シビック・クリエイティブ・ベース東京[CCBT](以下CCBT)では、CCBTのパートナーとして創作活動を行うアーティスト・フェローの第3回目となる公募を行い、審査の結果、5組を決定した。
今回公募を行ったCCBTのコアプログラム「アート・インキュベーション」は、クリエイターに新たな創作活動の機会を提供し、そのプロセスを市民(シビック)に開放することで、都市をより良く変える表現・探求・アクションの創造を目指すプログラムである。2024年度は、これからの「創造性」と「人間らしさ」に着目した、下記2つのカテゴリーで企画を公募し、全86件の応募があった。

5名の審査員による書類・面接審査を行い、5組の2024年度CCBTアーティスト・フェローを決定。選考の結果、市民社会の未来を描く展覧会や、バイオテクノロジーを用いた新たな食の提案、自らのがん細胞と免疫細胞に対峙するリサーチプロジェクトなどが選ばれた。さらに、東京の埋立地や住まいを、アート、デザイン、テクノロジーから分析し、批評やアーカイブとして展開、新たなルール設計を試みるプロジェクトが選考された。

これらフェローの活動は、2024年8月より順次公開予定である。今回発表された「CCBT 2024年度 アーティスト・フェロー」は、以下の通り。
・市原えつこ氏
・柴田祐輔+Token Art Center氏
・HUMAN AWESOME ERROR氏
・布施琳太郎氏
・MVMNT氏

CCBTアーティスト・フェロー活動とは

クリエイティブ×テクノロジーで東京をより良い都市に変える表現・探求・アクションをつくり出す、アーティスト・フェロー制度である。CCBTのコアプログラム「アート・インキュベーション」では、公募・選考によって選ばれたクリエイターを「CCBTアーティスト・フェロー」として委嘱している。本フェローは、CCBTをベースに企画の具体化と発表、創作過程の公開やワークショップなどの活動を実施し、CCBTのパートナーとして活動する。CCBTでは、制作費上限1000万円のほか、制作スペースの提供や技術・マネージメントサポート、メンターをはじめとした専門家によるアドバイスなどを行う。

2023年度の同プログラムでは、AI、Web3、パフォーミングアーツ、ダイバーシティ&インクルージョンなどの、5つのテーマから選ばれた全5組のフェローが、多様なプロジェクトをCCBTと街中にて展開した。ワークショップやレクチャー、展覧会の開催、街中でのパフォーマンス公演など、全45プログラムを実施し、延べ9500人を超える参加者と交流し、アートとテクノロジーによる創造性を、社会へと積極的にアウトリーチした。

CCBTアーティスト・フェローの活動

(1)新たな表現の創造・研究開発および発表
CCBTを拠点に創作活動・研究開発などを行い、その成果をCCBTおよび都内にて発表・展開する。

(2)創作活動・研究プロセスの公開
創作活動およびそのプロセスの公開や、ワークショップ、レクチャー、ハッカソンなどの開催を通じ、市民がテクノロジーを通じた創造性を学ぶ機会を創出する。

(3)多様な人々との協働と共創
市民、アーティスト、デザイナー、エンジニアなど、CCBTに集う人々、さらにはCCBTを取り巻くさまざまな主体との協働を牽引し、未来を共創する場を創造する。

メンターがフェローの活動に伴走

2024年度は、国内外で活躍するプロデューサー、キュレーターに加え、以下の法律家と研究者が参画。メンターとしてアーティスト・フェロー活動を専門的視点から伴走する。
・宇川直宏氏(“現在”美術家、DOMMUNE主宰)
・清水知子氏(メディア研究者、文化理論家)
・田中みゆき氏(キュレーター、プロデューサー)
・水野祐氏(法律家/シティライツ法律事務所)

2024年度アーティスト・フェローの紹介

市原えつこ氏「ディストピアランド - テーマパークから国土へ:フィクションはどれだけ現実と接近できるか」
企画概要:「最悪な時代に、人はどのように愉快に生きられるのか」という問いのもと、多様な問題を抱える社会をユーモアとフィクションを通して生き抜く術を検討し、虚実が入り混じる未来像を市民とともに構築するプロジェクト。社会学者や生命科学者などの専門家を招いたインタビューやレクチャーなどを実施し、「ディストピアの市民生活」を体験できる没入型・複合型インスタレーションとして発表予定。これらを通じて、未来の不確実性に対する市民のレジリエンスを養うことを目指す。

審査会委員コメント(田中みゆき氏):「テクノロジーを用いて日本的な文化・習慣・信仰を独自の観点で読み解く作品を制作してきた市原が、未来の不確実性に対する市民のレジリエンスを培うことを掲げ提案した『ディストピア・ランド』。何より彼女自身のこれまでの活動の中で培われた“しぶとさ”に裏打ちされた周到な提案力が、今回の応募の中で群を抜いていたと言ってよいだろう。そのしぶとさと具現化する力をもって、SF的な想像を巡らせるだけに留まらず、来場者を生々しいディストピアに引き摺り込むような展開をCCBTとともに実現してくれることを期待している。」

市原えつこ氏 プロフィール:アーティスト、妄想インベンター。日本的な文化・習慣・信仰を独自の観点で読み解き、テクノロジーを用いて新しい切り口を提示し続ける。第20回文化庁メディア芸術祭エンターテインメント部門優秀賞、アルスエレクトロニカで栄誉賞を受賞。
市原えつこ氏(撮影:Sino Chikura氏)
市原えつこ氏(撮影:Sino Chikura氏)
企画イメージ
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柴田祐輔氏+Token Art Center「続・大衆割烹 代替屋」(仮)
企画概要:近代以降の日本食文化を構成する重要な要素である「代替」をコンセプトに、バイオテクノロジーによって生まれた食材などを用いて、食べること、そして生きることについて探求するプロジェクト。大都市として特有の生態系をもつ渋谷を舞台に、食に関する文化・歴史のリサーチを行い、本来の食材や料理法を代替して作る料理を創作。参加者が実際に食することのできる体験型パフォーマンス作品の発表を予定。プロジェクトを通じて、本物と偽物、自然と人工、善と悪といった二元論を超えて、代替できない個々人の「人間らしさ」を検討する。

審査会委員コメント(宇川直宏氏):「日本でも有数の観光名所である渋谷は、世界の食が集まるグローバルなグルメスポットでもある。そんな文化的磁場に『大衆割烹 代替屋』が上陸するという。『代替屋』のコンセプトは地域の食文化をリサーチし、その食材を『代替』し、味覚に揺さぶりをかけ、人間本来の食を新たなレイヤーから考察することにある。今回、田畑のない"渋谷の食"を代替するにおいては、フェローとメンターがその探求の意義を根底から議論することになるだろう。ビーガンレストランが密集する渋谷での展開は、コスモポリタニズム溢れる代替が期待できるかもしれない。それは代替食品の象徴であるベジミートの近年の進化を見れば明らかである。」

柴田祐輔氏+Token Art Center プロフィール:現実世界の曖昧さや不確かさに着目し制作を行うアーティストの柴田祐輔と、気鋭のアーティストの展覧会や街中における変則的なパフォーマンスイベントを手がけるToken Art Centerが協働。食にまつわるさまざまなリサーチを行い、それらを基に飲食体験型作品を制作する。
柴田祐輔氏+Token Art Center
柴田祐輔氏+Token Art Center
企画イメージ
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HUMAN AWESOME ERROR「Super Cell Infinite」
企画概要:生命倫理の複雑性と多様性、科学と社会が協働し、新たな生命像を構築する方法論を探るアーティスティック・リサーチ・プロジェクト。HUMAN AWESOME ERRORが2021年より実施する《Super Cell》シリーズの集大成である本企画では、再生医療技術を用いて自らのがん細胞からiPS細胞を作り、さらにそこから作製される免疫細胞との対峙を試みる。また、ワークショップやトークなどの開催を通じて、異なる立場の人々による社会的対話の場をデザイン。一連のプロセスを通して、「がん」に対する認識に新たな視点を提示し、「人間らしさ」について探求する。

審査会委員コメント(水野祐氏):「本企画は、提案者の乳がん罹患を契機に始まったリサーチプロジェクトの発展版である。がん細胞の検体やそのiPS細胞を用いたリサーチや彫刻・映像制作(公開制作を含む)などで構成される展示インスタレーション、ワークショップ、市民対話イベントなどを開催することで、日本人の2人に1人が罹患する身近な癌(がん)に対する無知やタブー視される風潮を打破し、生命の本質に迫る問いを提起する挑戦的な内容が評価された。また、医療機関との地道な連携も高く評価された。『infinite』の名の通り、本企画は提案者の集大成であり、2020年代の日本を代表するバイオアート作品として東京を起点に世界へ発信されることが期待される。」

HUMAN AWESOME ERROR プロフィール:現代のテクノロジーやシステムから、面白おかしくエラーを発見しながら世界を再認識するための、流動的で有機的に行動する蔡海・福原志保を中心とした活動体。
HUMAN AWESOME ERROR
HUMAN AWESOME ERROR
企画イメージ
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布施琳太郎「ドリーム・アイランド」
企画概要:東京湾に無数に存在する「埋立地」を、産業的かつ政治的な大地(ground)であると同時に、思想的根拠(ground)として位置づけ、アートプロジェクトを展開する。雑誌刊行、ツアー型展覧会、天体型展覧会の3つのプログラムで構成され、CCBTでは専門家を招いたトークやシンポジウムなどを実施。アーティスト、詩人、小説家、音楽家、研究者、市民など、多様な人々との協働により、Web3.0時代における大地の制作論を実践する。

審査会委員コメント(清水知子氏):「本企画は、埋立地という人工大地を思想的な視点で探求し、東京の『大地=根拠』を問い直すアートプロジェクトである。雑誌刊行、ツアー型展覧会、天体型展覧会の三つのプログラムを通じて、リサーチ、実践、理論を包括的に展開する点、バーチャルとリアルを融合させ、拡張されたランドアートとしての可能性を探る姿勢、社会的・思想的課題に挑みながら市民や専門家との対話を促進するアプローチが高い評価につながった。フェロー活動、ワークショップ、展示などを通して、CCBTならではの実験的なプロジェクトの展開に期待したい。」

布施琳太郎氏 プロフィール:アーティスト。スマートフォンの発売以降の都市における「孤独」や「ふたりであること」の回復に向けて、自ら手がけた詩やテクストに基づいた映像作品やWebサイトの制作、展覧会のキュレーション、書籍の出版、イベント企画などを行う。
布施琳太郎氏(撮影:竹久直樹氏)
布施琳太郎氏(撮影:竹久直樹氏)
企画イメージ
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MVMNT「TOKYO (UN)REAL ESTATE」
企画概要:東京の多種多様な住まいと暮らしを3Dスキャンで記録し、身近な人間らしさを記録・考察することで、現代社会の特質や変化を読み解く「考現学」に取り組むプロジェクト。収集した3Dデータは、ゲーム、漫画、アニメーションなどにおけるクリエイティブ・アセットとしてオープンソース化するとともに、現在の東京の生活史として展示し、多様なライフスタイルのあり方を紹介。さらに、レクチャーやワークショップを通じて、デジタルアーカイブのあり方と可能性、ルール設計などを探求する。

審査会委員コメント(宇川直宏氏):「ソーシャルディスタンシングが強いられたコロナ禍以降、XRは大衆化した。世界的な感染拡大により生身のコミュニケーションは規制され、アートとエンターティンメントはバーチャル世界へと避難した。メタバースがバズワードになり、リアリティーの基底は揺らぎ、現実という概念自体がリ・デザインされた。そして、世界はwithコロナ期に突入し、物理世界でのエモーショナルなコミュニケーションが新たな価値を持つ時代が復権した。GR(ガチリアリティ)時代の到来である。そんな現在にリアルとバーチャルが溶け合う新たな実在感を世に問うプロジェクトが立ち上がった。『TOKYO(UN)REAL ESTATE』は、東京の多様な生活空間を3Dで記録し、身近な人間の営みを3Dスキャンする新たな『TOKYO STYLE』の探索である。『現“在”東京の生活史』を記録するXR時代の考現学のあり方を牽引することを期待している。」

MVMNT プロフィール:「20XX年の伝説を創造する」をミッションに、未知のムーブメントを生み出すスペキュラティブデザインの専門チーム。アートドリブンで現代社会にありえるかもしれない世界線を表出し、コミュニティの力でXS~XXXLまで創造的な社会運動を起こすことを目指す。
MVMNT
MVMNT
企画イメージ
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公募概要
「アート・インキュベーション」
公募期間:4月25日~5月26日
募集カテゴリー:
【カテゴリー1】これからの「創造性」に着目した「ツールやプラットフォームの開発」と、それを活かした表現活動 
【カテゴリー2】これからの「人間らしさ」に着目した「探求やアーティスティック・リサーチ」と、それを活かした表現活動
応募総数:86件(選考通過率5.8%)
審査会委員:
宇川直宏氏(“現在”美術家、DOMMUNE主宰)
小川秀明氏(CCBTクリエイティブディレクター)
清水知子氏(メディア研究者、文化理論家)
田中みゆき氏(キュレーター、プロデューサー)
水野祐氏(法律家/シティライツ法律事務所)