8割程度)の収益に影響している
5.社会全体になくてはならない存在

[将来性(=企業の収益貢献や社会変革へのインパクト)]
1.将来性は低い
2.将来性はやや低い
3.どちらとも言えない
4.将来性はやや高い
5.将来性は高い