Sensor Towerは、2023年におけるPC/コンソールゲームの大型リリースと、その成功の原動力となったマーケティング戦略について分析するため、『AAAゲーム広告の市場インサイト』レポートを公開した。
AAAゲームとは、大手から中堅のゲームパブリッシャーにより、通常のゲームタイトルと比べ、多額の開発費や販売推進費をかけられたゲームタイトルを指す言葉である。Sensor Towerは、ベストセラーとなるAAAゲームの成功要因は、効果的なマーケティング戦略によるところが大きいと考える。『ホグワーツ・レガシー』『ディアブロ IV』『Starfield』などのゲームは多段階のリリースキャンペーンを実施して、2023年のベストセラーとなっている。

本レポートでは、各四半期における大型リリースのマーケティング戦略を掘り下げ、アメリカのPC/コンソール向けデジタル広告の状況を詳しく分析し、ライブサービス、トランスメディアIP、ブランドパートナーシップなど、ゲームトレンドに関する最新のインサイトを発表する。

『ホグワーツ・レガシー』は大々的なリリースキャンペーンが寄与し2023年のベストセラーに

話題タイトルが相次いでリリースされたこの年、『ホグワーツ・レガシー』は年末までに2200万本を販売し、PC/コンソールゲームとしてベストセラーになった。世界的なトップIPのファンタジー作品の実現という点があるが、どのようにして成功を収めることができたのか、チャネル別の広告費推移から分析する。
『ホグワーツ・レガシー』を分析すると、事前予約、リリース、セカンダリープラットフォーム版のリリースという3つの段階があることがわかる。事前予約の段階では、2022年8月・10月・12月に、主にYouTubeで広告クリエイティブを展開した。予約開始は8月で、10月と12月のキャンペーンはハロウィンとクリスマスに合わせたようである。YouTubeはゲームオーディエンスにとって主要な拠点となるプラットフォームであり、そのアルゴリズムは持続的なエンゲージメントをサポートしているため、このように連続したキャンペーンが可能となっている。

また、『ホグワーツ・レガシー』はPS4版とNintendo Switch版をリリースした際にも、キャンペーンを実施した。これら2つのプラットフォーム版は、当初のリリースには含まれていなかった。第1四半期にリリースされたのは、PS5版、Xbox Series X版、PC版で、この期間に他のAAAゲームのリリースはほぼなかった。

『ホグワーツ・レガシー』のメディアミックスに関するインサイトも同社は分析。Warner Bros. Gamesはリリース時、事前予約キャンペーンの時より多様なチャネルを利用し、主力のYouTubeとFacebookに加えて、ソーシャル、OTT、Twitchなどのチャネルを活用した。

『ディアブロ IV』は、ソーシャルチャネルごとに広告クリエイティブを調整

2023年第1四半期の大型リリースだった『ホグワーツ・レガシー』に続く、同年第2四半期の大型リリースは『ディアブロ IV』である。ライブサービスを考慮すると、PC/コンソールゲームの中で最大の収益を上げた可能性がある。
リリースに至るまでの『ディアブロ IV』のトップクリエイティブを見ると、ネットワークごとに、オーディエンスに合わせた異なる戦略が取られていることがわかった。TikTokのトップクリエイティブでは、TikTokの若いオーディエンスをターゲットに、Billie Eilish氏の楽曲『You Should See Me in a Crown』と共にゲームプレイ映像に焦点を当てていた。これに対し、YouTubeなどのソーシャルチャネルでは、視覚的に目を引く実写クリエイティブにより重点を置いて、オーディエンスの注目を集めようとしていた。

同社は使われたすべてのクリエイティブを分析することで、『ディアブロ IV』の大まかな位置付けがわかった。例えば、全体的にダークで時に不穏なテーマは、『ディアブロ IV』がよりダークな雰囲気に回帰したことを示唆しており、『ディアブロ III』のややメインストリーム寄りのファンタジーとは対照的である。この位置付けを裏付けるのが、「Return to Darkness(闇への回帰)」というキャッチフレーズである。

『Call of Duty』の連続リリースから見える戦略の進化

2023年発売の『Call of Duty: Modern Warfare III(以下Modern Warfare III)』も、前年2022年にリリースされたばかりの『Modern Warfare II(以下Modern Warfare II)』に続く、2023年の大型リリースのひとつであった。これら2つのリリースには、どのような違いがあったのかを、同社は分析した。
例えば、『Modern Warfare III』と『Modern Warfare II』のチャネルごとにフォーマット別広告費を比較すると、興味深い傾向が見てとれた。それは、『Modern Warfare III』の広告フォーマットが『Modern Warfare II』より多様化されたということである。これは特にYouTubeで顕著で、『Modern Warfare III』では15秒以外の長さの広告フォーマットが大幅に増加した。『Call of Duty』チームは、広告フォーマットを多様化することに価値があると考えているようである。

このように毎年リリースされる続編を比較することで、迅速なマーケティング戦略を行うチームが得ている教訓を把握することができると同社は考えている。