同志社大学でメディア・社会心理学研究を専門とする池田研究室と電通グループの社内組織である電通総研は、のべ100以上の国と地域を対象にした「世界価値観調査(WVS:World Values Survey)」について、独自に国際比較分析を行った。世界価値観調査は、個人を対象に価値観を聞くもので、その設問の範囲は政治観、経済観、労働観、教育観、宗教観、家族観など290項目におよぶ。1981年に開始され、電通総研は1990年の第2回調査から参画、今回で7回目の参画となった。

2者は、2020年9月時点で集計が終了している77カ国を対象に国際比較分析を行い、日本の9つの特徴を導き出した。なお、2020年は新型コロナウィルス感染症が世界的流行となったが、調査対象の77カ国のうち日本を含む66カ国は2019年までに実査を終えているため、コロナ禍が今回の調査結果に与えた影響は極めて少ないと言える。

1、【仕事】「余暇」重視、「仕事」の重要度は国際的に低い

日本人の仕事に対する価値観を見ると、「余暇時間が減っても、常に仕事を第一に考えるべきだ」という問いに対して「反対」と答えた人は59.2%となった。これは、77カ国中で2位となり、日本人が「余暇」を重視していることがわかった。また、「仕事あなたの生活に重要か」という問いに「重要」と答えた人は81.3%で一見高いものの、国際的にみると77か国中71位と下位になっている。しかし、「働くことがあまり大切でなくなる」を「良いこと」とする回答は日本では10.5%、全体の74位と低く、働くこと自体は大切にしたい意識がうかがえた。

2、【ジェンダー】「同性愛」への受容度は、ヨーロッパなどの先進国に次ぐ高い水準

同性愛に対する受容度は、日本は75カ国中18位。半数以上の人が肯定的であり、ヨーロッパ、オセアニアの先進国に続いて高い水準となった。

3、【自由の価値】重視するのは「安全」>「自由」>「平等」

「自由」と「平等」のどちらが重要かについては、世界的に「自由」を重要とする国が多く、「自由」と「安全」においては「安全」を重要とする国がほとんど。日本も同様の傾向にあり、「平等」の34.2%に対して「自由」が57.2%と多く、「自由」と「安全」では「安全」が82.3%と大勢を占めている。一方、「人生は思い通りになるか」という問いに対しては、日本は「人生は自由にならない」が38.6%と、77カ国中では上位の6位となった。

4、【メディア】新聞、テレビから「毎日情報を得る」が48カ国中1位

各メディアに対する信頼度を分析すると、日本で「新聞・雑誌」に対して「信頼できる」と回答した人は69.5%で、77カ国中4位。「テレビ」は64.9%で、48カ国中8位となっており、日本でのマスメディアに対する信頼感は比較的高いといえる。「新聞」「テレビニュース」から毎日情報を得ているとの回答率はそれぞれ57.5%と89.8%で、ともに48カ国中1位。世界的に見て、日本ではマスメディアが国民生活に深く浸透していることがうかがえた。

5、【科学技術】社会を豊かにするものとして肯定的に受容

「科学技術は生活をより健康に、楽に、快適にしている」という考え方に「賛成」と考える人は、日本は約8割で48カ国中18位となった。また、「科学技術によってより大きな機会が次世代にもたらされるだろう」についても、「賛成」が約8割で、48カ国中16位。科学技術は社会を豊かにするものとして肯定的に捉えられているようだ。

6、【政治】重要度は高いが話題にしない。国家に安心を求めるが「権威」を嫌う

日本で、「生活において政治は重要か」という問いに対して「重要」と答えた人は65%で、77カ国中6位。重要度は高い水準にある一方で、「友人と政治の話をする頻度」では、日本は「する」「ときどきする」という回答が計51.4%で、47カ国中39位と下位にある。他国に比べ、政治を日常会話のトピックにしないことがうかがえる。「国民皆が安心して暮せるよう国はもっと責任を持つべき」についての賛成票は、日本は77カ国中5位となっており、国家に安心を求める傾向がある。しかし、「権威や権力がより尊重される」ことを「良いこと」とする回答は、わずか1.9%で、77カ国中で最下位。権威・権力に対しては、抵抗感を持つ人が多いようだ。

7、【環境vs経済】「環境保護」と「経済成長」との間で逡巡する人が多い

「たとえ経済成長率が低下して失業がある程度増えても、環境保護が優先されるべき」との回答は、日本は77カ国中74位と低い。「わからない」という回答が32.6%と、77カ国中でもっとも多く、「環境保護」か「経済成長」かの二項対立では、決めがたいとする人々の考えがうかがえる。

8、【家族】重要で信用しているが、両親の長期介護の義務感は低い

日本で、家族は重要だとする人の割合は77カ国中47位、家族を信用しているとする人の割合は77カ国中30位と、順位としては中程度であるが、それぞれ99.0%、98.4%と非常に高い。しかし、「成人したら両親の長期介護を担う義務がある」という考え方に対する賛成票は25.5%で、77カ国中73位。両親の長期介護に義務感を感じている人の割合が日本では少なく、「どちらでもない」と答える人の割合が大きかった。

9、【次世代】子どもに身につけさせたい性質に「決断力」「想像力・創作力」を重視

「子どもに身につけさせたい性質」として、「勤勉さ」を重要とする人は、日本では25.1%で77カ国中68位と低く、「従順さ」については77か国中で最下位となっている。一方、「決断力・忍耐力」では、日本は77カ国中2位となっており、「想像力・創作力」も77カ国中7位と高い。子どもには勤勉や従順であるよりも、決断力がありクリエイティビティを発揮できる人物に育ってほしい、と願う傾向がうかがえる。
分析結果から見えた日本人の傾向として、「政治」への関心は高いが話題にしない、「国家」に安心を求めるが「権威」を嫌う。「環境保護」か「経済成長」かと問われると、わからないとする人が多いなど、一見すると矛盾するような回答や、選択をせまられると逡巡してしまう傾向が随所に見られた。

同志社大学と電通総研は、こうした葛藤の背景には、世界が大きく変化していることによる影響があると推察。少子高齢化の加速もその一つで、調査結果を見ると、日本社会では「家族」を大切にしつつも、両親の長期介護への義務感は低い。一方で、次世代を担う子どもに身につけさせたい性質としては、勤勉さといった工業的価値よりも、創造性などの脱工業社会的な価値を優先させたいという、先を見据えた志向性が垣間見えた。分析を実施した2者は、人々が矛盾や葛藤を抱えながらも、望ましい社会の構築に向けてどのような意識のもとで選択をしていくのか、今後も他国と比較しながら追い続けていきたいとしている。